会計
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シンガポールの会計制度
■概要
シンガポールで事業活動を行う会社は、会社法(Companies Act 1967)に従って会社運営および財務報告を行わなければなりません。財務諸表の作成義務、取締役の責任、監査制度、年次申告手続などは同法に体系的に規定されています。
財務報告の具体的基準については、会計基準審議会(Accounting Standards Council:ASC)が制定する会計基準に従う必要があります。ASCは財務省の下で設置され、現在は国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards : IFRS)とのフルコンバージェンス体制を採用しています。
2018年以降、シンガポールではIFRSと完全整合した**SFRS(I)(Singapore Financial Reporting Standards (International))**が導入され、特に上場企業はSFRS(I)の適用が義務付けられています。これにより、シンガポールの会計基準は実質的にIFRSと同一の体系となっています。
■会計期間
法人は会計期間を1年間とし、原則として自由に決算日(=会計年度末)を設定できます。法人税の課税年度は会社の定める会計期間に従うことになります。ただし、設立後最初の会計年度は最長18か月まで認められています。支店においては、原則として親会社の決算日に合わせた会計期間を採用します。
なお、非上場会社は原則として決算日から6ヶ月以内に定時株主総会(AGM)を開催しなければなりません(一定の要件を満たす場合はAGM開催免除制度の適用あり)。また、会計年度終了後6ヶ月以内に年次申告書(Annual Return)をACRAへ提出する必要があります。上場会社については会計年度終了後5ヶ月以内の提出が求められます。
設立直後は、設立年月日から指定・登記された会計年度末までの期間が初年度とされます。
その後も原則として会計年度末の変更は可能ですが、延長期間が18ヶ月を超える場合など一定の場合には、企業会計規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority: ACRA)からの承認が必要になります。
■会計帳簿
会社法199条1項により、すべての会社および取締役、経営者は、企業の業績状態および事業取引を十分に説明できる会計帳簿を作成しなければなりません。損益計算書、貸借対照表の基礎となる書類や証憑類は適切に保管し、適正な監査が実施できるよう備えなければなりません。
また会社法199条2項により、取引終了後5年間その記録を保存する義務を負います。電子形式での保存も認められています。
仮にこれらの記録をシンガポール国外に持ち出す場合においても、常にシンガポール国内で閲覧可能な状態を維持し、取締役会で確認できるようにしなくてはなりません。違反した場合、会社および責任ある役員に対して罰金等の制裁が科される可能性があります。
■言語・通貨
開示書類について、言語は原則として英語で作成します。
通貨は、原則として会社が決定する機能通貨(Functional Currency)で作成します。機能通貨とは、その会社が営業を行っている主要な経済環境における通貨を指します。
会社は機能通貨を決定するに当たって、以下の項目を総合的に検討します。
・主な営業や販売に影響する通貨
・資金供給に使われる主要な通貨
・仕入れ、販売管理費、給与、その他経費に使われる通貨
会計帳簿の作成は機能通貨で行うことになります。表示通貨(Presentation Currency)は機能通貨と異なる通貨を採用することも可能であり、親会社が作成する連結財務諸表との整合性を考慮して選択されることがあります。
たとえば、機能通貨をUSドルに決定した場合、シンガポールドル建、あるいは日本円建、他の通貨の取引であっても、決定した通貨に従います。実務上シンガポールドル建で取引が行われるのであれば、随時換算するように会計システムを構築するか、もしくは取引が行われる場合にシンガポールドルで帳簿記録をし、期末前にすべて再測定(Remeasurement)をする方法もあります。
また、親会社が作成する連結財務諸表での合算実務等を考えると、 機能通貨と表示通貨を別にする優位性もあります。表示通貨とは、財務諸表で示される通貨ですが、必ずしも機能通貨と同様の通貨にする必要はありません。
シンガポールの会計基準
【シンガポールの会計基準】
■シンガポールの会計基準
シンガポールでは会社法により、企業活動を行う会社が順守すべき会計基準が規定されています(会社法201条1A項)。
シンガポールで採用される会計基準は、財務省(MAS)管轄の会計基準審議会(ASC:Accounting Standard Council)が管理しており、法的には財務報告基準(FRS)と財務報告基準解釈指針(INT FRS)から構成されています。
