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1.ブラジルのM&A動向
近年ブラジルでは、M&Aに対する勢いが減少傾向にあります。
2012年から取引金額が下がり続け、2013年に初めて200億を下回りましたが、その後はまた、回復傾向にあります。
【世界のM&A金額上位5カ国】 |
【世界のM&A金額上位5カ国】
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| 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 |
被買収側 | 1位 | 米国 | 米国 | 米国 | 米国 | 米国 |
2位 | イタリア | 英国 | 英国 | 英国 | 英国 | |
3位 | 英国 | スイス | スペイン | アイルランド | ドイツ | |
4位 | フランス | ドイツ | ドイツ | ドイツ | 日本 | |
5位 | ドイツ | フランス | オランダ | カナダ | 中国 | |
買収側 | 1位 | 米国 | 米国 | 米国 | 米国 | 米国 |
2位 | オランダ | 中国 | 英国 | 日本 | オランダ | |
3位 | 中国 | 英国 | フランス | カナダ | 英国 | |
4位 | ベルギー | 日本 | カナダ | フランス | ドイツ | |
5位 | 英国 | フランス | ドイツ | ドイツ | インド |
ハイパーインフレなどの影響により経済が低迷した1990年代こそ取引量は多くありませんでしたが、2000年代に入って経済が回復して以降は、頻繁に行われるようになり、近年は、1,000件を超えるM&A取引が行われています。
出所:Pwc 『Operações de M&A no Brasil,Transações anunciadas em 2022』
2022年のM&A実績を業種別にみると、金融、食品、IT、鉱業など、複数の分野にわたってまんべんなく投資が行われています。
【業種別のM&A件数(2022年)】
※2022年1月から11月までに発表された取引
出所:Pwc 『Operações de M&A no Brasil,Transações anunciadas em 2022』
■日系企業のM&A事例
日系企業の中でも、近年発生したM&A取引は以下となります。
【日系企業のM&A事例】
年月 | 企業名 | 概要 |
2015年1月 | 豊田通商 | ブラジルで穀物インフラ事業を展開する、NOVAAGRI INFRA-ESTRUTURA DE ARMAZENAGEM E ESCOAMENTO AGRÍCOLA S.A.の株式を100%買収し、子会社化 |
2016年8月 | NEC | ブラジルのITセキュリティ企業Arcon Informatica S.A.を買収 |
2016年10月 | ロート製薬 | ブラジルの目薬製造・販売を行う、Ophthalmos S.A..の株式の60%を取得 |
日系企業のM&A案件は減っておりますが、2019年には、ソフトバンクが中南米のファンドを設立するなど、投資先としての魅力は高まりつつあります。
2.ブラジルでM&Aを行う際の留意点
■クロスボーダーM&Aにおける留意点とブラジルで特に注意すべき事項
国家間をまたいで行われるクロスボーダーM&Aは、日本国内法だけでなく、M&Aの対象会社が所在する国の法律に従い実施しなければなりません。ブラジルなどの新興国では法整備そのものが不十分である場合や、法律に実務が追いついていないケースも多々あります。また異なる商習慣があるため、日本国内におけるM&Aとは様々な点で相違が生じます。
検討すべき事項としては、以下のような点があげられます。
■法制度・税制・商習慣の違い
M&Aを行う場合、外国投資法や会社法、税法、労働法など複数の法律に従い、適法に実施をしなければなりませんが、これらの法律を自社単体で体系的に理解することは困難であるため、ブラジルM&Aに詳しい現地の弁護士を活用し、計画を策定することが必須です。
ブラジルは規制主体が連邦、州、市など多岐に渡る点や、使用言語が原則的にポルトガル語のみであり、英語での資料が入手しにくい点など、難しい局面が多くなります。ファミリー支配企業が多いことや、税制が複雑であることもあって、正確な財務データの入手が困難である点などもブラジルの特徴といえます。また、労働訴訟が非常に多いことから、訴訟に対する引当金の計上の有無についても注意が必要です。
■外国投資法から留意する点
