移転価格
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グローバリゼーションと移転価格税制
■移転価格税制導入の経緯
移転価格税制とは、「法人」が、一定の国外グループ企業(以下「国外関連者」とする)との間で、資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引(以下「国外関連取引」とする)を行った場合に、国外関連者から支払を受ける対価の額が適正と考えられる一定の価格、すなわち独立企業間価格(ALP:Arm’s Length Price)に満たない場合、または、その法人が国外関連者に支払う対価の額がALPを超える場合には、その法人の法人税の算定上、その国外関連取引は、独立企業間価格(ALP)で行われたものとみなして所得計算を行う、という制度です。
移転価格税制という制度自体は、アメリカ国内における各州間での所得配分に関する規定として、1920年頃から存在していました。
1960年代に入り、アメリカ企業の製造子会社が、海外からの進出企業に対して税制上の優遇を与えている国への進出をはじめると、アメリカ企業はなるべく税負担の少ない進出国側で利益を創出するよう努めるようになりました。その結果、海外子会社との取引価格についてアメリカ国内で税務当局への訴訟が相次いだため、1968年に「移転価格に関する内国歳入法規則」が制定されました。
1970年代頃からは国際間取引の拡大・複雑化、特に無形資産取引について既存の規定では対応できなくなってきたため、無形資産取引の取扱いについて1986年に「スーパー・ロイヤルティ条項」が制定されました。
その後、先進主要国において経済のグローバル化が進むなかで、移転価格税制が世界中で採用され、日本でも1986 年に租税特別措置法において「国外関連者との取引に係る課税の特例」として制定されました。
■国際化と移転価格税制
近年、企業の多国籍化が進み、グローバリゼーションの中でヒト・モノ・カネの国境がなくなりつつあります。巨大なグローバル企業の増加により、そのブランド力を生かし世界中どこでも同一の製品、サービスを提供することができるようになり、対外取引についても増加の一途をたどっています。そして、移転価格問題に関わるリスクも急激に拡大してきています。
移転価格問題について具体例を挙げると、たとえば、法人が国外関連者に、独立企業間価格より20低い価格で製品を輸出した場合に、国外関連者がその商品を同じ価格で販売すれば、法人の所得は20低くなります。逆に法人が国外関連者から、独立企業間価格より20高い価格で輸入した場合にも所得は独立企業間価格で輸入した場合と比べて20低くなることになります。
このように、関係会社間での取引価格(移転価格)を変動させるだけで、本来その国で発生すべき利益が減少し、その結果、その国における税金も減少することになります。
移転価格税制は、国際間の取引を通じて一定以上の価格調整が行われた際に、本来自国で徴収可能な税額が不当に他国に移転しないように、各国の税法に基づき価格調整に制限を加えるものです。つまり、世界各国が不当な課税所得の減少を防止し、自国の課税権を確保するための規定といえます。
移転価格の問題には、基本的に「財・サービス」と「資金」の移転の2種類が存在します。これらには、商品や製品、原材料などの中間財だけではなくロイヤルティ、マネージメントフィーや借入金の利息なども含まれます。
国際企業の移転価格戦略は、特に企業グループの資本蓄積の促進及び参入障壁の克服に対して大きな役割を果たすことになります。
その反面、投資先の国では移転価格戦略が資本形成や租税収入に対してマイナスに作用することも否定できません。そのため、移転価格戦略は「支配的市場の濫用」や「租税回避」として批判されています。
諸国の税務当局は、移転価格設定による利益の自国からの流出を見逃すような措置を許すことはありません。当局は取引価格の是正を求め、本来得られるべき税収を確保するため移転価格税制を定めています。
移転価格問題は企業グループ間での取引価格の設定であり、この設定に当たっては企業グループとしての財務戦略の側面を考慮した上での価格設定が必要となります。 企業グループ間での国際取引・値段設定について、第三者との取引価格と比べて乖離が生じているような場合には、税務上取引価格の修正が求められます。
また、単純に取引価格を第三者価格に設定したとしても、海外側で利益が発生せず、日本側で利益が発生しているような場合には、ロケーションセービング(詳細は後述)の問題が生じてきます。
このように、移転価格税制問題は、税金だけの問題ではなく、その他、経営、統計等の問題が複雑に絡んでくるため、取引価格の妥当性の証明のためには幅広い知識が必要となります。
インド移転価格税制
■導入背景
移転価格税制の導入以前のインド所得税局には、関連当事者であるインド居住者と非居住者との間の密接な関係により、居住者の所得が皆無になったと判断した場合に、居住者の所得を調整する権限が与えられていました。
しかしながら、執行のための具体的な指針が示されていなかったこともあり、実際に税務当局が移転価格問題に対処するには不十分でした。そこで、経済環境の著しい発展や海外直接投資によるインドへの外資企業進出の増加、国際間取引及び競争の激化などの要因に鑑みて、2001年4月1日から移転価格税制が導入されました。
インドの移転価格税制は、所得税法に規定されています。インドにおける独立企業間価格(ALP)の算定は概ねOECDガイドライン※に準拠しています。
※OECDガイドライン:正式には、Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations (多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン)といい、OECD租税委員会が、多国籍企業に関する移転価格及びそれに関連する税務上の問題について、各国の税務当局と多国籍企業双方にとっての解決の方策を示したものです。
このOECD ガイドライン自体は法的拘束力を持つものではありませんが、OECD 加盟国の総意の上で取りまとめられており、国際的コンセンサスとして機能しています。
OECD ガイドラインは、二重課税の防止および移転価格税制の公正な適用を目的に1 9 7 6 年に策定され、その後、世界経済の発展や企業行動の変化などの実情に合わせ、これまで5 回改訂されています。インドでは、2 0 1 6 年財政法を通じて所得税法を改正し、税源浸食・利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)対策プロジェクトに掲げる1 5 項目の行動計画のうち、「BEPS 行動計画1 3(移転価格関連の文書化を再検討する)」に盛り込まれた勧告を実践するために、移転価格文書に関する新規定を導入しました。インド税務当局は、2017 年10 月31 日付で、マスターファイルおよびCbCレポート提出に関する最終版規定を公表しており、2 0 1 6 年4 月1日以降の会計年度から適用されました。これに伴い、対象となる企業においては、共通化された様式に従って、多国籍企業がグループ全体の財務情報や事業情報等、従前以上の情報を各税務当局に提供することが要請されています。
BEPS 行動計画13 で要求する移転価格文書は三層構造となっており、マスターファイル、ローカルファイル、CbC レポートから構成されます。これら移転価格文書は、関係する取引が行われた翌年度の末から8年間保存されなければならないとされています。
■インド移転価格税制の特徴
