第3章地域統括会社の活用方法
配当により利益を集約し、再投資拠点とする方法
■配当により利益を集約し、再投資拠点とする方法
本章では、実際の地域統括会社の活用方法とその際の課税関係を、日本から直接投資を行った場合と、地域統括会社を設置した場合とで比較しながら解説していきます。
ビジネスとは一般的に投資をすることにより利益が還元され、得た利益を再投資の資金に回すというような付加価値の連続で成り立っています。当該利益を使って新しいビジネスを打ち立てることや、既存事業拡大のため再投資を繰り返すことにより、さらなる利益を生み出すことができるのです。したがって、 低税率国にビジネスの再投資拠点を置くことにより、還元される利益に対する課税額が抑えられ、その分を再投資に回すことができます。
このように、再投資の財源確保のため、いかに税負担を軽減するかがアジア地域の組織構築における重要なテーマとなるでしょう。
■配当による利益の還流
配当により海外の子会社が稼得した利益を還流する方法が一般的です。その際、配当を受取った国においては、通常所得として扱われ、所得税が課税されることになります。一方、配当の支払国側では、所得の源泉地であるため、源泉所得税が課税されることになります。
これらの税務要件が他国に比べて優遇されている国も存在します。シンガポール、香港はその代表であり、税率差を利用することで税コストを削減することができます。
また、租税条約を締結している国同士であれば、国内法、租税条約のうち、どちらか有利な税率を選択することができます(プリザベーション・クローズ)。
■受取配当所得に対する課税
シンガポールにおいては、企業誘致のため税率の軽減化を強化しており、受取 配当所得に関しても免税などの優遇措置を設けています。日本を含むそれぞれの課税の要件については次のとおりです。
■日本において配当を受取る場合
日本の場合、 配当所得に対しては日本国内にて課税されます。法人の場合、受取配当は法人税法上では課税所得に算入され、法人税の課税対象となります。当該配当は日本で課税される以前に、外国子会社の所在地国にて法人の所得に対する税が課税された後の税引後の利益から支払われるため、外国子会社の所得に関し、通常、現地と日本にて二重課税が発生していました。この国際的二重課税を回避するため、2009年度に税制が改正され、外国子会社 配当益金不算入制度が導入されました。当該改正により日本での所得金額の計算上、配当金額の95%が非課税とされるようになりました(法人税法23条2項)。
つまり、海外子会社から受取る配当金に対しては、配当金額の5%に法人税率を乗じて算出された金額が課税されることになります。
[計算例:子会社からの配当が100の場合]
(1)受取配当所得= 100
(2)外国子会社配当の益金不算入= 100 × 95% = 95
(3)課税の対象となる所得(1)-(2)= 100 – 95 = 5
(4)日本での納付税額= 5 × 23.4%※ = 1(1.17)
※計算の便宜上、日本の法人実効税率を23.4%と仮定する。以下同様
【外国子会社から日本親会社へ配当を送る場合】
■シンガポールにおいて配当を受取る場合
[シンガポールの場合]
原則、シンガポールでは配当を受け取る場合、国外源泉所得、国内源泉所得に関わらず非課税となっています。
■配当の支払国における源泉所得税
■各国の子会社から直接日本へ還流する場合と地域統括へ還流する場合の違い
上述のとおり、各国の子会社から直接日本へ還流するのではなく、地域統括会社へ還流し、再投資することにより、税金の軽減化や投資の効率化につながります。
その際、地域統括会社に 配当を還元する前に、被統括会社の所在地国の税法に従い源泉課税されます。しかし、統括会社と被統括会社の所在する国同士が租税条約を締結している場合、原則国内法と租税条約に定められている税率のどちらか有利な方を選択することができます。
例としてタイ、インドネシア、ベトナムを取り上げると、各国に所在する子会社から直接日本の親会社に還流する場合、国内法において、タイは10%、インドネシアは20%、ベトナムは非課税と源泉税率が定められており、各国で配当課税額を支払う義務が発生します。
ただし、各国ともに日本と租税条約を締結しており、タイは10%、インドネシアは10%、ベトナムは非課税となっています。
ここで、インドネシアから日本に配当100を送ると仮定して、最終的な日本での手取額を考えてみます。
まず、日本に配当を送る前にインドネシアで源泉課税されます。税率に関しては、上表にあるように10%が課税されますので、100から10を引いた90が日本に送られることになります。日本に配当が届いたら、これに対しても課税されます。上述したように、日本は海外子会社から受けた配当に対して、配当金額の5%に法人税率である23.4%を乗じた額が課税されるので、今回のケースの場合、100の5%のさらに23.4%ということなので、1(1.17)が課税金額となります。
