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■インドにおけるM&Aの動向
1947年にイギリスから独立したインドは、長い間植民地支配を受けていたという歴史的背景から外国資本に対しての警戒心が強く、国内への外国資本の流入について厳格な規制が課されていました。その頑なな外国資本排除の政策は国際的な孤立を招き、長期間にわたって経済的に低迷することとなりました。1991年以降、外国資本に市場を開放する動きが出てから、近年ではM&Aの件数が増加の傾向にあります。
次のグラフは、2018年から2022年に日本企業がインドに対して行ったM&Aのうち、公表されている件数の推移を表しています。新型コロナウィルスのパンデミックの渦中でも大きく件数は落ちず、パンデミック終息後の2022年には大幅に増加していることからも、今後魅力的な市場であると考えられます。ASEANとは違う独自のビジネスの文化が強いインド進出においては、現地における強力なパートナーを見つけるのが市場拡大へおける重要なポイントです。
出所:Deloitte India ”India M&A Trends 2023”
■日本企業のM&A事例
次表は、日本からインドに対するM&Aの事例です。
日本 | インド | 年度 | 出資比率 | 業種 |
レンゴー 株式会社 | ヴェルヴィン・コンテナーズ | 2023 | 30% | 段ボールメーカー |
エムスリー 株式会社 | Dr. Bhatia Medical Coaching | 2023 | - | 予備校事業 |
YCP ホールディングス | Consus Global Pvt. Ltd. | 2022 | 100% | コンサルティング ファーム |
安田倉庫 株式会社 | Worldgate Express Lines | 2023 | - | フォワーディング業 |
日東精工 | バルカンフォージ | 2024 | - | 自動車向け 金属ボルト製造 |
日本製鉄 | AM/NSインディア | 2022 | 40% | 鉄鋼業 |
■インドのM&A小史
インドのM&Aの歴史は、大きく3つに分けられます。
①社会主義型経済政策を採用していた段階から徐々に経済開放が進む「独立~1991年」
②経済開放が急速に進み、M&A環境が整備される「1992~2003年」
③インド国内企業の対外投資に活発に動き出す「2004年~現在」
①~③について、以下簡単に説明します。
[独立~1991年]……①
独立後、社会主義型経済政策を採用したインド政府は、第二次五カ年計画(1956~1961年)で、基幹産業の大部分を国有化しました。貿易政策では輸入を規制し、国内産業を保護育成する輸入代替工業化政策を導入しました。その一方で、産業ライセンス制度を採用し、外国からの直接投資を厳格に規制しました。
その後、インド経済が社会主義型経済政策の影響で長期間にわたり低迷する中、インディラ・ガンディー政権は世界銀行の協力を得て、経済危機からの脱却を試みました。しかし、インド・パキスタン戦争やベトナム戦争問題をめぐり、欧米資本主義諸国と対立、ソビエト連邦と急接近し、1969年には商業銀行の国有化や外国為替規制を強化して、経済統制を強めていきました。
1984年インディラ・ガンディー暗殺により政権を引き継いだラジブ・ガンディーは、経済再建のために、民間電子産業における近代化や外国資本の導入、輸入規制の緩和といった経済自由化を進めました。しかし、それは社会主義型社会の枠組みを維持したままの段階的で部分的な自由化でした。この時期には、インド国内企業に企業再編の動きが見られました。
1981年インド政府とスズキの合弁企業マルチ・ウドヨグ社(現、マルチ・スズキ・インディア社)が設立されて以降、自動車産業では外国企業との資本・技術提携が徐々に緩和され、インド国内の自動車生産台数が飛躍的に増大したのです。しかし一方で、多くの企業が事業分野を拡大するための産業ライセンスを取得するのが非常に難しい状況が続いていました。企業成長の方法として、既に産業ライセンスを取得している企業の買収がクローズアップされ、カパログループやジャンボグループ等のインドの有名財閥がインド国内企業の買収を始めました。
[1992~2003年]……②
インド政府は、1991年7月新産業政策声明を発表し、特定の取引分野における外国直接投資(FDI)および技術協力を承認し、公共事業会社の株式売却が認められました。これを機に、外国企業がインドへ進出するための環境が整っていきました。多国籍企業のインドへの直接投資が大幅に増加する一方で、インド国内企業では、競争に耐えられないノン・コアビジネスを売却して、コアビジネスに経営資源を集中する動きが見られるようになりました。タタ財閥がヒンドゥスタン・リーバに石鹸部門を売却したり、グジャラート・アンブジャ・セメントにセメント企業のエシシを売却するなど、企業再編による大幅な事業ポートフォリオの見直しが図られました。
ソフトウェア、通信産業等の分野でM&Aが積極的に行われる一方で、ベンチャー・キャピタルによるテクノロジーとITサービス分野への積極的投資が行われるなど、外国資本の流入が進んでいきました。
[2004年~現在まで]……③
2008年のリーマン・ショックによる市場の縮小など一時的な異変はあったものの、現在までM&Aの市場は順調に拡大を続けています。景気後退から業績の悪化やリストラクチャリングの対象となった欧米企業をインド企業が買収するといった、インド系多国籍企業による国外投資が増大し、タタ・スチールによる鉄鋼大手コーラスグループの買収やタタ・モーターズによるアメリカフォード傘下のジャガーやランドローバーの買収など、大型買収が見られるようになりました。