この基準はシンガポール財務報告基準(SFRS: Singapore Financial Reporting Standard)と呼ばれ、国際財務報告基準(IFRS)とは区別されています。
ただし、その内容は文言に至るまでほぼ同一で、建国当初から国際的なビジネス・ハブとして成長しようとしてきたシンガポールの姿勢が表れています。
2018年以降、上場企業はSFRS(I)の適用が義務付けられています。
■シンガポール財務報告基準の適用対象会社
上場会社はSFRS(I)に準拠して財務諸表を作成しなければなりません。非上場会社はSFRSまたはSFRS(I)を選択適用することが可能です。なお、会計と税法上の処理は基本的に分離されており、監査済財務諸表の利益金額に税法上必要な加減算の調整を行った上で、課税所得が算定されます。
■国際財務報告基準のアドプション・コンバージェンス
シンガポールでは2018年1月以降、すべての上場会社に対してSFRS(I)の適用が義務付けられ、IFRSとの完全整合(フル・コンバージェンス)が実現しています。
これにより、国際的な財務報告との整合性が一層高まり、海外投資家にとっても理解しやすい制度となっています。
■中小企業向け財務報告基準の状況
下記の要件を2つ以上満たした小会社(Small Company)については、監査免除の対象となる可能性があります。
・年間売上が1,000万シンガポールドル未満
・総資産が1,000万シンガポールドル未満
・従業員数が50名未満
また、中小企業向け会計基準(SFRS for Small Entities)を適用することも可能であり、開示要件が簡素化されています。
■シンガポール財務報告基準と国際財務報告基準の違い
現在のSFRS(I)はIFRSと完全整合しているため、実質的な差異はありません。ただし、会社法上はシンガポール財務報告基準への準拠が求められる建付けとなっています。
そのため、国際財務報告基準同様に財務報告基準にも国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC:International Financial Reporting Interpretations Committee)解釈指針や解釈指針委員会(SIC:Standing Interpretations Committee)解釈指針書等と類似の解釈指針があり、また各基準の内容も現行の財務報告基準と国際財務報告基準はほぼ同様であるため、アドプション(フルコンバージェンス)したとしても、それに伴う大きな影響はないと思われますが、一部内容がことなる部分については検討が必要です。
ただし、会社法がシンガポールの財務報告基準に準拠するように求めていることから、現状の関係では大部分のアドプションを行いながらも、会社法の建前上、IFRSではなく、シンガポール財務報告基準を承認しています。
シンガポールの開示制度
■概要
シンガポールは、重要なビジネスインフラの一つである企業開示制度において、高い透明性を確保している国として評価されています。日本では未上場会社の財務諸表は原則として一般公開されませんが、シンガポールでは未上場会社であっても、一定の財務情報を規制当局へ提出する義務があり、その一部は一般に閲覧可能となっています。
会社は、Companies Act 1967に基づき、年次申告(Annual Return)を規制当局へ提出しなければなりません。この提出先は、企業登記および会社規制を所管するAccounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)です。提出された情報のうち一定範囲は公開情報として取り扱われ、利害関係者は所定の手続を経て入手することが可能です。
具体的には、財務諸表はXBRL(eXtensible Business Reporting Language)形式で提出され、ACRAが運営する電子申請・閲覧システム「BizFile+」を通じて検索・取得することができます。利用者はオンライン登録を行い、所定の手数料を支払うことで、会社の基本情報や財務情報をダウンロードすることができます。近年はデータ標準化が進み、機械的な財務分析も容易になっています。
もっとも、すべての会社が完全な財務諸表を公開しているわけではありません。監査免除の対象となる小会社(Small Company)については、簡易XBRL形式での提出が認められており、開示される財務情報の範囲は限定的です。また、一定の非公開会社については、財務諸表の全文提出義務が免除される場合もあります。そのため、会社規模や区分に応じて閲覧可能な情報の範囲は異なります。
財務情報に加え、シンガポールでは企業の登記事項についても広範な公開制度が整備されています。例えば、以下の情報を確認することができます。
会社名および登録番号
設立年月日
登記上の住所
払込資本金
取締役および会社秘書役の氏名
株主構成(一定範囲)
会計監査人の名称
直近の年次申告提出状況
