移転価格
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移転価格税制
移転価格税制の理解
移転価格税制(Transfer Pricing Taxation)は、企業の国外関連者(親子会社、兄弟会社のような資本関係、役員の派遣のような人的関係にある外国会社)との取引価格を、独立の第三者との間で行われた,取引価格(独立企業間価格:arm’s length price)で計算しなおすことにより、国外関連者との取引を通して得た所得が他国へ移転するのを防止して、適正な国際課税の実現を図ることを目的とする税制です。
日本や中国を含む主要各国では関連者取引価格を、経済協力開発機構(OECD)が定めた原則(独立企業間原則)に基づき類似の非関連者取引において成立したであろう価格と同じレベルで設定することを原則としています。移転価格税制で注意しなくてはならない点は、納税者に租税回避の意図があるか否かにかかわらず課税されるということです。近年の移転価格税制はあらゆる関連者間取引(有形資産取引、無形資産取引、役務提供取引、金融取引等)を対象としているため、企業は常に移転価格リスクを検討する必要があります。
たとえば図のように、独立企業間価格より20低い価格で日本の親会社が中国の子会社に輸出した場合、日本企業の利益は20減ります。中国子会社(国外関連者)は外部販売価格が通常一定であるため、その商品を第三者から輸入して販売した場合より利益が20増えます。このように、価格を変動させるだけで、その国で課税される所得が減少します(この例では日本側の所得が減少する)。そこで所得の他国への移転を防止し、適正な国際課税の実現を図るために各国で移転価格税制が制度化されています。
各国の税務当局が移転価格税制上問題となり得る取引を認識した場合、当該企業に対して移転価格調査が実施されます。その企業は対応と解決に多大なコストと時間を要することになります。最終的に更正処分を受けることとなった場合は、追徴税額と延滞税に加え、二重課税リスクを被ることになり、経営成績に大きな損失が生じることとなりかねません。
予期せぬ多大な移転価格リスクについて、潜在リスクの分析、そしてその対応・解決を考案します。
中国移転価格税制の変遷
中国では、1991年に中華人民共和国外商投資企業および外国企業所得税法13条により関連者取引価格に対する独立企業間原則が適用され、移転価格税制が初めて導入されました。この頃は鄧小平による改革開放政策の成熟期であり、国内は改革、国外は開放(規制緩和・開発区の設置・優遇税制等)が推し進められた時期です。移転価格税制も外国企業誘致を目的とした制度整備の一環として導入されました。
1998年に関連事業者間の業務関係に関する税務管理規程(試行)国税発[1998]第59号により、関連企業の持株要件、国内および国外関連企業との取引への適用、納税者に学証責任、推計課税、遡及調整、異議申立などを定めたガイドラインが公布され、移転価格管理が強化されました。この背景には、当時中国に進出していた外国企業は低い製造コストを動機とした労働集約型製造業が中心で、その多くが移転価格を用いた利益の海外移転をしたことにより、中国企業は赤字となったことが挙げられます。そのため、中国企業は利益を上げていない印象を海外投資家に与えることを懸念し、中国投資に対するイメージ悪化を防止する目的で移転価格管理が強化されたともいわれています。
2001年に中華人民共和国税収徴収管理法36条により、すべての企業とすべての税目について関連企業間取引に独立企業間原則が適用されました。社会主義市場経済体制の中国がWTO加盟(2001年)に合わせ、移転価格税制の対象範囲を拡大することになったのです。
2004年に、関連事業者間の業務関係の予約価格に関する実施規則(国税発[2004]第118号)により事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)ガイドラインが公布されます。APAは移転価格課税リスクをあらかじめ回避するために、企業が取引に先立って課税当局との間で、国外関連者との取引価格が独立企業間価格であるとの確認を得る制度です。このように、中国はWTO加盟により名実ともに国際経済の仲間入りを果たしましたが、一方でこの頃は市場経済がもたらした地域格差、所得格差、環境汚染等の諸問題が浮き彫りになり、胡錦濤国家主席が和諧社会のスローガンで格差是正に努めた時期です。経済発展と社会構造の関係の見直しを迫られ、それに呼応する形で外国企業誘致のスタンスも量から質へと方向転換しました。
2005年に中国居民税務相互協議手続発動申請暫定施行弁法(国税発[2005]第115号)により相互協議手続に係る通達が発行されました。移転価格税制に基づき課税された場合、一時的に国際間で二重課税が発生します。そこで国外関連者が所在するそれぞれの国の税務当局が、この国際間二重課税の排除を目的として相互協議を行うことになりました。
2008年には新企業所得税法が施行され、租税回避対策、タックス・へイブン対策税制、過少資本税制、コストシェアリング、延滞税、移転価格調整、事前確認制度等が規制されたことにより移転価格管理はさらに強化されました。これに対し外国企業は対応を迫られています。
2009年の特別納税調整実施弁法(試行)(国税発[2009]第2号、移転価格ガイドライン)により移転価格同時文書化規定が導入されました。これによりすべての中国企業は、2008年度の企業所得税の年度申告から企業年度関連企業間取引報告書を税務申告書に添付するとともに、移転価格分析資料である同時文書の提出が義務付けられました。
その後2015年には移転価格新ガイドラインの改訂がなされ、そこではマネジメントやモニタリング、無形資産やグループ内役務提供について規定されました。
2016年1月1日から施行されている「関連申告と同時資料の管理の完備に関する事項について公告」(国家税務総局公告2016年第42号)(以下、「42号公告」)を2016年6月29日付けで国家税務総局は公布しています。42号公告は、確定申告に添付すべき関連者間取引にかかる別表と同時文書にかかわる規定です。
移転価格税制に係る個別規定
対象者(対象法人)の範囲
移転価格税制の適用対象となる取引は企業と国外関連者(以下、関連者)との取引です。関連者は以下のように定義されています。
関連者とは、企業と以下の関係(関連者関係)のうち、いずれかに該当する企業、その他の組織または個人です(中華人民共和国企業所得税法実施条例109条)。
