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中国におけるM&A の動向
中華人民共和国における実質GDP成長率は金融危機や新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大、不動産市場の低迷等の影響により、2008年頃より落ち込みが続いており、特に2022年にはが2.9%水準へと下落しているものの、2023年には5.2%を記録し、プラス成長を維持しています。
中国にとって日本は外国資本全体の約10%を占めるトップレベルの投資国です。さらに日本の対中直接投資額も、低迷していた2000年頃と比較すると10倍以上増加しており、日本と中国の関係はとても密接なものといえます。
2006年以降、中国は他のASEAN諸国と同様に外国資本に対して厳しい規制をしたため、中国への投資は合弁企業や中国国内の会社へのマイノリティ出資がメインとなっていました。しかし、2011年に発表された中国政府の第12次五カ年計画によって外資規制が緩和しました。そこで、日本企業はさらなる支配権の獲得を目指し、M&Aを活発に行っています。
実際に、中国における2012~2013年のM&Aの総数は、それぞれ4,000件を上回っています。外資規制が緩和された2011年と比べると少々減少していますが、取引額推移を見ると、2012年時点ではおよそ2,000億USドルであったものが2013年には3,000億USドル以上と堅調に上昇し、2015年には1兆USドルを超えました。
このように、中国はASEAN5(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム)、NIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)と同様に投資注目度が高く、さらにさまざまな産業分野が解放されていく中で、今後一層、活発な投資が期待されています。
中国の賃金ベースアップ率は年々高くなっていますが、それでも先進国に比べるとまだまだ低調です。さらに、多くの国民が英語を公用語と認識しているので、英語ができる優秀な人材が数多くいます。発展途上国への投資を試みる場合、文化や言葉の壁が大きな課題となります。その点、中国では、その他のASEAN諸国に比べて言葉の障害もなくスムーズに投資が行えます。こうした理由からも、日本をはじめ多くの外国企業が注目しています。
【出典:The Institute for Mergers, Acquisitions and Alliances 】
M&A に関する法律・規制
中国においてM&Aを行う場合、複数の法規が関連するため、各法律を横断的に理解しておく必要があります。関連する法規は以下のとおりです。このうち主要な法規を本節で解説します。
■投資規制
原則として、中国への外国直接投資は自由とされていますが、外商投資方向の指導規定により、一定の業種については出資比率の上限、資本金最低限度額などが規定されています。
そのためM&Aによる投資を行った結果、出資比率が外資規制を超えるような取引は認められません。さらに、2012年1月30日より施行されている外商投資産業指導目録では、各産業の事業ごとに、制限産業・禁止産業を詳細に定めて、外国企業の参入に一定の制限を設けています。
したがって、対象業種が外資規制に該当するかどうかを確認することが、中国におけるM&Aの第一歩となります。
外国投資奨励産業目録の最新版は、現在2022年版であり、外国投資奨励産業目録では、地域別にそれぞれ中国全国で519項目、中西部地区等については955項目の、合計1,474項目が奨励分野として定められています。改定前の2020年版に比較して、製造業やハイテク分野、サービス業関連の奨励項目が増加しています。
また、指导外商投资方向规定(外商投資方向指導規定)第5条において、以下に掲げるプロジェクトは認可が受けやすく、また関連項目まで認可範囲を拡大できるよう優遇されています。
・新しい農業技術、総合農業開発、エネルギー、運輸、重要原料産業に属するもの
・製品の性能を向上させ、企業の技術的および経済的利益を増大させ、あるいは国内の生産能力が不十分な新設備や新素材を生産できるハイテクまたは高度な応用技術分野
・市場の需要に適応し、製品の品質を向上させ、新興市場を開拓し、製品の国際競争力を高めることができる分野
・エネルギーと原材料を節約し、資源と再生可能資源を総合的に利用し、環境汚染を予防および抑制することができる新技術または新設備
・中部・西部地域の人的・資源的優位性を最大限に発揮でき、国の産業政策に適合している分野
・法律および行政法規で定められたその他の事情
■禁止業種・規制業種
【禁止類】
禁止類に該当するプロジェクトに投資をすることは禁止されています。
・国家の安全に危害を及ぼす、または社会・公共の利益を損なうもの
・環境汚染、自然環境破壊、または人体の健康を害するもの
・耕地を大量に占有し、土地資源の保護・開発に不利益を与える、
または軍事施設の安全と機能を害するもの
・国の特有の製造プロセスまたは技術により生産するもの
・国の法律または行政法規の規定で禁止されるその他のプロジェクト
【制限類】
制限類に該当するプロジェクトに投資をする場合には、外資100%は認可されず、その投資に制限がかかります。ただし、中国側投資者の外商投資プロジェクトにおける出資比率合計が51%以上の場合には、中外合弁企業等の形態で当該制限業種に投資をすることができます。
外商投資ネガティブリストにおいて、出資比率等に対して制限のある項目数は、2018年導入当初の20項目から、2020年版外商投資ネガティブリストでは10項目にまで削減されています。これにより、下記の状況に当てはまらなければ一般製造業は基本的に外資参入が可能となります。
・技術レベルの立ち遅れているもの
・資源の節約及び生態環境の改善に不利なもの
・国が保護採掘の実行を規定する特定鉱産物の探査、採掘に従事するもの
・国が段階的に開放する産業に属するもの
・法律、行政法規で規定するその他状況
■土地所有に関する規制