一方、近年の日本企業によるインド国内でのM&Aについても日本製鉄の合弁企業など、いくつか目立った事例があります。
■ダウンストリーム・インベストメント規制
外国企業がインド企業に投資をすることを直接的投資、外国企業がインド国内の現地法人や合弁会社を通じて他のインド企業に投資することを間接的投資といいます。このうち、後者の間接的投資による投資方法のことをダウンストリーム・インベストメント(Downstream Investment)と呼び、形式的にはインド居住者による投資によるものの実質的な投資および支配についてはインド非居住者によるものとみなされ、外国直接投資同様、一定の規制が設けられています。
インド企業のM&Aを考える上でも、この規制には留意が必要となるため、概要について以下に述べます。
【ダウンストリーム・インベストメント】
インドにおけるダウンストリーム・インベストメントは、1999年外国為替管理法およびそれに基づいて制定された規則、2019年外国為替管理(非負債商品)規則の規則23に基づいて管理されます。対象となる投資の参入ルート、部門別の投資上限、価格設定ガイドラインおよびその他の付随条件を遵守しなければならないと規定しています。以下にて、ダウンストリーム・インベストメントに関する規制について事業形態ごとの取り扱いを記載します。
①純粋事業会社に投資する場合
純粋事業会社(Only Operating Company)に投資を行う場合、直接投資であるか間接投資であるかにかかわらず、通常のFDIの投資上限規制に従っている限り、FIPBへの事前承認等は不要となります。
たとえば、日本企業のインド現地法人または日本企業が過半数を保有する合弁会社が、他のインド内国法人の株式を取得する場合、その法人が純粋事業会社であれば、原則FIPBの事前承認を得る必要はありません。
②事業会社兼投資会社に投資する場合
事業会社兼投資会社(Operating-Cum-Investing Company)とは、インド会社法に基づいてインド国内に設立された会社であるため、インド居住者扱いになります。したがって、外資規制は関係ないという見解もありますが、その会社が外国資本により所有または支配されている場合、実質的には外国資本となり、他のインド内国法人への投資は、FDIの規制が課されます。
③純投資会社に投資する場合
外国企業が投資のみを行う投資会社、すなわち純投資会社(OnlyInvesting Company)に外国投資をする場合、外国投資の額や範囲に関係なく、FIPBの事前承認を得る必要があります。これは外国投資がインド国内の投資会社を通じて他のインド内国会社に投資することを、FIPBが把握しておきたいという姿勢の表れといえます。また、事業会社兼投資会社と同様に他のインド内国会社に投資する段階でFDIの規制が課されます。
④非事業・非投資会社に投資する場合
非事業・非投資会社(Nonbusiness, Non-Investment Company)とは、事業も投資も行っていない会社のことです。では、なぜ事業も投資も行っていない会社に投資をし、さらに規制されるのでしょうか。例えば、外資系投資会社が事業も投資を行っていない会社をインド国内に設立した場合、現状は休眠状態であっても、投資後に事業を開始し、投資を行うことでFIPBの規制を潜脱することが可能となります。これを防ぐために、非事業・非投資会社に対する投資に関しても純投資会社と同様の規制が設けられています。
今回の規定で共通している点は、誰に投資するのかに焦点を当てていることです。従来は、誰が投資するのかに焦点が当たっていましたが、投資先となる会社に着目したのです。
⑤外国投資比率の計算方法
プレス・ノート2009年2号と4号では、実際にダウンストリーム・インベストメントが行われた場合のFDIの計算方法も規定されました。ここでは、孫会社に対する外国資本の出資比率をどのように算定するかがポイントとなります。外国企業が投資しているインドの子会社から孫会社に投資する場合、一定の要件に従って外国投資比率が計算されます。原則として、次のいずれかの要件を満たす場合は、孫会社を「所有(Owned)」または「支配(Controlled)」しているとみなし、子会社から孫会社への外国投資比率は、子会社から孫会社への投資比率と、親会社から孫会社への投資比率の合計で算定されます。
・インドの子会社の株式の51%超を保有する
・インドの子会社の取締役の過半数を指名する権利を有する
ただし、例外として子会社から孫会社への出資比率が100%の場合には、「100%子会社への再投資」という例外規定が設けられており、親会社から子会社への出資比率が孫会社の外国投資比率として計算されます。
以下、ケース別に外国投資比率を検証します。
【ケース1】
日本企業A社がインド企業B社(インド居住者が100%出資で設立した会社)と、A社30%、B社70%の出費比率で合弁会社C社を設立したとします。さらに、C社はインド会社法に基づき他のインド企業D社に80%投資したとします。この場合、合弁会社D社は本来インド居住者と区分されるために外国投資とはみなされません。
【ケース2】
日本企業A社がインド企業B社(インド居住者が100%出資で設立した会社)とA社69%、B社31%で合弁会社C社を設立したとします。さらに、C社はインド会社法に基づき他のインド企業D社に80%投資したとします。
この場合、C社は外国企業として扱われるため、C社がインド企業D社に投資した比率がそのまま外国投資比率になります。したがって外国投資比率は80%となります。
【ケース3】
日本企業A社がインド企業B社(インド居住者が100%出資で設立した会社)とA社60%、B社40%で合弁会社C社を設立したとします。さらに、C社はインド会社法に基づき他のインド企業D社に100%投資したとします。