移転価格税制は、各国独自の課税権に関する法律であるため、国によってその対象範囲などに若干の違いがありますが、OECD 加盟国については各国ともにおおむねOECD ガイドライン準拠しているため、似たような基準になっています。
通常、独立企業間価格(ALP)の算定にあたっては、複数の算出値の平均が独立企業間 価格として取扱われることになります。しかし、インドでは独立企業間価格のレンジ(許容幅)が設定されており、そのレンジの範囲内に納税者側の移転価格が収まっているかどうかで、当該移転価格が税務上妥当かどうか判断されることになります。
具体的な基準としては、納税者の移転価格の上下3% 内に算出された独立企業間価格の平均値が含まれている場合には、納税者側の移転価格は妥当とされ、その範囲外である場合には、独立企業間価格の平均値まで所得更正が行われることになります。
移転価格(1 0 0)の前後3%(9 7 ~ 1 0 3)の間に、独立企業間価格平均値が収まっていれば移転価格は妥当と判断されます。しかし図の例の独立企業間価格平均値は1 4 0 であって、上記レンジから外れているため、税務当局の所得更正の対象となります。
この場合、対象金額となるのは実際の移転価格(100)と独立企業間価格平均値(1 4 0)との差の4 0 となります。2 0 1 2 年4 月以降、卸売業者は取引価格の1%、それ以外は取引価格の3% までが許容価格範囲と改定されています。
【ロケーションセービング】
ロケーション・セービング(Location Savings)とは、安価な労働力、原材料、その他の低コスト要素によって軽減される費用のことを指します。国際企業がインドへの進出を検討する上で、低コストで賄える管理費用や労働力は1 つの重要な検討要素です。しかし、インド税務当局は、ロケーションの違いにより発生する利益の一定部分はインドで認識されるべきで、当該利益額はバリューチェーン全体におけるインド国内役務の貢献度合によって決定されるべきである、との立場をとっています。
もっとも、国外関連取引における双方の物価水準や、競合企業との競争力といった変数が多数存在し、現実的には正確なロケーション・セービングの算出は困難であると考えられているため、多くの場合は、実際にかかった総コストに対する利益率を基準に、独立企業間価格を算定しています。
また、ロケーション・セービングの配分についても明確化された指標が存在していないため極めて曖昧であり、実際に税務当局より算定方法の変更を求められたり、親会社に対するロイヤルティが否認されたケースもあります。
これらの事項に関して、インド進出企業の観点から見ると、ロケーション・セービングとは、あくまで経済的効率の向上やコスト削減などによって発生するものであるとも考えられます。安価な管理コストの恩恵という面では、同様の環境で事業を行う国内独立企業も享受しているため、関連会社間取引によって発生する所得移転には直接関係しないという意見も根強く存在しています。
【チェリーピッキング】
移転価格調査において、調査官による恣意的な比較対象企業の変更が行われるケースがあり、これはチェリー・ピッキングと呼ばれています。
具体的には、現実的かつ包括的な市場環境から比較対象企業を選ぶのではなく、仮定に基づいたビジネス環境分析から、比較対象企業が移転価格当局の都合のよい高収益企業に変更され、低収益、もしくは赤字の比較対象企業が却下されるという事例が発生しています。
移転価格調査の目的は、所得移転の意図があったか否かを明らかにすることではなく、客観的な方法を用い所得移転額を算定することにありますが、ときとして関連企業の状況を切り離したところで個別の取引について評価され、結果的に適当でない所得国側の権利行使が行われるケースが発生しています。最近の所得税裁判所(ITAT:Income Tax Appellate Tribunal)裁決では、明らかにチェリー・ピッキングと認められた移転価格調査官(TPO:Transfer PriceOfficer)による更正要求は却下されています。国外グループ企業との取引では、事前に詳細かつ包括的な分析と文書化が必須であると言えます。
【セーフハーバー】
セーフ・ハーバーとは、業種ごとに税務当局が定める利益水準のベンチマーク(Benchmark)を企業側が守っている限り、税務当局が納税者が申告した移転価格を受け入れる制度です。
インドにおいては、2 0 1 3 年9 月1 8 日に直接税中央委員会(CBDT)によりセーフ・ハーバー・ルールが導入され、2 0 1 2 年度から2 0 1 6 年度までの5 年間、適用されました。その後、2 0 1 7 年6 月7 日、CBDT は本ルールを改正する通達を発表し、適用対象となる国際取引の範囲が拡大され、適用期限が2 0 1 9 年度まで延長されました。セーフ・ハーバー・ルールの対象となる国際取引は、ソフトウェア開発サービス、情報・技術サービス、知識処理外部委託サービス、受託R&D サービス、自動車部品の製造・輸出、グループ内融資や債務保証等が該当します。しかし、従来のルールでは税務当局が定める利益水準があまりに高く、現実に申請する企業は少ないため機能していませんでした。2 0 1 7 年6 月の改正後のルールでは利益率を見直し、納税者にとってより有利なセーフ・ハーバーを選択することが認められています。この改正ルールが導入されたことにより、移転価格訴訟の減少が期待されます。なお、セーフ・ハーバーを適用する場合には、特殊要因調整、独立企業間価格に関する3% の許容範囲の適用、相互協議(MAP:Mutual Agreement Procedure)の申立ができないことに留意する必要があります。
【厳格な書類整備規定】
インド移転価格税制においては、書類整備に関する規定が日本よりも厳しくなっています。インドでは移転価格にかかる文書化が法令により明確に定められており、違反した場合はペナルティの対象となる
ので注意が必要です(詳細は後述)。
【移転価格税制の対象取引範囲】
移転価格税制の対象取引には、通常は有償性のある資産の譲渡、貸付、役務提供などすべての取引が含まれます。インドにおいては、関係会社間での経費の立替、その他資本取引(出資・増資等)も対象取引に含まれます。
移転価格税制にかかる個別規定
■対象者(対象法人)の範囲
所得税法92 条には、国外関連事業者(AE:Associated Enterprise)との間に生じた国際間取引は独立企業間価格(ALP)によることと、定められています。
移転価格税制の対象となる関連者の範囲については、形式基準と実質基準の2 つの基準があり、この基準に該当する場合に国外関連者となります。
・ 形式基準 …… 保有する株式数が過半数を占めているなど、具体的な数値により国外関連者に該当するかを判断
・ 実質基準 …… 直接的な支配関係がない場合でも、人事や取引、財務などを通じて実体として支配・被支配の関係にあると認められるかどうかにより判断
所得税法9 2A 条(1)項において、国外関連者とは、「直接的または間接的、あるいは単独または複数の仲介者を通じて、経営、コントロールまたは資本を通じて参加しているもの」と定義されており、具体的には、取引企業と以下のような関係性がある場合に、当該企業は国外関連者として移転価格税制の対象になります。
・ 26% 以上の議決権(Voting Power)がある場合
・ 原材料の90% 以上の調達、およびその他の規定された要件を満たす場合
・ 一方の企業が他の企業へ、その総資産の51% 以上の額を貸付している場合
・ 一方の企業の債務保証が、もう一方の企業の借入総額の10% 以上の場合
・ 一方の企業の代表権限を有する役員、またはその企業の役員の過半数が、もう一方の 企業の役員である場合
・ 一方の企業の事業が、もう一方の企業の知的財産に依存している場合