ブラジルでは、国内の産業を保護するために、外国からの投資を制限する外国投資規制が定められています。これにより、特定の業種への投資は一定の出資比率以下に制限されます。
したがってこれらの制限業種をローカル企業から買収する場合には、その株式全部を取得することはできないため、ローカル資本との合弁形態を選択せざるを得ません。
■事業評価、企業評価が困難
買収にあたっては、買収対象会社をいくらで買い取るか、という問題が生じます。日本国内でのM&Aにおける企業評価の測定方法は、①純資産法、②マルチプル法、③DCF法の三つに分けられます。その中でも②マルチプル法と③DCF法が一般的な測定方法と言えます。
【日本国内における企業価値方法】
| 対象会社の純資産をもとに測定する方法 |
| 対象会社と事業内容が類似する複数の上場企業の株価指標をもとに測定する方法 |
| 対象会社が将来得るキャッシュフローをもとに測定する方法 |
しかし、新興国では正確な財務データの入手がそもそも難しい事や、DCF法における将来キャッシュフローや割引率の算定にあたって、日本国内とは異なる事情を考慮しなければいけません。
[マルチプル法]
マルチプル法とは、一般的にベンチマークとして類似企業を選定し、その企業の損益の前期実績・当期見通し・来期予想などから比準倍率を求め、対象会社の財務データに当該比準倍率を乗じることで企業価値を算定する方法です。しかし、新興国ではそのようなデータの信憑性が不明確な点が多いため、企業評価の適正性が問題となります。
そのような場合には、例えば、製造業ならば生産トン数、コンビニ業ならば店舗数など、業界特有のドライバーを利用する方法や、利益率などの比準倍率を算定するにあたって先進国と新興国の差を保守的に見積もり、倍率を修正する方法も検討する必要があります。
マルチプル法はDCF法に比べて簡易であり、算出した企業価値が業界の相場と連動しているかが分かるというメリットがあります。しかし、企業価値算定の基礎となる倍率の設定について為替レートや資本コストという点を反映できないという問題点があります。
[DCF法]
DCF法とは、将来のキャッシュフローを一定の割引率で割り引いた割引現在価値をもって企業価値を算定する方法です。将来のキャッシュフローとは、費用や税金を支払い、事業を継続していくために必要な投資をした後に残ったお金のことです。また、割引率は株主資本コストと負債資本コストを加重平均して求める企業もあれば、事業ごとに内部利益率を設け、合算して算出している企業もあります。
将来のキャッシュフローの算定にあたっては、通常現地通貨ではなく、直物レートで換算した円やドルなどの国際通貨による方法が一般的です。ただし、この場合には、将来の為替変動のリスクがキャッシュフローに反映されないという問題点があります。
割引率については、自国で設定した割引率を使用する方法、もしくは自国の割引率に一定のリスクを上乗せした割引率を利用する方法が考えられます。前者はカントリーリスクやビジネスリスクが反映されないという問題が生じますし、後者はどれだけのリスクがあるかという判断の適正性についての検討が必要となります。簡便性を重視する企業では前者が一般的に利用されますが、後者を利用する企業もあります。
上述にありますように、マルチプル法・DCF法ともにメリット、デメリットがありますが、ブラジルにおいてはDCF法が一般的に使われています。
■ポイズン・ピルの普及
日本ではあまり導入されていないポイズン・ピル(敵対的買収防衛策)が広く認識され利用されています。ポイズン・ピルとは敵対的買収者が一定の議決権を取得した時点で、その買収を阻止するような事項をあらかじめ定めておくことを言います。例えば、発行済株式の全株式を取得する強制買付条項や、あらかじめ時価以下で購入が可能な新株予約権を、既存株主に対し発行する手法、公開買付価格に一定のプレミアムを上乗せすること、など様々です。
ポイズン・ビルはブラジルの複数の上場会社で利用されており、ブラジルでのM&Aのプロセスにおいて障害になる可能性があります。
■技術移転契約の期間、ロイヤルティ額に関する制限
設備や労働力について既存のリソースを活用するために製造業を買収するケースがあります。この場合、日本親会社が持つ技術を提供し、そのロイヤリティを対価として取得する方法が一般的といえます。
しかし、ブラジルは外貨の流出を防ぐ目的もあり、こういった技術移転契約期間は、国立工業所有権院(INPI)の許可の下、原則5年が上限とされています(Law No.4132/62 12条3項)。再度5年間の延長を行うことができますが、その後の延長は認められません。また、金額についても、原則として当該移転技術により製造された製品の売り上げの5%を超えない額と定められています(技術供与者と被供与者間に資本関係があるか否かにより異なります)。
