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フィリピンにおけるM&Aの動向
フィリピン経済は、継続的にASEAN諸国でトップクラスの経済成長率を維持してきました。
国家経済開発庁のレポートによると、2021年第1四半期のGDP成長率はマイナス4.2%であり、これは2020年より世界的猛威を振るった新型コロナウイルスの影響による下降を示しています。特に、コロナ以前にフィリピンの景気を支えていた個人消費や小売業の成長が上記の煽りを受けて鈍化したことが大きな要因となっています。
しかし、2023年1月26日にフィリピン統計庁(PSA)が発表したデータによると2022年の実質GDP成長率は前年比7.6%でした。この数値は、政府が目標としていた6.5%~7.5%の成長率目標を上回っただけでなく、1976年の8.8%に次ぐ経済成長率となりました。その後、2024年のフィリピン実質GDP成長率(前年比)は 約5.6% となり、政府目標の6.0〜6.5%をやや下回るものの、ASEAN諸国の中で比較的高い成長率となっています。主な牽引要因は公共支出と建設業の堅調さであった一方、農林水産業など一部セクターは天候要因等でマイナス寄与となっています。
ASEAN諸国の中でもフィリピンは賃金が比較的安価で、英語のできる優秀な人材も数多くいます。発展途上国への投資を試みる場合、文化や言葉の壁が大きな課題となりますが、フィリピンでは、多くの国民が英語を公用語と認識しているので、スムーズにコミュニケーションをとりながら投資が行えるという点で、大きな優位性があります。
他のASEAN各国同様、フィリピンも外国資本に対する規制が厳しかったため、投資は合弁やフィリピン国内の会社へのマイノリティ出資がメインとなっていました。しかし、今後の規制緩和により、日本企業が支配権の獲得を目指し、活発にM&Aを行うことが予想されます。
次のグラフは2020~2025年の間に、日本からフィリピンに対して行われたIN-OUTのM&Aのうち、公表されているM&Aの件数と金額の推移を表したものです。
【日本とフィリピンのIn-Out件数・取引額】
出所:レコフデータ
■ 日本企業のM&A事例
日本企業によるアジア企業の買収(In-Out)の件数は、2025年に211件、うちASEANの企業買収は118件ありました。また、そのうちフィリピンに対するM&Aは7件です(レコフ調べ;公表ベース)。次表は、2022~2025年に行われた日本からフィリピンに対するM&Aの事例です。
【日本からフィリピンへのM&A(2022~2025年)】
M&Aに関する法律・規制
フィリピンでM&Aを行う場合、複数の法規が関連します。そのため、各法律を横断的に理解する必要があります。
【M&Aに関連する法規】
投資規制 | 禁止業種、出資比率による規制、アンチダミー法に関する規制、資本金に関する規制、土地所有に関する規制、 外国為替に関する規制が規定されている |
会社法 | 新株発行、合併、資産譲渡の基本的事項を規定する |
証券規制法 | 公開買付規制、開示規制、 インサイダー取引規制を規定する |
上記のほかにも、銀行業、石油業、鉱工業、保険業、通信業といった特定の業種については、各種業法による規制があります。法規制の自由化は進んでいますが、まだまだ規制が多く、M&Aについても規制当局から出されている各種の規制に準拠しなければなりません。世界銀行が発行する2010年版外国直接投資(FDI)規制についての報告書に、フィリピンは「規制の厳しさが調査対象87カ国の中でも顕著である」と記載されています。
フィリピンでは、法律上規定されているにもかかわらず運用されていない規定や、逆に法律になくても実務上、行われている慣行があります。
たとえば、フィリピン証券取引所の規制では、浮動株式比率基準が定められており、上場企業の発行済株式のうち10%以上は、浮動株式でなければなりません。この基準について、以前は取締まりが厳しくありませんでしたが、2011年11月までに要件を満たすことが急遽要請され、企業が対応に追われました。2012年一杯は猶予期間となりましたが、要件を満たしていなかった48社のうち、13社は自主的に上場を廃止し、1社は上場廃止の措置を受けました。
このように、フィリピンでは突然の運用の変更があり得るということを認識しておく必要があります。
投資規制
■ 外資政策の基本三法
フィリピンでは、さまざまな産業において外国投資家からの投資が歓迎されていますが、国内産業の保護を目的として、特定の業種に対する外国投資には規制があります。したがって、対象業種が規制に該当するかどうかをネガティブリスト等で把握するためには、どの法律を参照すればよいのかを知っておく必要があります。ここでは、外資政策の基本となる法律と、投資規制、優遇政策との関係を整理します。
外資政策の基本となる法律は次の3つです。
[1987年オムニバス投資法]…①
1987年オムニバス投資法(Omnibus Investment Code of 1987)は、優遇措置を伴う投資に関する法律です。
[1991年外国投資法]…②
1991年外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)は、オムニバス投資法に定められていた「優遇措置を伴わない投資」の規定に代わり制定されたもので、優遇措置を伴わない外国投資に関する基本的な法律です。
[1995年特別経済区法]…③
1995年特別経済区法(Special Economic Zone Act of 1995)は、輸出加工区および特別経済区(Special Economic Zones)に関する総括的な法律であり、特区内に進出する企業に対して優遇措置を付与しています。
優遇措置を受けることができるかどうかは、大きく2つの検討事項があります。1つは業種です。これは①、②の法律を基に検討します。もう1つは、地域別での優遇です。これは③を参照します。
業種での優遇政策は、まず「1987年オムニバス投資法」を参照し、自社が投資しようとするビジネスが優遇を享受できるかどうかを検討します。担当政府機関は投資委員会(BOI:Board of Investments)です。BOIが毎年同法に基づいて、投資優先計画(IPP:Investment Priority Plan)を発表しています。このIPPの対象業種に投資する企業には、法人税減免などの優遇政策が与えられるため、該当する場合はBOIへ投資申請します。