このように、会社の基本情報および財務情報へのアクセスが制度的に担保されていることから、取引先の信用調査、与信管理、投資判断などにおいて有用な情報源となっています。公開会社・非公開会社の別なく、一定水準の情報が入手可能である点は、シンガポールのビジネス環境の透明性を支える重要な特徴といえます。
なお、年次申告の提出期限については、非上場会社の場合、会計年度終了後7か月以内にACRAへ提出する必要があります。そのため、決算日直後の最新情報が直ちに公開されるわけではなく、情報更新までに一定の時間差が生じる点には留意が必要です。
■上場スケジュール
シンガポールの証券市場は、Singapore Exchange(SGX)が運営しており、株式市場は主として「Mainboard」と「Catalist」の二市場から構成されています。なお、2020年に従来の「Mainboard」と「SESDAQ」は統合され、現在は単一のMainboard体制となっています。
(1)Mainboard
Mainboardは、一定の事業実績、収益力、時価総額などの基準を満たす企業を対象とした市場です。比較的成熟した企業が多く上場しており、機関投資家を含む幅広い投資家層を対象としています。
Mainboardへの上場にあたっては、SGXによる直接審査が行われます。上場申請書類の提出後、SGXによる質疑応答や追加資料提出を経て承認が行われるため、一般的には申請から上場までおおむね3~4か月程度を要します。ただし、実際のスケジュールは企業の準備状況や案件の複雑性により変動します。
上場基準は、利益基準、時価総額基準、営業収益基準など複数のルートが設けられており、必ずしも黒字実績のみが要件ではありません。
(2)Catalist
Catalistは、成長企業向け市場として位置付けられており、将来的な成長可能性を重視した設計となっています。Mainboardとの最大の違いは、SGXが直接審査を行うのではなく、SGXが認定したスポンサー(Approved Sponsor)が上場審査および継続的なコンプライアンス監督を担う点にあります。
このスポンサー制度により、Catalistでは比較的柔軟な審査体制が採られています。申請から上場までの期間は案件によって異なりますが、準備が整っている場合には数か月程度での上場も可能とされています。
スポンサーは、上場時の審査のみならず、上場後も原則として継続的に企業の開示義務遵守やガバナンス体制をモニタリングします。特に上場初期段階ではスポンサーの関与が重要な役割を果たします。
Mainboardは成熟企業向けの市場であり、一定の財務基盤や事業実績が求められます。一方、Catalistは成長企業の資本市場アクセスを促進するための市場であり、事業の将来性やビジネスモデルの合理性が重視されます。
いずれの市場においても、上場企業はSGXのListing Rulesに従い、継続的開示義務、コーポレート・ガバナンス要件、内部統制体制の整備等を求められます。シンガポールは「Comply or Explain」原則に基づくガバナンス体制を採用しており、透明性と市場規律を重視する制度設計となっています。
■開示スケジュール
シンガポールにおける開示制度は、Companies Act 1967およびSingapore Exchange(SGX)が定めるListing Rules(Mainboard RulesおよびCatalist Rules)に基づいて構築されています。メインボードおよびカタリストの開示枠組みは基本的に共通しており、定期開示と継続開示の二本柱によって運用されています。
・上場会社
上場会社は、年次財務報告書(Annual Report)を会計年度終了後4か月以内に公表しなければなりません。年次報告書には、監査済財務諸表、取締役報告書、コーポレート・ガバナンス報告書などが含まれます。
半期財務報告については、半期終了後45日以内に公表する義務があります。半期報告は通常未監査ベースで作成されます。
かつては、一定の時価総額(7,500万Sドル超)を有する企業に対し四半期報告義務が課されていましたが、制度改正により現在は原則として四半期報告義務は廃止されています。ただし、企業の財務状況や取引の重要性等に応じて、SGXが追加開示を求める場合があります。
これらの定期開示書類は、日本における有価証券報告書および半期報告書に相当するものといえます。
なお、定期開示とは別に、価格に重大な影響を与える情報については、発生次第速やかに公表する継続開示義務(Continuous Disclosure Obligation)が課されています。
・現地法人
非上場のシンガポール法人は、会計年度終了後7か月以内に年次申告(Annual Return)をAccounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)へ提出しなければなりません。
従来は定時株主総会(AGM)の開催が前提とされていましたが、現在は一定条件のもとでAGMの省略が認められており、書面決議による承認も可能となっています。
監査対象会社については、監査済財務諸表を添付して提出する必要があります。Small Companyに該当し監査免除を受けている会社は、簡易形式での提出が認められています。