中国では、土地の概念を所有権と使用権の2つに区別しています。中国に進出する際には、土地の制度についてしっかりと認識することが重要です。
中華人民共和国憲法1章10条において、土地の所有権は全人民所有と集団所有のいずれかと規定されています。全人民所有とは、国家の所有を意味します。後者の集団所有とは、農民集団の所有を意味します。基本的に都市の土地は国が所有し、社会主義を色濃く反映していることがうかがえます。
また、土地の使用権限には、国有土地使用権と集団土地使用権の2つがあります。さらに、国有土地使用権は、割当土地使用権と払下土地使用権の2つに分類されます。
払下土地使用権取得のためには、2007年から入札・競売・公示方式を採用しています。以前は協議、入札、競売の3つの方法がありましたが、農地保護、無計画な投資や低水準の重複建設を防止するために変更されました。土地使用権を取得すれば賃貸・担保設定・譲渡も可能になります。ただし土地使用年数の上限は、用途別に次のように定められています。
中国の土地の使用は、厳格な管理がなされています。土地の用途を農業用地、建設用地、未利用地に分け、決められた土地の利用以外で使用する場合には用途転換手続をとらなければいけません。しかし、用途ごとに土地の総量が厳密に定められているため、安易に用途変更することができません。
また、2年以上の遊休土地については、従来から「遊休土地処理規則」(国土資源部令第5号)に「土地取得後1年以上を経ても建設工事を始められない場合、土地代金の20%以下に相当する土地遊休費を支払わなければならず、2年連続して土地を利用しない場合、政府は土地を無償で回収する」等の規定がされています。土地管理の強化により、国家から権限を委ねられた地方政府から回収を求められた実例もあります。
さらに2004年8月に改正された「土地管理法」(主席令第28号)等に「公共の利益や都市計画等に基づく国による収用」を認める規定がありますが、創業後に収用・移転を余儀なくされたケースがあるなど、近年、規定の運用が厳格化されつつある点に留意が必要です。
日本企業が中国の土地を使用する場合は、国家から土地の使用権限を与えられているにすぎないことを忘れてはなりません。日本では土地の私有が認められていますが、中国では全人民所有権と集団所有権の2つの所有権しか認められていません。制度を理解せずに日本企業の立退き騒動が勃発したことも多々あります。
新会社法
中国会社法は、中国内の内資企業に適用されるだけでなく、外商投資企業(いわゆる外国企業)にも適用されます。さらに外商投資企業には、中外合弁企業法、中外合作企業法、外商投資企業法等の特別法も適用されます。
M&Aの手法として一般的に広く利用されている株式譲渡、新株発行等に関する基本的事項は、中国新会社法に規定されています。
ただし、改正されたとはいえ、明文の規定があまりにも少ないため、実務の規定や動向には注意を払う必要があります。具体的な実務上の対応については、弁護士などの専門家を活用することも有用です。
■株式・持分譲渡
中国の会社は主に有限会社・株式会社の2種類があります。大半の中国企業や中国進出の日系企業は有限会社の形態で設立しています。
株式会社の場合、新株を発行する場合、株主総会決議が必要です(会社法134条)。新株の公開発行を行う場合は、新株目論見書、財務諸表の公告、かつ株式引受書の作成が必要です(135条)。
また適切に払込ませるため、設立時と同様、銀行と株式払込金取扱契約を締結する必要があります(88条)。契約した銀行は払込証明書を交付する義務が生じます(89条)。
有限会社の場合、日本と同様に中国でも、新株発行の対価について現物出資が認められています(27条)。具体的に出資が認められる資産としては、知的財産や土地使用権等の通貨により評価可能な資産で、かつ法に従い譲渡可能な非通貨財産ということになります。
[新株引受権]
中国会社法には明文規定がないため詳細は不明ですが、実務上は行われている場合があります。
■合併
中国会社法は、日本と同様に吸収合併、新設合併の両方を認めています(会社法173条)。吸収合併とは、1つの会社がその他の会社を吸収することをいい、新設合併とは2つ以上の会社が合併して1つの新会社を設立することをいいます。中国では吸収合併が一般的です。
合併の効果も日本と同様であり、被合併会社は消滅し、被合併会社の資産や負債等すべての権利義務は、個別の移転契約なしに包括的承継として存続会社へ引き継がれます。ただし、債権者保護手続が必要となります。
合併を行う会社は、合併当事者の資産評価を行い、取締役会決議において合併計画を承認します。合併計画には、合併条件や合併方法、定款の変更などを定めます。しかし合併の対価については明文の定めがないため、合併交付金(金銭)や転換社債型新株予約権付き社債、存続会社の親会社の株式(三角合併)等を対価とすることも考えられます。
その後、株主総会において、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成による決議を行います(104条)。その際、当該株主総会の決議において合併に反対する株主には、自己の保有する株式の買い取り請求権の行使が認められます。
また当該株主総会での定足数については明確に規定されていません。定足数を設けたい場合には、いわゆる任意的記載事項として定款に記載する必要があります。
合併の各当事者は合併協議書を締結し、貸借対照表と財産明細書を作成します。また、企業合併は債権者にとって特に重要な事項のため、債権者保護手続をしなければなりません。債権者保護手続は、合併決議を行った日から10日以内に債権者に通知し、かつ30日以内に新聞上で公告する必要があります(174条)。
ただし、日本とは異なり「知れている債権者」(日本国会社法789条)についての個別催告を要さない例外規定は定められていません。法に従わず、通知または公告を行わない場合、1万元以上10万元以下の過料に処される可能性がありますので注意が必要です。
一般的な合併の手順は、以下のとおりです。
■企業分割