・ その他一定の要件に該当している場合
日本における移転価格税制は、1986 年(昭和61 年)の税制改正で導入されており、移転価格税制が適用される取引は、法人が国外関連者との間で行う資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を言い、原則的に国外関連者との取引に限定しています(租税特別措置法6 6 条の4)。国外関連者の範囲は、法人との間に次の関係(特殊関係)になる外国法人とされています。
・ 一方の企業が、もう一方の企業の50% 以上の株式の数または出資金額を直接または間接的に保有する関係
・ 両方の企業が、同一の者によってそれぞれ発行済株式等の5 0%以上の株式数または出資金額を直接または間接的に保有する関係
・ 役員の兼務、取引依存、資金借入等により、一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部または一部につき実質的に決定できる関係
上述のように、日本とインドで移転価格税制の適用対象となる「国外関連者」について、その範囲の認識に異なる点があり、インドの方が対象が広範囲であることに注意が必要です。
また、日本においては関係会社間での取引について移転価格税制を適用するものとしているため、海外支店との取引については移転価格の対象となりませんが、インドでは海外支店との取引についても移転価格税制の対象になります。これは、インドでは移転価格税制の適用が恒久的施設基準、つまり法人格単位ではなく機能的に分離している事業体に対してなされるためであり、海外法人の支店も移転価格税制の適用範囲とされています。
2 0 1 2 年財政法による所得税法改正により、2 0 1 2 年4 月1 日から特定国内取引という定義が設けられ、これに該当する取引についても、移転価格税制の対象取引になりました。
特定国内取引とは、2 0% 以上の資本関係があるインド法人間の取引(親子間取引)、あるいは同一の株主によって2 0% 以上の株式を所有されているインド法人間の取引(兄弟会社間取引)のことを言います。国外関係者との国際取引に加え、国内取引についても当該取引の総額が年間2 億ルピーを超える場合には、取引価格が適正であることについてのインド勅許会計士の証明書および書類の保管義務等が要求されます。ただし、2017 年度予算案では、特定国内取引の適用対象会社が大幅に縮小され、一定の利益連動控除を受けている企業に限定され、2016 年4 月1 日から施行されています。
移転価格税制に規定される取引のいずれかを行い、かつ国外関連者との国際取引金額が年間1,0 0 0 万ルピー超の場合、移転価格文書(英語)の作成および保存(賦課年度末日から8 年間)が義務付けられています。さらに国内企業間での税率差異を利用した所得移転を防止するため、インド居住者間の取引であっても「みなし国際取引」に該当した場合は、同様の義務が生じます。
また、監査証明においては、法人税確定申告期限である1 1 月3 0日までに監査人が移転価格証明書(Form 3CEB)に署名をし、文書化が適正に行われていることを証する必要があります。
インド国内に複数の関連会社を持ち、該当取引のある企業については、国外と同様の移転価格税制への対応が求められるため、注意が必要です。
■移転価格税制の対象取引
移転価格税制の対象には、棚卸資産の販売、無形資産の販売、リース、役務の提供、資金の貸付・借入など、対価性のあるすべての取引が該当します。また、企業グループ内における複数の企業間での費用や経費の配賦などの負担契約も含まれます。
注意すべき点として、金銭の授受に関係なく、仮に無償で役務提供等を行っていたとしても、それらの取引が本来対価を収受すべき取引であれば、対価性のある取引ということで移転価格税制の対象取引となることがあります。
■独立企業間価格(ALP)の算定方法
移転価格税制が適用される上で所得算定の基礎となる国際間での取引価格は、独立企業間価格によることが定められています。独立企業間価格の算定方法については、定められたいくつかの方法の中から、その取引内容・形態を考慮したうえで最も適切と考えられる方法を選定します。
インド移転価格については、OECD ガイドラインに準拠しており、一般的には下記の算定方法が用いられます。
[独立価格比準法]
独立価格比準法(CUP 法:Comparable Uncontrolled PriceMethod)とは、その国外関連取引とほぼ同様の条件のもとで非関連者間で行われた取引(第三者間取引)の対価の額を、その国外関連取引の独立企業間価格とする方法です。
比較対象となる取引が物品などの場合、取引条件が事業戦略や市況などの影響により変わるため、比較可能性を確保することが困難になる場合があります。また、他の独立企業間価格の算定方法に比べ、比較対象とのより高い同一性が求められています。そのため、この方法は取引条件の変動が少ない金利取引や相場のある商品取引に多く利用され、通常の物品取引にはあまり採用されていません。
[再販売価格基準法]
再販売価格基準法(RP 法:Resale Price Method)とは、第三者への再販売価格から、その取引から通常得られるであろう利益の額を控除した金額を、その国外関連取引の独立企業間価格とする方法です。
この方法は、国外関連取引が輸入取引である場合に多く使用されています(特に輸入取引の場合、比較対象となるデータが公開データから入手できる場合が多いため)。また、比較対象について、独立価格比準法ほどの厳密な類似性は必要とされません。
[原価基準法]
原価基準法(CP 法:Cost Plus Method)とは、対象となる国外関連取引により発生した取得原価の額に、もう一方の法人がその取引から通常得られるであろう利益の額を加算して算出した金額を、その国外関連取引の独立企業間価格とする方法です。
その取得原価の額に、製造に係る部分が含まれているときは、第三者間の取引の場合の価格をベースとしてその部分の原価を算定することになります。
たとえば、原材料を関連者から購入している場合には、その購入価格を第三者から購入した場合の価格に置換えて、製造原価を算定することになります。
この方法は、原材料の加工、輸出や役務提供取引などに採用されています。
[利益分割法]
利益分割法(PS 法:Profit Split Method)とは、国外関連取引によって実現した営業利益の合計額を、その営業利益の実現に寄与した程度により配分する方法であり、下記のような方法があります。
・寄与度利益分割法
それぞれの関連者の機能およびリスクの割合に基づき、合算利益を各関連者間で配分することにより、独立企業間価格を算定する方法を言います。
・比較利益分割法
国外関連取引と類似の状況下で行われた非関連者間取引における利益分割割合に基づき、合算利益を各関連者間で配分することにより、独立企業間価格を算定する方法を言います。
・残余利益分割法
それぞれの関連者が重要な無形資産を有している場合に、合算利益のうちその重要な無形資産を考慮しない場合の取引で通常得られる利益に相当する金額をそれぞれに配分し、残りの金額をそれぞれが有す
る重要な無形資産の価値(無形資産の開発などにかかった費用など)に応じて配分することにより、独立企業間価格を算定する方法を言います。
・取引単位営業利益法
取引単位営業利益法(TNMM:Transaction Net Margin Method)とは、類似の独立企業の第三者との間での同様の取引で実現した売上総利益率、営業利益率、マークアップ率などをもとに、独立企業間価格を算定する方法を言います。
[その他の方法]
独立企業間価格の算定にあたり、上記以外のインド直接税中央委員会(CBDT)が規定する方法を採用することも可能です。