この場合、例外規定によりインド企業D社の外国投資比率は、親会社であるインド内国投資会社の外国投資比率と同じになります。したがって、この場合は、60%が外国投資比率となります。
この例外規定を利用すれば、外資規制による投資上限のある事業分野を設立したい場合でも、100%子会社とすることで外資規制による投資上限を超えることができます。
たとえば、外資規制上の投資上限が74%である電子通信事業の場合、通常のケースで投資をすると、74%までしか株式が取得できませんが、D社を100%子会社にすることで、例外規定が適用され、D社の外資比率は60%となりD社の100%の株式を保有することができます。
■インドM&Aの留意点とスキーム選択
インドへの投資は原則自由となっているものの、実際は規制が多く、しかも複数の機関から発行されるさまざまな法や規制、ガイドラインに従わなければなりません。加えて上場企業への投資は登録やプライシング等についても規制を受けるので、事前にしっかり計画することが重要です。
M&A含めたインドへの投資を考える際に、進出方法としては、企業買収や100%独資による進出や、一部出資によるインド企業とのジョイント・ベンチャーの設立などの方法があります。以下にて一般的なインドにおけるM&Aスキームの全体像を記載します。
上記のうち、よく採用されるスキームとして、①株式譲渡による株式取得、②全部事業譲渡(Slump Sale)、③資産譲渡(Asset transfer)、④合併について、それぞれ概略と留意点を開設します。
①株式譲渡による株式取得
非居住者がインド居住者であるインド法人から株式を取得する場合、統合FDI政策に準拠する必要があります。買収対象の会社は、統合FDI政策で決められた事業分野に限定されます。事業分野によっては、外国人持株比率が規制されている場合があり、買収後の持株比率が投資上限を超えない必要があります。
さらに、インド証券取引委員会(SEBI:Securities and Exchange Board of India)やインド準備銀行が定めるガイドラインに従って譲渡価格が決定されていることが必要です。すなわちインド居住者と非居住者の間で外国からの直接投資または株式の譲渡が行われる場合、譲渡する/されるインド居住者側の利益保護を目的として、当事者同士で自由に価格は決定できず、後述する一定の規制に従わなければなりません。なお、非居住者間での株式譲渡取引については本ガイドラインが適用されません。
1995年SEBI外国機関投資家規則に従ってインド証券取引委員会に登録した外国機関投資家(FII)は、上場・非上場の株式を自由に売買できます。ただし、外国機関投資家が既発行証券市場で株式の売買を行う場合、原則としてSEBIに登録された証券会社を通して行う必要があります。さらにベンチャー・ファンドを通じた株式譲渡も認められます。インド投資を行う外国ベンチャー・キャピタル・ファンドはインド証券取引所に登録することにより、税務などのメリットを受けられます。
ⅰ)上場株式の取得による株式買収(非居住者がインド居住者から株式譲渡を受ける場合)
証券取引所に上場されている株式の取得には、既存株式の売買による譲受と新株式の引受による譲受があります。売買により譲り受ける株式の価格が、第三者割当をした場合の株式発行価格を下回る場合は、インド準備銀行の事前承認が必要です。
この基準となる発行価格は、上場株式と非上場株式で異なり、上場株式の場合はインド証券取引委員会ガイドライン(SEBI(DIP)ガイドライン13章1条1項)に従って、次のように定められています。
・株式割当日から起算して過去90取引日の株価の終値の週ごとの最高値および最安値の平均
・株式割当日から起算して過去10取引日の株価の終値の週ごとの最高値および最安値の平均のいずれかの価格のうち高い方を下回らない価格
また、インドの証券取引所に上場しているインド内国会社の株式を株式譲渡により、一定割合以上取得する場合には、公開買付が要求されます(2011年公開買付規則)。以下のいずれかに該当する場合、同規制の対象となります。
- 単独または共同保有者と併せて、上場企業の議決権のある株式の25%以上を取得することになる新株第三者割当を受け、または既存株式の市場内取得もしくは相対取引を行う場合。
- 単独または共同保有者と併せて、上場企業の議決権のある株式を25%以上75%未満保有している者が、さらに1事業年度内に5%を超える議決権を取得することになる新株第三者割当を受け、または既存株式の市場内取得もしくは相対取引を行う場合。
- 上記数値基準を満たすような議決権ある株式の取得が行われない場合であっても対象企業の実質的支配権が取得されるような取引
インド公開買付規制では、いわゆる取得を直接取得と定義する一方で、ある会社の取得を通じてインド上場企業を取得する場合も間接取得として同規制を適用しています。この「ある会社」はインド法に準拠した会社か、上場か非上場かを問わず、例えば、買収対象がインドの会社でない場合も、その会社の子会社がインドで上場している場合は当該規制が関係してきます。
また、公募増資、株式引受契約に基づく株式引受、合併や企業分割などの組織再編による株式割当などにより株式を取得する場合などは、公開買付義務は免除されます。
2011年公開買付規則上、最低予定買付数が規定されており、取得予定数は全株式(または議決権)の26%以上である必要があります。つまり、プロモーター(インド法上の概念で創業者支配株主のイメージ)から直接25%以上の株式の取得を行う場合には、最低でも26%以上を予定取得とする公開買付が行われ、したがってプロモーターからの株式の取得と合わせると51%以上の株式取得を行う取引となります。
また、公開買付に対する最低応募数を、公開買付成立のための条件として付すことができます。このとき、公開買付の応募数が最低応募数に満たない場合は、買付者は公開買付を撤回することができます。