企業分割とは、事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割により、他の会社(分割承継会社)に包括的に承継させる組織法上の行為をいいます。分割承継会社が分割により新しく設立される場合を新設分割といい、既存の会社が分割承継会社となる場合を吸収分割といいます。
会社を分割する場合は、貸借対照表と財産明細書を作成する必要があります。また企業合併と同様に、債権者保護手続を行います(会社法176条)。会社が分割する前の債務については、分割後の会社が連帯責任を負います。ただし、事前に書面によって別途合意した場合はその限りではありません(177条)。
株主総会の決議において反対した株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るように請求することができます(75条2項、143条4号)。
なお、企業分割の一般的な手順は、解散申請が不要であることを除けば、合併の手順とほとんど同じとなります。
■資産譲渡
資産譲渡の対象となる資産には、棚卸資産、機械・土地等の有形資産、のれん、ノウハウ等の無形資産が含まれると考えられます。
しかし、中国の資産譲渡は、日本と異なり会社法に規定がありません。実務上では事業譲渡といいますが、中国会社法上では資産、負債等を個別譲渡するという各個別取引の集合体となっています。実務上の運用面では、許認可制となっている合併、分割を利用せず、手続が簡易な事業譲渡を利用した組織再編が多く見受けられます。
ただし、上場企業が1年以内に重大な資産の購入や売却を行う場合は、会社にとって重要な事項であることから、速やかに株主総会を招集し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります(会社法105条、122条)。
また、有限会社の場合、株主総会の決議において、反対した株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るように請求することができます(75条2号)。
証券法
中国証券法は、2005年に改正され2006年1月1日に施行されました。当該法律は公開会社に対して適用され、広く存在する利害関係者の平等な権利を保護するための法律です(証券法1条、2条、10条)。
公開会社のM&Aについては、公開買付規制、開示規制、インサイダー取引規制などが関連してきます。
■公開買付規制
公開買付とは、ある会社の株式を買付価格、買付期間などを公告したうえで、不特定多数の株主から株式を買い集める制度をいい、上場企業の買収には日本でもよく利用されています。これを義務付けることにより、一部の株主に好条件で取引され、他の株主との公正性を害しないことを制度の趣旨としています。
[公開買付が義務付けられる場合]
公開会社の株式を取得する場合には、同法に定められている公開買い付けの規制に従わなければなりません。以下のいずれかの要件を満たす場合、原則として公開買付が義務付けられています。
・証券取引所での証券取引を通して投資者が保有する、または協議、その他の取決めにより他人と共同で保有する1つの上場企業の発行済株式が30%に達した場合で、買付を継続するとき(証券法88条)
・協議買収方式を採用する場合、買収者が買収する、または協議、その他の取決めにより他人と共同で買収する1つの上場企業の発行済株式が30%に達した場合において、買収を継続するとき(96条)
[公開買付価格]
公開買付を行う場合、自由な価格で取引が可能になると、さまざまな問題が生じるため、証券法では、以下のような規定を設けています。
・買付価格はすべての株主に対して均一でなければならない(証券法89条、91条)。
・買収者は、買付期限内における買収対象企業の株式の売却を禁止される。また、申込に規定する以外の形式または申込条件を超える条件での買収対象企業の株式の買付も禁止される(93条)。
・買収後、買収対象企業の株主構成が上場条件に合致しなくなった場合、買収対象企業の株式を保有する株主は、買収者に対し買付申込と同等の条件にて当該株式を売却する権利を有し、買収者はこれを買付けなければならない。すなわち、当該規定は買収者に買受義務を負わせることで、株主に株式譲渡の機会を与え、さらに、買付価格を買付申込と同等と規定することで株主の経済的利益も保護し、もって買収により株主に不測の損害を与えないようにする(97条)。
[公開買付の撤回]
公開買付が一度開始された後に、公開買付の撤回が行われると、相場操縦に利用され、株主や株式市場に多大な影響を与える可能性があるため、日本では、自由に撤回をすることはできません。
中国においても、公開買付の買付申込承諾期間内においては原則として公開買付の撤回は認められません。ただし、買付申込を変更する必要がある場合には、必ず事前に国務院証券監督管理機構および証券取引所に報告し、認可を経た後、公告する必要があります(証券法91条)。
■開示規制
[大量保有報告規制]
大量保有報告規制とは、市場の透明性と公正性を保つことで、投資者保護を図るための規制です。特定の人が株式を大量保有すると、大量保有者は会社の支配関係や株式の市場価格に大きな影響を与え、意図的な株価の乱高下が可能になってしまいます。その結果、一般投資家が想定外の損害を被ることがあります。このようなことがないようにするために当該規制が導入されました。
規制の対象は、株式取得により対象企業の株式の5%以上を保有する場合です(証券法86条前段)。保有した日より3日以内に国務院証券監督管理機構、証券取引所に書面で報告し、当該上場企業に通知し、さらに公告を行う必要があります。報告内容は、下記の3つです(87条)。
・株式保有者の名称および住所
・保有する株式の名称および数
・持株が法定の割合に達した、または持株の増減が法定の割合に達した日時
他方、証券取引所を通さない協議買収によって5%以上の株式を保有した場合、証券法上、大量保有報告規制に係る規定は明記されていないため、対象にはなりません。協議買収は非流通株の相対取引を想定して規定されたもので、この取引では市場の一般投資家が想定外の損害を被る可能性は少ないと考えられます。
[適時開示]
〇臨時報告書