・資金・経営・売買等について、直接または間接的な支配関係が存在する場合
・直接または間接的に同一の第三者による支配を受けている場合
・利益上の関連を有するその他の関係
特別納税調整実施弁法(以下、実施弁法)では、適用対象となる関連者を形式・実質の両面から企業所得税法よりさらに具体的に規定しています。形式面は①の25%の持分比率が該当し、実質面は①以外の資金・経営・売買等に係る他社による実質支配が該当します(実施弁法9条)。
つまり、資本関係がまったくなくても実質面が該当すれば関連者になるため注意が必要です。売買等に係る実質支配は他社との取引が総取引の50%以上を占めると他社による実質支配があると判断されます。
国外関連者の定義(実施弁法9条)によれば、中国税務当局は広範に関連者を位置付けており、移転価格税制を適用したいという強い意思を読み取ることができます。適用対象となった関連者と企業との取引は移転価格税制の対象となり、原則として移転価格税制は国内取引にも適用されます。関連者取引については、以下の4類型に分けて明文化されています(同法10条)。
■文書化規定の概要
全ての文書は中国語で記載する必要があります。CbCR(Country-by-Country Report:国別報告事項)のみは中国語と英語での記載が必要です。
❶ローカルファイル
ローカルファイルとは、各海外子会社との取引について詳細な事実説明と、移転価格の妥当性について記載した説明書で、海外子会社と取引を行っているか否かを判断するための大切な資料となります。
運用開始時期は、2016年度です。ローカルファイルの作成期日は対象年度翌年の6月30日で、提出期限は税務当局の要求日から30日以内で、作成・と提出の義務は中国子会社にあります。
関連者間の取引が、以下の条件に当てはまる場合には、作成する必要があります。
・有形資産取引が2億元超
・金融資産取引が1億元超
・無形資産取引が1億元超
・その他取引が合計4,000万元超(国内関連者間取引のみの場合は免除)
記載内容:現行の2号通達(国外関連取引の内容、国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法)に、下記項目を追加
1取引価格設定に影響を与える要素
2バリューチェーン分析
3対外投資
4関連者間持分譲渡
5関連者間投資
❷マスターファイル
マスターファイルとは、日本語では「事業概況報告事項」といい、企業説明書のような文書です。
こちらも運用開始時期は2016年で、作成期日は最終持株会社の会計年度終了日から12か月以内で提出期日は税務当局が要求した日から30日以内です。作成・提出の義務書は、最終持株会社が作成したマスターファイルを中国子会社が入手し、中国税務当局に提出します。
以下の要件に当てはまる場合には、作成する必要があります。
・国外関連者間取引が発生し、それに伴い最終持株会社の所属グループがすでにマスターファイルを準備している場合
・年度内の関連者間取引総額が10億人民元を超える場合(国内関連者間取引のみの場合は免除)
記載内容
1グループ内の産業構造の調整、グループ内の機能、リスクまたは資産の移転
2主要な研究開発機構の働きとリスク、資産と人員の状況
3国別報告書を提出する企業の名所と所在地
4グループ内の各メンバー実態が締結した2国間での事前確認
最終的には、各国の判断がゆだねられます。
❸CbCR
CbCRとはCountry By Country Reportの略で国別報告書の意味です。日本、米国、中国、英国で多くのEU加盟国、オーストラリアなど57か国で導入済みで、国別報告書の情報は各国で共有されて、海外の税務当局が入手できる情報量が増えると予想されます。
運用開始時期は2016年、対象年度の翌年5月31日が提出期限となっております。作成・提出義務者は、多国籍企業グループの最終持株会社と国別報告書の提出を指定されている企業です。
以下の要件に当てはまる場合は作成する必要があります。
・当納税者が、多国籍企業グループの最終持株会社でそれに加え、
全会計年度の財務諸表における各種の連結収入が55億人民元を超える企業
・国別報告書の提出を多国籍企業グループに指定されている納税者
記載事項(OECDと一致)
1多国籍企業グループ名
2事業活動
3資本金
4収入
5税引き前利益
6法人税額
❹特殊事項ファイル
特殊事項ファイルとはグループ内役務の提供やコストシェアリング契約に関与する納税者と、過小資本税制の要件に該当する納税者に対して要求されます。
こちらも2016年度に運用が開始され、作成期限は対象年度翌年の6月30日で、提出期限は税務当局が要求した日から30日以内です。
以下の要件に当てはまる場合は作成する必要があります。
・コストシェアリング契約を締結あるいは実施している場合
・企業の関連負債資本比率が基準値を超え、独立企業原則に基づくことを説明する必要がある場合
上記いずれも金額による規定はなく、国内関連者間取引のみの場合は免除
記載内容
1コストシェアリング契約特殊事項ファイル(下記情報含む)
・非参加企業による成果の使用状況、及び支払われた金額の参加企業間での配分方法
・測定基準の指標選定、計算方法、変更理由を含む予測収益の計算
2過少資本特殊事項ファイル
・非関連者が、関連者の融資条件、融資金額及び利率を受け入れる意思や可能性があるか
中国税法における価格算定方法
企業所得税法実施条例が挙げる合理的な移転価格算定方法として以下の5つの方法を定めています(企業所得税法実施条例111条)。一方で、実施弁法はそれぞれの移転価格算定方法について適用方法や留意点を規定しています。5つの方法について、優先適用の規定は特になく、それぞれの特徴を理解した上で、最適な方法を選択する必要があります。
■独立価格比準法…❶
独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method:CUP法)とは、非関連者間で行われる関連者取引と同等または類似の業務活動に対して徴収される価格を公正な取引価格とみなす方法です(実施弁法23条)。
これは、関連者取引と同等または類似した非関連者取引がある場合や関連者取引と非関連者取引の差異が信頼性を持って調整できる場合に有効です。しかし実務上、比較対象となり得る非関連者間取引データを入手することが困難なため、独立価格比準法によって比較することはほとんどありません。