また国外への送金を行うためには、ブラジル中央銀行(BACEN)への登録も必要になります。ブラジルでは対外送金に制限が設けられておりますので、中央銀行に登録していないと技術移転料などの送金ができない点に注意が必要です。
3.M&Aに関する法整備の状況
■M&A法規制の概要
M&Aを行う場合には、一つの法律だけではなく、複数の法規制がかかわってくるため、法体系を体系的に把握する必要があります。
M&Aに関連する法規制は以下のようなものがあります。
【M&Aに関する主要な法規】
外国投資法 | 外国投資家に対する規制や優遇措置を定めた法規 |
ブラジル民法 | 商取引に関する規制、会社の形態など会社運営に関する基本法 |
ブラジル会社法 | 株式会社に関する法律であり、1976年に制定 |
ブラジル証券取引委員会規則 | 株式取引時に株主等の保護のために制定 |
新企業結合規則 | 競争方法として不公正な方法を防止することを目的として制定 (独占禁止法と同意義である) |
企業腐敗防止法 | 公務員への贈賄に関する規制 |
各種租税法 | あらゆる取引に対し制定。他の国にくらべ税体制が複雑 |
■外資規制
外国投資法ガイドライン33号(Calendário Brasileiro de Exposições e Feiras 2012 33 Legal Guide for Foreign Investors in Brazil)によると、特定の業種に関して、外国資本企業や外国人が一定割合以上の出資を行うことを規制されています。例えば、マスコミ業や金融事業等の業種による規制の他、国境周辺での事業等の地域における規制があります。
■土地・不動産関連の規制
ブラジルで外資企業が不動産を取得するにあたり、若干の規制(国境付近の農地や鉱山は購入不可)がありますが、国境付近などの限られた土地を除き、国内の法人・個人と同様に、外国人(法人・個人)も土地・不動産の所有が認められています。ただし、事業内容により、農務省や開発商工省の認可が必要になる場合や、ブラジル国内に法人がない外国企業には、土地所有権を認めないなどの規制が存在します。
[土地・不動産購入制限の強化]
2011年8月、ブラジル連邦政府の決定により、外国人(個人・法人)は各都市の土地面積の25%までしか購入できないこと、及び同一国の外国人(個人・法人)による土地面積の占有率が合計で40%を越えてはならない、という規制の強化が施行されました。
たとえば、サンパウロの土地を所有している企業を買収しようとした場合、他の日本企業がサンパウロの土地面積の40%以上を既に所有していた場合には、これ以上の取得は不可能ということになります。将来バイオ燃料によるエネルギーが主流となることが予想されているなか、外資にシェアを占有されることへの対応策と考えられていますが外資企業にとってはインパクトがある改正となりました。
■会社法
M&Aを行うと会社の組織に重大な変更が生じ、株主や債権者の権利を著しく害するおそれがあります。そこで会社法では、通常とは異なる意思決定、手続を会社に義務づけることで株主と債権者および第三者の利害調整を行っています。
■新株発行
売り手企業が既存株主以外に新株発行を行い、買い手側がその払込みを行う手法です。既存株主の持株は残る点が特徴であり、既存株主と共同支配を行う場合などに利用されます。
授権資本内の新株発行の場合は、株主総会もしくは経営審議会の決議によって意思決定を行うことができます(会社法168条)
一方、授権資本を超えて新株発行を行う場合には、必ず株主総会の決議により決定しなければならず、決議後30日以内に株主総会の議事録を登記局に提出します(会社法166条)。
また監査役(会)を設置している会社は、決議に先立ち意見聴取を行う必要があります(会社法166条)。
授権資本内にて新株発行を行う場合 | 株主総会または経営審議会の決議により決定 |
授権資本のない場合、あるいは授権資本を超えて新株発行を行う場合 | 株主総会の決議により決定 増資決定後30日以内に別途総会議事録の登記申請が必要 |
■合併
ブラジルでは日本同様に、吸収合併と新設合併が会社法によって認められております。合併の仕組みも日本と同様であり、被合併会社は消滅し、存続会社は被合併会社の資産及び負債のすべてを承継します。
【吸収合併のイメージ】
A社 株主
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B社 株主