上場企業の株式取引価格に比較的大きな影響を生じさせる可能性がある重要な事実が発生し、投資者が未だこれを知らない場合には、企業は臨時報告書を国務院証券監督管理機構および証券取引所に提出し、公告する必要があります(証券法67条)。「重要な事実」とは、次の12の事象です。
・会社の経営方針および経営範囲の著しい変化
・会社の重大な投資行為および重大な財産購入の決定
・会社が重要な契約を締結し、会社の資産、負債、権益ならびに経営成果に重大な影響を生じさせる可能性がある場合
・会社に重大な債務または未弁済かつ期限到来済の重大債務に関し違約状況が発生した場合
・会社に重大な損失が発生しまたは重大な損害を被った場合
・会社の生産経営の外的条件に重大な変化が生じた場合
・会社の董事、3分の1以上の監事またはマネージャー(中国語でいう「経理」)に変動が生じた場合
・会社の5%以上の株式を保有する株主または実質支配者の株式保有状況または会社支配の状況に比較的大きな変動が生じた場合
・会社の減資、合併、分立、解散および破産申請が決定した場合
・会社にかかわる重大な訴訟により、株主総会または董事会決議が法により抹消され、または無効を宣言された場合
・会社に犯罪の疑いがあり司法機関から立件調査されている場合、または会社の董事、監事、高級管理職に犯罪の疑いがあり司法機関から強制措置を受けている場合
・国務院証券監督管理機構が規定するその他の事項
〇大量変動報告書
証券法86条2項では大量保有報告規制と同様の規定があります。この規定の趣旨も、投資者保護にあります。
大量保有報告規制の規定(証券法86条2項)は5%以上の株式を取得した時点での報告・公告を要求する規定であり、その後の報告・公告を強制するものではありません。しかし、5%以上の株式取得後も大量保有者は企業の支配関係や、株式の市場価格に大きな影響を与えることを通じて、依然一般投資家に想定外の損害を与える可能性があります。
そのため、保有する上場企業の発行済株式が5%に達した後においても、その保有する上場企業の発行済株式の割合が5%増加または5%減少するごとに、大量保有報告規制と同様の報告および公告を行う必要があります。
さらに、報告期限内および報告、公告を行った後2日以内は、市場価格の変動が大きいと想定されるため、新たに当該上場企業の株式売買を行うことを禁止しています。
[継続開示]
上場企業は、各会計年度の第1四半期と第3四半期終了後30日以内に四半期報告書を、上半期の終了日より2カ月以内に半期報告書を、各会計年度の終了日より4カ月以内に年度報告書を、それぞれ国務院証券監督管理機構および証券取引所に送付し、かつ、これを公告することが要求されています(証券法65条、66条、四半期報告と株式に関する特別規定4項)。
年度報告、半期報告の記載内容は証券法65条、66条で列挙されており、半期報告書の記載内容は年度のものより簡易になっています。年度報告書には注冊会計師(中国の公認会計士)事務所による会計監査が必要となります。
これらの情報により、投資家は定期的に適切な情報を入手することができ、適切な経済的意思決定が可能となります。また、企業にとっても効率的な資金調達を可能にします。
上場企業は、自社の情報開示に関する管理規則を制定して、これを董事会において審議した上で、会社登記地の証監局および証券取引所に届出をする必要があります。
■インサイダー取引規制
インサイダー取引とは、インサイダー(証券法74条)がインサイダー情報(75条)を用い、自己または第三者の利益を図る行為を指します。この取引が行われると、株式取引の不公正や、株主の不平等、ひいては証券市場に対する不信感をもたらし、経済の基盤である資本市場の前提を崩す結果となるため、証券法ではインサイダー取引を禁止しています(73条)。
独占禁止法
中国では中華人民共和国独占禁止法(以下、独禁法)が施行されています。
この独禁法の規制対象は、独占的合意、市場支配的地位の濫用、企業結合、行政権限濫用による競争力排除および制限の4種類に分けられます。特にM&Aにおいては、事業者集中といわれる企業結合規定について、中国国内に子会社を持っていなくても申告が求められる場合もあるため注意が必要です。また、曖昧な規定も多いので、事前に国務院独占禁止法執行機関と協議する必要があります。
■独占的合意
独占的合意は、以下の2つの場合において禁じられています。
独占的合意禁止の適用除外については、以下のように規定されています。
・技術改良や新製品研究開発
・品質向上、原価低減、効率化、製品規格基準の統一や専業化による分業
・中小企業の経営効率を高め、競争力を高める
・エネルギー節約、環境保護、災害救助等の公共の利益の実現化
・経済不景気のため、売却数の著しい低下、生産過剰の緩和・対外貿易や経済協力の正当な利益補償
■市場支配的地位の濫用
独禁法には、市場支配的地位の事業者による濫用行為を禁止する規定があります。特に、支配的地位の判断基準が重要です。
■企業結合
独禁法は、企業結合取引(合併、持分または資産の取得による支配権の取得、契約等による支配権取得または他の事業者に決定的な影響を与える取引)が申告基準を満たした場合、事前に国務院独占禁止法執行機関に申告する必要が生じているにもかかわらず申告していない場合は企業結合できないと定めています。
また、国外の独占的行為が、国内市場に排除的影響を与える際は、独禁法が適用されます。
[申告基準]
以下の申告基準のいずれかを満たす場合には申告が必要です。
・企業結合する全事業者の前会計年度の全世界売上合計高が100億元を超え、かつ、少なくとも当該2つの事業者の前会計年度の国内売上高が、すべて4億元を超える場合
・企業結合する全事業者の前会計年度の国内売上合計高が20億元を超え、かつ少なくとも当該2つの事業者の前会計年度の国内売上高が、すべて4億元を超える場合
国内売上高の「国内」とは、事業がサービスする商品または買主所在地が中国の国内にあることを指します。そのため企業結合する事業者が、中国に子会社等を持っていなくても申告が必要な場合があります。しかし申告基準を満たしても、グループ内の企業再編は申告対象外です。これは外部に対する影響力が低いためであり、適用除外となります。
