第4章地域統括会社の作り方
■シンガポール・香港における地域統括機能
地域統括会社とは、さまざまな国に拠点を持つ企業が、世界をいくつかのエリアに分け、エリア単位で戦略の立案・遂行を行うために設置する地域本社のことです。
地域統括会社は以下の2種類の形態に分かれます。
1 実質的な資本関係がある親会社として設置
(統括エリア内各国のグループ内企業「被統括会社」へ出資)
このケースは、地域統括会社が被統括会社の親会社として、業務の管理はもちろんのこと、資金の決済拠点としての機能を持たせる目的があります。
2 実質的な資本関係はない親会社として設置
(統括エリア内各国のグループ内企業の業務上の統括機能を有する)
このケースは、地域統括会社と被統括会社の間には資本関係がなく、単純に業務等の管理をすることを目的としています。
また、日本企業と地域統括会社の関係については、上記1のケースと同様に資本関係のある場合と、他社に被統括会社の業務等の管理を委託する場合(日本企業と地域統括会社の間に資本関係はない)が考えられます。
現在、アジア域内の多くの投資プロジェクトは、日本を介さない域内完結型へと急速に変化しています。日本を経由しないことで、現場により近い地域本部に集約した資金を現地で決裁するなど速やかな対応が可能になり、スムーズに再投資を行うことができるようになります。アジア地域での熾烈な競合を勝ち抜くためには、当該スキームによるビジネスモデルが不可欠となりつつあります。
■統括拠点の活用方法
統括機能の他、シンガポールや香港に拠点を設置することで、「投資持株会社として利用できる」、「三国間貿易(オフショア貿易)活動の拠点として利用できる」などのメリットも得られます。
[持株会社としての統括拠点]
本来、投資持株会社とは、他の会社の株式を所有することによって、その事業活動を自社の管理下に置き、実質的に支配する会社を指します。ただし、この場合はシンガポールや香港以外の国に日本から投資する際に発生する通関や税務リスクを避けるための会社という意味合いを持ちます。
[三国間貿易(オフショア貿易)活動の拠点]
三国間貿易(オフショア貿易)とは、実際に貨物は当地を経由させずに、書類や決済のみを当地経由で行う貿易のことをいいます。シンガポールや香港では、オフショア利益については課税されません。移転価格の書類を正しく作成し、オフショアルールに沿って適切に運営していれば、シンガポールや香港の会社で収益に課税されることなく入金を受けることが可能となります。
■地域統括会社設立のモデルケース
実際に地域統括会社を設立する場合にどのような方法があるのかを検討していきます。
便宜上、シンガポールに地域統括拠点を置くと仮定して、実例をもとに「金銭を対価とする株式譲渡による方法」と「現物出資をする方法」の2つの方法を解説していきます。
■金銭出資(金銭を対価とする株式譲渡による方法)
金銭出資とは株式譲渡の対価として金銭を支払う方法のことをいいます。
この方法を利用し、シンガポールに地域統括会社を設立するスキームは、「新規設立で地域統括会社を作る場合」と「既存の会社を地域統括会社へ昇格させる場合」の2つに大別されます。上表にある、ケース①、ケース②の詳細については次のとおりです。
[モデルケース①] … 新規設立で地域統括会社を作る場合
ケース①の薬品会社は2008年に、アジア地域における販売統括会社として、シンガポールに親会社100%出資による子会社を設立しました。
シンガポールの販売統括会社がアジア5ヶ国(台湾、タイ、フィリピン、インドネシア、中国)の販売子会社を統括管理することで、アジア地域におけるさらなるマーケットシェア拡大と、新規市場への進出、プレゼンス向上を狙った戦略です。
新規設立の場合、シンガポールの子会社には現金がありませんので、親会社は金銭出資を行った後、株式譲渡することで、シンガポールの資金を吸い上げる形となります。
[モデルケース②] … 既存の会社を地域統括会社へ昇格させる場合
ケース②の小売業の会社は2011年、シンガポールにある既存子会社を地域統括会社に昇格させるために、タイ、ミャンマー、シンガポールに所在する子会社の株式取得を目的に増資しました。シンガポール子会社に日本親会社が保有する各国子会社の株式を譲渡する形となります。
つまり日本親会社が既存のシンガポール子会社に外国子会社株式を譲渡し、その対価として金銭を支払うことにより、外国子会社を傘下に持つ地域統括会社を設立するスキームになります。
[金銭出資における留意点]
金銭出資による設立の場合、日本親会社から譲渡される株式 は直近の時価での評価となるため、帳簿価額との間に譲渡損益が生じてしまいます。そのため、特定の国(シンガポール、マレーシアなど)を除き、キャピタル・ゲイン課税の対象となります。
そこで、株式譲渡の対価として金銭を使用しない方法も選択することができ、当該方法を現物出資 といいます。
■現物出資
現物出資 によってシンガポールに地域統括会社を設立するスキームは、金銭出資同様に、「新規設立で地域統括会社を作る場合」と「既存の会社を地域統括会社へ昇格させる場合」の2つに大別されます。
前記表にある、ケース③、ケース④の詳細については次のとおりです。
[モデルケース③] … 新規設立で地域統括会社を作る場合
ケース③の製造業の会社は2009年、日本親会社がシンガポールに子会社を新規設立し、当該親会社が保有する既存子会社の株式を新規設立法人に現物出資することにより、地域統括会社を設立しました。