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会社 A |
会社 B |
新株式の発行
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B社株式の権利消滅 |
A社に統合 |
[合併の手続]
吸収合併・新設合併を行う場合、株主総会の特別決議により合併の当事者間で合意された合併協定書について承認を受ける必要があります(会社法227条1項、136条4号)。特別決議は総議決権の過半数の賛成により決議を行わなければなりません(会社法136条)。
合併協定書には、合併の対価に関する事項の他、以下のような内容を記載します(会社法224条1項3項4項5項6項)。
- 対価となる株式の数、種類及び組、およびそれらに関連する事項の決定基準
- 純資産の評価基準、評価日、資産の変更への対処方法
- 一方の会社が所有している他の会社資本の株式または持分の処分方法
- 新設会社の資本額または資本の増加額または減少額
- 定款の原案また変更案
注意点として、合併により受け入れる資産の資産価値について専門の鑑定人による評価を受ける義務が課されます(会社法227条1項)。
吸収合併を行う会社は、株主総会の決議後、吸収合併を行った事実を登記ならびに公告することで合併の効力が生じます(会社法227条3項)。
[反対株主の株式買取請求権]
合併の消滅会社が公開会社である場合には、存続会社が公開会社であることが原則として要求されています(会社法223条3校)。これは、公開会社の株主であった者に対して、非公開会社の株式が割り当てられると市場流通性が著しく害されるため、これを保護しようというものです。
これに当てはまらない場合(公開会社である消滅会社の株主に対して、非公開会社である存続会社の株式が合併対価として付与される場合など)には、合併の株主総会決議に反対した株主には、株式の買取を会社に対して請求する権利が認められます(会社法223条4項、137条)。
[債権者異議手続]
吸収合併・新設合併により不利益を被る債権者は、合併議事録の公示日から60日の期間内に合併無効の訴えを提起することができます(会社法232条1項~3項)。
この場合、会社は債務額を供託することにより、無効判決を免れることができ(会社法232条1項)、また債務が履行されていない場合、会社はその履行を保証することにより、当該訴訟を停止することができます(会社法232条2項)。
合併の当時会社が、異議手続の期限内に破産した場合は、債権者は自己の有する債権額について弁済を受けることができます(会社法232条3項)。
■分割
分割とは、企業組織再編の手法であり、会社が事業のすべてまたは一部を対象会社に承継させる、もしくは新たに設立される会社に承継することを言います。
会社分割には不採算部門の切り離しや別会社の同一部門の統合ができるメリットがあり、すべての事業を継承した際には事実上合併と同じ効果が得られ、会社は消滅します。
[吸収分割]
分割会社が既存の会社に分割を行う場合(吸収分割)には、吸収合併の規定が準用されます(会社法229条3項)。したがって、株主総会の特別決議により分割協定書の承認を受け、登記を行った時点で吸収分割の効力が発生することになります。
【吸収分割のイメージ】
B社事業β |
A社事業α 採算 |
A社事業β 不採算 |
A社事業α 効率化 |
B社事業β 事業拡大 |
[新設分割の場合]
新設会社に資産を移転する分割(新設分割)の場合も吸収合併とほぼ同様の手続になります。分割の協定書について株主総会の特別決議により承認を受け、登記を行うことで新設分割の効力が生じます。
【新設分割のイメージ】
[反対株主の株式買取請求権]
分割を行う会社の株主で、分割に反対する株主は、下記の条件のいずれかを満たせば株式買取請求権を行使することができます(会社法137条3項)。
- 分割により会社の目的が変更した場合
- 配当金が減少した場合
- 関連会社の参加を余儀なくされた場合
[債権者異議手続]
会社分割を行った場合、承継会社は分割前の債務に対して連帯責任を負います(233条)。しかし、一部分割の場合は、承継会社は継承した債務についてのみ責任を負い、分割会社と連帯責任を負わない旨の取り決めを行うことができるとされています(233条単項)。この場合には、債権者に回収リスクが生じるため、債権者異議手続が要請されます。債権者は分割の取り決めの公告の日から90日以内に会社に通告をすることで、当該取り決めに異議を申し立てることができます(同条項)。
■証券取引規制
証券取引規制とは、CVM(ブラジル証券取引委員会)のもとに公開買付け義務やインサイダー取引などについて、株式にかかわるすべての者を保護する目的で定められています。