■算定方法の適用例
移転価格の算定にあたり、実際の取引に対してどの算定方法を選択するかについて、以下のような例があります。
[棚卸資産(商品等)の販売の場合]
独立価格比準法や再販売価格基準法、原価基準法、その他これらに準ずる方法(利益分割法など)が用いられます。これらの方法を適用する場合、基準とする取引を選定する際には、棚卸資産の種類、取引数量、取引時期その他諸条件が類似しているかを検討する必要があります。
[金銭の貸借の場合]
独立価格比準法、原価基準法、その他これらと同等の方法が主に用いられます。この場合、比較対象となる取引の選定については、取引に係る通貨が同一であることや、金銭の貸借期間、金利の設定方法、支払方法、信用力その他利率に影響を与える諸要因を考慮した上での価格算定が求められます。
[役務提供取引の場合]
金銭の貸借の場合と同様に、独立価格比準法や原価基準法そのほか、これらと同等の方法が主に用いられます。比較対象取引の選定に際しては、役務に類似性があり、役務提供期間や役務提供の諸条件が同様である必要があります。
なお、当該役務提供取引が資産の使用や譲渡と合わせて行われているような場合には、役務提供の対価と資産の使用や譲渡の対価のそれぞれを適正に算定しなければいけないため注意が必要です。
[無形資産の使用または譲渡(ロイヤルティ取引など)]
無形資産とは、特許や商標などの法的な権利のほか、企業秘密その他ノウハウなどを言い、国によりその範囲に若干差があります。インドにおける無形資産とは、特許、意匠、商標、著作権、ノウハウ、ライセンス権、フランチャイズ権またはその他の同様の性質の事業的もしくは商業的権利などを指します。計算方法には独立価格基準法、原価基準法、その他これらと同等の方法が用いられます。比較対象を選定する場合には、比較対象取引に係る資産が同種であり、使用または譲渡の時期や期間、その他取引上の条件が同様であることが求められます。
無形資産のうち、法的権利以外のものについてはその価値が把握しづらく、これを使用または譲渡するとなるとさらに価格設定が困難です。結果的に税務当局より更正を受けた事例が多く存在するため、これらの存在が取引に関わってくる場合には、明確な価格設定根拠を示す必要があります。
いずれの計算方法を用いる場合においても、その比較対象となる取引の選定が重要となってきます。選定の方法として、当該法人と非関連者間で行われる取引にかかる取引価格や利益率をベースとする方法と、非関連者間で行われる取引の取引価格や利益率をベースとする方法の2 通りがあります。
企業内部で対象となるような取引が存在するのであれば、これらを参照するのが一般的ですが、実務上は企業内部で対象となるような取引が存在しないケースが多いため、非関連者間での外部取引を基準とすることになります。
■移転価格税制と関税
移転価格税制は、国外関連取引における独立企業間価格(ALP)を算定するための規則として法人所得税法に規定されていますが、輸入時にかかる関税とも密接に関わってきます。
■関税との類似点
関連会社間取引における、関税上の商品価格評価は、以下3 つの価格のいずれかに相当するかどうかを基準として行われます。
・第三者に対する取引価格(Transaction Value)
・ 再販売時における推定価格(Deductive Value)
・ コストにより決定される算定価格(Computed Value)
「第三者に対する取引価格」は、移転価格税制における独立企業間価格算定方法の中の独立価格比準法(CUP 法)に類似しており、「再販売時における推定価格」は、移転価格税制における独立企業間価格算定方法の中の再販売価格基準法(RP 法)に類似しています。また、コストにより決定される算定価格は、移転価格税制における独立企業間価格算定方法の中の原価基準法に類似しています。
移転価格税制、関税ともに公正妥当な商品の価格を把握するという目的は同一であるため、評価の基準に関して大きな相違はありません。
■商品の価格評価における相違点
移転価格税制を税務当局の観点から見ると、国外関連取引における輸入価格が低ければ低いほど輸入者のコストが軽減され、より利益を出す結果となるため、税務上問題はないものとされています。
一方、関税を税務当局の観点から見ると、関税額は輸入商品の価格を基に計算されるため、商品の価格は高ければ高いほど問題がないものとされています。
また、移転価格税制は通年で適正価格を評価するのに対して、関税は特定の輸入商品、輸入時期に焦点を当てていること、移転価格税制では認められている利益分割法(PS 法)や取引単位営業利益法(TNMM)が認められていない点も大きな相違点です。このように、国外関連取引における適正価格の算定方法は類似していても、価格調整の目的は大きく異なっています。
■問題点と対策
前述のように、移転価格税制と関税の間には類似点と相違点があるため、独立企業間価格の算定において、税務当局と税関の対応が異なるという問題が発生し、移転価格税制上認められた独立企業間価格が関税上は認められないというケースが発生しています。
このような問題を回避するために、比較対象企業を移転価格税制対策用と関税対策用とで別途選定している企業もありますが、法人税務局と税関が相互に提出書類を確認しているという情報もあり、この方法にはリスクが伴います。
独立企業間価格の算定について、世界関税機構(WCO:WorldCustoms Organization)と経済協力開発機構(OECD)が協議を行い、解決に向けた話し合いがトップレベルで行われており、同時に各国に対して、税務当局と税関のシステム強化を呼び掛けています。
■相互協議
移転価格税制により所得更正が行われた場合、修正部分の所得についてはそれぞれの当事国において課税がされるため、増加所得分について国際的な二重課税が生じることになります。
このような二重課税を排除する目的で、租税条約に定められている相互協議事項に準じて、各関係国(租税条約が締結されている国)の権限ある当局同士が、移転価格についての政府間での調整を行うことを「相互協議」と言います。
これに対し、租税条約が締結されていない国同士の取引では、国際間での相互協議は行われず、各国の税法の規定の範囲内(不服申し立てや税務訴訟など)でのみ解決が図られることになります。
国際間での二重課税の調整については、基本的には租税条約に定められている方法により行われますが、両国の条約の見解の相違などにより調整が困難となる可能性もあるため、相互協議はそのような場合の救済処置と位置付けられています。
日本とインドの間では日印租税条約が締結されており、同条約25条で相互協議について定められています。よって、日印間での国外関連者取引について移転価格が適用された場合、まず、各居住地国の権限のある当局に対して相互協議の申立を行うこととなります。
相互協議は、当事者からの申立の後に行われるため、日本とインドのいずれの当事者からも相互協議の申立がなされなかった場合や、日印租税条約で定められている申立期限の3 年を経過した場合は、相互協議が行われません。
■事前確認制度
事前確認(APA:Advanced Pricing Agreement)制度とは、国外関連者との取引価格の算定方法について税務当局から事前に確認を得る制度で、インドでは2012 年7 月から導入されています。これは、移転価格の対象となる取引の価格の設定に際し、企業側が算定した独立企業間価格とその算定方法の妥当性について、事前に税務当局から確認を受ける制度です。事前確認を行うメリットとしては、下記の2 点が挙げられます。
・ 事前確認では当局主導の価格検証と異なり、価格検証時の透明性が確保された審査が実施される