つまり、日本に送られてきた配当の90から1(1.17)を引いて算出した89が日本で受ける手取額ということになります。
また、他国においても、同様の計算により手取額が算出されます。
しかし、シンガポールに関しては、地域統括会社の場合、配当に対して非課税となるため、単純に配当額からそれぞれ租税条約にて定められている税率を乗じた額を差引いたものが、各国での手取額となります。
一方この場合、各国の法人税率に気を付けなければなりません。 低税率国に地域統括会社を設立する場合は、タックス・ヘイブン対策税制を考慮する必要があります。特にシンガポールは、法人税率が17%となっており、租税負担20%以下という低税率国の定義に該当しているので注意が必要です。
■地域統括会社から日本の本社へさらに還流する場合
被統括会社で得て統括会社に還元した配当を、再投資に回さず日本本社へ還流する場合、日本と対象国の間で締結された租税条約もしくは各国国内法に基づいて課税されます。
日本とシンガポール、香港間の配当に係る租税条約および国内法の源泉税率は、下記のとおりです。
シンガポールから日本へ配当を送る場合、上記にあるように、租税条約よりも国内法で定められた税率の方が有利になっているため、国内法が適用されます。たとえば、シンガポールの場合、支払国では源泉非課税となっているため、日本の親会社への配当については、外国子会社配当益金不算入制度による1.5%(5%×23.4%(法人税率))の課税のみとなります。
ファイナンス・カンパニー(貸与機能)としての活用
■ファイナンス・カンパニー(貸付機能)としての活用
地域統括会社は、日本に所在する親会社のファイナンス・カンパニーとして活用することができます。それにより、グループ内で貸付けを行うことができ、他から借入れるのに比べ、資金の管理が効率化されるとともに、利子に対する課税も低く抑えることができます。
まず流れとしては、シンガポールなどの低税率国に地域統括会社をおき、高税率国の事業会社を被統括会社にします。そして、高税率国にある被統括会社が低税率国にある地域統括会社から資金の借入れを行い、利子を支払います。
その結果、高税率国の被統括会社は支払利子を損金算入することにより、課税所得は減少し、 低税率国の地域統括会社は受取利子の税率が軽減されます。
このように、地域統括会社を ファイナンス・カンパニーとして活用するためには、利子に対して非課税または低税率であるなど金融インフラが充実していること、資金移動を制限するような規制が少ないことなどが必要になります。
ただし、グループ会社が増えてグループ内での貸付が多くなると、資金管理が複雑になるため、グループ内の資金の最適配分を考えなければいけない点に注意が必要です。
【ファイナンス・カンパニーとしての活用イメージ】
■受取利子に対する課税
シンガポールは、受取利子に関しても配当同様に、免税などの優遇措置を設けています。日本を含むそれぞれの課税の要件は以下のとおりです。
■日本において利子を受取る場合
日本の場合、受取利子に対して通常の法人税が課されます。ただし、外国税額控除の対象であれば、源泉地国にて源泉課税された分を法人税から控除することができます。たとえば、インドネシアから日本に利子を支払う場合、租税条約により定められている税率である10%がインドネシアにおいて源泉課税されるので、実際に日本での課税率は23.4%から10%を控除した13.4%が受取利子に対して課税されます。
【インドネシアから日本へ利子を送金する場合】
■シンガポールにおいて受取る場合
シンガポール国内において受領する 国外源泉所得については、原則課税対象となります。したがって、海外子会社から受取る利子については課税対象となりますが、以下の要件を満たすことにより免税の対象となります。
・ 国外支店での所得に帰属するもので、すでに対象国において課税対象になっていること
・ 対象国の最高法人税率が、15%以上であること
・ 2003年6月1日以降に受領したもの
■利子の支払国における源泉所得税
■各国の子会社から直接日本へ還流する場合と地域統括へ還流する場合の違い
支払利子においても、配当と同様に地域統括会社に還流する際、被統括会社と統括会社の間に締結された租税条約、もしくは国内法に定められている税率が課せられます。
例としてタイ、インドネシア、ベトナムを取り上げると、各国に所在する子会社から、直接日本の親会社に還流する場合、国内法では、タイは15%、インドネシアは20%、ベトナムは10%となっており、各国で利子に対する源泉税額を支払う必要があります。しかし、二国間で租税条約を締結している場合、国内法、租税条約で定められている税率のうち、有利な方を選択することができます。租税条約の有無については前掲の表のとおりとなっており、税率については、次ページのようになります。