2022年度戦略的投資優先計画(SIPP)では、ティア1から3にわけて、下記の優先投資分野が定められています。
[ティア1]
2020年版投資優先計画(IPP)に記載されたすべての活動(ただし、ティア2または3に記載されたものを除く)であり、2020年版IPPに記載された活動は以下のとおりです。
1. 新型コロナウイルスのパンデミック対策に関連するすべての適格な事業
a.必須物品
医薬品、医療機器・装置、個人用保護具(PPE)、手術機器・用品、実験機器・試薬、医療用品、工具および消耗品(除菌剤・洗浄剤、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨードなどを含むがこれらに限られない)、これらの物品の生産・製造に使用する原材料、半製品・中間製品、機械・設備の生産・製造が対象となる。また、これらの物品を製造するための製造活動の再利用も含む。
b.必須サービス
火葬場、医療廃棄物の処理・処分、研究室、実験施設、病院、検疫施設などのサービスの提供が対象となるがこれらに限られない。また、投資委員会の決定に従い、新型コロナウイルス対策やその影響の緩和に関連するその他の物品やサービスも対象となる。これには、政府やその機関・部門、地方自治体のプログラムに含まれるものなどがあるが、これらに限定されない。
2. 投資委員会の決定に従い、提案されているバリク・プロビンシャ(Balik Probinsya)プログラムや政府が実施する可能性のある同様のプログラムなど、密集した都市部以外での雇用機会を創出するプログラムを支援する活動への投資。
3. 基準を満たすすべての製造業(農産物加工を含む。ただし、マニラ首都圏では、近代化プロジェクトのみが対象)
a.工業品の製造または農産物および水産物の加工(ハラルフードおよびコーシャフードを含む)による、[1]半製品/中間品、または[2]完成品もしくは消費財の生産
b.プレハブ住宅用部品、機械および部品を含む装置の製造航空宇宙部品
4. 農業、漁業および林業(ただし、マニラ首都圏では、農業インフラと支援サービス、都市農業プロジェクトのみが、新規、拡張、近代化として対象)
農産物、水産物および林産物の商業生産が対象となる。また、保育園、孵化場、収穫後施設、その他の支援サービスやインフラも対象となる。
5. 戦略的サービス業
a.集積回路(IC)設計
集積回路の設計に必要なすべての論理・回路設計技術が対象となる。
b.クリエイティブ業界/ナレッジベースサービス
国内向けのIT-BPMサービス(コンタクトセンター、データアナリティクスなど)や、アニメーション、ソフトウエア開発、ゲーム開発、医療情報管理システム、エンジニアリング・デザインなどのオリジナルコンテンツを伴うサービスが対象となる。
c.航空機の保守、修理および整備
d.代替エネルギー自動車用チャージ/燃料補給ステーション
e.産業廃棄物対応
f.電気通信事業(ただし、新規参入者のみが対象)
g.最先端工学、調達および建設
6. ヘルスケアおよび災害リスク軽減管理サービス
総合病院、専門病院、その他の医療・健康施設(薬物更生施設、検疫所、避難所を含む)の設置・運営が対象となる。
7. 集合住宅(ただし、マニラ首都圏では、賃貸用の低コスト都市住宅のみが対象)
200万ペソを上限とする住宅の開発が対象となる。
8. インフラストラクチャーおよび物流(LGU-PPPを含む)
空港、海港、(空路、陸路および水路)輸送、LNG貯蔵・再ガス化施設、石油・ガスのパイプラインプロジェクト、大量の水処理・供給、トレーニング施設、試験所、国内工業地帯などの(ただし、これらに限定されるものではない)、国の経済発展・繁栄に不可欠な物理的インフラの構築・運営が対象となる。また、地方自治体(LGU)が主導・実施するPPPプロジェクトも対象となる。
9. イノベーション・ドライバー
研究開発(R&D)活動、臨床試験(治験を含む)の実施、センター・オブ・エクセレンス、イノベーション・センター、ビジネス・インキュベーション・ハブ、スマート・シティ、ファブリケーション・ラボ(ファブラボ)/コワーキング・スペースの設置、モビリティ・ソリューションやデジタル取引の開発が対象となる。また、以下のような、新技術や新興技術の商業化、製品やサービスに関する商業化されていない特許、および国内で行われた研究開発の成果物も対象となる(ただし、これらに限定されない)。
10. インクルーシブ・ビジネス(IB)モデル
バリューチェーンの一部として、農業ビジネスや観光分野における中堅・大企業(MLE)が、零細企業(MSE)に対してビジネス機会を提供する活動が対象となる。
11. 環境または気候変動関連プロジェクト
エネルギー、天然資源、原材料の効率的な利用、汚染の最小化・防止、温室効果ガスの削減につながる、商品の製造・組立、エネルギー効率関連施設の設置が対象となる(ただし、共和国法第11285号またはエネルギー効率・保全法に基づくものを除く)。また、国際基準に基づいたグリーンシップリサイクルや、民間の材料回収施設の設立も対象となる。
12. エネルギー
従来の燃料(すなわち石炭、ディーゼル、バンカーおよび天然ガス)、廃熱、その他の廃棄物を利用した発電プロジェクトや、バッテリーによるエネルギー貯蔵システムの構築が対象となる。
[ティア2]
フィリピンの産業バリューチェーンにおけるギャップを埋める活動で、以下が含まれます。
1.グリーン・エコシステム
電気自動車(EV)組立(純EV、プラグインハイブリッドEV、ハイブリッドEV、燃料電池EVなど)、EV部品・コンポーネントおよびシステムの製造、EVインフラの構築・運営、エネルギー効率に優れた船舶・機器の製造、スマートグリッド・再生可能エネルギー用電子機器・回路(ウェアラブルソーラー機器を含む)、バイオプラスチック・バイオポリマー、再生可能エネルギー、エネルギー効率・保全プロジェクト、エネルギー貯蔵技術、統合廃棄物管理・廃棄・リサイクルなどを対象とする。
2.ヘルスケア関連活動
ワクチン自立支援プログラム、その他保健省(DOH)、科学技術省(DOST)、その他の類似機関が承認したその他の健康関連プログラムを支援する製造、医薬品、医薬品有効成分、専門病院など、健康関連活動を対象とする。
3.防衛関連活動
国防省(DND)、フィリピン国軍(AFP)、国家安全保障会議(NSC)が承認する国防関連活動を対象とする。
4.産業バリューチェーン・ギャップ