・ 事前確認を行うことで、移転価格調査による将来の税額更生のリスクを排除し、追徴課税を事前に防止することが可能となる
また、2014年10月1日から導入されたロールバックも、一定の条件を満たすことにより、4 年間を限度に認められています。これにより事前確認の時点から過去4 年間の遡及適用が可能となり、結果、事前確認制度のメリットが拡大されたと言えます。当局が合意した場合、最長9年間にわたる取引について、税務リスクを軽減することができます。ただし、ロールバックの適用申請は、APA の申請と同時に行う必要があります。ロールバックの適用に必要な条件や手続きについては、2015年3月14日に直接税中央委員会(CBDT)から発表されています。
2015 年10月19日、独立企業間価格の検証方法の変更が発表されました。この変更では比較対象企業について、複数年度のデータの使用が可能となり、一定の場合において、「レンジ概念」が導入されました。比較対象企業が6社以上ある場合、独立企業間価格を算定するレンジは、比較対象会社の価格の35%から65%の範囲内であることが前提となります。一方、比較対象企業が6 社未満である場合は、取引価格の算術平均値の3% 以内である必要があります。事前確認を行うデメリットとしては、手続に費用(100万~200万ルピーほど)がかかり、決定までの期間が比較的長いため、届出を行う際は事前に慎重に判断をする必要がある、という点が挙げられます。
継続取引については、納税者は事前確認の適用申請を、対象事業年度の開始日の前日までに行う必要があります。基本的な詳細事項に加え、対象となる国際取引の範囲、事前確認制度の種類、二国間ないし多国間APA にしない理由、申請する移転価格算定方法、詳細な機能分析、単体・連結決算書(直前5 期分)等の提出が必要です。
事前確認の申請には、取引規模に応じて申請料が異なります。具体的には、1 0 億ルピー以下の取引は1 0 0 万ルピー、1 0 億ルピー超2 0 億ルピー以下の取引は1,5 0 0 万ルピー、それを超える額の取引は2 0 0 万ルピーです。
納税者は、事前確認の諸条件が合意に至る前であれば、いつでも事前確認申請の取り下げを行なうことができます。申請の取り下げを行った場合、支払済の申請料は還付されません。また、申請に不備がある場合には、申請から1 カ月以内にその旨が書面で通知されます。
納税者が当該通知を受けてから1 5 日以内(3 0 日まで延長可能)に修正しない場合には、申請は却下され、申請料は還付されます。申請が受理された後には、事前確認の担当者からの質疑があり、事前確認チームは報告書案を作成し、事案により、所得税局長(DGIT:Director General of Income Tax)または権限のある当局(相互協議担当)に提出されます。当該担当者はこれに基づいて合意案を作成し、中央政府の承認を得て、 直接税中央委員会(CBDT)と申請者の間で合意されます。
納税者は、所得税申告書の提出後30 日以内か、事前確認の適用から9 0 日以内のいずれか遅い日までに、DGIT に年次報告書(ACR:Annual Compliance Report)を提出しなければなりません。年次報告では、基本的な詳細事項に加え、ビジネスモデルの変更の詳細、機能・リスク分析の変更、事前確認合意時との重要な前提条件の変更に関する情報を提供し、移転価格調査官は、年次報告による詳細をもとに、合意された事前確認の諸条件を納税者が遵守しているかどうか確認するため調査を行います。移転価格調査官は、年次報告書提出日の属する月末から6 カ月以内にDGIT または権限のある当局(相互協議担当)に報告書を提出します。
[日本における「事前確認」]
日本では、1987 年に世界に先駆けて「事前確認」の仕組みを導入しています。日本の税法では、事前確認に基づいて税務申告を行っている限りは、移転価格課税が行なわれることはなく、また、相互協議の合意を経て確認を受ければ、相手国からも移転価格課税を受けることはありません。近年、国際取引の増加・複雑化を反映した申出件数の増加に伴い、事前確認件数は年々増加傾向にあります。
インドにおける移転価格調査
■移転価格調査
インドにおいて、移転価格税制は2 0 0 1 年に本格的に導入されて以来、税務当局による調査件数は年々増加しており、更正所得金額も増加傾向にあります。特に外資系のインド進出が盛んな現状に鑑みると、今後も件数・更正所得ともに増加していくものと想定されます。
インドの移転価格調査には、次のような特徴があります。
[移転価格専門調査組織]
インドでは、移転価格調査のための移転価格専門調査組織が設置されており、調査官は調査に際しての証拠開示、尋問、帳簿その他関連書類、情報提出の強制などの権限を有しています。
税務調査対象選定の基準額については、年度ごとに見直しが行なわれています。従来、移転価格調査の対象となる金額基準は、年間1億5,0 0 0 万ルピーを超過する国際取引と定められていました。国外関連者との年間の取引額が1 億5,0 0 0 万ルピーを超える場合には、通常の税務当局の直接税担当者(AO:Assessing Officer)から移転価格担当官へ情報が引き渡され、その上で移転価格担当官が企業の調査を行います。移転価格担当官は企業に対し、証拠や関連書類の開示請求、尋問などの権限を有します。また、移転価格取引基準により強制税制調査の対象となった場合は、法人税についても調査が行われることになるため、注意が必要とされていました。近年、移転価格調査の対象企業選定基準が改定されつつあり、2 0 1 6 年3 月に発表された新ガイダンスでは、リスクパラメータ基準で調査対象企業を選定することが要請されています。これに伴い、納税者にもヒアリングの機会が与えられ、移転価格調査の透明性の向上が期待されます。また、移転価格調査の対象とされた場合、当該調査において、移転価格文書
の提出を求められることが一般的です。
[罰則規定(ペナルティ)]
移転価格に係る罰則規定は厳しいものとなっています。
・ 移転価格文書保存義務違反 ➡ 取引価格の2%
・ 税務当局への情報提供義務違反 ➡ 取引価格の2%
・ Form 3CEB の未整備 ➡ 10 万ルピー
※税務調査担当官から移転価格文書等の提出を求められた場合は、その通知書(ノーティス)の受領から30日以内に速やかにこれに応じる必要があり、期限内に提出ができない場合は、取引価格に対し2%のペナルティが追加で発生することになる
・ 所得更正があった場合 ➡ 更正に係る税額の100 ~ 300%
・ 移転価格文書に虚偽の記載があった場合 ➡ 取引価格の2%
・ マスターファイル未提出の場合 ➡ 50 万ルピー
・ 国別報告書(CbC リポート)で不正確な情報を提出 ➡ 50 万ルピー
・ CbC リポートの未申告 ➡ 遅延1 日当たり5,000 ~ 5 万ルピー
・ CbC リポート関連の質問に30 日以内に答えない場合 ➡ 遅延1日当たり5,000 ~ 5 万ルピー
多くの場合、税法に係るペナルティは、対象となる税額に対して何% という形が取られています。文書保存を怠った場合や、内容に虚偽の記載があった場合には取引価格の2% をペナルティとして科されるため、取引規模の大きい会社においては文書等の作成・保管が必須となります。
■移転価格にかかる租税訴訟
税務当局より移転価格の修正申告や更正処分を課されるような場合、納税者は不服申立の訴訟を行うことができます。インドにおいてはチェリー・ピッキングやペナルティの厳格さなどもあり、訴訟に発展するケースが多く、納税者が勝訴する例も数多く見られます。
移転価格税制と文書化
■文書化に関わる制度規定