■利子支払時における税
利子支払時には、GSTは課税されません。
決済機能集約による効率化の活用事例
■決済機能集約による効率化の活用事例
現在、多くの日本企業が海外に進出し、生産、販売の拠点として子会社を複数設立するケースが存在します。しかし、子会社が増えることにより取引数が増大し、複雑化することで、決済が困難になってしまいます。そこで、日本に本社を置く企業がアジアに複数の子会社を展開している場合、地域統括会社に決済機能を集約させることで、アジア地域の複数拠点で発生する膨大な取引の効率化や為替リスクの軽減を図ることが可能になります。
■決済の効率化、為替リスクの軽減のための活用
アジア地域の複数の国に生産拠点と販売ネットワークがあり、グループ会社間で原材料や部品などを生産し、相互補完する仕組みがある場合、地域統括会社で膨大にある取引の効率化および為替リスク軽減を図る必要があります。その場合、アジア地域内のグループ会社間の取引(部品・原材料の相互調達)のすべてを仲介し、相殺処理決済を行います。
■三拠点取引による為替リスクの軽減
ベトナムに拠点を置くグループ会社からインドネシアに拠点を置くグループ会社へと取引の流れがある場合、通常は二拠点間で直接取引が行われますが、今回は二拠点の間に地域統括拠点を活用する三拠点取引の事例について考えてみます。
インドネシアとベトナム間において取引が行われるときに、二国間にシンガポールを拠点とした地域統括会社を置いた場合、通常二拠点間取引では互いの自国通貨を使用するため為替リスクが生じてしまいます。しかし、二国間に地域統括会社を置き、当該取引を地域統括会社において相殺処理することにより、為替リスクを軽減することが可能になります。またこの場合、地域統括会社は決済拠点として利用し、実際の商品の流れは二国間で行われることになるので、物流のルートが変わるなどのリスクもありません。
これらの膨大な取引をすべて各国の事業会社間でバラバラに行えば、銀行手数料だけで相当な金額になる上に、為替変動によるリスクも大きいため、採算性の低下が懸念されます。そのため、地域統括会社である海外ホールディング・カンパニーを設立することにより、このような仲介取引をすることが可能となります。
これらの観点から、金融インフラが整備されているシンガポールや香港は、決済機能を集約する地域統括会社の設立国として選定されるケースが多いのです。
【地域統括会社を活用した決済機能の効率化】
サプライチェーンの機能およびリスクを見直す事例
■サプライチェーンの機能およびリスクを見直す事例
一般的に、製造業の研究開発、原材料の調達、製造、配送、マーケティング、販売、アフターサービス等、一連のプロセスを サプライチェーンといいます。
日本企業の生産拠点の海外展開が進んだことで、 サプライチェーンを複数の国のグループ会社を通じて行われるケースが増えています。そのことにより、地域統括会社のメリットを活かせる一方、在庫リスク、流通の複雑化など一定のリスクを負うことにも注意が必要になります。そこで、一連のサプライチェーンから生じた利益に対する実効税率軽減の事例と、それに伴うリスクを考えてみたいと思います。
■実効税率の軽減とそれに伴うリスク
たとえば、インドネシアやベトナムなどに生産拠点を設ける際、対象となる地域統括会社に、特許権や商標権、販売ノウハウなどの無形固定資産を移転します。また、無形固定資産の形成、維持、発展に伴う研究開発活動やブランド価値創造を行う機能も移転させます。
高税率国にある各国の被統括会社は、地域統括会社から受けた無形固定資産の使用対価であるロイヤルティを支払います。
支払ロイヤルティは、高税率国で損金算入され、受取ロイヤルティは、低税率国で課税されることになるので、グループ全体の実効税率を抑えることができます。
ただし、 ロイヤルティは支払時に源泉徴収課税する国が多いので、無形資産を保有する地域統括会社の所在する国とロイヤルティを支払う被統括会社の所在する国が租税条約において、優遇された税率が定められているかがポイントとなります。
その他、地域統括会社が販売を代行する場合、委託者である被統括会社は、販売代理人である地域統括会社に販売手数料を支払います。販売手数料は、高税率国で損金算入され、受取手数料や製品の販売利益は低税率国で課税されることになるので、グループ全体の実効税率を抑えることができます。
【低税率国でロイヤルティを受取る場合】
■ロイヤルティに対する課税