ただし、撤回する場合は、最低応募数の買付に必要な金額の半額以上を、公開買付のために開設されたエスクロー口座に現金で保有しておかなければなりません。
次に公開買付における価格規制ですが、公開買付規則上、公開買付価格は次のうち最も高い価格となります。
[直接取得または直接取得とみなされる間接取得の場合]
・当事者間で合意した価格
・公開買付開始公告に先立つ過去52週に買付者または共同保有者により対象企業株式の取得に支払われた取引高加重平均価格
・公開買付公告日の前日から起算して過去26週間の間に買付者または共同買付者(いる場合)より対象株式の取得に支払われた最高価格
・公開買付公告に先立つ過去60取引日の取引高加重平均市場価格(取引が頻繁にある場合)
・対象上場株式の証券取引所での売買高が低調な場合、純資産利益率、純資産簿価、EPS(1株当たり利益)等のかかる会社の株式評価に慣習的に用いられている要素を考慮に入れて、買付者および公開買付の幹事であるマーチャント・バンクにより決定された価格
・直接取引とみなされた間接取引について、一定の方式で計算、開示された対象企業の価格
[間接取得の場合]
・当事者間で合意した価格(ある場合)
・主要取引の契約締結日または公表日のいずれか早い日を基準として過去52週に買付者または共同保有者により対象企業株式の取得に支払われた取引高加重平均価格
・主要取引の契約締結日または公表日のいずれか早い日を基準として過去26週間の間に買付者または共同保有者(いる場合)より対象株式の取得に支払われた最高価格
・主要取引の契約締結日または公表日のいずれか早い日と、公開買付開始公告日の間に、買付者または共同保有者により対象企業株式の取得に支払われた最高価格
・主要取引の契約締結日または公表日のいずれか早い日を基準として過去60取引日の取引高加重平均市場価格(取引が頻繁にある場合)
・直接取引とみなされた間接取引について、一定の方式で計算、開示された対象企業の価格
ⅱ)非上場株式の取得による株式買収(非居住者がインド居住者から株式譲渡を受ける場合)
株式が証券取引所に上場されていない場合には、売買により譲り受ける株式の価格は、SEBIに登録しているマーチャント・バンカーまたは勅許会計士がDCF法に基づき決定した適正価格を原則下回ってはなりません。
下回る場合には、当該取引につきインド準備銀行の事前承認が必要になります。また、当該株価については、上記マーチャント・バンクまたは勅許会計士の証明を受ける必要があります。新株式の発行を引受ける場合も同様です。適正価格を下回らない限りインド準備銀行の事前承認は不要です。ただし、インド準備銀行に対する事後届出の際に譲渡価格を記載する必要があります。
ⅲ)上場/非上場株式の売却による株式譲渡(非居住者がインド居住者から株式譲渡を行う場合)
非居住者がインド居住者に対して株式譲渡を行う際も、上述と同様に、RBIの承認や報告、マーチャント・バンカーや勅命会計士の証明等のプロセスが必要です。インド居住者が非居住者に対して株式譲渡する場合との違いは、上場株式の場合は第三者割当の価格以下で、非上場株式の場合はDCF法による適正価格以下で取引しなくてはならないことです。すなわち、インド居住者から非居住者への株式譲渡と、非居住者から居住者への株式譲渡は表裏一体で規制されており、いずれもインド居住者に有利になるように設定されています。
②全部事業譲渡による事業譲渡(Slump Sale)
インド所得税法では、全部事業譲渡(Slump Sale)を「当該事業譲渡において価値が個々の資産や負債に個別に割付けられることなく、事業全体に対する対価が支払われる売買の結果としての、1つまたは複数の事業の移転」(同法2条42C項)と定義しています。
全部事業譲渡には、当事者間の契約による方法と譲受会社の登記上の住所を管轄する高等裁判所(High Court)に対して事業譲渡に関する組織再編計画を提出し認可を受ける方法があり、どちらかを選択できます。事業譲渡には合併や企業分割で受けるような税務メリットがほとんどないため、多くの場合、裁判所の許可を得ずに当事者同士で行う方法が採用されています。
公開会社が事業譲渡を行う場合、譲渡会社は取締役会決議及び株主総会普通決議を経る必要があります(インド会社法293条1項(a))。
さらに、譲渡会社が上場企業である場合は、株主総会決議は郵便投票(Postal Ballot)で行われる必要があります。非上場企業が事業譲渡を行う場合、株主総会決議は不要であり、取締役会決議で決定できます。また、旧会社が保有していた許認可関係や事業ライセンス関係は事業譲渡に伴って移転しませんので、別途それぞれの監督官庁に事業譲渡による移転を申請しなければなりません。
事業譲渡の対価は、事業評価額相当の現金となります。
・譲受会社における事業譲渡により移転された各資産の税務上の簿価
インド所得税法上、事業譲渡においては、事業を構成する個々の資産や負債を個別に割付けていないので、譲り受けた事業を構成する各資産の税務上の簿価を決定する際の具体的な規定は存在しません。実務上は、適正な手法(専門家による適正評価額のレポートなど)により各資産の価値を評価して、譲受会社はその価格を当該資産の税務上の簿価として認識します。
・繰越欠損金、未吸収減価償却費の承継
事業譲渡は、実際には資産の譲渡という形になるため、事業譲渡の方法で移転される事業に関する繰越欠損金(Carryforward Losses)や未吸収減価償却費(Unabsorbed Depreciation)については、譲受会社には承継されません。
③資産譲渡(Asset Transfer)