【証券取引規制の概要図】
国会 憲法・法律
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国際通貨審議会 決議 |
中央銀行 通達 |
証券取引委員会 命令・審議 |
自主規制 為替ルール |
■公開買付規制
ブラジルにおいて上場会社を買収する場合には、原則として公開買付が義務つけられており、証券取引委員会の規定に従わなければなりません。
公開買付規制とは、対象会社の株式を、買付価格・買付期間・買付数量などを公表したうえで買付ける義務のことを言い、一部の株主に利益が集中し、他の株主に損害が及び、公正性に欠けることを防ぐ目的で定められています。
■インサイダー取引規制
インサイダー取引とは、事前に得た未公開情報をもとに、自己の利益の為に株式の売買を行うことをいいます。このような取引を防止し、健全な取引環境を保護するためにインサイダー取引規制が定められています。
ブラジルにおいては、2001年に特権的情報の利用を禁じる規定が定められました。インサイダー取引違反が発覚した場合、1年から5年の禁固刑に処されることになります。
■新企業結合規制
独占禁止法(競争法)は、資本市場において健全な競争状態を維持するために、その名の通り市場の独占や、競争方法として不公正な方法を防止することを目的として定められるものです。ブラジルにおいては、2012年5月に改正が行われ(新企業結合規則と呼ばれる)、厳密に運用されているため、M&Aを行う場合にも、一定の要件を満たすときには、事前の届け出が必要となります。
■届出の対象取引
以下のいずれかの要件を満たす企業結合取引は、経済集中行為と定義され、規制の対象取引となります。M&Aは、他の会社の支配権獲得を目的として行われるため、対象取引に該当します。
- 2以上の独立していた会社の合併
- 1以上の会社による、他の会社の支配権の部分的または完全な取得
(方法は問わない)
- 1以上の会社による会社の設立
- 2以上の会社による合弁事業、その他の提携契約の締結
■届出の基準
以下の①②いずれの要件も満たす場合は、事前の届け出が必要となります。
- 取引の一方の企業集団のブラジル国内総売上高が、前年度(暦年)において、4億レアル(約2億3,500万ドル)以上
- 取引の他方の企業集団のブラジル国内総売上高が、前年度(暦年)において、3,000万レアル(約1,750万ドル)以上
(ドル換算は、ブラジル中央銀行が示した2011 年末時点での為替レートに基づく)
注意点としては、当該売上高基準は、企業集団全体の売上高を基に算定されることです。仮にM&Aの直接の当事者となる企業が要件に該当しない場合でも、グループ会社を含めたときに要件を満たす場合には、届け出が必要となります。
■届け出のタイミングと審査期間
届出の対象となる取引を行う場合には、CADE (経済防衛審議会)へ事前届け出を必要とし、CADEの審査及び承認が完了するまでは取引を実施することはできません。2012年5月の改正以前は、事後届け出制であったため、注意が必要です。
法定審査期間は240日ですが、企業結合当事者の要請で最大60日間、またCADE が更なる審査が必要であると判断した場合には最大90日間、延長される可能性があり、審査期間は最大で330日になる可能性があります。
■届出書の新フォーム
2012年の改正により申請フォームも変更となり、多くの書類及び情報の提供を必要とするため、煩雑で時間を要すると想定されます。提案されている情報としては、以下のようなものがあげられています。
新届出フォームに記載する情報、書類
マーケティング報告書、事業計画書、役員会議事録等の会社内部書類、競合他社、サプライヤー、流通経路、価格、5%以上の少数株主持分に関する情報等
ただし、競争上の問題を発生させるおそれの少ない取引については、例外として簡易フォームの届出書を利用することが認められます。審査期間についての短縮は認められていません。
■義務違反に対する制裁
CADE から事前の承認を得ることなく届出義務のある取引を完了した場合、もしくは審査期間中に取引を行った当事者は、6~6,000万レアルの制裁金を科されます。
■腐敗防止法
腐敗防止法とは、日本の不正競争防止法や、アメリカの連邦海外腐敗行為防止法といった諸外国に既に制定されている、外国公務員への贈賄に関する規制であり、ブラジルは1997年に調印されたOECD外国公務員贈賄防止条約に2000年に批准し、ブラジル法律12.846号/2013年に基づき、2014年1月より腐敗防止法が施行されています。当該法律により、ブラジル資本、外国資本問わず、ブラジルに法人や支店を有する企業は、外国公務員やブラジルの公務員に対して、直接的または第三者を介した間接的に違反行為(賄賂の提供、申込みを行う行為など)、またはこれらの違反行為の隠蔽などについて、行政上、司法上の責任を課され、制裁を受ける可能性があります。