インドの移転価格税制においては、国外関連者間取引を行う者はすべて、直接税中央委員会(CBDT)の定める情報および文書を保管しなければなりません。
ただし、税務調査官に求められるまで、提出義務はありません。保管義務期間は8 年間となります。
保管すべき情報および文書には、関連者グループ、取引内容の概要、移転価格算定の検証データ、その他移転価格算定の根拠などの補助資料が含まれます。
関連者との国際間での年間取引額が1,000 万ルピーを超える場合、および国内関連者との一定の取引の年合計額が2 億ルピーを超え一定の要件を満たす場合には、さらに移転価格に関する文書の作成が義務付けられています。
これに対し、年間取引額が1,0 0 0 万ルピー以下の場合など上記に該当しない場合は、原則として文書の作成は要求されません。ただし、税務調査などにより価格が適正であることの証明を求められた場合には、関連者間の取引が独立企業間価格で行われていることを立証する必要があるので、年間取引額が1,0 0 0 万ルピー以下であっても取引関連の書類を整備しておく必要があります。
移転価格税制の対象となる企業は、インド勅許会計士発行の移転価格証明書(Form 3CEB)、すなわち移転価格対象取引がALP で行われていることの証明書を入手し、これを法人所得税の申告書に添付して提出する必要があります。
インド税務当局は、税務調査の通知を出してから30 日以内に企業に対して必要な書類、情報の提出をするよう要求する権限を有しているため、国外関連者との取引がある場合には、常に必要資料等を備えておく必要があります。仮に、納税者の取引価格が独立企業間価格であったとしても、文書類またはForm 3CEB の保存および提出不履行によるペナルティを免れることはできません。
しかし、納税者が相当の努力をもって、かつ相当の注意を払って取得価格を決定していたことを証明した場合には、更正に伴うペナルティが科されません。同様に、その他のペナルティに関しても、不履行にかかる相当な理由があったことを納税者が証明した場合には、科されません。非公式ではありますが、インド政府のさまざまな討論会の場において、同一の取引に対して文書化義務に係る2 つのペナルティが同時に適用されないことが示唆されています。
しかし、このようなコメントがなされたとはいえ、ペナルティを科す権限を有する税務当局に対する法的拘束力がないことも、また事実です。
インド税務当局は、2 0 1 7 年1 0 月3 1 日付でマスターファイルおよびCbC レポート提出に関する最終版規定を公表しており、2 0 1 6年4 月1 日以降の会計年度に適用されています。これに伴い、一定の要件を満たす企業においては、共通化された様式に従って、多国籍企業がグループ全体の財務情報や事業情報等、従前以上の情報を各税務当局に提供することが求められています。日本の移転価格税制では、マスターファイルの作成は、直前会計年度の連結総収入金額1,0 0 0 億円以上の多国籍企業グループが対象とされますが、インドのルールでは連結総収入金額が50 億ルピー以上の企業が対象とされています。この基準金額は他国と比較するとあまりにも低いため、今後見直される可能性があります。国際グループの連結売上高が外貨建てで報告されている場合は、会計年度末日にインドステイト銀行が算出する対顧客電信買相場に基づき、ルピー建ての価格算定を行います。
マスターファイルとCbC レポートの提出期限は法人税確定申告期日である11 月30 日になりますが、2017 年3 月期と2018 年3 月期においては、提出期限が翌年3 月31 日まで延長されています。また、CbC レポートの通知は、CbC レポート申請の2 カ月前になります。したがって、法人税確定申告期日の2 カ月前になりますが、2 0 1 7 年3 月期と2 0 1 8 年3 月期においては、期日が翌年1 月末まで延長されています。
マスターファイル3CEAA は、Part A とPart B から構成されており、Part A については、金額基準にかかわらず、すべてのインド居住の多国籍企業グループ構成会社等に作成義務があります。Part Bは、多国籍企業グループが金額基準を満たす場合は、組織構造、事業説明、保有する無形固定資産、グループ内金融活動、財務状況と納税状況などを記載したマスターファイルを作成し、期日までに最終親会社(連結上の最上位の親会社)または代理報告法人が所在する税務当局に提出する義務があります。
■移転価格監査
法人所得税申告の際に、国外関連者との取引が発生している場合および特定の国内取引が発生している場合には、当該取引について移転価格証明書を提出することが、法律により義務付けられています。具体的には、各課税年度において、国外関連者と取引を行う場合には、インド勅許会計士による移転価格証明(Form 3CEB)を作成し、納税申告書とともに提出しなければなりません。
Form 3CEB を提出しなかった場合、1 0 万ルピーの罰則規定が定められています。Form 3CEB は、大きくPart A、Part B、Part C にわかれており、それぞれ記載する内容は以下のとおりとなります。
① Part A
Part A には、会社名、所在地、その他会社の基本情報などを記載します。また、勅許会計士の署名もこれに記載します。
② Part B
Part B には、国外関連者間でどのような取引が行われたかを質問形式にYes、No で答える形で記載をしていきます。具体的には、以下の区分ごとに取引の有無、関連者の会社名、住所、取引金額、独立企業間価格の算定方法などを記載していきます。
通常、記載内容が多くなることが多いため、各取引の詳細については、補足資料として別紙(Anexture)を作成して、詳細を記載する形となります。
③ Part C
Part C には、特定国内取引でどのような取引が行われたかを、質問にYes、No で答える形で記載をしていきます。具体的には、
PartB と同様に、以下の区分ごとに取引の有無、関連者の会社名、住所、取引金額、独立企業間価格の算定方法などを記載していきます。通常、記載内容が多くなることが多いため、各取引の詳細については、補足資料として別紙(Anexture)を作成して、詳細を記載する形となります。
■移転価格ドキュメントの作成
インドにおいて国外関連者と取引を行う企業および特定の国内取引を行う企業は、Form 3CEB の作成が必須となります。また、国外関連者との年間の取引総額が1,0 0 0 万ルピーを超える場合、もしくは関連者間での国内における一定の取引の年間総額が2 億ルピーを超え、一定の要件を満たす場合には、別途、税務当局の要求する事項を記載した書類を保存する必要があります。この作成を怠った場合や記載内容に虚偽がある場合には、当該国外関連取引の取引価格の2% がペナルティとして科されます。
税務当局が記載を求める事項は下記のとおりです。
・ 各関連者の事業概要および資本構成、ならびに各関連者が事業を行う市場等
・ 関連者間取引における各関連者が果たす機能および負担するリスク、並びに財または役務の提供内容とその取引段階等
・ 選定された独立企業間価格算定方法が最適な方法である理由、およびその算定過程等
・ 比較対象会社に関する詳細なデータ、および独立企業間価格算定過程等
・ 独立企業間価格算定に関する予算、財務予測、前提および交渉等に関する詳細な資料等
[ドキュメント作成の流れ]
移転価格にかかるドキュメントの作成のプロセスは、おおむね以下の流れとなります。それぞれのフェーズごとに詳細を見ていきます。
フェーズ1、事実分析(グループ概要、全体像の把握)
当該企業に関連するグループ全体の概要、インドにおける事業体の概要、当該企業が属する業界の概要などを記載します。