提出期限を徒過した場合には、遅延期間に応じた延滞金(Late Filing Penalty)が科されます。ペナルティ額は遅延期間に応じて段階的に増加し、長期未提出の場合にはより重い制裁や訴追の対象となる可能性があります。
・支店
外国会社がシンガポールに支店を設置している場合、当該外国会社は本国の財務諸表に加え、シンガポール支店に関する財務情報をACRAへ提出する義務があります。
提出期限は、原則として本国での財務諸表確定後一定期間内とされており、具体的な期限はCompanies Actの外国会社規定に基づきます。
提出を怠った場合には、会社および責任ある役員または現地代理人に対して罰金等の制裁が科される可能性があります。
■開示資料の内容
シンガポールにおける財務開示制度は、Companies Act 1967を基礎として構築されています。
従来は、すべての会社が決算終了後6か月以内に定時株主総会(AGM)を開催し、監査済財務諸表を承認のうえ提出することが義務付けられていました。しかし現在では、一定の要件を満たす非上場会社についてはAGMの開催が省略可能となっており、書面決議による承認も認められています。
非上場会社は、原則として会計年度終了後7か月以内に年次申告(Annual Return)をAccounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)へ提出しなければなりません。上場会社の場合は、より短い期限が適用されます。
提出対象となる財務諸表一式は、一般的に以下の構成となります。
① 取締役報告書(Directors’ Statement / Directors’ Report)
取締役は、会社の財務状況および事業活動の概要について報告する責任を負います。主な記載事項は次のとおりです。
当該事業年度の事業内容および主要活動
損益計算書の概要
配当の支払状況
取締役の株式保有状況(会社、親会社、子会社等を含む)
資本金の増減
子会社の増減
偶発債務および重要な後発事象
② 取締役宣誓書(Statement by Directors)
取締役は、財務諸表が真実かつ公正な概観(true and fair view)を表示していること、および会社が支払能力を有していることについて声明を行います。これは取締役の法的責任を明確にする重要な文書です。
③ 監査報告書(Independent Auditor’s Report)
監査対象会社の場合、公認会計士による監査報告書が添付されます。監査人は、監査基準に準拠して監査を実施し、財務諸表がCompanies Actおよび会計基準に準拠して作成されているかについて意見を表明します。
なお、Small Company要件を満たす場合には監査免除が認められています。
④ 財務諸表本体
財務諸表は通常、以下の書類で構成されます。
財政状態計算書(Statement of Financial Position)
包括利益計算書(Statement of Comprehensive Income)
持分変動計算書(Statement of Changes in Equity)
キャッシュ・フロー計算書(Statement of Cash Flows)
注記事項(Notes to the Financial Statements)
シンガポールでは、Accounting Standards Council(ASC)が定めるSingapore Financial Reporting Standards(SFRS)が適用されます。上場会社には、IFRSとほぼ同一内容のSFRS(I)が適用されます。
これらの基準は、一般に「原則主義(Principle-based)」の会計基準といわれています。細則的なルールよりも、経済実態を重視する考え方が採用されているため、特定の取引に対する会計処理の選択にあたっては、経営者および監査人の専門的判断が重要となります。
その結果、注記事項は非常に分量が多く、複雑な開示が求められる傾向にあります。リース、収益認識、金融商品、公正価値測定などの分野では、詳細な開示が必要となるため、実務上は作成負担が大きいといわれています。
外国企業がシンガポールに登録支店を設置している場合、一定条件のもとで以下の基準による財務諸表提出が認められています。
国際財務報告基準(IFRS)
米国会計基準(US GAAP)
このように、シンガポールは国際的整合性を重視した柔軟な制度設計を採用しており、海外企業の進出や資本市場アクセスを促進する環境が整備されています。
■連結財務諸表
シンガポールにおいては、親会社が子会社を支配している場合、原則として連結財務諸表を作成する必要があります。これはCompanies Act 1967に基づく財務報告義務および、会計基準であるSFRS(I) 10 Consolidated Financial Statementsの適用によるものです。
現在の制度では、単純な議決権比率のみならず、「支配(control)」の有無に基づいて連結範囲を判断します。SFRS(I)はIFRSと実質的に同一の基準を採用しており、経済的実態を重視した判断が求められます。