ブラジル企業のM&A取引において注意すべき点は、当該法律は無過失責任であり、上述の違反行為について故意や過失は問わないという点と、違反行為を行ったブラジル企業の支配企業、関連企業、違反行為を行ったブラジル企業とのJVなどについても、連帯責任を負う旨が規定されている点です。つまり、日本企業がM&Aで取得したブラジル企業が、過去に犯した上述の違反行為により腐敗防止法上の責任を追及された場合、当該日本企業は連帯責任を負わされる可能性があります。
■会計基準
M&Aを行う場合、まず必ず対象企業のデュー・デリジェンスを行い、企業価値の算定を行わなければなりません。またブラジルに限らず他の国でM&Aを行う際は、国際財務報告基準(以下IFRS)が適用されているのか、また各国独自の会計基準が相違する場合が多いので把握しておくことが重要です。
ブラジル上場会社と一部金融機関の連結財務諸表についてはIFRSを適用し、報告しなければいけません。非上場会社及び特定の企業に対しても、IFRSへのコンバージェンスが完了したブラジル会計基準に基づく会計処理が行われています。そのためブラジル独自の会計基準の整備は、国際的な水準と変わらないと言えます。
■M&Aに関する税務
買収を行う場合には税務上のリスクが伴います。買収取引以前の買収対象企業の活動に対して、税務当局が課した罰金および処罰にも買収側が責任を負うことになります。たとえば、納税義務を怠っていた場合やコンプライアンス違反をしていたことが買収以後に発覚した場合には、税金及び罰金を負担することになります。
ブラジルのターゲット企業の株式取得の場合には、主要な税務上の偶発債務をよく見極めて評価分析を行い、買収側の全体的投資判断においてそれらの債務のコストを考慮し、十分に注意を払う必要があります。
また同時に買収対象企業の繰越欠損金の継続可否などについて留意する必要があります。
■繰越欠損金の継続
ブラジルでは、繰越欠損金は繰越期限の制限はありませんが、各年度の課税対象所得の30%を限度として利用することができます。
しかし、M&Aが実施された場合には被買収企業の所有権が移転することになり、繰越欠損金が継続して繰り越せるかが問題となります。ブラジル税法では、以下の2つの事由が共に発生した場合、被買収企業の税務上の損失を繰り越して、将来の課税所得と相殺に利用することは認められていません。
a) 所有者の変更
b) 企業活動の変更
■過小資本税制
ブラジルでは2010年に過小資本税制が導入されました。
海外の親会社等からの借入金がブラジル現地法人の純資産の2倍を超えた場合、その超過部分の支払利息は法人税の計算上、損金計上できません。
なお、タックスヘイブンや税制優遇地域の居住者である外国当事者からの借入の場合は、純資産の30%が基準値となります。当該基準を超過する部分は損金算入できません。M&Aを行うために、資金調達を行う場合には注意が必要です。
■株式の取得に関する税務
のれん償却費の損金算入の可否
資産譲渡と比べて株式譲渡の方が、税務上有利と言われる所以は、のれんの償却費が損金算入できることです。海外投資家がブラジル企業の株式買収の際に生じた税務上ののれん償却費は、一定の要件を満たした場合、5年から10年の期間に繰り延べて損金算入できる可能性があります。一定の要件とは、正当な経済的目的があるブラジルの投資ビークル経由での買収であり、このケースだと、のれん償却費は5~10年間で繰り延べられ損金算入が認められます。しかし国外企業が直接ブラジル企業を買収した場合には、税務上ののれん償却費は損金不算入になります。
【のれん償却費の取扱い】
外国企業がブラジル企業を直接買収した場合 | 損金不算入 |
投資ビーグル経由の買収 | 損金算入 |
買収の売り手が売却をおこなう場合、売却益(=売却価格と取得原価の差額)に対して、例え国外同士の企業であっても納税義務が生じます。しかし、税額は売却される会社の所有者(個人であるか法人であるか、ブラジル国内の者であるか外国の者であるか等)によって異なります。
個人の場合には、個人所得税(IRPF)として実質所得の15%の税率が課されます。
一方、法人の場合には法人所得税(IRPJ)として取得の25%に加え、法人利益に対する社会分担金(CSLL)として法人税の税引前利益に対して9%の税率が課されます。