地域統括会社が被統括会社に技術などを移転した際、対価としてロイヤルティを受取ります。 ロイヤルティとは、ブランドやノウハウに係る使用料等が該当します。
なお、配当、利子同様に、ロイヤルティも課税対象となります。
■日本においてロイヤルティを受取る場合
日本で ロイヤルティを受取った場合、当該ロイヤルティに対して法人税が課せられます。ただし、 外国税額控除の対象であれば、源泉地国にて源泉課税された税額を法人税から控除することができます。たとえば、インドネシアから日本にロイヤルティを支払う場合、租税条約により定められている税率である10%がインドネシアにおいて源泉課税されますので、日本では通常の法人税率である23.4%から10%を控除した13.4%が受取 ロイヤルティに対して課税されます。
【インドネシアから日本にロイヤルティを送る場合】
■シンガポールにおいてロイヤルティを受取る場合
シンガポールにおいて国外からロイヤルティを受領する場合、原則17%の法人税率が課税されます。ただし、地域統括会社の場合、15%の軽減税率が適用されます。
■ロイヤルティの支払国における源泉所得税
■各国の子会社から直接日本へ還流する場合と地域統括へ還流する場合の違い
ロイヤルティの支払においても、配当、利子と同様に地域統括会社に還流する際、被統括会社と統括会社の所在国間に締結された租税条約に定められている税率が課せられます。
例としてタイ、インドネシア、ベトナムを取り上げると、各国に所在する子会社から、直接日本の親会社に還流する場合、国内法では、タイは15%、インドネシアは20%、ベトナムは10%の源泉税率となっており、各国で利子の課税額を支払う必要が発生します。しかし、二国間で租税条約を締結している場合、原則として租税条約もしくは国内法に定められている税率のうち有利な方を選択できます。税率は以下のようになります。
■ロイヤルティ支払時における税
原則として、ロイヤルティ支払時にVATやGSTは課税されません。ただし、タイは日本へのロイヤルティ支払時はサービスの輸入としてVATの対象となります。
■マネジメント・フィーに対する課税
地域統括会社が被統括会社に対し役務提供を行う場合、対価としてマネジメント・フィーを受取ることになります。
当該役務提供にはマネジメントサポート契約等が該当し、その対価として支払われるマネジメント・フィーに対する課税は、VAT及びGSTなどに留意が必要です。
■日本においてマネジメント・フィーを受取る場合
日本でマネジメント・フィーを受取った場合、当該マネジメント・フィーに対して通常の法人税率が課せられます。
■シンガポールにおいてマネジメント・フィーを受取る場合
シンガポールにおいて国外からマネジメント・フィーを受領する場合、原則17%の法人税率が課税されます。ただし、地域統括会社の場合、15%の軽減税率が適用されます。
■マネジメント・フィーの支払時における税
マネジメント・フィーを地域統括会社に還流する場合、支払国側でVATが課税されることに留意が必要です。
タイ、インドネシア、ベトナムにおいて課税されるVATの税率は次のとおりです。
[タイの場合]
タイの付加価値税(VAT)の対象になります。VATの現行の税率は7%です。
[インドネシアの場合]
インドネシアの付加価値税(VAT)の対象になります。VATの税率は、原則10%とされていますが、政令により5 ~15%の間で変更できることになっています。
[ベトナムの場合]
経営指導料のようなサービスに対しては、外国契約者税としてみなし法人税が総額の5%、VATが総額の5%の合計10%が課税されます。
国によっては、VAT・サービス税の他、租税条約により源泉徴収税が発生する場合もありますので注意が必要です。
■シンガポールが統括拠点として注目されている理由
シンガポールは低税率国ということもあり、地域統括会社の設立国に選定されるケースが多いですが、税制上のメリットのほか、周辺国へのアクセスが容易な点など他国に比べ多くの優位性を持ち合わせている点も注目を集めている要因として挙げられます。
ただし、これらの場合、移転価格税制、タックス・ヘイブン対策税制、PE課税を検討する必要がある点にも注意が必要となります。
参考文献
・ みずほコーポレート銀行産業調査部「戦略編(2)本社機能の海外移転に関する考察」 みずほ産業調査39 巻5 号(2012年5月7日)
・ 江藤祐一郎、菊井隆正、石田仁司「アジア地域統括会社(4)――シンガポールにおける地域持株会社設立に伴う税制」国際税務、2006年5月号
・ 新日本アーンストアンドヤング税理士法人編『クロスボーダー M&A の税務戦略』中央経済社、2009年
・ PWC 編『国際税務ハンドブック〈第2 版〉』中央経済社、2013年
・ 税理士法人トーマツ編『アジア諸国の税法〈第8 版〉』中央経済社、2013年