鉄鋼、繊維、化学、グリーンメタル加工(銅、コバルト、ニッケルなど)、原油精製、ラボスケールウェハー製造など、バリューチェーンのギャップに対処する活動を対象とする。
5.食料安全保障関連活動
農業省(DA)またはフィリピン農業・水生・天然資源研究開発評議会(PCAARRD)が承認する、食料安全保障を競争力をもって確保するために重要な製品およびサービス、またはグリーン/有機農業を支援するものを対象とする。
[ティア3]
経済の変革を加速させる重要な活動で、以下の活動が含まれます。
1.ロボット工学、人工知能(AI)、積層造形技術、データ解析、デジタル変換技術(クラウドコンピューティングサービス、ハイパースケーラー、データセンター、デジタルインフラなど)、ナノテクノロジー(ナノエレクトロニクスを含む)、バイオテクノロジー、新しいハイブリッド種の生産・採用、その他のインダストリー4.0技術などを含むが、これらに限らない、研究開発および第4次産業革命の先進デジタル生産技術の採用に関する業務。
2.装置、部品の製造、サービスの製造、知的財産(IP)および研究開発製品・サービスの商業化、航空宇宙、医療機器(個人防護装置を除く)、IoT機器・システム(無線センサーおよび機器を含む)、フルスケールウェハ製造、先端材料などを含むがこれらに限らない、高度な技術を要する革新的製品・サービスの製造および生産を行うこと。
3.研究開発ハブ、センター・オブ・エクセレンス、科学技術パーク、イノベーション・インキュベーション・センター、技術系スタートアップ、スタートアップ支援施設(インキュベーター、アクセラレーター)、宇宙関連インフラなどを含むがこれらに限らない、イノベーション支援施設の設立。
上記、優遇政策に該当しない場合に残る選択肢は、優遇措置を伴わない外国投資か、投資規制業種に該当するかの二択です。これを把握するには、「1991年外国投資法」(共和国法第7042号、1996年改正)に基づいて定期的に更新される「外国投資ネガティブリスト(Foreign Investment Negative List)を参照します。このリストには、業種ごとに出資比率が決められており、最新版は、2022年7月13日発効の第12次ネガティブリストです。
1991年外国投資法は、アキノ政権下に制定され、1996年にラモス政権下で改正されました。この法律は、1987年オムニバス投資法の「奨励措置が適用されない外国投資」を改正したものです。つまり、優遇措置に該当しない投資について、国内市場開放を目指したもので、ネガティブリスト以外の業種に対する投資は外資による100%出資が認められています。
■ 規制業種
以下の業種に該当する場合、外国投資家の参入や外国人の就業は認められていません。
• レコーディングを除くマスメディア
• 専門職(エンジニア、医療関連、会計士、建築士、犯罪捜査、科学者、
税関貨物取扱者、環境設計、山林管理、地質調査、内装設計、景観設計、
弁護士、司書、船舶航海士、船舶機関士、配管業、製糖、社会福祉、教師、
農業、漁業、ガイダンス、カウンセリング、不動産サービス、呼吸器治療、
心療内科など)
• 払込資本金が250万USドル未満の小売業
• 協同組合
• 民間警備保障会社
• 小規模鉱業
• 群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用
• 闘鶏場の所有、運営、経営
• 核兵器の製造、修理、貯蔵、流通
• 生物・化学・放射線兵器の製造、修理、貯蔵、流通
• 爆竹その他花火製品の製造
出所:JETRO(『第12次外国投資ネガティブリスト』2022年より抜粋)
■ 出資比率による規制
ネガティブリストでは、業種ごとに外国資本の出資比率上限を定めており、ネガティブリストは、リストAとリストBに分類されています。リストAは、「憲法および法律の定めにより投資が規制される分野」、リストBは「安全保障、防衛、公衆衛生および公序良俗に対する脅威、中小企業の保護を理由に投資が規制される分野」です。
【憲法および法律の定めにより投資が規制される分野(リストA)】
外国資本による 出資比率上限 | 分野・事業内容 |
20%以下 | ラジオ通信網 |
25%以下 | 雇用斡旋(国内・国外のいずれかで斡旋されるかを問わない) |
国内で資金供与される公共事業の建設、修理契約。ただし、BOT法※(共和国法第7718号)に基づくインフラ開発プロジェクトおよび外国の資金供与・援助を受けて国際競争入札を条件とするプロジェクトを除く | |
防衛関連施設の建設契約 | |
30%以下 | 広告業 |
40%以下 | 天然資源の探査、開発、利用(大統領が承認する資金・技術援助契約に基づく場合、外国資本100%参入可) |
私有地の所有 | |
公益事業の管理、運営 | |
教育機関の所有、設立、運営 | |
米・とうもろこし産業(操業開始から30年以内に、資本の60%以上をフィリピン国民に放棄あるいは譲渡する場合、外国資本100%参入可) | |
国有・公営・市営企業への材料、商品供給契約 | |
公益事業免許を必要とするBOTプロジェクトの提案、施設運営 | |
深海漁船の運営 | |
損害査定会社 | |
共用部分法人もしくは複数世帯が所有するコンドミニアムユニットの所 |
※BOT法とは、交通社会の資本整備に民間資金を活用するBOT(Build Operate Transfer)手法を法制化したもの 出所:大統領令第98号
【安全保障、防衛、公衆衛生および公序良俗に対する脅威、中小企業の保護を理由に投資が規制される分野(リストB)】
外国資本による 出資比率 | 分野・事業内容 |
40%以下 | フィリピン国家警察(PNP:Philippine National Police)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通 |
40% | 国家防衛省(DND:Department of National Defense)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通 |
危険薬物の製造、流通 | |
サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニックなど、公共の保健および道徳に影響を及ぼす危険性があるため、法により規制されているもの | |