つまりこのケースは、日本親会社の100%出資により地域統括会社を新規設立し、当該親会社が外国子会社株式 を現物出資することにより、外国子会社を傘下に持つ地域統括会社を設立するスキームになります。
[モデルケース④] … 既存の会社を地域統括会社へ昇格させる場合
ケース④の輸出入・販売業の会社は、2007年、タイ、台湾、香港、韓国子会社の株式を既存のシンガポール子会社に現物出資し、地域統括会社へと昇格させました。この方法により、金銭を使用せず統括会社を設立することが可能となり、現金調達などの手間を省くことができます。
つまりこのケースは、日本親会社が既存のシンガポール子会社に外国子会社株式を現物出資することにより、外国子会社を傘下に持つ地域統括会社を設立するスキームになります。
[現物出資する場合の日本側の検討項目]
現物出資を行う場合には、日本側の税務の問題が生じます。税務上、現物出資 は資産の譲渡として扱われます。そのため、譲渡時に発生する税金等に留意する必要があります。
適格現物出資の要件
内国法人が外国法人に対し現物出資を行う場合、法人税法62条4項に基づき適格現物出資と非適格現物出資に分けられます。適格現物出資に該当するものに関しては、外国法人へ移転する資産の評価額は簿価に基づきますが、非適格現物出資に関しては時価での評価となります。適格現物出資の要件は次のとおりです。
譲渡損益
現物出資によりシンガポールに地域統括会社を設立した場合については、100%グループ間の組織再編成として適格現物出資に該当するものと考えられます。適格現物出資に該当した場合、当該株式については帳簿価額での引継として扱われるため、譲渡損益は発生しません。
為替損益
海外子会社株式をシンガポール子会社に現物出資する際、設立時の外国為替レートと現物出資時のレートは変動していると考えられます。その場合、当該変動により生じた差損益は譲渡損益ではなく、為替損益となるため損金もしくは益金算入することが認められます。
検査役の選任
現物出資の際には定款に記載しなければならず、裁判所に検査役の選任の申立てが必要です。
また、財産の価値が定款で定めた価額に著しく不足していた場合には、発起人、設立時取締役は連帯してその不足額を支払う義務があります。
[現物出資する場合のシンガポール側の検討項目]
譲渡差益に対する課税
現物出資は会計上出資取引となりますが、税務上は株式譲渡と同様とみなされます。つまり、地域統括会社に金銭出資をし、その対価として株式を売却したとみなされるため、株式譲渡に係るキャピル・ゲイン課税に留意が必要です。
ただし、シンガポールについては、キャピタル・ゲインに対する課税がないため、税務上のリスクは少ないといえるでしょう。
事業拠点としてのシンガポール
■事業拠点としてのシンガポール
シンガポールは、世界で最も統括拠点に適している国といわれています。法人税率が17%と低く、統括拠点を構える場合には最大5年間の軽減税率の適用が可能です。また、他国に比べ事業・金融インフラが充実していることや、周辺国へのアクセスが容易な点など、さまざまな利点があります。
シンガポールに地域統括会社を設立する場合、シンガポール会社法に則って手続を行わなければなりません。
本節では、シンガポールにおける会社設立手続の流れや、それに係るシンガポール会社法について解説します。
■現地法人による設立
一般的に、シンガポールに事業拠点を設立する場合、進出の目的、事業内容等を考慮して、現地法人、支店、駐在員事務所のいずれかの事業形態を選択することになります。本項では、地域統括会社としての拠点という意味で、現地法人に焦点を当てていきます。
■シンガポールにおける現地法人の特徴
外国法人がシンガポールに現地法人を設立する場合、シンガポールにおける内国法人として扱われます。メリットとしては、許認可関係において内国法人にのみ許可される業務について、同様の待遇を享受することが可能な点があります。
また、シンガポールにおける設立の手続は、日本に比べ簡易かつ迅速に完了することが可能です。現地法人の特徴として以下の点が挙げられます。
・ 外国資本100%での設立が可能
・ 業種により参入規制あり
・ 繰越欠損金を永久的に繰越可能(株主が実質的に50%以上変動しない場合)
・ 支店および駐在員事務所に比べて自由な活動が可能
・ 迅速な意思決定が可能
・ 会社秘書役(Company Secretary)を置く必要がある
・ 設立時シンガポール国籍保持者またはシンガポール永住権保持者の在籍が必要
■会社形態
シンガポールの会社形態は、次のように大きく分けて8形態あり、それぞれ係る法律が異なります。また、会社法に基づく形態、支店および駐在員事務所以外の形態はシンガポール独自となります。このような独自の形態で登録する場合、注意点として、シンガポール国籍保持者またはシンガポール永住権保持者の在籍が必要となります。シンガポールにおける現地法人は、会社法(Companies Act)に基づく会社形態に当たります。
・ 会社法に基づく形態
・ 支店(Branch)
・ 駐在員事務所(Representative Office)
・ 個人事業(Sole Proprietorship)
・ パートナーシップ(Partnership)
・ 有限パートナーシップ(Limited Partnership)
・ 有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership)
・ 事業信託法(Business Trust)に基づく形態