法人の場合 | 法人税25% +社会分担金 9% |
個人の場合 | 所得税15% |
■資産譲渡に関する税務
資産買収の場合では、追加的に付加価値税(ICMS、PIS、COFINS、IPI)を発生させます。そのために、税金負担が株式取得の場合にくらべて高くなるケースが多いので注意が必要です。
4.ブラジルM&Aスキームの基本
■外国投資家がブラジル現地法人へ投資する形態
ブラジルの会社の支配権を獲得するためには、会社法に従い株式の取得、資産譲渡、合併、新株の発行などの方法により行うことができます。実務上は、株式の取得の方法で行われることがほとんどです。
■株式譲渡(相対取引)
株式譲渡の相対取引は、市場を介せずに売買当事者間で取引契約をします。そのため最大の特徴は、M&Aの手続がどの買収形態よりも楽で早い点が挙げられます。ただし市場を介さないため、他の株主との不公平差が生じてしまいます。普通株式を保有している少数株主は、支配権を取得する買収者が支払う株式譲渡対価の80%の価格で株式買取請求権を行使できます。
■公開買付の手続
公開買付は、ある会社の株式を買付価格、買付期間などを公告したうえで、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める制度です。これにより一部の株主に好条件で取引され、他の株主の公正性を害しないことを制度趣旨としています。対象会社の経営権の同意を得ずに買収するため敵対的買収に多く利用されています。買付に対する応募を促すために、プレミアムを上乗せする必要があるため、通常は莫大な資金が必要となります。
証券取引委員会の規定によると、公開買付は以下のように分類されています(CVM Instruction361)。
- 敵対的公開買付(Competitor OPA)(CVM Instruction13条)
- 上場廃止のための公開買付(OPA for the cancellation of registration)(CVM Instruction16条)
- 持株比率を上げるための公開買付(OPA for increase in participation)(CVM Instruction26条)
- 上場会社の支配権獲得のための公開買付(OPA for the acquisition of control of publicly held company)(CVM Instruction29条)
- 友好的公開買付(voluntary OPA)(CVM Instruction31条)
[公開買付が義務付けられる場合]
会社法や証券取引所規制では、公開買付を義務づける規定は現在のところありません。しかし、公開会社の多くは定款に公開買付けを義務づける旨を記載しています。
[支配権獲得のための公開買付の手続]
支配権獲得を目的とした公開買付は、買付申込者の義務履行を保証する金融機関の仲介が要件となります(会社法257条)。具体的な、手続は以下の通りです。
【公開買付フロー】
①証券取引委員会への登録・証明
支配権獲得のための公開買付を行う場合は、買付者の支払を保証する金融機関が必要です。また、一部またはその全部の対価を株式で行う場合、証券取引委員会への事前届出が必要です(会社法257条、259条、CVM Instruction9条)。
また、買付者が以前から議決権を有する株式を保有している場合、支配に必要な株式数について買付の申込を行い、証券取引委員会に対して、株式を取得する理由や取得する株式の数量などの報告をしなければなりません(株式会社法257条3段)。
②③新聞による公開買付の公告・証券取引委員会へ公告のコピーを提出
(株式会社法258条、259条。CVM Instruction11条)
証券取引委員会への登録後、最長10日間、一定の事項を記載した公開買付申込書(OPA instrument)を新聞にて公告しなければなりません。
さらに、公告開始から24時間以内に、証券取引委員会へ公告のコピーを提出する必要があります。公告のコピーは、公開買付が実施される証券市場や店頭取引市場における閲覧に供するため、証券取引委員会宛に特定の形式にて電子メールを送信する必要があります。
買付申込書は、仲介の金融機関によって作成されなければならず、記載事項は以下の通りです。対価を株式で行う場合は、以下の事項に加えて、交換に供される株式およびその発行会社の情報を記載しなければなりません。
・取得株式数の下限(もしある場合は、株式数の上限)
・支払価額および支払条件
・買付承諾者への提示価格、および申込株式数が上限を超えた際の買付承諾者への配分方法
・申込承諾者が承諾の意思表示と株式の譲渡を行うために必要な手続