レース場の運営など、すべての賭博行為(ただし、フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれており、かつフィリピン経済区庁の認定を受けている事業は除く) | |
払込資本金額20万USドル未満の国内市場向け企業 |
■ アンチダミー法による規制
1936年に承認された共和国法第108号(CA:Common wealth Act No.108)では、規制業種における、役員の外国人占有比率を、資本規制比率に準じて取扱わなければならない旨が規定されています。ネガティブリストによって、外国資本の出資比率が規制されている場合には、役員の構成でも外国人比率を当該外資規制の割合以下にする必要があります。
■ 資本金に関する規制
銀行や金融業など、一定の業種は、最低資本金の規制が定められています。
[銀行]
• ユニバーサルバンク:30億~200億ペソ
• 商業銀行:20億~150億ペソ
• 貯蓄銀行
• 本店がマニラ首都圏内:5億〜4億ペソ
• 本店がマニラ首都圏外:2億〜8億ペソ
• 地方銀行(本店の所在地による):1,000万~2億ペソ
[小売業]
共和国法第11595号にて2021年12月、改正小売業自由化法が承認されました。外資の場合、払込資本金は2,500万ペソ以上が必要と記されています。また、複数の実店舗で小売業を営む外資は、1店舗当たり最低1,000万ペソの投資を行う必要があります。なお、払込資本金は、1店舗当たりの投資額要件を満たすために、資産の購入に使用することができることになっています。最低払込資本の実際の使用については、証券取引委員会(SEC)または貿易産業省(DTI)が監視し、これらの機関および国家経済開発庁(NEDA)により、最低払込資本金額は3年ごとに見直しがされます。
その他、業種を問わず、「払込資本金20万USドル以下の国内市場向け企業」は、ネガティブリストによって、外資の資本比率が40%以下に制限されており、最低資本金の規制が加わります。要約すると以下の3つに分類されます。
① 外資の資本比率が40%以下の場合
最低資本金は5,000ペソです。
② 外資の資本比率が40%超の出資の場合
ネガティブリストに従い、原則として20万USドルが最低資本金となりますが、以下のいずれかに該当する場合は、10万USドルが最低資本金となります。
・ 現地人を50名以上直接雇用する場合
・ 先端技術を有する場合
③ 輸出向けに事業を行う会社の場合
主に輸出向けに事業を行う会社の場合、当該最低資本金規制は適用されません。輸出向けに事業を行う会社とは、以下のとおりです。
・ 製造業で、生産量の60%以上を輸出する場合
・ 貿易業で、フィリピン国内での購入量の60%以上を輸出する場合
■ 土地所有に関する規制
ネガティブリストの規制により、外国資本40%超の企業は、土地を取得することができません。そのため、工場用に土地を利用する場合は、土地の所有者からリースを行うことになります。リース期間は最長50年ですが、更新することが可能です。
また、リース以外に、フィリピン人パートナー(信頼できる日本人のフィリピン人の身内やパートナー会社、弁護士など)と外資40%以下の会社を設立して、土地を取得する方法もあります。
■ 外国為替に関する規制
フィリピンの外国為替管理制度は、フィリピン中央銀行(BSP:The Bangko Sentralng Pilipinas)が管轄し、為替規制はBSPの通貨理事会(Monetary Board)の政策によって決定されます。
1992年に外貨集中義務が撤廃されて、外貨の売買がほぼ自由化されました。しかし、貿易取引対価以外の外貨取引については、中央銀行による以下のような規制が残っています。
• 外国為替売却を一時的に停止、または制限すること
• 居住者またはフィリピンで営業する企業が取得するあらゆる外貨為替を、中央銀行が指定する銀行・代理人に引き渡すこと
[貿易取引]
輸出にかかわる外貨受取は、中央銀行の定める通貨(USドルなど)で行われなければなりません。信用状に基づく取引など、一定の条件を満たす輸出入決済のための外貨交換については、中央銀行の事前承認なく商業銀行が自由に行うことができます。
[資本取引]
外国投資家が資本、または、資本から発生した配当や利益、収益金について送金を行うために、銀行を通じて外貨を購入する場合、外国投資を中央銀行に事前に登録する必要があります。通常は会社設立の段階で中央銀行に登録を行います。
登録済外国企業の資本の本国送金または利益の送金は、現行規則で指定された手続およびその他の条件に従って、中央銀行に事前に承認を受けることなく商業銀行で行うことができます。
[借入]
① 現地での借入
外資40%超の会社は土地の所有が認められていないため、土地を担保にすることができません。この場合、親会社が保証することになります。また、長期借入については、まだ整備されていないため、ペソ建による長期借入は難しい状況です。
② 外貨借入
将来の元利金の支払を外貨建で行う場合には、借入の実行前に中央銀行へ届出なければなりません。原則として、外貨建の借入は中央銀行の許可が必要となります。
会社法
M&Aの手法として利用される株式の譲渡や、新株発行など会社運営に関する基本的事項は、会社法(Corporation Code of the Philippines)に定められています。合併や事業譲渡などの組織再編行為が行われると、出資比率の変化や経営権の移動など、会社に重要な変化を及ぼすため、会社法は基本的事項の他、通常とは異なる手続や意思決定、株主・債権者保護の規定を定めています。
■ 新株の発行
M&Aの手法の1つとして、新株を発行する場合があります。株式を譲渡する場合は、M&Aの対象となる会社に対価は入りません。一方、新株を発行する場合は、その対価が対象企業に入るだけでなく、既存株主の保有株式が残るため、100%支配権獲得を目的としては利用されない、という特徴があります。
新株の発行には、定款に定めてある授権資本の枠内での新株発行を行う場合、授権資本の枠を超えて増資を行う場合、自己株式を処分する場合があり、定款変更の有無や意思決定の方法が異なります。
【新株発行による支配権の獲得】
授権資本の枠内で新株を発行する場合または自己株式を処分する場合には、定款の変更は不要であり、取締役会の決議のみで行うことができます。一方、授権資本を増加させる場合には、定款を変更する必要があるため、株主総会特別決議が求められます。