さらに、会社法に基づく形態は、下記のように分類されます。
【現地法人(会社法に基づく形態)】
[無限責任会社と有限責任会社]
会社は、会社清算時の株主の出資責任の範囲によって、無限責任会社(Unlimited Company)と 有限責任会社(Limited Liability Company)に分けられます。
無限責任会社は、債権者に対する株主の法的責任範囲の制限がありません。そのため、会社清算の際においても、株主(現在および過去の株主)は債権者に対して会社が有している資産を超えて、自ら無制限の責任を負担しなければなりません。実務上、無限責任会社の形態をとるのは稀なケースです。
一方、有限責任会社では、債権者に対する株主の法的責任範囲はその出資額に限定されます。
なお、有限責任会社は一定の例外を除いて、Limited(Ltd.)または、Berhad(Bhd.)がその商号の一部に使用されます。
また無限責任会社から有限責任会社、もしくはその逆への変更は可能です。
[有限責任保証会社と有限責任株式会社]
有限責任会社は、有限責任保証会社と有限責任株式会社に分類されます。
有限責任保証会社とは、保証者が自ら責任を負う範囲を決定する形態であり、保証する金額の範囲は、あらかじめ会社の定款(Constitution)によって決定されます。この形態で設立を行う企業は、公共性の高い慈善事業や布教活動等、非営利活動を行う企業が一般的です。
有限責任株式会社とは、日本の株式会社 とほぼ同様の形態で、法的責任は保有株式の未払額に限定されます。有限責任株式会社は株主に株式を発行し、その払込額を運転資本として調達することができるため、シンガポールでは最も一般的な進出形態です。
[公開会社と非公開会社]
有限責任株式会社は、定款の内容によって公開会社か非公開会社に分類されます。以下に記載する、株式譲渡制限および株主数の制限の両者が会社の定款に含まれていた場合は非公開会社とされ(会社法18条1項)、そうでない場合は公開会社とされます。
株式譲渡制限
形式は規定されていませんが一般的に下記のいずれかをとります。
・ 取締役会の承認がなければ譲渡を行うことが不可能
・ 株式を譲渡する場合に先買権(Pre-emptive Rights;優先して株式を購入する権利)を他の株主に与えなければならない
株主数(50名以下の制限)
共同株主保有者は1名として数えられますが、会社またはその子会社の現在の従業員および会社またはその子会社の元従業員であり、当該会社に雇用されている間に株主となったものは除きます。
以前は、公開会社のみ株式および社債を公募して資金調達を行うことが認められていましたが、2004年4月1日会社法改正により、非公開会社においても株式および社債を公募できることとなりました。なお、会社の株式または社債を公募する際には、証券先物法(Securities and Futures Act)の関連規定に従い、目論見書を発行する必要があります。
また、 非公開会社から公開会社、もしくはその逆への変更は可能です。この場合、株主総会による特別決議が必要となります(31条1~2項)。
[免除非公開会社と非免除非公開会社]
非公開会社は、免除非公開会社と非免除非公開会社に分類されます。
免除非公開会社とは、非公開会社のうち、株主に法人がいないことに加え、株主数が20名以下となっている会社を指します(4条1項)。
■現地法人の活動範囲とその制限
現地法人は、定款で事業目的を制限しない限り、活動内容に制約を課されることはありません。そのため、支店や駐在員事務所など他の進出形態と比べて、最も自由に活動するができます。
ただし、特定の業種については別途ライセンスの取得が必要です。
■現地法人の設立手続
シンガポールで会社を設立する際には、会社法に準拠し、設立手続を進めます。その際、以下の項目について決めなければなりません。
■商号
商号とは、企業もしくは個人事業主がその営業上、自己を表示する名称のことをいいます。
そのため、会社は当然に商号を持つ必要があります。会社設立に当たっては、まず、使用する予定の商号を 会計企業規制庁(ACRA:Accounting and Corporate Regulatory Authority)に予約し、決定することが必要です(27条10項)。
また、既存の商号と同一の商号を使用しようとしている場合や、同一ではなくとも商号としてふさわしくないと判断された場合および関係省庁により規制されている商号は使用することはできません(27条1項)。
他方で、類似商号についても一定の規制が設けられています。具体的には、ACRAが当該類似商号について一般消費者が混同する恐れがあると判断した場合、または会社設立後12ヶ月以内に他者から類似商号だと異議申立があった場合、ACRAは当該類似商号を使用した会社に対して商号変更を命ずることができます。これは一般消費者の混乱を防ぎ、市場の安定を確保することを目的としています。
このように、商号については事後的に変更を命じられる危険性があるため、商号の予約をする前に当該商号の使用状況について調査する必要があります。さらにいえば、変更を余儀なくされる事態に備えて、あらかじめ複数の商号を用意しておくことも実務的には必要になります。
情報自体はACRAのホームページ、BizFile上で確認することができますが、商号決定の具体的な作業は設立を依頼する会社秘書役により行われます。複数の商号を用意して使用可能か否か、問い合わせることになります。