上図の場合、関連者間のkg当たりの販売価格は次のとおりです。
900÷(150kg×0.5)=12
これに対し、非関連者のkg当たりの販売価格は次のとおりです。
1200÷(100kg×0.8)=15
つまり、この場合は、本来の販売価格は15であり、レアメタル1kgにつき、3の所得が国外に移転したことになります。
■再販売価格基準法…❷
再販売価格基準法(Resale Price Method:RP法)とは、関連者から購入した商品を非関連者に再販売する際の価格から、比較可能な非関連者取引における売上総利益率を引いた後の金額を、関連者の商品購入の公正取引価格とする方法です(実施弁法24条)。
関連者間取引と非関連者間取引の機能とリスクおよび契約条項に係る差異および総利益率に影響を与えるその他の要因を考察し、大きな差異があれば当該差異が総利益率に与える影響を合理的に調整する必要があります。
当該調整は、比較対象とした非関連者との引渡条件や決済条件等の取引条件の違いによる利益率の差異が客観的に確認できるような場合に行います。合理的な調整ができない場合は当該方法を採用することはできません。
再販売価格基準法は通常、再販売者が商品に対して外型、性能、構造の変更または商標の取替等の実質的な付加価値加工を行わない簡単な加工または単純な売買に適用されます。
上図の場合、比較可能な非関連者取引の売上総利益率は次のとおりです。
また、再販売価格基準法による公正取引価格は次のとおりです。
関連者間取引の再販売価格75×(1-0.2)=60
この場合は、子会社設立により公正取引価格である60と国外関連者間取引価格75の差額である15の所得が国外に移転したことになります。
■原価基準法…❸
原価基準法(Cost Plus Method:CP法)とは、関連者取引より発生した合理的な原価(コスト)に比較可能な非関連者取引における売上総利益を加算した金額を関連者取引の公正取引価格とする方法です(実施弁法25条)。
関連者間取引と非関連者間取引の機能とリスクおよび契約条項に係る差異およびコストマークアップ率に影響を与えるその他の要因を考察し、大きな差異があれば、当該差異がコストマークアップ率に与える影響を合理的に調整する必要があります。合理的な調整ができない場合は当該方法を採用することはできません。原価基準法は通常、有形資産の売買、譲渡と使用、役務提供または資金融通の関連者間取引に適用されます。
上図の場合、比較可能な非関連者取引の売上原価利益率は次のとおりです。
また、原価基準法による公正取引価格
は次のとおりです。
子会社が購入した原価70×(1+0.25)=87.5
この場合も公正取引価格である87.5と関連者間取引価格の75の差額である12.5の所得が国外に移転したことになります。
■取引単位営業利益法…❹
取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNM法)とは、比較可能な非関連者取引の利益率指標により関連者取引の移転価格を決定する方法です。利益率指標は、資産収益率、営業利益率、トータルコストマークアップ率、ベリー率等を含みます(実施弁法26条)。
関連者間取引と非関連者間取引の機能とリスクおよび経済環境に係る差異および営業利益に影響を与えるその他の要因を考察し、大きな差異があれば、当該差異が営業利益に与える影響を合理的に調整する必要があります。合理的な調整ができない場合は当該方法を採用することはできません。
取引単位営業利益法は通常、有形資産の売買、譲渡と使用、無形資産の譲渡と使用、役務提供等の関連者間取引に適用されます。この方法は営業利益の水準を比較する方法であることから、一般的に総利益の水準を比較する再販売価格基準法や原価基準法に比べて、機能とリスクの差異等の影響を受けにくいとされ、実務において広く採用されています。
上図の場合、独立企業間価格は次のとおりです。
この場合は独立企業間価格である2,240と国外関連取引の売上高1,800の差額である440の所得が
国外に移転したことになります。
■利益分割法…❺
利益分割法(Profit Sprit Method:PS法)とは、企業とその関連者の関連者取引連結利益に対する貢献度に基づき、各関連者に配賦されるべき利益額を計算する方法です。一般利益分割法と残余利益分割法があります(実施弁法27条)。
一般利益分割法は関連者間取引の各当事者が担う機能、負うリスクおよび使用する資産に基づき、各自が取得すべき利益を確定する方法です。
残余利益分割法は、これに対して関連者間取引の各当事者の合算利益から各当事者に配分する通常利益を控除した後の残額を残余利益として、各当事者の残余利益に対する貢献度に基づきそれを配分する方法です。利益分割法は通常、各当事者の関連者間取引の統合性が高く、かつ各当事者の取引結果を単独で評価することが難しい場合に適用されます。
上図の場合、独立企業間の利益は次のとおりです。
この場合は独立企業間の利益である100と国外関連者取引の利益150の差額である50の所得が国外に移転したことになります。
■その他独立企業間原則に合致する方法…❻
実施弁法の実施条例は❶~❺以外で独立取引の原則に合致する方法によることも認めています。
コストシェアリング契約
国際的な競争力の源泉として無形資産の重要性が指摘されている中、近年、コストシェアリング契約(Cost Contribution Arrangement)により、国境を超えた関連企業の間で共同研究開発を行う多国籍企業が増加しています。
コストシェアリングはOECD移転価格ガイドラインで「資産、役務、あるいは権利の開発、製作または取得に関わる費用およびリスクを分担し、また、それら資産、役務、あるいは権利に対する権益の性格と程度を決定するための企業間で合意される枠組み」と定義されています(OECD移転価格ガイドライン)。
コストシェアリング契約は無形資産の共同開発における費用の分担を取り決めるもので、予測便益に応じた費用負担が特徴です。多額の研究開発費用の資金調達と失敗時のリスク分散という事業経営上のメリットに加え、参加企業が無形資産を共同で開発することになるため、その成果物を利用するための使用料の収受および源泉所得税の納付が不要となるメリットもあります。