[申告手続]
審査の開始から決定までに、事業者から申告書類を受領した日から最長で180日を要します。企業結合を計画する際は審査期間について留意する必要があります。
申告が必要な事業者は、まず申告書類等を国務院独占禁止法執行機関に提出します。当該事業者から書類を受領した日から30日以内(一定の場合、90日以内)に初回審査し、二次審査をするかどうかについて、書面で通知があります。当該事業者は、決定前の企業結合は実施できません。しかし、二次審査をしないと決定されるか、または期限に到来しても通知がない場合は、企業結合を実施することができます。
二次審査の場合、決定日から90日以内に二次審査が終わり、当該企業結合を中止させるかどうかの結果と理由が書面で報告されます。実務上、多くは再延長なしで二次審査が終了します。なお、承認を得た事業者の企業結合に対し、国内競争に与えるマイナス影響を減少させるような制限的条件を付加する場合もあります。しかし、無条件で承認される場合が圧倒的に多いのが現状です。
■行政権限濫用による競争力排除および制限
行政権限濫用による競争の排除・制限は、日本やアメリカの独禁法には存在しない規制のため、中国の特徴的な規定といえます。事業者の行政機関等による強制や指定、授権等を理由に、独占行為をしてはならないと定めています。当該行為をした場合は、調査処理規定に基づいて処理されるため、行政機関等に強制されたとしても免責されない可能性があり、注意が必要です。
独禁法に違反した場合、以下の罰則が科されます。
また、独占的行為を行った結果、他人に不利益を被らせた場合、民事責任を負うことになります。
■企業評価制度
中国では、企業価値評価指導意見(試行)や固有資産評価管理規則等によって企業評価手続が定められています。中国の企業評価制度の最も重要な趣旨は、中国国有資産の不当な低価格評価による海外流出を防ぐことなので、実際は、中国側に有利な企業評価が行われる場合がある点に注意する必要があります。また、中国における企業評価プロセスは、しばしば日本側にとって不透明な場合があります。
中国で主に使用される企業評価方法は以下のとおりです。
評価プロセスについては、中国側に一方的に任せるのではなく、評価者の任命、企業評価方法の決定、企業価値決定の方法、会社の調査権や評価ドラフト書面の査閲権の明確化などについて日本側も意見し、決定することが重要です。
たとえば、企業価値決定の方法について、中国では2つの方法があります。1つは、企業価値のレンジを決めず、法定評価結果に委ねる方法。もう1つは、あらかじめ企業価値のレンジを決めておき、法定評価結果を参考にして、企業価値を決定する方法です。中国の法規上は前者が原則とされていますが、実務上後者を採用することも可能ですから、どちらがお互いに納得のいく方法なのかを議論した上で、選択する必要があります。
政府からの認可においては、たとえ日中両社がお互いに合意している価格であっても、その合意価格が法定評価価格よりも10%以上乖離している場合には、認可されないことがあります。特に中国側に不利な場合は、認可されないリスクが高いです。
法定評価価格を計算する評価者は、あくまで客観的な評価を行うため、日本および中国側が個別に同意した事項について柔軟な対応を望むことは難しいです。ただし、比較的小規模な評価事務所や個人事務所では、当事者間で企業価格のレンジがあらかじめ定められている場合は、柔軟な対応をしてくれるところがあります。また、一般的に、評価者が一度決定した評価内容について、大幅に修正することは評価者の面子にかかわるため困難です。
会計基準
M&Aを行う場合には、一般的に対象企業のデュー・デリジェンスを行い、企業価値の算定を行います。また中国に限らず他国でM&Aを行う際は、会計基準が各国で異なる場合が多いので、把握しておく必要があります。
中国の会計基準は国際財務報告基準(IFRS: International Financial Reporting Standards)を完全適用しておらず、また将来完全適用するかどうかの採択も不明です。しかし、2007年からIFRSを基礎とした新会計準則に基づく会計処理が行われているため、整備の基準は国際的な水準と変わらないといえます。実際の運用面では新興国特有の不正な処理が行われているケースもあるため、注意が必要です。
M&Aに関する税務
M&Aを行った場合、それに伴いさまざまな税務上の規定が関係してくるため、注意が必要となります。
すなわち買収前には、株式の売却取引に係る税務規定、買収後には繰越欠損金に係る税務規定など、M&Aを取り巻く税務の影響は広範に及びます。
一方で、税制優遇措置等の恩恵を享受できるか否かという点についても、留意が必要です。
■株式(持分)譲渡
[株式の譲渡時に係る税金]
株式の譲渡益
売り手が株式を譲渡したときに生じた利益は、その利益に対して課税されます。また当該売却代金を外国人投資家の居住国に送付し、その居住国の法律で課税される国際的な二重課税が生じるおそれもあります。中国と各国との間で租税条約が締結されているかどうかによっていずれの一方の国での課税が免除される可能性もあるため、事前に調べておく必要があります。
中国税務上、各投資家の株式譲渡益の取扱は、以下のとおりです。
増値税(中国における付加価値税の一種)
株式の譲渡には、増値税は課税されません。
印花税(ST:Stamp Tax)
印花税は日本の印紙税に非常に類似したものです。大きく異なる点は2つです。まず、日本の印紙税は累進税率であるのに対し、中国は比例税率(課税標準と税額の割合が常に一定)を採用しています。また、日本の印紙税に比べ、徴収範囲が狭い点が挙げられます。
税率は、課税文書の種類ごとに定められており、株式譲渡契約については譲渡対価の0.05%が契約者双方に課税されます。
さらに、中国印紙税法上、中国以外の国で作成された文書であっても中国内で法的効力を有し、法律の保護を受ける文書については、条例の規定に従って印紙を貼付しなければならないとされています。
[株式買収後に係る税務規定]
優遇措置