なお、新株発行の対価を現物出資する場合は、当該現物出資財産の価額について証券取引委員会の承認を得る必要があります(会社法38条)。
自己株式を処分する場合には、取締役会の決議により、処分価格を決定した上で行うことができます(同9条)。
【決議要件】
株式発行の種類 | 必要な決議 |
授権資本内で行う新株発行 | 取締役会決議・証券取引委員会の承認(現 物出資の場合) |
授権資本の増加を伴う新株発行 | 取締役会決議・株主総会特別決議・証券取 引委員会の承認(会社法38条) |
自己株式の処分 | 取締役会決議(会社法9条) |
[既存株主の新株引受権]
フィリピン会社法では、原則として、すべての既存株主が新株引受権を有しており、会社が新株発行を行う際には保有株式数に応じて新株を引受ける権利があります(会社法39条)。ただし、以下の場合はその限りではありません。
・ 定款で新株引受権が排除されている場合
(上場企業においては、新株引受権は排除されていることが一般的です)
・ 当該株式が、公募増資または最低浮動株比率維持を目的として発行され
る場合
・ 当該株式が、事業遂行のために必要な資産の取得の対価として、または契約上の債務の返済に充てることを目的として、発行済株式総数の3分の2以上の同意を得て発行される場合
したがって、新株の発行によってM&Aを行う場合には、定款で排除されていない限り、既存株主に新株引受の通知を拒否してもらい、実質的な第三者割当というかたちで行う必要がある点に留意しなければなりません。
■ 合併
フィリピン会社法は、日本と同じく吸収合併、新設合併の両方を認めており、その効果も日本と同様であり、被合併会社は消滅し、被合併会社の資産や負債などすべての権利義務は、個別の移転契約なしに存続会社へ引継がれます(会社法80条)。
【吸収合併の場合】
[合併の手続]
合併を行う当事会社は、取締役会決議において合併計画を承認します。合併計画には、合併条件や合併方法、定款の変更などを定めます。なお、合併の対価については定めがないため、金銭や存続会社の親会社の株式を対価とすることも考えられます。
その後、株主総会の特別決議において合併が決定されますが、反対する株主は、自己の保有する株式を正当な価格で買取ることを請求することができます(会社法77条、81条)。特別決議を経て、合併契約書を作成、締結します(78条)。合併契約書を証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)に提出し、証券取引委員会から会社法に違反していないという証明書の発行を受けた時点で、合併の効力が生じます(79条)。
■ 資産譲渡
資産譲渡とは、会社のすべてまたは、のれんを含むすべての資産売却、賃貸、交換、質入などをいいます(会社法40条)。フィリピンの資産譲渡は、日本の会社法で定められる事業譲渡と類似の取引であると考えられます。
資産譲渡は、会社にとっての重要事項となるため、取締役会決議に加えて株主総会の特別決議が必要となります。当該株主総会決議で反対する旨を述べた株主には、保有する株式を公正な価格で買取ることを要求できる権利が認められています。
日本の会社法では、債権者保護手続を定めていますが、フィリピンでは、バルクセール法(Bulk Sales Law)という会社法とは異なる法律によって債権者が保護されています。資産譲渡を行う場合には、原則としてこのバルクセール法が適用されるため、資産譲渡の対価受領前に、商務局に対して全債権者の名前または名称、債務金額を記載した書類を提出し、登録しなければなりません(バルクセール法3条、9条)。これを怠った場合、当該取引は無効となり、違反した場合には禁錮や罰金または両方が科される恐れがあります。
証券規制法
証券規制法(SRC: Securities Regulation Code)とは、広く存在する利害関係者の平等な権利を保護するために作られた法律です。公開会社のM&Aには、公開買付規制、開示規制、インサイダー取引規制などが関連してきます。
■ 公開買付規制
[公開買付が義務付けられる場合]
・ 買収の対象企業が公開会社であり、当該公開会社の35%以上の株式を1回の取引で、または12カ月以内に複数回の取引によって取得する場合
・ 株式を取得した結果、取得企業の株式保有割合が当該公開会社の発行済株式の51%を超える場合
ただし、証券規制法施行規則において、公開買付の免除規定が定められており、上記要件を満たす場合であっても、以下の要件に該当する場合には、公開買付義務が免除されます。
・ 授権資本内における新株の引受を行う場合であり、かつ引受後の取得者の株式保有割合が発行済株式総数の50%未満の場合
・ 授権資本の増加を伴う新株発行の引受を行う場合
・ 取得者が当該公開会社の債務者または債権者であり、適正な方法で設定された担保権の実行に伴う取得の場合
・ フィリピン政府の民営化政策に伴う株式取得の場合
・ 裁判所の監督下における会社更生に伴う取得の場合
・ 市場を通じた取得の場合
・ 吸収合併または新設合併による株式取得の場合
[公開買付株式数の上限設定]
公開買付後の株式保有率が51%以下の場合には、買付予定株式数の上限をあらかじめ設定した上で、公開買付を行うことができます(部分的公開買付)。この際、買付予定株式数を上回る応募があった場合には、按分比例により株式を買取らなければなりません。
一方、公開買付後の株式保有率が51%を超えてしまう場合には、応募株式のすべてを買付ける義務を負います。
[公開買付の手続上の規制]
公開買付の手続については、修正証券規制法施行規則19条各項に定められています。
[公開買付価格]
証券規制法は、公開買付に応募する株主等を公平、平等に取扱う趣旨から、公開買付価格について以下の事項を遵守することを要請しています。
・ 買付価格はすべての株主に対して均一でなければならない。
・ 公開買付期間中に買付価格の引上げを行った場合、引上げ前に応募された株式についても、引上げ後の対価を支払わなければならない。
・ 取得者の買付後の株式保有割合が発行済株式総数の51%を超える場合、買付価格について、独立したフィナンシャル・アドバイザー等からフェアネス・オピニオン(独立した第三者による意見表明)を取得しなければならない。
・ 公開買付が義務付けられる要件に該当する場合、買付者が過去6カ月間に対象企業の株式に支払った対価の最も高い価格が買付価格となる。
・ 買付の対価が有価証券の場合、当該有価証券の価格は公正に評価された価格でなければならない。