[連結対象会社]
連結対象となるのは、親会社が「支配」を有している企業です。支配とは、以下の三要素をすべて満たす場合を指します。
1. 被投資会社に対するパワー(Power)を有していること
2. 変動リターンへのエクスポージャーを有していること
3. 当該パワーを用いてリターンに影響を与える能力を有していること
具体的には、以下のような場合に連結対象となります。
• 親会社が議決権の過半数を直接または間接に保有している場合
• 過半数を保有していなくても、契約や合意により実質的な支配権を有する場合
• 他の投資家との協定により議決権をコントロールしている場合
• 財務方針および営業方針を決定する権限を有している場合
• 取締役会の過半数を任命または解任する権限を有している場合
したがって、現在の基準では「議決権50%超」という形式基準のみではなく、実質的支配の有無を総合的に判断することが重要です。
[連結除外対象会社]
現行のSFRS(I)では、従来のような「一時的保有」や「送金制限」を理由とする広範な連結除外規定は原則として認められていません。支配が存在する限り、原則として連結対象となります。
ただし、以下のようなケースでは例外的な取扱いが認められることがあります。
• 親会社自体がInvestment Entity(投資企業)に該当する場合
子会社を連結せず、公正価値で測定する取扱いが適用されることがあります。
この投資企業の判定は厳格であり、主たる事業目的や投資家構成など複数要素を総合的に検討します。
[例外規定]
会社が他の会社の子会社である場合、一定の要件を満たせば連結財務諸表の作成が免除されます。主な要件は以下のとおりです。
• 当該会社が他の会社の100%子会社である場合
または100%子会社でない場合でも、少数株主が連結免除に反対していないこと
• 当該会社の債券または株式が公開市場で取引されていないこと
• 公開市場で証券を発行する目的で財務諸表を規制当局へ提出していないこと
• 上位親会社がSFRS(I)またはIFRSに準拠した連結財務諸表を作成しており、それが一般に入手可能であること
この免除規定は、グループ全体としての財務情報が適切に開示されていることを前提とする制度です。
■ 実務上の留意点
シンガポールでは、会計基準が原則主義(Principle-based)であるため、連結範囲の判定にあたっては形式的な持株比率のみならず、契約内容、株主間合意、潜在議決権なども含めて慎重に検討する必要があります。
また、Small Companyに該当して単体監査が免除される場合であっても、グループ規模によっては連結ベースで監査対象となる可能性があります。
【シンガポールの会計監査】
■監査制度
日本では、上場会社や会社法上の大会社を除き、小規模会社については公認会計士監査は任意とされています。
一方、シンガポールの監査制度は英国法(コモンロー)を基礎とする法体系のもとで整備されており、Companies Act 1967に基づき、原則として会社は監査人を選任しなければなりません。
従来は「すべての会社が監査を受けることが原則」とされていましたが、現在はSmall Company監査免除制度が導入されており、一定の条件を満たす会社は監査義務が免除されます。
会社は設立後原則3か月以内に監査人を選任しなければならず、監査対象会社は毎会計年度ごとに財務諸表の監査を受ける必要があります。
外国会社のシンガポール支店についても、一定の場合に監査済財務諸表の提出が求められますが、本国で作成された監査済財務諸表の提出により足りるケースもあります。
現在、以下の3要件のうち2つ以上を満たす会社はSmall Companyに該当し、監査が免除されます。
• 従業員数が50人以下
• 年間売上高が1,000万シンガポールドル以下
• 総資産が1,000万シンガポールドル以下
さらに、グループ会社の場合には、個社単体だけでなくグループ全体としてSmall Group要件を満たす必要があります。また、休眠会社(Dormant Company)についても一定の条件下で監査が免除されます。この制度により、現在では多くの中小企業が監査免除の対象となっています。
シンガポールで法定監査を実施できるのは、Accounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)に登録された公認会計士(Public Accountant)のみです。
監査人は、シンガポール監査基準(Singapore Standards on Auditing)に従って監査を実施します。これらの基準は国際監査基準(ISA)と実質的に整合しています。
■監査の内容
シンガポールの監査報告書は、国際監査基準に準拠して作成され、日本や他国と同様に主に以下の4種類の意見区分が想定されています。
1. 無限定適正意見(Unqualified Opinion)
2. 限定付適正意見(Qualified Opinion)
3. 否定的意見(Adverse Opinion)