なお、予約された商号は予約完了から2か月間有効であり、必要な場合はこの予約期間を延長することもできます。
■定款の作成
過去には定款には基本定款と附属定款の2種類(Memorandum & Articles of Association)がありましたが、現在はこれが1つのConstitutionとして統合されています。内容は以前のものと同様であり、Constitutionは基本定款に記載のあった法律により記載することを定められている事項と、附属定款に記載のあった会社の運営規則を記載した事項により構成されています。
[株主、取締役]
株主と取締役は、個人か法人か、また国籍を問わず、必ず1名以上選定する必要があります(取締役が個人の場合には18歳以上であることが条件)。
株主と取締役が同一とすれば1名での会社設立も可能です。
ただし、取締役のうち1名はシンガポール国外の居住者でなければなりません。
法人設立前には就労許可を発行することができないことから、設立時にはシンガポール国籍/永住権保持者から取締役を選ぶ必要があります。
外国法人が子会社を設立するような場合には、実務上外部の個人である名義取締役を利用して法人登記を行い、実際の取締役を現地に置く日まで継続します。
なお、シンガポールでは、日本のような「代表取締役」という法的な地位は求められませんが、「取締役(Directors)」として登記された複数人の中から、対外的に代表者を明示する目的でのみ、設定することが可能となります。
[資本金]
シンガポールでは他の国にあるような最低資本金制度が存在しません。そのため、基本的にシンガポール法人は資本金1Sドルから設立することが可能です。
また、資本金の払い込みは設立後2ヶ月以内に行えばいいことになっています。
日本と大きく異なる点として、設立登記前に出資払込金証明等の提出が不要であるため、登記自体はほぼ負担なく完了することができます。
シンガポールにおいては日本のような健全な財務基盤の確保よりも、迅速な会社の設立を優先していることがこの点からも垣間見ることができます。
このため多くの場合、まず1Sドルで会社登記を完了させ、銀行口座を開設してから増資手続きを行います。金額を振り込んだ後14日以内に着金証明をもって会社秘書役に声掛けし、増資決議書を完成して登記することになります。
[事業目的]
シンガポールでは基本定款へ事業目的の詳細を記載することは任意になっています。そのため、定款で事業目的の詳細を制限しない限り、基本的にほとんどの事業を行えることになります。
なお、金融業や飲食業、学校・教育、不動産業、人材斡旋業等に関しては、設立後にライセンスの取得が必要になります。
主要な業務については、Singapore Standard Industrial Classification(SSIC)という事業目的一覧表の中から、会社の業務として最も類似するものを選択することになるため、表記を自由にすることはできません。
■必要書類
シンガポールで現地法人を設立する場合、以下の書類が必要となります。
・株主情報及び証明書類(通常パスポート及び住所証明)
・取締役情報及び証明書類(通常パスポート及び住所証明)
(株主が法人の場合)
・親会社の法人登記簿、株主名簿および定款
・主要株主個人の情報及び証明書類(通常パスポート及び住所証明)
※主要株主個人に行き着くまで株主構成を明示する必要があるため、場合によっては複数の株主名簿を提出する必要があります。
■設立手続の手順
シンガポールに現地法人を設立する場合、下記の手順に従い手続を行います。
なお、シンガポールでは非常にスピーディーな現地法人設立が可能です。具体的には必要書類等が揃っていれば2日前後で設立できます。
■現地法人設立後の手続
以下、現地法人設立後の法的手続き(コンプライアンス)について見ていきます。
■会社秘書役(カンパニー・セクレタリー)
シンガポール会社法上、会社秘書役の設置が義務付けられています。当該会社秘書役を6ヶ月間以上不在にしてはならないため(171条4項)、会社は設立日から6月以内に選任しなければなりません。選任に当たっては、取締役会により、最低1名のシンガポール居住者(自然人)を選任する必要があります(171条1項)。
会社秘書役の業務は会社運営の根幹的な機能を担っています。そのため、一定の能力、経験あるいは資格等を有している適切な人物を会社秘書役として選任する必要があります(171条)。
実務上はほぼすべての会社が自社で専門家を雇用するのではなく、外部会計事務所専属の会社秘書役会社や、法律事務所等と年間契約する形で外部委託しています。
また、取締役が1名しかいない会社の場合、当該取締役は会社秘書役を兼務してはならないとされています(171条1E項)。
会社秘書役の行う具体的業務については、会社法上明確にはされていませんが、基本的には以下のような会社のコンプライアンスに該当する業務が実務上要求されています。
・ 会社法上の登記事項のACRAに対する登記業務
・ 株主総会・取締役会における招集通知・議事録等必要書類の作成
・ 株主名簿・定款等の法定備置書類やコモン・シールの管理等
なお、会社秘書役は会社法の専門家として、日本でいう司法書士に近い資格を有しており、パスポートや定款について、認証済みコピー(CTC:Certified True Copy)を作成する権限を有しています。
■取締役会の開催
設立時、多くは書面上の決議として、取締役全員の署名をもって実行されます。
その他、取締役会は、株主総会開催日と決議内容を決める目的で、年に最低1回の開催が義務付けられています。