資産譲渡(Asset Transfer)による事業取得は、事業を構成する個別の資産・負債の譲受とみなされます。動産の譲受には、1972年動産売買法が適用されます。株式・社債の譲受については会社法で手続を定めています。また、不動産の譲受には、1882年不動産譲渡法が適用されます。著作権、特許権、商標権等の無体財産権の取得は、それぞれの無体財産権の種類に応じた法令で規定されます。債務の引受に関しては1872年インド契約法が適用されます。
事業譲渡については、会社法の附属定款(AOA:Articles of Association)により、取締役会および株主総会による承認を原則とします。特に公開会社の場合、事業譲渡には株主総会における過半数の承認を要します。また、外国企業がインド国内の営業を譲り受ける場合は、FDI規制に従い、インド準備銀行の事前承認が必要とされます。その他、登録税、印紙税、キャピタル・ゲイン課税および譲渡税を含む取引コスト等の検討が必要です。
・資産の税務上の簿価
資産譲渡に伴い各資産の対価として支払われた価格が、譲受会社における当該資産の税務上の簿価となります。
・繰越欠損金、未吸収減価償却費の承継
単純な資産の売買にすぎないため、繰越欠損金や未吸収減価償却費については、譲受会社には承継されません。
④合併
合併(Amalgamation)とは「1つ、もしくは複数の会社が別の会社と合併し当該別の会社に吸収されること、または2つ以上の会社が合併し新しい会社が設立されることですが、すべての資産および負債が消滅会社から存続会社に引継がれ、かつ原則として消滅会社の資本総額の4分の3以上を保有する株主は存続会社の株主となること」と定義されています(1961年所得税法2条1B項)。
以下にて合併実行時の懸念事項及び考慮事項について記載します。
・会社法裁判所(NCLT)の関与
合併要件として、基本定款(MOA)に「合併が認められている」と記載されている必要があり、さらに合併存続会社の本店登記場所を管轄する州のNCLTによる許可が必要です。加えて、承認等の手続を終えるのに通常6~8カ月はかかるとされています。なお、合併の法的枠組みは、2013年会社法230条~240条に定められ、手続は以下のように進みます。
- NCLTに対して合併に関する組織再編計画書、各種申請書を提出し、当該手続の料金を支払う。組織再編計画書のコピーは、中央政府、税務当局、RBI、会社の登記所、公式清算人、CCI等に提出する必要がある。上場企業は、加えてSEBIに関連書類を提出することが必須
- NCLTは申請受理後、存続会社と消滅会社のそれぞれの株主総会および債権者集会を招集する
- 会社は、株主総会および債権者集会、集会実施に関するニュースを、会社のホームページに掲載する。上場企業の場合は、これに加えて英語で会社が登記されている州の官報に告知する
- 当該株主総会および債権者集会において、会合開催日の予告から1カ月後に電子投票も含め、それぞれ4分の3以上の賛成が得られれば、合併決議が成立する
- 裁判所の指定する日程、ないしは日程が不定の場合は集会終了後3日以内にNCLTに決議結果を提出し、裁判所の合併認可を待つ。なお、上述の手続①の前に、債券者総会で合併実行に関し、90%以上の異議なし証明(NOC:Non-Object Certificate)を得られれば、合併申請後の株主総会や債権者総会のNCLTの評決をスキップすることが可能と同法230条に規定されているため、合併を早く終わらせるには、NCLTに合併申請を行う前に債権者総会を開催し、合併の賛成票を取っておくことが望ましいです。
・合併の対価
存続会社は合併の対価として、株式を発行し、消滅会社の株主に割当てます。また、合併対価については株式のみであり、日本のような対価の柔軟化は認められません。
・債権債務
存続会社は消滅会社の債権債務をすべて承継します。
・資産の税務上の簿価
存続会社は、消滅会社から税務上の簿価で資産を承継することができます。
・ワークマンの承継
消滅会社のワークマンは、特段の手続なしに、存続会社に承継されます。ノンワークマンはインド労働法上の保護の対象にはなっていません。ワークマンとノンワークマンの定義は次のとおりです。
ワークマン:原則的に事業主に雇用されている者
ノンワークマン:以下の規定に該当する者
空軍、陸軍、海軍に所属する者
警察または刑務所で雇用されている者
経営者または経営管理者的な立場にある者
賃金が月額1万ルピー以上の監督的な立場
ただし、自動的に承継できる要件として、次の3つをすべて満たしている必要があります。
1.消滅会社の労働者の業務が、合併により阻害されないこと
2.当該労働者の労働条件が合併される前よりも不利になっていないこと
3.存続会社が合併契約上で、合併がなければ消滅会社が支給したであろう退職金と同額程度の退職金の支払義務を引受けていること
承継が認められない場合は、消滅会社は労働者に対して退職金を支払う必要があります(1947年産業紛争法25条)。
・登録、許認可、事業ライセンス等
原則として合併消滅会社の登録、許認可、事業ライセンスなどは、すべて合併存続会社に移転します。ただし、それぞれの根拠法に基づく届出や手続があるときは、合併消滅会社がそれを行う必要があります。通常、組織再編の申請を受けた裁判所の下で行います。
・合併消滅会社のキャピタル・ゲイン課税
所得税法上、合併存続会社がインド内国会社の場合、資産の移転に関して、合併消滅会社にキャピタル・ゲイン課税は発生しません(1882年資産譲渡法47条4項)。
また、合併消滅会社の株主が処分することになる株式について、合併存続会社の株式が合併消滅会社の株主に対価として割当てられます。合併存続会社がインド内国会社である場合は、合併消滅会社の株主にキャピタル・ゲイン課税は発生しません。キャピタル・ゲイン課税回避要件は、この後述べる繰越欠損金引継の要件とほぼ同じです。
・繰越欠損金、未吸収減価償却費の承継