[公開買付の撤回]
公開買付が開始された後に、公開買付の撤回が自由に行われると、相場操縦に利用され、株主や株式市場に多大な影響を与える可能性があるため、日本では、自由に撤回をすることはできません。
一方、フィリピンでは、撤回の可否に関する明文規定がないため、実務上、どのように運用されているかは不明確です。買付者と既存株主のそれぞれに関しては以下のような規定があります。
① 買付者
買付者は公開買付を撤回する場合、撤回後10日以内に、応募株式を返還しなければなりません(修正証券規制法施行規則19条9項G)。さらに、公開買付撤回後6カ月間は、対象企業に対する新たな公開買付・強制的公開買付が適用される株式取得を行うことができません(修正証券規制法施行規則19条9項D)。
② 株主
公開買付期間中、あるいは応募を受諾する前で、公開買付開始日から60営業日以降であれば、いつでも応募を撤回することができます(修正証券規制法施行規則19条9項D)。
[公開買付の罰則]
公開買付が義務付けられているにもかかわらず、公開買付の手続を怠った場合、当該株式の取得は無効として、証券取引委員会は、再度公開買付の手続を命じることができます。
■ 開示規制
[大量保有報告規制]
株式が特定の株主に大量保有されると、株価の乱高下が予想され、情報が少ない一般投資家が想定外の損害を被る恐れがあります。大量保有報告規制は、こうした事態を防ぎ、一般投資家を保護する目的で導入されました。
大量保有報告規制で、上場企業株式等を直接または間接に5%以上取得して実質的保有者※となった場合は、株式取得に関する報告書の提出義務を負います(証券規制法18条、修正証券規制法施行規則18条1項)。また、当該提出書類の記載事項に変更が生じた場合、被取得企業、証券取引委員会、PSE(取得株式が上場株式の場合のみ)に変更内容を報告しなければなりません(証券規制法18条2項)。
※実質的保有者とは、原則として直接または間接に、契約、取決め、合意その他を通じて議決権を有していること、または投資上の利益を獲得、または獲得する権利を有している者をいう
単独で5%以上保有していなくても、実質的保有者とみなされ、大量保有報告規制の対象となる場合があります。実質的保有者に該当するかどうかの規定は以下のとおりです。
【実質的保持者の区分】
実質的保有者に該当する者 |
|
実質的保有者に該当しない者 |
|
出所:修正証券規制法(SRC)施行規則3条1項(A)
[適時開示]
上場企業は、証券規制法に従い、投資者の意思決定に重要な影響を及ぼす恐れのある重大な事実または事象が生じた場合には、報道機関を通じて速やかに公表するとともに、証券取引所へ開示を行い、証券取引委員会にコピーを送付しなければなりません。その後5日以内に臨時報告書の提出が必要です。たとえば、以下のようなケースです。
・ 支配権の異動
・ 重要な資産の取得または譲渡
・ 発行済有価証券の内容の変更
・ 役員の解任、その他変更
・ 組織再編
(修正証券規制法施行規則17条1項1号A(3)~3号、SECForm17-C)
[継続開示]
上場企業は、有価証券の公正で円滑な流通の確保と、一般投資家の保護のために、証券取引委員会(SEC)および証券取引所に対して、継続的に企業情報の開示を行わなければなりません。M&Aの対象企業の財務状況を把握する場合や、上場企業の経営権を取得した場合には、開示が義務付けられています。
会計士監査を受けた財務諸表を含む年次報告書を事業年度末日以後105日以内に提出、また各四半期末日から45日以内に四半期報告書を作成しなければなりません。また、外国株主報告書や浮動株報告書などを定期的に提出する必要もあります。
■ インサイダー取引規制
証券規制法では、インサイダー取引を規制しています(証券規制法27条1項、3項)。違反した場合、刑事・行政罰だけではなく、取引対象企業の株主等に対しての民事責任も負うことになります。
■ 独占禁止法
日本国内では、ある企業グループが、一定の規模以上の会社の議決権の一定割合以上の株式を取得する場合などには、独占禁止法の規制に従い、事前の届出などの報告義務を課されます。
フィリピンでは、現在のところ日本の独占禁止法に相当する法律はありません。刑法186条でカルテル取引制限や価格統制など明らかな違反行為が数項目禁止されているに留まっています。
■ 会計基準
M&Aを行う場合、必ず対象企業のデュー・デリジェンスを行い、企業価値を算定しなければなりません。国によって会計基準が異なるため、フィリピンの会計基準を把握しておくことは重要です。
フィリピンでは、国際財務報告基準(IFRS)に準拠したかたちで作成されており、2005年からはIFRSを採用した、フィリピン財務報告基準(PFRS)に基づいて会計処理されています。そのため、基準の整備は、国際的な水準と変わらないといえますが、実際の運用面では新興国特有の怠惰な処理が行われているケースもあるため、注意が必要です。
M&Aに関する税務
■ 株式取得
株式取得の方法により買収を行う場合、株式譲渡税と印紙税が発生します。株式譲渡税は、売り手に発生する税金であり、買収する側には関係がないと思いがちですが、株式譲渡を株主名簿に反映するためには、税金が正しく納付されていることを証明する株式譲渡許可書を税務当局から取得する必要があります。
また、買収対象企業が受けていた投資委員会(BOI)による税制の優遇措置や、繰越欠損金などの効果が継続できるかどうかという点にも注意が必要です。
[株式売却時に発生する税金]
株式の売却益
非上場株式の売却から生じる譲渡益については、キャピタル・ゲインとして15%の税率で課税され、通常の法人税は課税されません。一方、上場企業の株式を売却した場合には、売却価額の0.6%がパーセンテージ税として課税されます。
【株式の売却益に係る税率】
非上場企業の株式売却益 | 譲渡益 |
上場企業の売却益 | 売却価額の0.5%相当に対して株式譲渡税を課税 |
付加価値税
株式の譲渡には、付加価値税(VAT)は課されません。
印紙税
売却される株式の額面金額に対して印紙税が0.375%課されます。取引当事者のうちどちらが印紙税を支払うかは協議により決定しますが、通常は買収する側が負担します。
[買収後に関連する税務規定]
繰越欠損金の継続
原則として、会社は損失が生じた年の翌年から3年間にわたり損失を繰越すことができ、将来発生する課税所得と相殺して課税所得を減少させることができます。