コストシェアリング契約が関係会社間で行われた場合には所得の移転が行われたとみなされることがあります。たとえば、日本の親会社と中国の子会社が共同で研究開発を行い、中国国内で特許を取得したとして、実際の費用負担の割合は日本の親会社50%、中国の子会社50%とします。これに対し開発が成功した場合の総予想便益の割合は日本の親会社60%、中国の子会社40%とします。
しかし、この費用負担が独立会社間で行われていた場合は、総予想便益の割合に応じた費用負担をすることが合理的であると判断されるため、費用負担割合は日本60%、中国40%で行われることになります。そこで、費用負担額の10%(60%−50%)が日本から中国に恣意的に移転されることになります。
■中国のコストシェアリング
中国のコストシェアリング規定は、OECDやアメリカ内国歳入法の関連規定と類似した内容ですが、役務に係るコストシェアリングの範囲が明記されている点に特徴があります。
[適用範囲]
中国は以下の2つの状況におけるコストシェアリング契約を認めています(実施弁法64条)。
・無形資産を共同で開発し、または譲渡を受ける場合
・役務を共同で提供し、または提供を受ける場合
ただし、役務に関するコストシェアリング契約はグループ購買およびグループのマーケティングプランにのみ限定されています(実施弁法67条)。
[届出]
企業は、コストシェアリング契約を締結した日から30日以内に税務当局経由で国家税務局に契約を締結した旨の届出を行う必要があります(実施弁法69条)。
[同時文書の保管等]
コストシェアリング契約の実施期間において、企業は以下のコストシェアリング契約の同時文書を準備・保管する必要があります(実施弁法74条)。また、これらの文書は実施年度の翌年の6月20日までに税務当局に提出しなければなりません(同法74条8項)。
・コストシェアリング契約書のコピー
・コストシェアリング契約の各参加者の間で締結された、当該契約を実施するためのその他の契約書
・契約の参加者以外による契約の成果の使用状況および支払金額、方式に関する資料
・当年度のコストシェアリング契約の参加者のBuy-in※1
またはBuy-out※2の状況(Buy-inまたはBuy-outした参加者の名称、所在国または地区、関連関係、Buy-in支払またはBuy-out補償の金額、形式を含む)に関する資料
・コストシェアリング契約の変更および終了の状況(変更または終了の原因、既に形成された契約の成果に対する処理または配分を含む)に関する資料
・当年度のコストシェアリング契約に従って発生した原価総額および構成状況に関する資料
・当年度の各参加者の原価分担の状況(原価支払の金額、形式、対象、
支払ったまたは受取った補償支払の金額、形式、対象を含む)についての資料
・当年度の契約の予測便益と実際の結果との比較およびこれによる調整に関する資料
※1コストシェアリング契約に新規参加すること
※2コストシェアリング契約から脱退すること
[既存契約の参加者の変更・中止]
既存のコストシェアリング契約について、新規参加者や契約からの脱退者があった場合または契約を中止する場合は、企業は独立企業間取引の原則に基づいて以下の調整を行う必要があります(実施弁法70条)。
・加入支払
・脱退補償
・参加者の変更による各参加者の受益および原価の負担状況の調整
・契約を中止する場合、各参加者への契約の成果の合理的配分
■税務処理
企業は、独立企業間取引の原則に従ったコストシェアリング契約をしている場合は以下の税務処理をすることができます(実施弁法72条)。
・企業が契約に基づき分担した原価の、契約に規定する各年度において損金算入
・補償調整がある場合、補償調整年度において、課税所得額に計上すること
・無形資産のコストシェアリング契約で、前記のとおり補償または契約中止時に契約の成果を分配する場合、資産の購入または処分に関連する規定に従って処理すること
ただし、企業が関連者とコストシェアリング契約を締結する際、以下の状況のいずれかに該当する場合は、分担した費用を損金に算入することはできません(同法75条)。
・合理的な事業目的、経済的実質がない
・独立企業間取引の原則に合致しない
・原価と収益との対応原則を遵守していない
・関連規定に基づき、コストシェアリング契約の同時文書を届出、または準備、保存、提供をしていない
・コストシェアリング契約の締結日から遡及して企業の経営期間が20年未満
事前確認制度
事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)とは、企業と税務当局が、特定期間の関連者間取引に適用する移転価格算定方法について事前に合意し、特定期間の関連者間取引に関わる税務問題を解決する制度のことをいい、中国においては国税発(2004)118号、国税発(2009)2号に詳細が定められています。
APAは通常、以下の要件をすべて満たしている企業が申請することができます(実施弁法48条)。
・年間の関連者間取引金額が4,000万元以上の企業
・法律に基づいて関連する申告義務を履行している企業
・規定に基づいて同時文書を作成、準備、保存、提供している企業
APAの有効期間は企業が正式に許可申請を行った年度の翌年度以降3~5年の連続年度となり、その間に行われた関連取引にAPAが適用されます(同法49条)。
APAの交渉、締結は、正式に書面申請を提出した年度やそれ以前の年度の移転価格調査には影響を与えません(同法49条)。しかし、それらの年度の関連取引がAPAの申請年度の関連取引と同じまたは類似している場合、その要件を満たした企業が申請し、税務当局が承認すれば、それらの年度の評価および調整にAPAを適用することができます(同法49条)。
事前確認制度の手続
事前確認制度を適用する場合は通常、予備会談、正式申請、審査および評価、協議、締結、実施の6つの段階を経ます。すべてのプロセスを完了するまでに約1年を要するため、関連する作業を計画的に実施する必要があります。以下、それぞれの段階について説明します。
■予備会談…❶
APAの正式な申請を提出する前に、納税者と管轄税務局の間でAPA実行の可能性を検討するための予備会談を行います。企業が正式にAPAの交渉から締結を申請する前に、税務当局に交渉・締結の意向を書面で提出します。この時点では税務当局との正式な協議ではないため、予備会談は匿名で行うことが可能です(実施弁法50条)。
予備会談を行う際に税務当局へ提出する資料は以下のとおりです(同条1項)。
・確認対象の適用年度を示す書類
・関連者および関連取引情報に関する書類
・企業の過年度の生産経営状況の説明書
・各関連者の機能とリスクの説明書