具体的には沿革、株主構成等の企業の概要、各国拠点の概要やそれぞれの活動内容、グループ内においてどのような取引が発生しているか、各種取扱製品についての説明、事業背景と業務フロー、グループの顧客層や分野、バリュー・ドライバーや無形資産、事業分野である業界の推移、展望、業界における企業の位置付けに至るまで、取引価格の決定に必要な情報を記載します。
フェーズ2、取引分析(機能・リスク分析)
実際に行われた移転価格対象取引について、具体的な取引の内容の詳細およびその取引に係る機能・リスクなどを列挙し、それぞれの負担度合いにつき記載します。
■機能分析の例(製造業)
関係会社間で行われた一連の取引における機能を以下のように区分し、それぞれに含まれる機能を詳細に分析していきます。
・ 製造前段階 …… 研究開発段階。製造前段階における研究開発、無形資産の所有など
・ 製造段階 …… 原材料等の調達、生産時の品質管理等の機能など
・ 物流段階 …… 製品等の出荷時における輸送責任、在庫管理責任など
・ 販売段階 …… 顧客対応、価格設定の権限、マーケティング機能、請求に対する責任など
・ 販売後段階 …… クレームに対する責任範囲など
■リスク分析の例
・ 在庫リスク …… 余剰在庫、陳腐化等のリスク、返品・品質等の保証リスク
・ 流通リスク …… 配送時の破損、紛失、遅延等のリスク
・ 信用リスク …… 債権の貸倒
・ 為替リスク …… 取引通貨の設定
たとえば、製品の製造販売にかかる取引の場合、開発の段階から製造、物流、販売、そして販売以後の段階までの機能やリスクを記載することで、その取引を詳細に分析していきます。これらを詳細に記載するためには、それぞれの事業活動の重要性の度合いや関連者間での負担割合等を詳細に数値化して、分析を行う必要があります。
フェーズ3、移転価格算定方法の決定
事実分析、取引分析から、最も適していると考えられる独立企業間価格算定方法を選定します。OECD により発行された多国籍企業および税務当局のための移転価格ガイドラインでは、従来、独立企業間価格の算定には、伝統的な算定法(独立価格比準法、再販売価格基準法)が利益法(取引単位営業利益法、利益分割法)に優先して適用されるべきとされていましたが、2 0 1 0 年7 月の改定により最適な方法の適用が可能になりました。
OECD のガイドラインは、企業内での移転価格の公正妥当な性質を評価するために適切な方法が選択されなくてはならないとされています。その適切な方法の選択のためには、比較取引の比較可能性の程度や分析で用いられた仮定の信頼性、およびデータの信頼性が重要な要素になります。
フェーズ4、経済分析
独立企業間価格の算定に最も適した方法の選択から、比較対象となる企業の選定、独立企業間価格の選定までのプロセスを記載します。具体的には、財務データ分析結果や選定対象とする地域や年度、対象企業(取引)の選定プロセス等になります。
■主な経済分析事項
・ 比較対象企業の情報
・ 比較年度の確定
・ 利益率指標の選定
・ 差異の調整(会計処理の調整、資本的調整、売掛金調整、買掛金調整、在庫調整)
・ 独立企業間価格の範囲
[ドキュメント内容の詳細]
移転価格税制の執行に際し、課税当局は独自で持つ企業情報のみならず、さまざまな国の企業の詳細なデータが収録されているデータベースを用い、そこから抽出された類似企業の利益水準との比較や過去の類似案件での分析結果との比較により、利益水準の妥当性を判断します。
たとえば、インドに進出している日本企業との取引で、日本から製品を輸出し、インド子会社等を通じて販売を行っているような場合には、インド税務当局は日本法人の利益水準に着目し、その法人の利益水準が統計的に高すぎると判断された場合には、インド法人と日本法人との間の取引において、所得移転の可能性が高いと認識します。
外資系法人に対する当局の着眼点は、インド法人の利益水準が統計的な観点から、低すぎないかどうかという点になります。
[データベースを活用した移転価格レポートの作成]
税務当局の調査方法については、各国が独自の調査手段を有し、かつ担当官の判断による部分もあり、実際には不明瞭な部分も多々ありますが、その方法についてはおおむね下記の流れで比較対象となる企業を判断するものと考えられます。
① データベースの中から、対象となる国を選定
② 比較対象とすべき業種を選定
③ その他、詳細情報(オーナーシップの状況、比較対象期間の数値が出揃っているか、など)を選定
④ 機能、リスク等により、類似していない企業を排除膨大なデータベースの中から、比較対象となるべき企業選定を行い、その企業の利益水準をもとに移転価格の検証が行なわれていきます。
一般的に、移転価格経済分析においては複数選定された対象企業の利益の平均値または中央値を用いて、検証が行われます。比較対象と酷似する取引がない場合であっても、類似する取引の数値をもとに必要な差異調整を加え、その数値をもって検証を行うこともあります。
[第二次調整の導入]
2017 年インド財政法において、第二次調整メカニズムが導入されました。第二次調整とは、インド法人と国外関連者の会計帳簿における調整を言い、独立企業間価格に基づく当事者間の利益調整(第一次調整)に対応する調整のことを言います。この調整を行うことで、納税者の実際受領額と課税所得の間の不平衡が取り除かれることになります。二次調整は、以下に定める第一次調整が行われた場合にのみ適用され、第一次調整の金額が1,0 0 0 万ルピーを超える場合にのみ対象となります。
・ 納税者自らによる自主的調整
・ 税務官による調整を納税者が認めた場合
・ APA に基づく調整
・ セーフ・ハーバー・ルールに定める利益水準に整合した調整
・ 相互協議に基づき行われた調整
第一次調整は、独立企業間価格と取引価格の差額を言います。この差額は国外関連者に対する超過支払としての性質を有し、一定期間内にインドに返金されない場合は、納税者から国外関連者に対する貸付金とみなされ、当該貸付金に対して金利が発生します。この第二次調整は、2017 年度以降の課税年度において適用となりました。
移転価格事例による検証
■移転価格にかかる訴状手続き
移転価格に係る不服申立については、2 0 0 9 年1 0 月1 日より裁判外紛争処理手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)が導入されています。ADR とは納税者、税務調査官および紛争解決委員会(DRP:Dispute Resolution Panel)の三者間で紛争の処理を行う制度です。以前は移転価格に係る紛争処理は納税者、税務調査官および税務コミッショナー(CITA:Commissioner of Income TaxAppeals)の三者間で行われていましたが、決着までの期間が長期化するなどの問題がありました。ADR の導入で紛争解決機が9 カ月以内に裁決することが義務付けられ、短期間での紛争解決が可能となりました。また、納税者は、税務当局から受取った移転価格に関するオーダーに不服がある場合、CITA またはDRP のいずれかに対して申立を行い、裁判を行うことが認められました。
■インドにおける移転価格訴訟事例
[販売無形資産に関するルーリング]
事例↓
インド法人であるL 社に対する販売無形資産(Marketingintangibles)の取扱に関する所得税裁判所(ITAT)の特別法廷(SB:Special Bench)によるルーリングが公表されました。