ただし、合併などにより25%以上の所有権の移動があった場合など、重要な変化が生じた場合には、損失の繰越は認められませんが、この規定は既存株主から直接、株式を取得する場合は適用されません。したがって、通常の株式取得を行う場合であれば、支配権が大きく移動したとしても、繰越欠損金の効果は継続します。
優遇措置の継続
株式取得の対象企業が、BOI等から優遇措置の適用を受けており、株式の取得により支配権の移転が起こった場合でも、通常は優遇措置の継続が認められます。ただし、当局の事前承認が必要となります。
株式取得に要した費用の取得原価算入
株式取引の際、専門家への支払や買主が負担した税金などは、原則として損金に算入することができません。ただし、取得原価として計上しておき、当該株式を売却する際にキャピタル・ゲイン課税の取得費用に算入することはできます。
■ 資産譲渡
[取引から発生する税金]
資産の譲渡益に対する課税
通常の事業に供される資産の譲渡については、通常の所得税(30%)が課されます。一方、事業に供されていない資産(棚卸資産、減価償却が行われている固定資産などを除く投資用不動産など)については、売却価額または公正価値の6%がキャピタル・ゲイン課税として課されます。
地方譲渡税
不動産の販売や移転には、販売価格と公正な市場価格のいずれか高い価格に基づいて、移転税として0.5%が課税されます。
付加価値税
資産の売却価額に対して、12%のVATが課されます。
印紙税
資産譲渡を行った場合、不動産の譲渡については、譲渡価額と公正価値のいずれか高い方の金額の1.5%の印紙税が課されます。
[資産譲渡後の関連する税務]
のれん
のれんの償却費は、損金に算入することはできません。
優遇措置の継続
M&A対象の事業が税務上の優遇措置の適用を受けていた場合、資産譲渡により権利は消滅します。ただし、認可機関の承認を得ることで、優遇措置を継続できます。
■ 合併
[繰越欠損金の継続]
合併による消滅会社における繰越欠損金は、消滅会社の株主が存続会社の株式の発行済株式の額面金額もしくは払込資本金の75%以上を保有する場合にのみ、利用することが可能です。
■ その他の関連する税務
[過少資本税制]
フィリピンでは過少資本税制は制度として規制されていませんので、原則として外部負債比率は、商業的判断に基づいて行います。
しかし、優遇制度を利用する企業や、銀行や保険会社など特定の業種については、政府は、特定の比率を命じることができます。たとえば、BOIの優遇措置の適用を受けている場合や、フィリピン特別経済区に入居している場合には、登録を継続するためには3:1(負債:資本)の負債比率の上限が要求されます。
M&Aスキームの基本
フィリピンの会社の経営権を取得する方法としては、以下のような方法が考えられます。
株式取得 | 公開買付 | 上場企業の株式を取得する場合、買付の価格、数量、期間を公表して行う買付 |
株式の譲渡 | 公開買付の要件に該当しない場合、非公開会社の株式を取得する場合に、既存株主から直接株式を取得 | |
新株発行 | 第三者割当 | 対象企業の株式を新規に発行し、当該株式を引受ける |
資産譲渡 | 全部譲渡 | 対象企業のすべてまたは実質的にすべての事業の譲渡 |
一部譲渡 | 対象企業の特定の事業のみ譲渡 | |
合併 | 新設合併 | 2社以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利、義務のすべてを新設する会社が承継 |
吸収合併 | 合併により消滅する会社の権利、義務のすべてを合併後存続する会社が承継 |
手続の簡易さおよび税務上の理由等から株式取得による手法が主に利用されていますが、銀行業や通信業等の業界においては、合併なども利用されています。銀行・保険業・通信業など一部の規制業種については、監督官庁による事前承認の手続が、別途必要となります。また、対象企業が締結している契約の内容によっては、株式の譲渡や支配権の異動等に係る手続が求められる場合もありますので、買収先企業やその契約先に事前の問い合わせ等をしておく必要があります。
以下、上記スキームの一部について流れを述べていきます。
■ 公開買付
公開買付とは上場企業の株式を取得する方法の1つです。公開買付の手続は、実際の買付開始に先立ち、次の図のような段階を踏まなければなりません。
*❸から20営業日は最短の場合。最長の場合、60営業日
[公開買付の公表]…❶
買付者は、公開買付の前に(A)フィリピンで一般に流通している新聞で、公開買付を行う旨を公表し、(B)証券取引委員会に対して、当該公表文のコピーを提出しなければなりません(修正証券規制法施行規則19条5項)。この際、以下の点に留意します。
・ 公表時点において公開買付に十分な資金の確保できていること
・ (A)と(B)を同日中に行うこと
[証券取引委員会等への提出]…❷
買付者は、公開買付開始の2営業日前までに、公開買付届出書および附属資料を以下の機関に提出しなければなりません(修正証券規制法施行規則19条6項)。
・ 証券取引委員会(SEC)
・ 対象企業
・ フィリピン証券取引所(PSE) (上場の場合のみ)
公開買付届出書に記載する内容(修正証券規制法施行規則19条7項A(1)~(3)
・ 買付者および対象企業に関する情報
・ 取得の対象となる株式等
・ 公開買付の対価の種類および価額
・ 公開買付期間
・ 公開買付の目的
・ 買付者の計画および提案
・ その他の公開買付の条件等
附属資料に記載する内容(修正証券規制法施行規則19条1項J)
・ 重要な買付条件を記載した正式な買付申込書
・ 株式等の買付者または買付者の受託者への譲渡方法を記載したレター
・ 当該公開買付に買付者が、公表または送付した文章(プレスリリース、公告、レター、その他の文章)
[公開買付の開始、新聞公告]…❸❹❺
買付者は、公開買付開始日およびその後2日間にわたり、フィリピンにおいて一般に流通している新聞2紙に、公開買付届出書記載のすべての情報を記した長文公告、もしくは公開買付届出書に記載された一定の重要事項および株主等による公開買付届出書の入手方法を記した略式公告のいずれかを掲載する必要があります(修正証券規制法施行規則19条8項A)。
略式公告を選択した場合、株主が公開買付届出書を必要としたときには、迅速に届出書のコピーを、買付者の自費で提供しなければなりません。
[公開買付の終了]…❻