・買付申込の期限(20日以上)
・買付申込者に関する情報
なお、買付申込者・仲介金融機関・証券取引委員会が、公開買付の公告前の守秘義務が課され、当該義務違反をした場合には、発生する損害について責任を負うことになります。
④ 公開買付の開始
買付者は、支配権が獲得できる比率まで取得した場合、その後取り消すことは認められません(257条2段)。
また、買付申込の承諾は、予め買付申込書に記載された金融機関または株式市場を通じて行う必要があります。承諾者は申込条件にのっとり、売渡または交換に同意した場合は、それを取り消すことができません(株式会社法261条)。
⑤公開買付の終了
仲介の金融機関は、申込期限終了後に公開買付の結果を証券取引委員会に報告し、さらに、新聞に公告することで申込承諾者に知らせなければなりません。
なお、申込承諾者数が上限を上回る際には、公開買付申込書に記載された方法により、割当を行うことになります(株式会社法262条)。
⑥応募株式の決済
現金による決済、株式による決済、またはその両方による決済も可能です(株式会社法258条、259条。CVM Instruction6条)。
[公開買付価格の変更(株式会社法262条)]
価格および支払条件については、1回に限り変更することができます。変更は申込期限の10日前までに行わなければならず、価格の変更は5%以上上乗せする場合に認められ、すでに申込を承諾した者に対しても同じ条件を適用しなければなりません。
[買付の撤回(CVM Instruction16条) ]
買付から1年以内に、撤回権(withdrawal right)の行使につながるような事由が生じた場合は、公開買付において株式を売り渡した株主は、撤回権の行使が認められます。また、株式をまだ売り渡していない株主には、撤回時の価格と買付時の引き受け価格の超過分の差額を受け取ることができます。
[買付の競合(株式会社法262条、CVM Instruction12条)]
公開買付の申込が行われている間に、買付の競合を行うことができます。
買付の期間は、公表日から起算して最短で30日、最長で45日の間を設定しなければならず、当初の申込者は、競合での買付申込者と同じ期限まで延長することができます。なお、競合での公開買付申込が公告された時点において、すでに確定した当初の申込の受諾は無効となります。
また、仲介の金融機関は、買付が終了後4営業日以内に、買付に関する書類を証券取引委員会に通知することが求められます。
■株式交換
株式交換により対象会社は、取得会社の完全(100%)子会社になります。この最大のメリットは、自社株を対価としておこなうため資金が必要なく、合併より手続が楽な点で注目されております。
実際に2012年6月にブラジル航空最大手のタン(TAM)航空は、米証券取引委員会(SEC)からチリ航空大手ラン航空(LAN)と株式交換をおこない、ラタン(LATAM)航空設立という会社のケースが有名です。
■事業譲渡
他国では事業譲渡による資産買収のトランザクションは一般化されていますが、ブラジルでは一般的なトランザクションではありません。
海外投資家によるブラジルのターゲット企業の買収は、事業単位の資産(事業資産)の買収および債務の一部または全部の引受けという形を取ります。株式買収の場合と違って、買収側は法人税債務に対し二次的な責任を負いますが、種々の付加価値税(ICMS、PIS、COFINS、IPI)と労働債務に対しては一次的責任を負ってしまいます。
参考文献
・大和住銀投信投資顧問「ストラテジストコラム(第 108 号)-復活する世界の M&A」
http://www.daiwasbi.co.jp/column/strategist/pdf/110124.pdf
・pwc
http://www.pwc.com.br/pt/estudos-pesquisas/assets/mea-out-2011.pdf
・開発商工省(Ministerio do Desenvolvimento, Industria e Comercio Exterior)
・対外関係省(Ministerio das Relacoes Exteriores)
・全国工業連盟(CNI n Confederacao Nacional da Industria)
・輸出促進事業団(APEX n Agencia de Promocao de Exportacoes)
・ブラジル日本商工会議所(CCIJB n C‚mara de Comercio e Industria Japonesa
do Brasil)
http://www.camaradojapao.org.br/