所得税法上、合併消滅会社が一定の事業を営んでいる場合には、以下所得税法第72条A項に記載された要件を満たす限り、合併消滅会社の繰越欠損金、未吸収減価償却費を合併存続会社に承継することが認められます。
【所得税72条A項】
-合併消滅会社が繰越欠損金/未吸収減価償却費の発生している事業を3年以上営んでいること
-合併消滅会社が、合併前2年間の間、継承される固定資産の簿価4分の3以上を保有し続けていること
-合併存続会社が、合併から5年以上継承した事業を営むこと
-合併存続会社が、合併から5年以上、継承した固定資産の簿価4分の3以上を保有し続けること
-合併が申請事業目的であること
-その他一定の条件
・合併関連費用の償却・損金算入
インド内国会社が合併のために負担した費用については、合併のあった課税年度から5年間に均等償却し、損金算入することができます。
・外国為替規制
高等裁判所で合併計画が承認された場合には、一定の条件を満たす限り、合併存続会社のインド居住者から合併消滅会社のインド非居住者への株式発行につきインド外国投資促進委員会(FIPB)やインド準備銀行の承認は不要となります。
・証券取引所規制
合併当事者の少なくとも1社が上場企業である場合、証券取引所の事前承認が必要です。ただし、このケースは上場が前提となり、合併存続会社が合併後も取引所に上場しない限り、証券取引所は承認しません。
■外国直接投資に使用される株式及び証券について
外国直接投資に使用される株式及び証券の種類を開設します。現在の外国直接投資政策の下では、外国人投資家は次の株式及び証券を通してインド法人に投資を行うことができます
①普通株式(Equityshare)
②強制転換優先株式(CCPS、Compulsory Convertible Preference Shares)
③強制転換社債(CCD、Compulsory Convertible Debentures)
2013年インド会社法上、株式は、普通株式と優先株式に区分されます。①普通株式とは、インド会社法第43条に従い、優先株以外のすべての株式であり、(ⅰ)議決権を有する普通株式、および(ⅱ)配当、議決権、その他について、規定された規則に従い異なる権利を有する株式とされています。ここでいう(ⅱ)については、通常クラス(Class)株式と呼ばれ、例えば議決権の有無やその加重等、通常の株式と差異を設けるために利用されます。
一方で、優先株式とは、同様にインド会社法第43条にて配当及び残余財産の分配に関して優先的な権利とその議決権を有する株式と規定されています。なお、当該株式は、上記以外の事項については付属定款上規定された権利についてのみ議決権が認められています。また、優先株式は発行から20年以内に普通株式へ転換される必要があり、将来において強制/任意での転換が規定された株式は、転換可能優先株式Convertible Preference Shareと呼ばれます。このうち、将来において強制転換される株式を②強制転換優先株式(CCPS、Compulsory Convertible Preference Shares)と呼びます。強制転換優先株式については、外国直接投資に該当するためFDI規制を遵守する必要があります。強制転換優先株式と同じように将来における普通株式への転換が強制的に適用される社債を③強制転換社債(CCD、Compulsory Convertible Debentures)と呼びます。発行形式が株式でなく社債となりますが、強制転換優先株式と同様に資本制の証券として、外国直接投資に該当しFDI規制の順守が求められます。
なお、強制的に全部が資本株式に転換されない優先株式、転換社債は、後述するFDI規制の対象でない一方、前述の対外商業借入ECBの規制対象となります。ただし、投資が完全に自由というわけではなく、FDI規制により定められている出資上限に関して一部に規制が残っています。
上記3つの証券による投資については、FDI規制に該当しない限り、原則外資出資比率が100%まで、政府による事前承認の手続は必要なく、自動で認可されます。規制がある事業分野についての詳細は、前述の2020年統合FDI政策に明記されています。たとえば、通信サービス業、放送業、保険業、防衛産業、小売業等は外資の直接投資に上限が設けられているか禁止されています。
普通株式、強制転換優先株式、強制転換社債発行の形で外国資本に投資を受けるインド法人は、送金を受けた日から30日以内に外国為替取扱指定金融機関(AD Bank)を通じて、インド準備銀行(RBI)に報告する必要があります。報告は所定の事前報告フォーム、外国対内送金証明書(FIRC)のコピー、当該資金を送ってきた海外銀行からの海外投資家に関する顧客確認(KYC)報告書を使用して、対価額の詳細を報告します。
また、株式発行から30日間以内に、AD Bankを通じて、所定のFC-GPR(Foreign Collaboration - General Permission Route)PartA様式に、①会社法の全要件を満たしており自動承認による株式発行に適格であることを証明する書類と、②株式の価格算定方法を示す勅許会計士の証明書を添え、インド準備銀行に報告しなければなりません。
さらに、毎年7月31日までに最終事業年度末までになされた直接投資、ポートフォリオ投資等の全投資に関する外国投資の年次報告をFC-GPRPartB様式で提出する必要があります。
■M&Aと会社運営に係る注意点
以下にM&Aスキームやストラクチャの決定、買収後の会社運営にかかわる注意点を記載します。
・デューデリジェンスにかかわる留意点