また、重要な変更がある場合においても開催が必要になります。
■株主総会の開催
設立時、取締役、監査役、株式資本の事項を取り決めるために、株主の署名が必要になります。
登記の時点では全員の署名が必要ですが、多くの総会決議は代表として2名の署名で事足りるとされています。
また、シンガポール会社法上、すべての会社は毎年、株主総会を開催する必要があります(AGM::Annual General Meeting、年次株主総会)。
下記の内容を取り決めるための年次株主総会は、すべて会計年度末から6か月以内に開催することが義務付けられています。
[株式の割当]
株式資本の割り当て等を決議します。
増加、分割、併合などを行うことができます。
また、自己株式取得の場合にもここで決議を行います。
[取締役の選任・解任]
任期満了により交代する場合、臨時で交代する場合など、決議を行って実行します。
[取締役の報酬・退職金の設定]
従業員としての給与報酬以外に、役員報酬として支払いが発生する場合には、株主総会決議を行います。
[会計監査人の選任・解任]
毎年の決算書に対する監査主体を決議します。
会計監査人は会社設立後3か月以内に選任する必要があり、その後年次株主総会で再任します。
[会計年度末の設定]
決議を行わない場合、設立月の末日が自動的に会計年度末(=決算日)と設定されますが、自由に設定することもでき、また数年に1度に限り、変更することもできます。
■会社の住所登記
本店として登記する住所を決めます。
政府関連の書簡や通知は登記された住所に届けられるため、必ず郵便物が受け取れる場所を指定することが必要です。
通常、登記時に契約書等証明書の提出は必要ありませんが、個人の住居をオフィスとして登記する場合には、住居のオーナーが許可しない場合もあるため注意が必要です。
住所貸し(Virtual Office)の形で、登記用に名前を借りるだけのサービスも一般的です。
■銀行口座の開設
法人登記完了後であれば、銀行口座開設は可能です。
取締役2名以上、および登録されるサイナーの全員が銀行で書類にサインをしなければいけない等、法人登記よりも工数がかかる傾向があります。
必要書類等は開設する銀行に事前に確認をしておきます。
■決算書作成・会計監査
決算に当たり、それぞれの会社の財務諸表は、最初の株主総会を開催し、包括利益計算書や財政状態計算書等の決算書の承認を得なければなければなりません(175条)。そして設立後の年次株主総会からは、毎次開催しなければならず、会計年度末から6ヶ月以内に行うことが必要です。
さらにシンガポール会社法上は、公開会社・非公開会社関係なく、原則としてすべての会社が会計監査を受けなければなりません。
会計監査人による監査が不要な例としては以下のような会社が挙げられます。
・ 休眠会社
・ 小会社(総資本1000万Sドル未満、年間売上1000万Sドル未満、従業員が50人未満、という条件のうち、二つ以上に該当するの非公開会社)
なお、会計帳簿やその関係書類は会計年度末より最低5年間保管することが義務付けられています。
■年次財務報告書の提出
会社は、決算書の承認とは別に、原則として定時株主総会の開催日から1ヶ月以内に、上記決算書および年次報告書をACRAに提出しなければなりません(197条)。
そして提出された当該データは公開会社・非公開会社にかかわらず、公衆縦覧されることになります。
年次報告書の内容としては下記のような書類があります。
・ 取締役報告書
・ 取締役宣誓書
・ 独立監査人報告書(監査が免除される法人については不要)
・ 包括利益計算書
・ 財政状態計算書
・ 持分変動計算書
・ キャッシュ・フロー計算書
・ 注記事項 等
■ペナルティー
以下の年次コンプライアンスにおいて、その提出が遅滞した場合には、それぞれペナルティーが科されます。
・会計監査済み決算書(Audited Financial Statements)の作成
・年次株主総会(Annual General Meeting)の開催
・年次財務報告(Annual Return)
しかし、実際には上記のうち一つだけが遅延するということはまれで、基本的には年次申告まで完了して初めて、上記3点が完了したと見做されます。
それぞれの事項に対して、遅延すると300Sドルずつ罰金が科されることになりますが、上述の通り、通常3点全て遅延し、合計900Sドルの罰金となる傾向が強いため、注意が必要です。
■シェルフ・カンパニーを利用しての設立
シェルフ・カンパニーとは、既存の法人(発起人により設立が完了している法人)を購入し、当該法人を拠点として活動していく方法です。
シェルフ・カンパニーを利用することにより、通常の新規設立手続の手間が省けるため、迅速な登記が可能です。
実際には、近年シンガポールにおける会社手続に要する期間が短縮されてきたため、シェルフ・カンパニーの需要が少なくなってきているのが実状です。
しかし、 シェルフ・カンパニーの中には特殊なライセンス等が認められている会社も存在します。そのため当該ライセンス等が予定する事業活動に必要な場合には、通常の設立方法よりもシェルフ・カンパニーを購入した方がメリットがあると考えられます。
なお、当然のことながら購入時のシェルフ・カンパニーは会社名や定款などがすでに決まっているため、新会社として運営するためには通常、定款変更等の手続が必要になります。会社名の変更の際には、新規設立の会社と同様に、変更予定の会社名が使用可能かを調べ、問題なければACRAに変更登録の申請をします。その際、関連書類の再作成が必要になり、完成には2週間ほどかかります。