公開買付期間は、原則として公開買付の意図が公表された日から20営業日以上、60営業日以内で設定しなければなりません(修正証券規制法施行規則19条9項A(1)。ただし、期間中に買付予定株式数などに変更が生じた場合には、変更通知から最低10営業日は、公開買付期間は延長されます。
[応募株式の決済、証券取引委員会への報告]…❼❽
買付者は、買付終了後公開買付の結果を買付終了日から10日後までに、証券取引委員会に修正公開買付届出書を提出して、公開買付の結果を報告しなければなりません(修正証券規制法施行規則19条6項C)。
また、公開買付者は、PSEに要請される場合においては、買付終了後より3営業日以内に、それ以外の場合においては買付終了後より10営業日以内に、応募株式を決済する必要があります(19条9項G)。
■ 合併
吸収合併・新設合併の手順は次の図のとおりです。
会社が吸収合併・新設合併を行う場合には、当事者となる会社の取締役会決議および株主総会の特別決議が必要となります(会社法77条)。吸収合併計画および新設合併計画では、以下の一定の情報が記載されていなければなりません。
・ 合併の当事者となる会社の名称
・ 合併の条件および実行方法
・ 吸収合併の場合、存続会社の定款変更に関する情報
・ 新設合併の場合、新設会社の定款の記載事項に関する情報
・ その他、合併に関する情報
吸収合併・新設合併の際には、会社法に違反していないことを証明する証券取引委員会による書類が必要となります。証券取引委員会による証明書の発行には、1~2カ月を要します。また、上場企業の合併には、PSEにおける開示が必要です。
■ 資産譲渡による事業取得
資産譲渡の規定を利用して、以下のような疑似吸収合併が一般的に行われています。
・ 取得者が自社株式を対価として対象企業の全資産を取得
・ 対象企業を清算し、会社財産の分配を通じて対象企業が取得した株式を対象企業の株主に分配
このような方法を利用すれば、吸収合併に関する厳格な法令上の要件・手続が課されないというメリットがあります。ただし、会社財産の分配には、フィリピン内国歳入庁(BIR)の納税証明書が必要であり、その取得には、1~2年かかる可能性がある点を留意しなければなりません。
■ ノミニーの活用
フィリピンでは、魅力的な産業があってもネガティブリストによって外資規制されるという状況が生まれる可能性があります。この妨害を取り除くためにノミニーと呼ばれる買収方法があります。
たとえば、外国資本出資比率40%未満と規制されている分野において、40%まで出資し、51%に達するために必要な残り11%を出資企業と友好的な現地企業に出資してもらい、事実上、被出資企業の経営権を入手するという方法です。
企業買収後の諸課題
■ 出口戦略(エグジット・ストラテジー)
外国会社がフィリピン内国会社へ行った投資から完全に撤退する場合に生じる問題点を以下に解説します。外国会社が投資から撤退する場合の具体的な出口戦略としては、株式の売却、会社の清算、事業譲渡等による事業の売却等があります。
■ 株式の売却
[非居住者からフィリピン居住者への株式の売却]
非居住者がフィリピン居住者に株式を譲渡する場合は、フィリピンの証券取引委員会(SEC)のガイドラインに従って行われる株式の第三者割当の割当価格を上回らない価格となります。
[外国会社(フィリピン非居住者)からフィリピン非居住者への株式譲渡]
外国会社(フィリピン非居住者)からフィリピン非居住者への株式売買については、具体的なガイドラインはなく、特段の規制はありません。たとえば、日本の居住者同士でフィリピンの内国会社を譲渡するケースは特段の規制なくできます。
所得税法上、株式の譲渡会社が株式譲渡により取得した対価が株式の取得原価を上回る場合には、株式の譲渡会社にキャピタル・ゲイン課税がなされます。 キャピタル・ゲイン課税が発生する場合には、株式の譲受会社はこれを源泉徴収しなければなりません。また、証券取引所を通じて上場会社の株式を売却する場合には証券取引税が課されます。
■ 会社の清算
会社の清算とは、会社の資産負債を清算し、会社の法人格を消滅させる手続です。会社清算に関しては、会社法の14部に書かれていますが、手続の概要は以下の通りです。
・ 会社清算決議の実施(取締役会の過半数、株主総会の3分の2による決議)
・ 新聞への公告の掲載(週1回の掲載を3週間)
・ 清算日
・ 清算監査(会社の清算日における財務諸表を作成しフィリピン国税局に届け出る)
・ 納税者識別番号(TIN番号)の抹消をフィリピン国税局に申請
・ 過去3年間の税務監査
・ タックスクリアランスの発行
・ SEC用最終財務諸表の作成(SEC申請時は、提出日の60日前以内に作成された財務諸表を添付する必要があります)
・ SECへの法人登記抹消申請
■ 事業譲渡等による事業の売却
事業譲渡や合併によって、投資先のフィリピン内国会社の事業を他社に売却するという方法も選択できます。ただし、事業譲渡の場合は売却した事業の対価が出資先のフィリピン内国会社に支払われるので、結局この資金を外国会社株主が回収するためには、当該フィリピン内国会社を清算する等もう1ステップ手続が必要となります。
また、合併の場合にも合併の対価が株式の場合は、合併存続会社の株式が割当てられるので、これを処分するため、もう1ステップ手続が必要となります。
参考資料
・Chan Robles Virtual Law Library
http://www.chanrobles.com/index1.htm
・‘Philippine Laws, Statutes and Cordes ――Batas Pambansa Bailang 178’
http://www.chanrobles.com/bataspambansabilang178.htm#.UEdHJo3N9aZ
・フィリピン日本人商工会議所http://www.jccipi.com.ph/
・株式会社レコフ クロスボーダーM&Aマーケット情報
・谷山邦彦「新興国を中心としたクロスボーダーの評価:検討すべき3種類のリスク」『M&A Review 219』MIDC GROUP、2011年3月
・小出達也、坂本直弥「外国企業買収に関する外国課税の留意点その2――フィリピンのケース」月刊国際税務、2009年3月号
・1982年改正証券法(Revised Securities Act of 1982)
・JETRO https://www.jetro.go.jp/world/asia/ph/invest_03.html