・過年度の移転価格問題に関する説明書
・その他説明が必要な状況に関する説明書
■正式申請…❷
予備会談で管轄税務局との初期的な合意に達した後、納税者は事前確認の正式な申請書を提出します。提出期限は、正式交渉に関する通知を受取った日から3カ月以内と定められています。(実施弁法51条)申請書には以下の項目を含める必要があります(同条1項)。
・関連するグループ組織、会社内部組織、関連企業の関係性、関連取引の状況
・直近3年間の財務諸表、製品の特徴および保有財産に関する資料
・関連企業間取引の種類および納税年度
・関連企業間の機能およびリスク分担状況
・移転価格算定方法の分析、機能分析および業界のベンチマーキング、前提条件等
・市場、産業分析、競争環境等
・対象年度の事業の損益予測および企業規模、計画等
・関連取引に関連する財務情報
・二重課税等の問題について
・国内および海外の関連する法律、租税条約等の問題について
■審査および評価…❸
管轄税務局は、6つの要件(納税者の過去の経営状況、機能およびリスク、比較対象価格情報、前提条件、価格決定原則および計算方法、予測される価格あるいは利益の範囲)を中心に審査と評価を行います。企業が事前確認の正式な申請書を提出した日から5カ月以内に審査および評価が行われます。ただし、税務当局に特別な状況がある場合は審査および評価の期間が最大3カ月延長される場合があります(実施弁法52条)。
■協議…❹
管轄税務局は審査と評価を実施した後、❸に記す6つの要件に関して協議し、納税者による合意を経て事前確認書草案を作成します。協議は税務当局が事前確認の審査および評価の結論を出した日から30日以内に行われます。協議で合意が成立した場合は、事前確認書草案と審査評価報告書を基に国家税務局が審査を行います(実施弁法53条)。
■締結…❺
管轄税務局と納税者は草案の内容に合意した日から30日以内に国家税務局と企業の法定代表者あるいは法定代表者が授権した代表者が正式な事前確認協議書を締結します(実施弁法54条)。
■実施…❻
企業はAPA期間中に以下の手続を実施する必要があります。
・APAに関連する文書と資料(帳簿と関連記録等を含む)の完全な保管(実施弁法56条1項)
・納税年度終了後5カ月以内にAPAの実施状況に関する税務当局への年度報告(同条同項)
・APAに影響を与える実質的な変化が生じた場合、税務当局への書面による報告(関連資料の提出も含む)(同条4項)
正式な交渉開始の後から締結までの間は、APAの交渉を保留または停止することができます。この場合、交渉中に取得した一切の資料を相手に返却しなければなりません(同法55条)。
事前確認締結継続申請書
APAは期間満了後に自動的に失効します。そのため企業が協議の締結を継続する場合はAPAの期限満了の90日前までに税務当局に締結継続を申請し、事前確認締結継続申請書を提出する必要があります。
また企業は、信頼性のある証明材料を税務当局に提出して、現行の事前確認に述べられた事実および関連する環境に実質的な変化がなく、かつ当該事前確認の各条項および約定を一貫して遵守していることを説明しなければなりません(実施弁法57条)。
移転価格税制と文書化
企業年度関連企業間取引報告書
2008年度の企業所得税の年度申告期限(5月31日)以降、関連者と取引を行う企業は企業所得税の税務申告書である年度企業所得税納税申告表に企業年度関連企業間取引報告書の添付が必要となりました(企業所得税法43条、実施弁法11条)。
税務当局に対する企業と関連者間の取引に関する詳細な情報開示が求められています。これは日本の法人税申告書の別表十七(三)「国外関連者に関する明細書」の国外関連者との取引価格算定方法の開示に相当します。
各項目と必要な情報は以下のとおりです。
■関連関係表(表一)
・関連者名称
・納税者識別番号
・所在地国(地域)
・住所
・法定代表者
・関連関係の類型(資本関係等)
■関連取引総括表(表二)
・取引金額総額(取引の性質別に集計)
・関連者間取引の金額と割合
・国外関連者間取引の金額と割合
・国内関連者間取引の金額と割合
・コストシェアリング契約の有無
・移転価格の同時文書の準備が要求されるか否か(要求される場合、当該文書が準備済か否か)
■仕入・販売表(表三)
・国内外の関連者もしくは第三者からの仕入額と販売額
・貿易方式別の関連者および非関連者間取引の金額
・輸出入総額の10%以上を占める場合の国外関連者および非関連者との取引相手先別名称
・その所在地国(地域)
・取引金額
・価格設定根拠
■役務表(表四)
・国内外の関連者もしくは第三者からの役務提供収入額と支出額
・役務提供に係る収入および支出額の10%以上を占める国外関連者および非関連者の取引相手先別名称
・その所在地国(地域)
・取引金額
・価格設定根拠
■無形資産表(表五)
・国内外の関連者および第三者との無形資産取引(種類別)についての譲受額および譲渡額等
■固定資産表(表六)
・国内外の関連者および第三者との固定資産取引(種類別)についての譲受額および譲渡額等
■融資資金表(表七)
・国内外の関連者との融資取引関連者から獲得した債権性投資(借入)と権益性投資(資本)の比率
・国内外の関連者の名称ならびにその所在地国(地域)
・通貨
・利率
・融資期間
・利息収入支出額
・保証者の名称
・保証料および保証料率
この関連者から獲得した債権性投資と権益性投資の比率については過少資本税制の観点から問われることになります。過少資本税制とは、関連者間の借入を故意に増やし利息支払を発生させて租税回避するのを防止するための税制です。
■対外投資情況表(表八)
・投資先外国企業の基本情報
・株式保有情報
・投資先外国企業の所得税負担状況
・配当の状況
・財務データ
・投資先外国企業が国家税務局の列挙する非低税率国(地域)に所在するか否か
・投資先外国企業の年間利益が500万元未満であるか否か
対外投資情況表の情報は、投資先外国企業が被支配外国企業に該当するか否かの判断に用いられることになります。
■対外支払情況表(表九)
・国外関連者への支払金額
・源泉徴収所得税額および租税条約メリットを享受しているか否か
上記報告表の多くは関連者取引の相手先や金額など、日々の経理実務の中から抽出可能なデータです。