以下に、 シェルフ・カンパニーの購入に関する一般的な手順を示します。
■シンガポール現地法人設立スケジュール
[参考資料①]
[ 参考資料② ]
現地法人情報
必要書類
【本社の情報にかかわる書類】
①本社登記簿謄本(原本1部とその英語翻訳版、発行から3カ月以内のもの)
【子会社現地法人の情報にかかわる書類】
①役員全員の国民登録管理カード(NRIC:National Registration Identity Card)の裏表のコピーあるいはパスポートのコピー
※シンガポール法人取締役の最低1名はシンガポール居住者もしくは永住権保持者
(PR:Permanent Resident )でなければなりません
※現地取締役は本人が署名する必要があります
※取締役が日本滞在中の場合は、日本公証役場にて署名する必要があります
※代行業者に委任する場合は、公証委任状、在職証明書、登記簿謄本(発行から3カ月 以内のもの)、印鑑証明書が必要です
②シンガポール法人登記住所の証明書(賃貸契約書のコピー等)
③カンパニー・セクレタリーの法人もしくは個人のエージェント情報(名 前、住所、連絡先)
※個人の場合、NRICの裏表のコピーあるいはパスポートのコピー
④法人監査人の法人もしくは個人のエージェント情報(名前、住所、連絡 先)
※出資がすべて個人株主20名以下、かつ総売上500万Sドル以下の場合は監査が免除
低税率国への本社移転
■概要
日本企業の海外進出は1970年代の輸出に始まり、その後マーケットを狙った欧米先進国への現地法人設立、もしくはコスト削減のための生産拠点としてアジア諸国での現地法人設立案件が増加していきました。しかし、近年はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICSをはじめとする新興国のマーケットへの進出が増加しています。現時点では、新興国での売上高が増加していますが、今後は利益成長を見込める地域にもなってくると考えられます。つまり、日本の製造業の収益の源泉が、従来の欧米先進国から新興国に移行していくことが予測されます。また、企業グループ全体の海外拠点数や海外売上率が増加し、近い将来、ほとんどの日本企業は多国籍企業となり、海外売上比率が国内売上比率を超えると思われます。
日本に本社を設置している企業も、複数の国に生産拠点や販売拠点となる現地法人を設立することにより、多国籍企業となっていきます。多くの日本企業は本社を日本に設置していますが、そもそも「本社とは何か?」と問われた場合、企業グループ全体の資本関係の構成上、親会社となる会社が本社であると考えられます。また、一般的には経営の意思決定をする場所であり、それをサポートするための企 画、人事、財務などの管理部門の機能がある場所を意味します。しかし、最近は地域ごとに統括拠点を設置し、経営判断の迅速化や事業戦略の立案、人材育成、財務の効率化を図る企業も多いので、必ずしも本社にその機能を置く必要があるのか、という議論も出てきます。
このように考えると、「本社の機能とは何か?」という疑問が出てきます。
そもそも企業の目的は「利益追求」であり、多国籍企業にとってはグループ全体の「利益追求」となるため、可能な限りグループ全体のコストを低く抑えようと考えます。その中でも、税務コストを最小限に抑えるための国際税務戦略は、多国籍企業にとって必要不可欠なものとなっています。
グループ全体の課税所得を削減し、税務コストを低減するための手段としてさまざまなことが考えられますが、各国の拠点に内部留保されている利益を低税率国の拠点に集約させることが最も効果的だと考えられます。
多くの企業は、日本企業を親会社として海外子会社を有するグループ構成となっており、日本の親会社は海外子会社から配当等により利益を還流しています。しかし、国際税務戦略の観点から、本社の機能は利益を集約する場所であるため、日本のように高税率国に置くよりも、低税率国に本社を置いた方がグループ全体の税務コストを削減できるのではないかと考えることができます。
低税率国に利益を集約させる方法としては、以下の手法が考えられます。
・配当により低税率国に利益をに集約する手法
・各国の子会社の資金需要について、増資ではなく借入金で対応することにより、貸付金に対する受取利息収入として低税率国に課税所得を移転する
・内部取引の取引価格を操作し、課税所得を低税率国に移転する手法
・商標や特許などの無形固定資産を低税率国に移転することによ り、ロイヤルティ収入として低税率国に利益を移転する手法
・事務管理機能を低税率国に移転することにより、各国の子会社に対するサービスフィー収入として低税率国に利益を移転する手法
実際に上記の方法を実行するには、送金規制や為替、各国の租税回避税制などがあるため、事前にリスクを検討する必要があります。特に、低税率国はタックス・ヘイブン対策税制の適用が想定されるため、その対策は重要になります。また、企業グループ間の取引については、取引価格につき、必ず移転価格税制への対処が必要になります。
企業が本社を低税率国に移転するという組織再編の手段は、企業内部の資源配置にかかわる重要な経営戦略上の選択肢の1つであり、その配置によっては企業グループ全体の納税額の削減が望めます。これを実現するに相応しい制度や税制があるならば、国籍に囚われずに利用することは、利益追求という企業の本質的性格からすればごく自然なことです。
■本社の海外移転事例