M&Aを検討する場合、当該ディールを成功に導くためには会社実態を把握するための各種デューデリジェンスは欠かせません。買収ターゲットの特定や事前検討といったプレディールからディール実行、そして最終的なクロージングと統合プロセスというのが通常のM&Aの流れとなりますが、日本企業とインド企業のM&Aの最終的なクロージングまでには相当の期間とコストを要します。
M&A実行に際してデューデリジェンスは必須プロセスとなりますが、インド企業とのデューデリジェンスはかなりタフになるというのが一般的な理解です。デューデリジェンスはビジネス/財務/法務/労務等の視点から行われますが、いずれにおいても買収対象会社から開示されたデータをもって行います。しかし、インド企業からのデータ開示が限定的である、もしくは相当な時間を要するというのは珍しくありません。
また、開示されたデータについても、収益力分析における利益水増し、滞留債権の引当漏れ、デッドライクアイテム分析における未払税金や退職給付引当金の認識漏れ、および未計上、会社側で把握していない税務調査案件の未報告、その他簿外債務や偶発債務の認識漏れ等の問題は頻繁に起こります。開示されたデータは限定的である点また、そのデータの妥当性や信憑性については、十分な注意が必要となります。
・M&A後のコーポレートガバナンスにかかわる留意点
①株主総会決議について
普通決議は出席株主の過半数の賛成、特別決議は出席株主の3/4以上の賛成が要件となります。決議要件は定款に定めることにより、普通決議、特別決議ともに厳しくすることができるため、合弁を行う場合には、決議要件を調整することで、一定の縛りをおくことも可能です。
また、日本の会社法の場合、すべて議決権数に応じて決議が行われますが、インドの会社法では、原則として、人数ベースによる挙手(Showing Hands)が決議要件となります。挙手による決議の場合、出資割合および保有議決権数においてマジョリティを構成する場合であっても、頭数でインド側株主の方が多い場合、決議をコントロールできないこととなります。そのため、このようなケースを避けるため、議決権ベースによる投票制(Poll)による決議を採用することが推奨されます。
②取締役会、取締役会決議について
インド会社法174条1項に従い、取締役会の決議は、取締役の総数の1/3(端数が生じた場合には四捨五入)または、2人のいずれか多い方の人数となります。
ただし、インド会社法174条3項に従い取締役会の議題に関して利害関係を有している取締役の人数が総数の 2/3以上となる場合は、その残りの取締役、すなわち、利害関係を有しておらず、かつ取締役会に出席した2人未満ではない取締役が、当該取締役会開催のための定足数となります。
定足数に満たさないために取締役会を開催することができない場合、附属定款に別段の定めがある場合を除き、その取締役会は、次週の同じ曜日まで自動的に延期され、当初開催予定であった同じ時刻と場所で開催されることになります。
取締役の頭数において取締会決議が行わるため、買収時には検討の上で取締役の選任および双方からの選任割合、公平な立場から社外取締役の選任を決定する必要があります。
なお、取締役会決議事項についても会社法上規定されている決議事項のみならず会社運営にかかわる重要事項については、別途附属定款や各種契約(買収契約、合弁契約等)において特別決議事項としてその決議方法について規定することが推奨されます。
また、株式譲渡等によるM&A後、PMI(Post Merger Integration)にて行われる最初の手続きの一つが取締役会の運営及び取締役の変更になります。通常M&Aの実行後は旧取締役の退任、及び買主側から選定された新たな取締役が選任するのが通常です。旧取締役の退任については当人より署名された退任通知を受領した後、取締役会決議がなされます。取締役会決議から30日以内に会社登記局へDIR-12の提出が求められます。万が一、当該取締役が退任を拒否し手続きが難航する場合は、特別通知を発行したうえでの取締役会の開催、及び臨時株主総会による決議を行うことで当該取締役の除名手続きが可能です。なお、除名手続きの際も退任手続きと同様にDIR-12の提出が求められます。
一方、新しく手配される取締役については、DSC(デジタル署名証明、Digital Signature Certificate)、及びDIN(取締役識別番号、Director, Identification Number)の取得、取締役会もしくは株主総会での選任決議、選任決議後のDIR-12の提出を通じて取締役として選任及び登記されます。
③その他会社機関について
取締役(取締役会)と株主(株主総会)以外のコーポレートガバナンス機関としては会社秘書役と監査人/監査役会が挙げられます。
払込資本金1億ルピー以上の会社には常勤の会社秘書役(Company Secretary)を置くことが義務付けられています。会社秘書役は取締役会や株主総会の運営やそれにかかわる書類作成や申告手続きを担当するのが通常です。
インド企業とのM&Aにおいては、買収先会社が採用/雇用している会社秘書役が継続して採用されるケースもざらにあり、インド側株主およびマネジメント側と親密な関係がすでに形成されているため、買収後のコーポレートガバナンスがより一層難しくなる可能性もあります。
また、監査人についてですが、インドではすべての会社に会計監査が義務付けられており、監査人の選任および辞任は、監査人からの同意およびレターの受領、取締役会および株主総会決議、会社登記局への申請を通して行われます。
インド会社法139条(1)により会社が選任する監査人の任期は、個人の監査人については5年(1期)、監査法人の場合は10年(2期)と規定されています。