仕入・販売表(表三)、役務表(表四)は、重要な関連者取引ごとに適用する価格政策を記入する必要があることから、移転価格税制対応のための事務負担が単純に増えることになります。同じ関連者取引について中国側の報告書と日本側の法人税申告書に齟齬が生じないようにしなければなりません。表二の関連取引総括表に移転価格に関わる同時文書を作成したか否かを問うチェック欄があるのは、規定に従って税務申告書ならびに同時文書(移転価格分析資料)を作成する必要があることを意味します。同時文書の内容は広範にわたり、報告表の表三ならびに表四同様に相当の事務負担が増えることになります。
企業年度関連企業間取引報告書および同時文書を税務当局に提出しない場合、直接的な罰則は1万元以下の罰金のみで済みます(租税徴収管理法60条、62条)。しかしその罰則以上にリスクとなるのは、規定に従って関連者間取引の申告を行わないか、同時文書を提出しない企業は移転価格調査の対象として選定される可能性が高くなるという潜在リスクです。別の観点からすれば、内部統制上の問題点が露呈しているともいえます。
同時文書(移転価格分析資料)
■同時文書の定義
同時文書の意味する「同時」とは、税務申告書と移転価格文書の作成を同時に行うという意味です。ただし、企業は同時文書を税務申告書と同時に作成するものの、両者を同時に税務当局へ提出することは要求されていません。移転価格文書は税務当局から提出要求を受けてから20日以内に提出することになっています(実施弁法16条)。
移転価格調査において関連者間取引に係る価格設定の妥当性を立証する責任は、関連者ではなく企業側にあります。納税者(企業)がその挙証責任を果たすために作成するものが同時文書となります。
ただし、以下のいずれかに該当する企業は同時文書の作成が免除されます(同法15条)。
・年間の関連者仕入・販売額(材料加工については年度における輸出入の通関価格により算出)が2億元以下であり、かつその他の関連者間取引金額(関連者間融資取引は受取および支払利息額に基づいて算出)が4,000万元以下の場合(4,000万元には企業が年度内に実施したコストシェアリングあるいは事前確認に関わる関連者間取引の金額は含まない)
・関連者間取引が事前確認対象となっている場合
・外資持分が50%未満で、かつ中国国内関連者とのみ関連者間取引を行っている場合
■同時文書の内容
企業は納税年度ごとに関連者間取引に係る同時文書を作成し、税務当局の求めに応じて提出しなければなりません(実施弁法13条)。同時文書の内容は5つの大項目と26の小項目で構成されています(同法14条)。
不備を指摘されないために、原則として以下の項目はすべて記載することが望ましいです。
企業が移転価格調査を受けることになれば、同時文書(移転価格分析資料)を根拠に税務当局と議論を展開することになります。そのため同時文書は企業と税務当局間で同時文書に記された関連企業間取引の内容が共有され、議論展開前の事実認識にかかる時間とコストを大きく減少させる効果があります。
したがって、企業は移転価格調査のファーストステップの認識を持って同時文書を作成すべきです。しかし、実施弁法が要求する同時文書の記載内容は広範であることや、特殊な分析が必要となることから同時文書を企業内で作成することはコストやクオリティの面からすると現実的ではありません。このような現状から、実務では、比較企業・取引の検索やベンチマーキング分析など移転価格分析を得意とする外部専門家に依頼しているケースが多く見られます。
■その他の留意点
実施弁法が規定する同時文書の作成・保存および提出に係る留意点は以下のとおりです(実施弁法17条~20条)。
・税務当局の要求に従って提出する同時文書には社印を押印し、かつ法定代表者または法定代表者が授権する代表者が署名または押印しなければならない
・同時文書の作成で情報を引用する場合はその出所を明記しなければならない
・企業が合併・分割等の理由で税務登記を変更あるいは抹消する場合、合併・分割後の企業が同時文書を保存しなければならない
・同時文書には中国語を使用し、原始資料が外国語の場合には中国語のコピーを添付しなければならない
・同時文書は企業の関連者間取引が発生した年度の翌年6月1日から10年間保管しなければならない
中国における移転価格調査
調査に関する規定
移転価格税制についての調査および更正は特別納税調整実施弁法(以下、実施弁法)第5章にその詳細な規定が設けられています。
この規定は主に移転価格税制に係る調査において、どのような企業が対象となり、どのような資料の提出が求められているか、どのような手続により調査が進められ更正に至るのか、更正後の手続はどのようなものがあるかを定めています。調査対象企業は以下の点にも留意する必要があります。
・企業が経営の意思決定、研究開発、販売等のリスクを負わず、単に関連企業の発注により製品を加工する場合、一定の利益水準を確保する必要がある(実施弁法39条)
・関連者間において受取代金と支払代金の相殺取引がある場合、税務当局は取引した総額に還元して比較性分析と納税調整を行う(同法40条)
・税務当局は、企業の関連取引が独立取引原則を遵守しているかを評価する際に、公開されている独立価格に関するデータと非公開のデータの両方を利用することができる(同法37条)
・四分位法(母集団を上位から25%ずつ4つに分けて、最上位および最下位の25%を除いた残り50%で平均値を求める方法)を用いて企業の利益水準を分析・評価する際、企業の利益率が比較対象企業の利益率レンジの中間値を下回った場合、税務当局は移転価格調整を原則として中間値を下回らない水準で調整する(同法41条)。
調査のプロセス
■調査対象の選択
調査の対象は、以下のような特徴を持つ企業から重点的に選定されます(実施弁法29条)。
・関連者間取引の金額が比較的大きい、または関連者間取引の類型が多い企業
・長期的に欠損状態にある企業、あるいは利益が微少な企業
または利益の変動が著しい企業
・同業界の平均的な利益水準より利益が低い企業
・利益水準が担う機能と負担するリスクとが著しく乖離している企業
・タックス・へイブンにある関連者との取引がある企業
・規定に従って関連者取引の申告を行っていない企業、または同時文書を準備していない企業
・明らかに独立企業間原則に反しているその他の企業
■調査の実施
[現場調査]
税務当局は、選定された調査対象企業に対し現地調査を実施します。この調査の参加者は2名以上でなければならず、税務検査証を提示し、かつ税務検査通知書を交付しなければなりません(実施弁法32条1項、2項)。