多国籍企業の事業活動において、グループ全体の税務コストを削減する国際税務戦略は非常に重要になってきています。実際に本社機能を低税率国に移転、または利益を低税率国に移転している事例を検証していきます。
■マイクロソフト
マイクロソフト(Microsoft Corporation)は世界中にWindowsを中心としたパソコン向け基幹ソフトウェアを生産・販売しており、その世界中の子会社から得られた収益は、最終的にアメリカ合衆国ワシントン州レドモンドにある本社に集約されるはずです。しかし、マイクロソフトはアイルランド政府の誘致を受けて1985年からアイルランドに生産施設を設置しており、基幹ソフトウェアに関する無形資産の一部をアイルランド子会社に移転させていました。これにより、 本来アメリカで発生する課税所得の一部がアイルランドに移転し、アメリカの法人税(35%)ではなく、アイルランドの法人税(12.5%) が課税されることになり、その結果、税負担が大きく減少しました。 仮に、本社機能をすべて移管していれば、さらに税負担を軽くすることも可能だったと考えられます。
■シーゲート・テクノロジー
シーゲート・テクノロジー(Seagate Technology, LLC.)は、ハードディスク駆動装置(HDD)の製造・販売を行う企業で、この分野において常にリードしています。1996年には同業他社のコナー・ペリフェラルズ(Conner Peripherals, Inc.)を吸収し、HD市場において出荷台数ベースでシェア世界一となり、2006年には当時業界 4 位のマクスター(Maxtor Corporation)を買収しました。
また、企業組織の変更も柔軟に行っており、2000年には投資ファ ンド主導でソフトウェア部門をベリタス(Veritas Software, Corp.)に売却し、ニューヨーク証券取引所への上場も廃止しました。これにより、シーゲート・テクノロジーはソフトウェア部門が切り離され、財務体質が強化されました。
この再編に合わせて、タックス・ヘイブン国であるケイマン諸島に本社の移転登記を行い、その後2002年12月にはニューヨーク証券取引所に再上場を果たしています。 現在も本社はケイマン諸島にあり、アメリカ証券取引委員会に提出した 2009年度のForm10-Kでは、本社所在地が “P.O. Box 309 GT Ugland House, South Church Street George Town, Cayman Islands”、課税管轄地は“Cayman Island”と表記されています。
■DFS
DFS(DFS Group, Limited)は大規模免税店チェーンのDFSギャラリア(DFS Galleria)を運営しています。持株会社をバミューダに置き、香港に本社を、主たる事業活動をパートナーシップの形態で設置したアメリカ法人で行っています。
■サンスター
歯磨き等で知られるサンスター(Sunstar, Inc.)は、2009年に本社を日本からスイスに移転しました。
その手法としては、まずMBO(Management Buy-Out)により自 社株を 52% 購入し、創業者が保有していた株式と合わせて83.53% となり、上場廃止となりました。
この方法は、まず日本に特別目的会社を設立し、株式を買い付けました。その会社と株主、特別目的会社での株式の取引なので、三角合併に近いケースとなります。三角合併の場合は、親会社の株式と交換することも可能ですが、このケースは現金で3分の2以上の株式を購入したため、公開買付を成功させることができました。
■本社海外移転スキーム例
本社機能の海外移転については、世界各国の大手企業が実際に行っていますが、実務上の手続についてはさまざまなスキームが取られています。税負担の軽減という大きなメリットがある反面、単純に株式の移動等を行った場合には「租税回避行為」として税務当局より指摘を受け、思わぬ税負担を背負うことにもなりかねません。
実際に本社を海外に移転する方法と、その際に考慮すべき組織再編に関する会社法や租税法を検証していきます。
日本会社の本社機能を外国会社に移転するには、下記の2つのステップが必要になります。
(1) 日本会社の株主を外国会社の株主に移転させ、日本会社を外国会社の完全子会社とする
(2) 日本会社の資産等を外国会社に移管する
上記(1)については、日本会社が非上場会社であり、その株主数が少人数である場合には、下記のスキームが考えられます。
① 日本会社A社の株主が外国会社B社を設立し、その後に外国会社B社が日本会社A社の株式のすべてを買い取る
② 日本会社A社の株主がA社の株式のすべてを現物出資して、外国会社B社を設立する
ただし、②の場合、外国会社への現物出資であるため、適格現物出資の要件を満たすことが難しく、株式譲渡課税が発生します。
■日本における会社法上の規定
現在の会社法では、吸収型組織再編(吸収合併、吸収分割、株式交換)が行われる場合に、消滅会社等の株主に対して存続会社等の株式 以外の財産を交付することが認められています(会社法7 4 9条 1 項2号、751条1項2~3号、758条4~5項、768条1項2号、770条1項2~3号)。旧商法においては、合併等における対価は原則として存続会社等の株式に限定されていましたが、2 0 0 7 年の会社法改正 により合併の対価として現金交付する交付合併や、親会社株式を交付 する三角合併を行うことが可能となりました。