企業再編後に適用される、優遇措置がいくつか規定されています。外国投資比率が25%を下回った場合、中国企業と同様に取扱われます。外資系企業の出資の絶対額の変動がない場合、過去に受けた外国企業所得税の免税、減税の追加納付はありません。免税優遇措置の規定はまだ不明確な点も多いですが、これから補足通達が公布されると予想されます。
株式取得に要した費用の取得原価算入
株式取引の際、専門家への支払や、買い手が負担するべき税金等について新企業所得税法には明確な規定がないため、原則として損金に算入することができません。しかし、取得原価として計上しておき、当該株式を売却する際の源泉税の取得費用に算入することができます(ただし、買い手が負担するべき費用は除く)。
■資産譲渡
[資産譲渡に係る税金]
資産の譲渡益に対する課税資産譲渡の際、譲渡益に対して通常の所得税(25%)が課されます。ただし、取得した資産の一部に増値税等の不払が生じた場合は、中国税関による追跡調査が行われるなどのリスクが存在する点に注意が必要です。
増値税
売り手に対して、物品や無形資産の売却価額に増値税が課されます。物品の増値税率は13%(食料品等一部の物品は9%)、無形資産は6%(土地使用権は9%)です。ただし、簡易課税方式を適用する場合は、算定方法が異なります。また、土地使用権の譲渡の場合、上記の増値税の他、譲渡差益に対して30%〜60%の土地増値税が売り手に対して課税されます。
印花税(ST:Stamp Tax)
資産譲渡契約書についても印花税が発生します。売り手と買い手の双方の契約額の0.05%が課税されます。
消費税(CT:Consumption Tax)
中国の消費税は奢侈性の高い物品や環境汚染品に対して課されます。具体的には酒類・たばこ・宝飾品・乗用車・化粧品・爆竹・燃料油などです。各種品目別に税率が定められていますが、タバコなどは最大56%の税率を課される場合もあります。
[資産譲渡後に係る税務]
のれん
のれんの償却費は、損金に算入することはできません。
繰越欠損金の継続
売り手および買い手の繰越欠損金は、引き継ぐことはできません。
優遇措置
増値税一般納税者企業の全部を、その関連する債権、債務、労働力と併せて一括で譲渡する場合は、資産再編として増値税の優遇措置が受けられます。登記抹消時に、その企業が留保する仕入税額を新規納税者に繰り越して控除を継続することが可能となります。
■合併
優遇措置
吸収合併および存続分割に関しては、減免税の優遇措置規定があります。ただし、不明確な点が非常に多いため、これから補足通達が公布されると考えられます。あらかじめ中国税務当局に確認を取る必要があります。
また、企業の資産の全部を、その関連する債権、債務、労働力と併せて一括で譲渡する場合は、増値税の優遇措置が受けられる可能性があります。具体的には資産譲渡における優遇措置と同様です。
■その他の関連する税務
[過少資本税制]
過少資本税制とは、資本に係る配当と負債に係る利子との課税上の相違点を利用した租税回避行為を規制するために設けられた税制です。外資系の現地法人が本国親会社から資金調達を行う際に適用されます。以下の2通りの方法が考えられます。
・出資を受け資本とする方法
・資金の貸付を受け借入金とする方法
前者により発生する支払配当金は、課税所得計算上、損金として扱われません。後者により発生する支払利息は損金として扱われ、法人の課税所得を減額させる効果を生むため、現地外資系法人においては、資本金を少なくして、借入金を多くする傾向があります。
これは税収確保の観点からすれば決して好ましい傾向ではなく、現地政府は資本と債務のバランスのあり方について規制し、過度の租税回避を防止しています。そして、当該税制は2008年中国新所得税法に取込まれました。原則として外資系企業は投資総額によって、ある一定の負債比率を維持する必要があります。
中国投資の足掛かりとして、多くの企業が資本金の出資を考慮していますが、中途半端な出資にはリスクがあります。すなわち中国での合併では、中国での少数株主は出資額までは責任を負いますが、日本と異なり、経営権がない場合があり、決定権や拒否権は乏しく、撤退も容易ではありません。
中国において、少数株主はあまり保護されないのが現状です。リスクを最大化させたスキームを作ってしまう可能性があります。100%支配なら確実ではありますが、51%や70%では、必ずしも支配ができるとはいえない状況です。
中国のパートナー企業との関係を適切に構築していくことが重要です。
[特殊性税務処理]
同一企業グループ内の企業再編などによる、株式譲渡・資産譲渡・合併・分割等において一定の条件を満たすことで、特殊性税務処理の適用を受けることができます。
上記一定の条件とは、同一企業グループ内の再編であることの他、以下をすべて満たすことを指します。
①再編の合理的な目的
合理的な事業目的が必要で、税額の減免あるいは納付の延期を主な目的とするものないこと
②買収持分の割合
買収企業の買収する持分が被買収企業の全持分の75%以上
③経営の連続性
買収後12カ月間に、再編した資産の実質的な経営活動が変更されないこと
④持分の支払割合
持分買収において、持分支払の金額が取引全体の85%以上であること
⑤一定期間の譲渡持分の保有
持分譲渡を受けた出資者は、再編後12カ月間は、取得した持分を他へ譲渡しないこと
特殊性税務処理を適用する場合、持分や資産の譲渡時に、譲受側がすべての資産・負債を簿価にて引き継ぐことが認められ、譲渡益の課税が繰り延べられるというメリットを受けることが可能となります。
また、毎年の上限を限度とし、合併等により消滅した会社の繰越欠損金(5年間)を引き継ぐことが認められています。ただし、分割会社に関しては、分割資産の全資産に占める割合で按分した繰越欠損金額のみを引き継ぐことになります。
M&Aスキームの基本
中国の会社の経営権を取得する方法としては、以下のような方法が考えられます。
外資によるM&Aの対象となる中国企業
外資によるM&Aの対象となる中国企業は、以下のとおりです。
・国有企業
・集団所有制企業
・民営企業
・外資系企業(合弁・合作・独資)