なお任期中における監査人の辞任については正当な理由がある場合のみとされており、監査人からのResignation letterの発行が求められます。また、監査人の選定について、既に買収先会社のインド側株主およびマネジメントとすでに親密な関係が形成されており、第三者という公正な立場からの監査が実施されない可能性もあります。監査人の選任や必要に応じた会計帳簿へのアクセスや内部監査の実施については、買収契約において必須の検討事項となります。
■M&Aに関連するその他 の各種規制・法律
・インサイダー取引
インサイダー取引規制とは、株式を発行している企業のインサイダーかつ内部情報を握っている者は、その企業の株式を売買することが禁止されるというものです。またそうした者は、内部情報を他人に提供して、株式の売買を誘導する行為を行うことも禁じられています。
以前の会社法においてもインサイダー取引は禁止されていましたが、新会社法では、従来は曖昧であったインサイダーの定義が、「全ての関連当事者」および「外部者であり、かつ公表されていない情報を保有しているもの」と新たに規定されました。規制の適用される範囲が上場企業の株式のみならず非上場企業の株式にも拡張されました。
・2023年競争法(Competition Act, 2023)
インドにおいても企業結合規則が存在し、2023年競争法において規定されています。同法において、インド国内市場における健全で公正な競争の維持を目的とし、市場における競争に対して相当の悪影響を及ぼすか、その恐れがある企業結合を禁止し、そのような結合は無効なものとされます。
同法では、企業結合の類型を以下3つに規定しています。
①支配権、株式、議決権、または資産の取得
②類似または同一もしくは代替可能な商品の生産、流通、取引、または、類似または同一もしくは代替可能なサービスの提供に従事する他の企業に対して、すでに直接的または間接的な支配権を有している者によるその企業に対する支配権の取得
③合併
上記、3つの類型について、以下同法において規定された売上高基準及び資産基準のいずれかに該当する場合は、企業結合に関わる届出書の提出が義務化されます。
なお、同基準を満たさない場合は、3つの企業結合の類型に該当する場合であっても、原則届出書の提出が免除されます。
また、除外要件として、上記基準のいずれかに該当する場合であっても、企業結合対象会社のインド国内資産が45億ルピー以下、または売上高が125億ルピー以下に該当する場合は、届出書の提出が免除されます。
[参考資料・ウェブサイト]
・Deloitte India “India M&A Trends 2023”
https://www2.deloitte.com/in/en/pages/finance/articles/India-MnA-Trends-2023.html
・Companies Act, 2013
https://www.mca.gov.in/Ministry/pdf/CompaniesAct2013.pdf
・Consolidated FDI policy
https://www.meity.gov.in/writereaddata/files/FDI-PolicyCircular-2020-29October2020_0.pdf
・Securities and Exchange Board of India (Substantial Acquisition of Shares and Takeovers) Regulations, 2011
https://www.sebi.gov.in/legal/regulations/feb-2023/securities-and-exchange-board-of-india-substantial-acquisition-of-shares-and-takeovers-regulations-2011-last-amended-on-february-07-2023-_69218.html
・FED Master Direction No.5/2018-19
Master Direction - External Commercial Borrowings, Trade Credits and Structured Obligations
https://www.rbi.org.in/Scripts/BS_ViewMasDirections.aspx?id=11510
・The Competition act, 2002, 2023
https://www.cci.gov.in/legal-framwork/act
・日本貿易振興機構(JETRO) http://www.jetro.go.jp/indexj.html
・『M&A 専門誌 MARR』レコフデータ
「特集 2013 年の日本経済と M&A 動向」2013 年 2 月
「特集 2014 年の日本経済と M&A 動向」2014 年 2 月
・あずさ監査法人、KPMG 編『インドの投資・会計・税務ガイドブック』中央経済社、2008 年
・東京青山・青木・狛法律事務所、ベーカー & マッケンジー外国法事弁護士事務所(外国法共同事業)編『クロスボーダー M&A の実務』中央経済社、2008 年
・新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『クロスボーダー M&A の税務戦略』中央経済社、2009 年
・プライスウォーターハウスクーパース株式会社、税理士法人プライスウォー ターハウスクーパース編『アジア M&A ガイドブック』中央経済社、2010 年
・デロイトトーマツ FAS 株式会社編『M&A 統合型財務デューデリジェンス』清文社、2010 年
・新日本有限責任監査法人、新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『インドの会計・税務・法務Q&A』税務経理協会、2011 年
・森・濱田松本法律事務所 『インド企業法務 実践の手引』中央経済社、2016年