この会社法改正に伴い、2007年度の税制改正で、合併等の対価として一定の親会社株式を交付する場合についても、適格組織再編成 として移転資産の譲渡損益を認識せず(法人税法(以下、法法)2条12項 8・11・16号、法人税法施行令(以下、法令)4条2項1・5・14号)、また、被合併法人等の株主においては、再編時において株式の譲渡益を認識しないこととされています(法法 6 1 の 2 ②④⑨、法 令 119 の7の2)。
企業の買収や合併などの組織再編は、企業が利益を増大させることによって、企業価値を高める行為です。組織再編は会社法改正によって、その対価の選択肢が増えたので、国際的な組織再編の効率性・柔軟性が高まったといえます。
[三角合併による移転 ]
三角合併の方法により、以下のスキームで日本の本社を外国に移転することができます。
■課税の繰り延べ
三角合併による組織再編成が適格組織再編であれば、再編時に移転資産の譲渡損益や被合併法人等の株主ついて、株式の譲渡益を認識せず、課税の繰り延べが行われます。したがって、適格組織再編の要件を満たしているかどうかを検討する必要があります。
三角合併によるクロスボーダーの組織再編については、国際課税の適正な観点から、非居住者または外国法人株主に対して一定の組織再編成により外国親会社の株式が交付される場合には、課税の繰り延べを認めず、新株が交付された時点で課税することとされています。
[ 適格合併の範囲に関する特例(措法 68 条の 2 の 3 ①)等 ]
合併法人と被合併法人との間に「特定支配関係」がある企業グループ内の内国法人間の三角合併で、その対価として「特定軽課税外国法人」の株式が交付されるもの(特定グループ内合併)については、適格合併とされる合併の範囲から除外されています。
したがって、この場合は移転資産の譲渡益が認識されます。
「特定支配関係」とは、具体的には次の関係とされています。
・ 合併等の直前に、2つの内国法人のいずれか一方が他方の発行株 式等の50%超を直接または間接に保有する関係
・ 合併等の直前に、2つの内国法人が同一の者によってそれぞれの発行株式等の 50%超を直接または間接に保有される場合におけるその2つの内国法人の関係
「特定軽課税外国法人」とは、次に該当する外国法人をいいます。
・ 法人の所得に対して課される税が存在しない国に本店等を有する外国法人
・ 特定グループ内の合併等が行われる日を含むその外国法人の事業年度開始日の前 2 年以内に開始した各事業年度のうち、いずれかの事業年度において、当該事業年度の所得に対して課される租税の額がその所得の金額の 25%以下であった外国法人(措法 68条の2の3⑤一、措令 39 条の 34 の 3 ⑤)
ただし、その外国法人がいわゆるタックス・ヘイブン対策税制における適用除外要件と同じ、すなわち、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準または所在地国基準のすべての要件に該当する場合は、「特定軽課税外国法人」に該当しないこととしています(措令 39条の34の3 ⑦)。
[特定の合併等が行われた場合の株主の課税 ]
合併等の対価として「特定軽課税外国法人」の株式が交付される場合には、株主は旧株の譲渡に係る譲渡所得等について課税されます。
個人株主の課税(措法 37 条の 14 の 3 ①②③⑤)
居住者または国内に恒久的施設(PE:Permanent Establishment) を有する非居住者株主は、旧株を発行した内国法人が行った合併等により、対価として、その合併等の直前に合併法人等の発行済株式等の全部を保有する外国法人の株式の交付を受けます。その交付を受けた 株式が特定軽課税外国法人の株式に該当する場合には、旧株の譲渡に係る譲渡所得等について課税されます。
また国内にPEを有しない非居住者は、同様の場合に、旧株の譲渡 所得が国内源泉所得に該当するときには課税されます。
法人株主の課税(措法 68 条の 3 ①~③、法法 61 条の 2 ②④⑨)
法人株主は、旧株を発行した内国法人が行った合併等により、対価 として、その合併等の直前に合併法人等の発行済株式等の全部を保有する外国法人の株式の交付を受けます。その交付を受けた株式が特定軽課税外国法人の株式に該当する場合には、旧株の時価による譲渡を行ったものとして譲渡損益を計上することとされています。
参考文献
・ 山﨑昇「コーポレート・インバージョン(外国親会社の設立)と国際税務―― クロスボーダーの三角合併解禁に伴う国際的租税回避の懸念」税務大学校論叢 54 号(2007 年 7 月 4 日)
・ 宇都宮浩「企業と国籍--企業の多国籍化と課税管轄権」 立命館経営学第 48 巻第 4 号(2009 年 11 月)
・ 布施恭祐「クロスボーダー三角合併の課税問題」租税資料館、2010 年
・ 大石篤史「三角合併を利用した本社の海外移転[上]」商事法務 NO.1943(2011 年 9 月 25 日号)
参考文献
〈総論〉
・ 日本税理士連合会(業務対策部「現物出資等にお ける財産の価額の証明等に関する実務[改訂版]」2006年12月
・ 武田薬品工業株式会社「アジア地域における販売統括会社の設立 について」2008 年9月25日
・ 株式会社ファーストリテイリング「シンガポール地 域統括会社への増資に関するお知らせ」2011年11月24日
・ NAC 国際会計グループ編著『香港・マカオ進出完全ガイド』カナリア書房、2010 年
〈シンガポール〉
・ 司法書士・行政書士なのはな法務事務所「シンガポール会社制度の概要」