現場調査の方法は、ヒアリング、帳簿および関係資料の取り寄せ、実地検査があります。また、証拠を収集するために、税務当局は記録、録音、録画、撮影、複写等を行うことができます(実施弁法32条7項)。
[提出書類]
現場調査により提出すべき資料として以下のものが明示されています(企業所得税法実施条例114条)。
・関連者間取引に関する価格、費用の決定基準、計算方法および説明等を含む同時文書
・関連者間取引に関する資産、資産使用権、役務等の再販売(譲渡)価格、または最終販売(譲渡)価格に関する資料
・関連者間取引の調査に関係のあるその他の企業(経営内容や生産方式が調査対象企業と類似する企業)が提出しなければならない、調査対象企業と比較可能な製品価格、価格決定方法および利益水準等の資料
・関連者間取引に関するその他の資料
[調査の決着]
企業の関連者間取引が独立企業間価格に則っている場合、税務当局により特別納税調査結論通知書が発行され、移転価格調査が終了します(実施弁法42条)。一方、独立企業間価格に則っておらず課税所得が少ない場合は、税務当局により移転価格納税調整が行われます(同法43条)。
[移転価格納税調整]
税務当局は独立取引原則に違反したと判断された調査対象企業に対し、次の図のプロセスにより移転価格納税調整を実施し、税金および利息を徴収します(実施弁法43条)。
税務当局に異議を申立てる機会は2回ありますが、特別納税調査初歩調整通知書に対する異議の提出期間は、通知書の受領から7日以内と短期間である点に注意する必要があります(実施弁法43条4項)。
[追跡管理]
税務当局は企業に対して移転価格更正を行った最終年度の翌年から5年間にわたり追跡管理を実施します。更正指示を受けた企業は追跡管理期間において、追跡年度についての同時文書を翌年の6月20日までに税務当局に提出しなければなりません。
税務当局が追跡管理期間中に企業の移転価格に変動を発見した場合には、税務機関による簡易的な税務調査の下、再び更正を受ける必要があります(実施弁法45条)。
罰則規定
納税者が報告表の提出や移転価格文章およびその他の関連企業間取引に関する資料の保存を怠った場合や、企業が関連企業間取引に関する資料の提出を拒否するか、または虚偽、不完全な文章を提出した場合には、それぞれ以下のような罰則規定が適用されます。
中国税務当局は、企業が同時文書等の関連企業間取引関連書類の提出拒否または虚偽開示を行った場合には、推計課税を行うことができます。企業は、上記の関連書類を出していないため、中国税務当局が設定した移転価格によって所得調整されてしまいます。
さらに、中国税務当局はこの所得調整を最長で10年間遡及して行うことができます。このため、企業は上記関連書類を含めた移転価格関連情報を中国税務当局に適宜提出しなければ多大な損失を被ることになります。利息追徴課税が発生した場合には、企業は納付金額に利息を加算しなければなりません。利息金額の算出方法は以下のとおりです。
企業が年度納税申告書を通じて関連者間取引の開示、同時文書等の関連企業間取引関連書類を提出した場合は、利率は人民元貸付基準金利のみとなります。
救済措置
移転価格課税の救済措置には、手続としての相互協議とその結果としての更正額の減額や対応的調整があります。相互協議は国際的な二重課税を排除することを目的とした手続であり、権限のある税務当局間で行われます。
日本と中国との間では日中租税条約25条1項および2項に定められています。相互協議は、国税庁と国家税務局との間で行われ、申立人は直接協議に参加することはできません。
相互協議の内容は以下のとおりです。
対応的調整とは、一方の国で移転価格税制により更正指示を受けた金額に相当する金額を他方の課税所得から減額することにより国際的な二重課税を排除するものです。これを適用するためには上述の相互協議において両者が合意する必要があります。
移転価格事例
本節では移転価格税制について事例を挙げて説明します。
■事例1購買に関する関連者の裁量
大連にあるパソコン関連およびテレビの保守設置作業を行っている日中合資のメーカーは高新技術企業に認定されていました。高新技術企業の粗利率は概ね高くなるのが特徴です。しかし、当該メーカーの2000年から2002年までの粗利率は9%前後と低く、一般的な高新技術企業の粗利率と乖離していました。そこで、税務当局が同社から資料を集めて調査したところ、原材料の大部分を国外関連者から購入しており、原材料の購入先および購入価格は国外関連者が決定していたことがわかりました。その結果、295万元の所得税が追徴されました。
論点
関連者の意思決定機能原材料の大部分を関連者から購入している点、またその購入先や購入価格について関連者が意思決定機能を持っている点から、当該メーカーは独立企業とはみなされません。
検証
この事例のポイントは同業他社の一般的な粗利率と当該メーカーの粗利率の乖離です。税務当局は、業界の一般的な経営指標と乖離した経営指標を持つ企業を初期段階での税務調査の対象としています。
このことから中国の税務当局は業界の利益水準を間接的に決定しているともいえます。業界の平均値や競合他社と乖離する価格設定をしている場合、税務局から指摘を受け追徴される可能性が高くなります。自社と関連会社の関係を明確にし、市場の状況などを考慮しながら企業間価格を決める必要があります。
■事例2独立企業間価格の原則
香港企業を親会社に持つ電子機器組み立てメーカーは1998年から2001年の間、売上高が20%から100%の伸びを示していました。それにもかかわらず、売上総利益率は1%弱と低いものでした。税務当局が調査したところ、売上総利益率は2%前後が適正であることが判明し、約5,000万元の納税漏れが指摘されました。
論点:移転価格の合理性
売上高が好調に伸張しているにもかかわらず、売上総利益は低い推移である点から、移転価格の設定に際して合理性が欠如しているとみなされる恐れがあります。
検証
この事例のポイントは売上総利益率1%弱が独立企業間価格の原則に合致するか否かです。中国においてすべての国外関連取引に独立企業間原則が適用されると規定された時期にあたり、原則に合致することになります。
このことから、中国は明確に独立企業間価格を念頭においた移転価格税制を実施していると考えられるため、常に独立企業間価格を意識する必要があります。税務局から新たな通達等が発せられた場合は企業間価格について見直さなければなりません。
■事例3単純機能を担っている会社