4. 意見不表明(Disclaimer of Opinion)
監査人は、財務諸表がCompanies Actおよび適用会計基準(SFRSまたはSFRS(I))に準拠し、「真実かつ公正な概観(true and fair view)」を表示しているかどうかについて意見を表明します。
近年、シンガポールでは監査の質向上を目的としたモニタリング体制が強化されており、監査人に対する品質レビューや規律措置も厳格化されています。
また、監査免除対象であっても、銀行融資、投資家対応、親会社連結目的などにより、任意で監査を実施する企業も少なくありません。
そのため、監査の要否は単に法定義務の有無だけでなく、資金調達戦略やグループ方針を踏まえて総合的に検討することが重要です。
[監査委員会の強制設置]
シンガポールは、1997年のアジア通貨危機以降、上場企業のコーポレート・ガバナンス強化を段階的に進めてきました。その一環として、ガバナンス体制の高度化が図られ、現在では上場企業に対して厳格なガバナンス要件が課されています。
上場会社は、Singapore Exchange(SGX)のListing Rulesに基づき監査委員会(Audit Committee)の設置が義務付けられています。また、Companies Act 1967においても、一定の公開会社(public company)について監査委員会の設置が規定されています。
監査委員会は、原則として3名以上の取締役で構成され、その過半数は独立取締役でなければなりません。また、少なくとも1名は会計または財務管理に関する専門知識を有している必要があります。
その主な職務は以下のとおりです。
• 外部監査人との連携および監査計画のレビュー
• 財務諸表の審査および適正性の確認
• 内部統制システムの有効性の評価
• 内部監査機能の監督
• 会計監査人の独立性および報酬の検討
従来の会社法上の規定は主に財務監査機能に焦点を当てたものでしたが、現在はSGXのガバナンス規程およびCode of Corporate Governance 2018に基づき、内部統制、リスク管理、監査人の独立性確保など、より広範な監督機能が求められています。
このように、シンガポールの監査委員会は単なる会計監査補助機関ではなく、企業の財務報告および内部統制体制を監督する重要なガバナンス機関として位置付けられています。
[公認会計士制度 ― Chartered Accountant(CA)制度]
2013年、政府機関であるSingapore Accountancy Commission(SAC)は、会計士資格制度を刷新し、Chartered Accountant(CA)制度を導入しました。
これにより、従来の「Singapore Certified Public Accountant(CPA)」制度は統合され、現在はSingapore CA Qualificationを修了した者が「Chartered Accountant of Singapore(CA Singapore)」の称号を取得する制度となっています。
新制度の主な要件は以下のとおりです。
• 認定大学の学位取得
• 認定訓練機関(ATO:Accredited Training Organisation)での3年以上の実務経験
• Singapore CA Qualificationプログラムの履修および試験合格
この制度の目的は、会計専門職の国際的競争力を高め、グローバル基準に適合した人材育成を推進することにあります。なお、制度移行時に既存の公認会計士であった者は、自動的にChartered Accountantへ移行しています。
シンガポールのCA制度は国際的な相互承認制度を有しており、たとえばInstitute of Chartered Accountants in England and Wales(ICAEW)などと相互承認協定を締結しています。これにより、一定の条件のもとで海外資格との互換性が認められ、国際的な業務展開が可能となっています。
参考資料
・日本経団連企業会計部会・企業会計基準委員会・日本公認会計士協会「イン ド・シンガポールミッション報告」2010 年 3 月
・ACRA(Accounting and Corporate Regulatory Authority)
・KPMG 「シンガポール市場の概要」2011年 1月 18日
・First Spring International (「シンガポールの会計制度」参照)
・有限責任監査法人トーマツ IFRS センター・オブ・エクセレンス「おさえて おきたい世界の IFRS 事情(第 4 回)――シンガポール」 企業会計 2011 年 4月号
・金融庁「シンガポール基準と IFRS とのフルコンバージェンス完了の延期に関 するプレスリリース」
・有限責任監査法人トーマツ 「平成 22 年度総合調査研究『会計基準改訂にか かる情報開示制度等に関する調査研究』報告書」2011年 3月 31日
・林孝宗「シンガポールにおけるコーポレート・ガバナンス-取締役会の機能と 独立取締役の役割を中心にー」社学研論集 Vol.16