中国経済の中でも重要なのは、国有企業です。国有企業には狭義の国有企業と広義の国有企業があり、外資によるM&Aの対象となる国有企業は広義の国有企業とされています。狭義の国有企業とは、中国政府が100%出資している独立法人ですが、有限会社・株式会社にも該当しない企業を指します。中国では、こうした企業が現実として多く存在しています。広義の国有企業とは、中国政府が直接出資しているか否かを問わず、有限会社・株式会社の形態をとり、当該持分や株式に対して国の保有割合が高く、実質的に国が支配している企業を指します。
国有企業を買収することは、中国において大きな影響力と存在感を手にすることになります。さらに、電気などさまざまな免許は国有企業がその責を担っているため、外資として直接参入することは現実として難しい問題でしたが、国有企業の買収により免許取得そのものを不要とさせることが可能になります。
買収の方法
外国企業が中国の国有企業を買収するには、株式・持分の買収か資産の買収のいずれかを選択することができます(外国投資者の国内企業買収に関する規定2条)。
[株式・持分の買収]
株式・持分の買収とは、外国投資者が株式・持分を買い取り、または増資を引受けて、当該企業を外商投資企業に変更させる手法です。
[資産の買収]
資産の買収とは、外国投資者が外商投資企業を設立し、当該企業を通じて国内企業の資産を買って資産運用すること、または外国投資者が国内企業の資産を買い取り、その資産で外商投資企業を設立し、資産を運用するという手法です。重要分野の買収については制限が規定されています。対象企業が重要業種等で、国家の安全に悪影響を及ぼすと判断された場合や、著名な商標等を有する国内企業の支配が移転するとされる場合は、当事者双方による商務部への申告が必要になります。
万一、申告を怠った場合で、当該取引が国家経済の安全に重要な影響を与えると商務部等の関係機関が判断した場合、当該取引は中止となる可能性があります(外国投資者の国内企業買収に関する規定12条)。
ただし、「重要業種」の詳細等に関しては、明確な基準が存在しないため、最新の法令や規則、政治動向などを把握して、常に注意する必要があります。
国有財産の法定評価
国有企業の買収の際、国有財産の法定評価について留意しなければなりません。これは中国の資産が不当な価格で外国企業に売却されることを防ぐための制度であり、国有資産の支配が非国有となる際に強制適用される制度です。資産の譲渡のみならず、合併や分割といった企業再編の際にも該当する可能性があるので、取引の対象に国有財産が含まれていないか細心の注意が必要です。
通常、M&Aの対象企業に対してデュー・デリジェンスなどの財務調査・評価等を行いますが、中国では財産の評価まで法で定めている点に大きな特徴です。
ここで指す国有財産とは、国家が企業に対して投入して形成した権利や利益、国有企業による投資が形成して享受すべき権利や利益、法に基づき国家が所有すると認定したその他の権益を指します。具体的には下記のとおりです(国有財産権譲渡規則2条3項)。
・国有企業における国有株式・持分
・国有企業が投資している合弁・合作・外商投資株式会社における当該国有企業の株式・持分
・その他の形式で国有資産を占用・使用する企業における当該国有資産に相当する財産権
国有企業の買収に係る一般的な手続
[買収先の決定]
外商投資産業指導目録の禁止産業は買収することができません。また、上場企業を買収する場合は国務院証券監督管理機構への申請が必要です。
[評価事務所による評価方法の決定]
評価事務所は、中国国内の法律に基づき設立された評価機構から選定できる評価結果よりも、明らかに低い価格での譲渡を禁止しています。
[買収金額の決定]
国有資産を売却する国内企業は、投資者が審査承認機関へ申請書を提出する15日前までに、省級以上の全国紙で買収金額を公告しなくてはなりません。
[買収金額の支払]
買収金額を人民元で支払う場合には、外貨管理部門の許可が必要です。
[関連資料の提出]
株主総会決議書、外商投資企業への変更申請書、外商投資企業設立申請書などを政府関連機関へ提出しなくてはなりません。
[営業許可証取得]
外国投資者が国内企業を買収して外商投資企業とする場合、審査機関は申請書を受領した30日以内にその結果について回答し、承認の場合には承認証書が発行されます。
国有企業以外の買収に係る一般的な手続
・買収先企業に対するデュー・デリジェンス
・買収条件の交渉
・買収協議書の締結
・企業名称・企業形態の変更申請
・買収に対する許可回答書と批准証書の入手
・外商投資企業設立申請
・営業許可証取得
・出資対価の支払
企業買収後の諸課題
出口戦略(エグジット・ストラテジー)
中国内国会社への投資の後に外国会社に生じるリスクと、当該投資から完全に撤退する方策について、以下に解説します。
投資の後の外国会社に生じるリスクとしては、政治リスクや人事労務リスク等があり、外国会社が投資から撤退する場合の具体的な出口戦略としては、株式の売却、会社の清算、事業譲渡等による事業の売却などがあります。
■外国会社に生じるリスク
[政治リスク]
中国における最大のリスクは、政治の透明度と予測可能性が低いことです。いうまでもなく、政府の政策の動向は企業買収時のみならず買収後にも大きな影響を与えます。2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件後に中国が行った事実上の輸出規制や、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に端を発した、2023年8月以降日本産の水産物(食用水産動物を含む)の輸入停止等、法律が都合のいいように整備・運用される傾向のある中国では、企業買収時の計画を全うできない可能性も大いにあります。
これは2012年9月の尖閣諸島国有化の際にも顕著に現われました。具体的には日本からの輸入品の通関の厳格化や遅滞、日系商品の不買運動や日本企業への発注キャンセルや取引停止など、政治の状況により中国はさまざまな報復措置を講じる可能性があります。
さらに、中央政府と地方政府機関の足並みの不揃いや、改善されつつあるものの経済法制度の遅れなど、政治に起因するリスクは依然大きく、買収後も政府の動向、最新の法規、特に各種許認可・審査機関の動向については、常に注目する必要があります。