L 社の関係会社であるG 社は韓国の法人であり電気製品、電気器具を製造、販売しており、L 社はインドにあるG 社の1 0 0% 子会社です。移転価格調査において、移転価格調査官(TPO)は、納税者であるL 社が比較対象会社と比べて過大な広告・販売促進費(AMP)を負担していると主張しました。TPO によれば、差額はL 社がG 社のブランドを広めるために負担したものであり、G 社から弁済されるべきであるとして更正して、さらにAMP へのマークアップも妥当であるとしました。なお、紛争解決委員会もこれを支持しました。L 社はこの決定を不服として、ITAT に上訴しました。ITAT は判決においてL 社がG 社のために販売無形資産の創出・改善に関して支出したAMP 費用に関する移転価格修正、さらにはマークアップも認められるとしました。
論点↓
本件の論点としては、以下の事項があげられます。L 社がG 社ブランド(G 社が法的所有者)を宣伝している事実L 社はG 社に対し独立企業間価格を超えるAMP 費用の負担をしており、契約の不存在は主張できません。L 社によるG 社ブランドの宣伝について、独立企業間の比率(AMP 費用の売上に対する割合)を超える部分は、G 社から補填を受けるべきと判断されました。
国際取引としての移転価格税制
AMP 費用は第三者に支払われているが、ブランド構築に係るサー
ビスはあくまでL 社がG 社に対して行ったもので、国際取引として、
インドの移転価格税制の適用対象になります。
製品の販売に係る宣伝費用は、本件ブランド構築に係るAMP 費用とは分けて考えるべきです。また結論としてSB は、本事実関係に基づき、AMP 費用に関して当局が行った移転価格修正は妥当であり、AMP 費用をマークアップをすべきという判断も妥当であるとしました。
一方で、マークアップのベースとなるコスト、およびマークアップ率の妥当性に関しては、再考のため当局に差戻しました。
[インド子会社への移転価格税制]
事例↓
インド租税裁判所が日本企業S 社のインド子会社に対して移転価格税制に基づく追徴課税を行った際に、同子会社による5% セーフ・ハーバー適用を否認しました。しかし、判決では同子会社を含むすべての納税者が、この5% セーフ・ハーバーを適用できるとしました。インドの移転価格税制では、独立企業間価格の算定に関して、5% ルールというものが決められており、移転価格算定方法適用の結果、複数の比較対象が存在する場合、同価格の上下5%、計1 0% の幅に収まっていれば独立企業間価格(利益率)と認めることになっています。これがセーフ・ハーバー規定です。なお、通常であれば複数値の平均値が用いられます。
論点↓
独立企業間価格の算定において、セーフ・ハーバー規定が適用するかどうかが本件において大きな論点となりました。
[出向費用を負担するケース]
事例↓
日本親会社からインド子会社へ出向という形で派遣した駐在員の給与は、日本側から直接支払う場合と、インド現地法人を通じて給与を支払い日本側が出向負担分としてインド法人へ支払う場合があります。後者は移転価格リスクを想定のうえ、事前に対策を講じておく必要があります。
論点↓
本件では、インド法人と日本法人の給与負担の割合が問題となります。インド側では現地水準に基づく給与分を負担し、差額を日本側で負担しているのであれば、通常は日本側でも税務上「給与格差補てん金」として費用処理が認められます。もし仮に、現地水準以上の金額を日本側で負担する場合、または一方の負担がないような場合には、これらはいずれにおいても移転価格上妥当な理由がない限り、損金算入は認められないこととなるので、注意が必要です。
Q&A
Q 日本親会社とインド子会社で少額ですが取引があります。移転価格税制への対応について何が必要になりますか。
A 関係会社間で取引が少額(1 ルピー以上)でもある場合は、インド勅許会計士の証明書(Form 3CEB)を入手し、法人税の確定申告書に添付して提出する必要があります。From 3CEB には、納税者の基本情報、関連会社のリスト、国際取引に関する取引先、内容、取引量、取引金額、移転価格算出方法等を記載する必要があります。また、年間1,000 万ルピー以上の関係会社間での国際的な取引を行っている法人は、毎年その取引に関する移転価格文書を11 月末(移転価格取引がある場合の法人税の確定申告期限)までに作成し、8年間保管する義務を負います。移転価格文書については提出の義務はありませんが、税務調査官から提出要請を受けた場合は、30 日以内に提出する必要があります。また、2017 年10 月31 日付で発表されたマスターファイルおよびCbCレポートへの対応も、2016 年4 月1 日以降の会計年度より対応が必要となります。
マスターファイルは以下の条件を満たす場合に必要となります。
1.国際グループの連結売上高が50 億ルピーを超える企業
2.国際取引の総額が5 億ルピーを超える、または無形資産に係る国際取引が総額1 億ルピーを超える企業
※日本のルールでは、直前会計年度の連結総収入金額 1,000 億円以上の多国籍企業グループが対象とされる一方で、インドのルールでは連結総収入金額が50億ルピー以上の企業が対象とされている。この基準金額は他国と比較するとあまりにも低いので、今後見直される可能性もあるなお、マスターファイルのうちForm 3CEAA PartA に関しては国際取引の総額を問わず、全企業が提出する必要がある点は要注意です。
※国際グループの連結売上高が外貨建てで報告されている場合は、会計年度末日における(インドステイト銀行が算出する)対顧客電信買相場に基づき、インドルピー建ての価格算定を行う会社がForm 3CEAA でのマスターファイルの期日までの提出を怠った場合、50 万ルピーのペナルティが科されることになります。さらに、CbCレポートについては前会計年度の国際企業のグループ全体の連結売上高が550 億ルピーを超える企業が対象になり、Form 3CEADを用いて申請を行う必要があります。
※マスターファイルと同様、国際グループの連結売上高が外貨建てで報告されている場合、会計年度末日における(インドステイト銀行が算出する)対顧客電信買相場に基づき、インドルピー建ての価格算定を行います。なお、CbCレポート申請の2 カ月前までにForm 3CEACを用いて、インド国外に所在する親会社の詳細等を税務当局に報告しなければなりません。こちらのCbCレポートの通知は、インド国外に本社を置く全企業が対象になる点に留意します。
参考文献
・ PwC「PWC インド投資ガイド2017」
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2017/assets/pdf/india-investment-guide1712.pdf
・ Taxmann’ s “Direct Taxes Law & Practice (Professional Edition)(Asamended by finance act 2018)” by Vinod K Singhania & Kapil Singhania,Edition 2018
・ 藤森康一郎『実務ガイダンス移転価格税制〈第5 版〉』、中央経済社、2017 年
・ デロイト・トーマツ「2016 年インド財政法における税制改正案の主な修正点ほか」Global Tax Update、2016 年6 月号/インドhttps://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/tax/it/jp-it-global-tax-update-india-june2016.pdf
・JETRO インドの移転価格訴訟と 紛争解決および回避手段
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2022/1d39c68e66c3b6e1/reports_202208.pdf