[人事労務リスク]
企業買収後に直面する実務面での問題として、人事労務リスクがあります。経営の有効性と効率化を図って企業買収を行い、その後、人員削減を必要とする企業もでてきますが、中国においては人員削減に特に注意が必要です。
中国には労働者の権利を保護強化するための労働契約法があります。企業に対して、従業員の雇用の延長を図るなどの規定が含まれます。
さらに、中国では法定解雇事由がなければ解雇できません(労働契約法39条~41条)。
たとえば労働契約法41条では、人員削減(整理解雇)について次の4つの状況に該当し、かつ削減人員が20人以上、または20人未満だが総従業員総数の10%以上の場合には、使用者には労働組合または従業員全体に対して説明責任が課されています。
・企業破産法の規定での企業再編を行う場合
・生産・経営に著しい困難が生じた場合
・製品業種の変更や、重大な技術革新や経営方式の調整があり、労働契約変更後においても人員削減が必要な場合
・その他の労働契約の締結時に依拠していた客観的な経済状況に重大な変化が生じ、労働契約を履行することができなくなった場合
実際に人員を削減する際は、労働組合または従業員の意見聴取後に人員削減案を労働行政部門に報告することが要求されています。このように、不当な理由による人員削減を規制し、労働者の権利の保護を図っています。
当該削減の人選についても労働者の権利の保護を図っています。具体的には、比較的長期間の期間の定めのある労働契約を締結している労働者、期間の定めのない労働契約を締結している労働者、世帯に他の就業者がおらず高齢者や未成年者を扶養する必要がある者は、解雇してはならないと規定されています。
このように中国においては機動的な人員削減が困難となることが予想されるため、アウトソーシングを積極的に利用したり、労働契約期間の調整等で対応したりすることを視野に入れる必要があります。
また、整理解雇や破産による解雇等の場合にも、原則として勤続年数に応じた経済補償金の支払が義務付けられる点にも注意が必要です。
2008年1月1日施行の新労働法は、旧労働法と異なり、労働契約期間満了時に従業員が労働契約更新を希望しているにもかかわらず、企業側が労働契約を更新しない場合でも、原則として経済補償金を支給する必要があります。
ただし、企業側が従前と同等以上の条件で労働契約の更新を希望したにもかかわらず、従業員側が退職する場合には経済補償金を支払う必要はありません。
■会社の清算
[株式の売却]
所得税法上、株式譲渡により取得した対価が株式の取得原価を上回る場合、株式の譲渡会社に対してキャピタル・ゲイン課税がなされます。キャピタル・ゲイン課税が発生する場合、株式の譲受会社はこれを源泉徴収しなければなりません。また、証券取引所を通じて上場企業の株式を売却する場合には、証券取引税が課されます。
[会社の解散]
会社の解散とは、会社の資産負債を清算し、会社の法人格を消滅させる手続です。会社解散手続は、以下のとおりです。
・外商投資企業を意図的に解散する場合、原則として当該企業の最高議決機関が解散決議を行い、所轄商務部門の認可を受ける(会社法104条)。
・外商投資企業は、その解散につき所轄商務部門の解散の認可を受領した日から15日以内に、清算委員会を成立させ、清算手続を開始する(184条)。
・清算委員会は成立日から10日以内に構成員のリストを工商部門に提出する(186条)。
・清算委員会は、債権者に債権の届出を催告し、貸借対照表および財産明細表を作成した後、清算計画を立て、会社の最高権力機関または人民法院に報告し、審査を求める(185~187条)。
また、会社の財産で清算費用、従業員の賃金、法定補償金等を支払い、未納の税金も納付し、会社の債務を完済した後の残余財産は、出資者の出資比率に従い分配することになります。
・清算が完了した後、清算委員会は清算報告を作成し、会社の最高議決機関または人民法院の確認を得た後、工商部門で抹消登記を行い、会社終了の公告をする(189条)。
なお、抹消登記に必要な書類には以下のものがあります。
・清算チーム責任者が署名した「外商投資企業抹消登記申請書」
・審査許可機関の抹消に同意する許可書類
・法律に基づいて作成された決議または決定
・企業権力機構または裁判所に確認された清算報告書
・分公司の抹消登記証明
・営業許可書の正本と副本
■事業譲渡等による事業の売却
事業譲渡や合併によって、投資先の中国内国会社の事業を他社に売却するという方法も選択できます。
事業譲渡の場合は、売却した事業の対価が出資先の中国内国会社に支払われるので、結局この資金を外国会社株主が回収するためには、当該中国内国会社を清算するなど、さらに手続が必要となります。
合併の場合も、合併存続会社の株式が割当てられるので、これを処分するための手続が必要です。統合後の人事の重要性などM&Aにはたくさんの不確定要素が伴います。そして、その不確定要素は社員の職業安定性の問題につながるため、合併後の社員のモラル低下を導く恐れがあります。
一般的に、M&Aを行った企業の8割が、M&A後に何の価値も生み出せず、むしろ合併前の企業価値の半分以上を失うといわれています。そのためM&Aを行う際は、計画の早い段階から適切な法律・会計の専門家と協力体制を築くなど、手段を講じる必要があります。M&A終了後も継続して当該専門家等と協力していくことが重要です。特に、中国のように法が不透明かつ未整備の国においては、M&Aの前後において、リスク管理を入念に行うことに留意する必要があります。
参考文献
・ 『中国の投資・M&A・会社法・会計税務・労務』
(久野康成・TCG国際弁護士法人監修 TCG出版)
・ 中国企業にM&Aで事業を売却する際のメリットとデメリットや動向を解説 | レバレジーズM&Aアドバイザリー (leveragesma.jp)
・ 世界のM&A事情 ~中国~|M&A|Deloitte Japan
・ 中国企業の買収・M&A動向は?注意点と事例25選を紹介! | M&A・事業承継の理解を深める (mastory.jp)