香港企業を親会社に持つ靴メーカーは親会社から原材料の供給を受けていましたが、経常的に赤字を累積していました。そこで税務当局が調査したところ、「原価+費用+合理的利益」が独立企業間価格であるとして、改めて課税所得を計算して更正を受けることになり、企業所得税を納付することになりました。
論点:経常的な赤字の発生
一般的に企業は利益を獲得することを目的としているため、経常的な赤字が累積する原因の1つである原価に対する販売価格設定の歪みは、独立企業としての合理性の欠如とみなされます。つまり、移転価格の設定は独立企業間の販売価格のみによって決定するのではなく、企業が適切な利益を上げることも前提として決定しなければなりません。
検証
この事例のポイントは、靴メーカーが経常的に赤字を累積していたということです。中国税務当局は、「単純機能を担っている会社(関連会社向けのみの製造を行っている工場など)は経常的に一定の利益を得る」との考え方に立っています。
そのため、経常的に赤字を累積していたこのメーカーは移転価格調査の対象となったと考えられます。多くの同業種が黒字であるにもかかわらず自社だけが赤字である場合、税務当局から指摘を受けることが多くなります。同業他社の業績も見ながら、企業間価格を決めなければなりませんが、企業間の競争が激しく、赤字にならざるを得ないこともあります。その場合は、赤字に転じた理由を検証し、税務局が納得する関連者間の取引価格に設定し直します。
■事例4中国企業グループ内の所得移転
常徳市のあるメーカーは、関連者である長沙市にある企業から原材料を高く購入し、加工後に同じ企業に安く売り戻していました。中国は地域によって税率等が異なる場合があります。この企業グループはその税率差を利用することで企業所得税や増値税の税負担を軽減していました。
問題としては、税務当局より申告納税漏れとして指摘を受ける可能性があります。
論点:中国の関連者取引の範囲
日本では、国内法人と国外法人との取引を関連者取引としていますが、中国では地域別税率優遇があるため、中国国内の関連者間の取引も関連者間取引の調査対象となります。
検証
この事例のポイントは、中国税務当局が移転価格税制を企業単体ではなく企業グループ全体で判定しているということです。関連企業間の取引を行う際は、企業グループ全体で移転価格税制に取組む必要があります。
■事例5日本側ロイヤリティ
電子部品のメーカーA社は、日本で製造した部品を中国の販売子会社B社に卸売し、日本企業および中国系のローカル企業に販売しています。中国ローカル企業への販売は、現地のディーラーを介したものです。A社からB社への販売価格は当該ディーラーへの販売価格と同額に設定しています。A社は、日本で中国進出企業に対して営業活動をしていた社員を日本企業との関係維持を目的としてB社に出向させています。当該担当者の給与はB社が負担しますが、それ以上の対価はA社に支払っておりませんでした。
このケースも、税務当局より申告納税漏れとして指摘を受ける可能性があります。
論点:出向社員の実質的位置付け
中国販売子会社B社では実質的なマーケティング活動を行っていないため、日本の親会社からの出向社員の営業ノウハウおよびコネクションはマーケティング無形資産であると考えられます。
検証
中国税務当局は、独立企業間取引として取引の利益水準以外に、企業グループ内での人の流れについても見ていると考えられます。この事例では、中国の現地ディーラーの営業利益率との差額をロイヤリティの回収漏れとして課税される可能性もあります。無形資産も含めた関連取引全体を考慮して企業間価格を決める必要があります。
■事例6移転価格と寄付金
日本のメーカーである親会社D社は、中国に現地法人の子会社E社を立ち上げ、現地で原材料を仕入・製造した上で販売しています。現地生産ラインの整備後、D社より現地の教育担当、製造技術支援の社員を中国のE社へ派遣することになりました。D社とE社との間で技術者支援の契約を締結しましたが、E社の今後の業績が不透明であることから、支援の対価については収受していませんでした。このケースも税務当局より申告納税漏れとして指摘を受ける可能性があります。
論点:対価未収受の判定
対価を収受していないことは寄付金として認定されるか、または移転価格税制の対象となるかが論点となります。役務提供の対価を収受していない場合、日本側においては経済的利益の無償供与とみなされ、この部分については寄付金として認定されます。
例外として、子会社が倒産に至るような業績不振に陥っている場合などは、損失を最小限に抑えるために、親会社は利息を取らず無償で資金を貸付けることが認められていますが、この事例は将来の業績が不透明で、現実的に危機的状況ではないため、この規定は適用されません。
検証
この事例のポイントは、経営上、親会社による子会社への必要最低限の支援は経常的に行われていることであり、これを直ちに有償性がないということは難しく、同様の取引を行う場合には何かしらの形で対価を収受し、有償性があるという意思表示を行う必要があるという点です。
有償性があるとされた場合には寄付金とはならないため、移転価格税制の適用を受けることになります。この場合には、収受している対価の額が実際に供与されている役務の対価として妥当かどうか、つまり独立企業間価格かどうかという点を論議することになります。
支援の内容を企業内で明確にするとともに、税務上のリスクが生じる可能性がある支援内容については、別途専門家に相談するなど対応策を検討する必要があります。
■事例7利益率比準法適用の事例
中国の合併企業F社は日本のG社と中国のH社が共同出資して設立されました。中国法人F社は電気製品メーカーで、製品を中国国内および国外に販売しています。中国国内では最終ユーザーに製品を直接販売していますが、輸出販売はF社がG社に製品を販売し、G社が日本国内の最終ユーザーに再販売するか、日本の商社を通して第三国に販売しています。F社におけるG社への売上高依存率は約70%です。
税務当局は輸出販売の営業利益率がマイナスとなっている点を問題としました。
論点1:輸出販売の営業利益率
輸出販売の営業利益率がマイナスになっている原因として製造間接費の按分方法と販売費および一般管理費の按分方法が実態に即していないことが考えられます。
論点2:
移転価格の算出と比較対象とすべき非関連者間取引の利益率税務当局は利益率比準法による営業利益水準の比較分析によってF社の所得金額を更正することを検討し、輸出販売の営業利益移転価格の算定方法と比較対象とすべき非関連者間取引の利益率はシークレット・コンバラブル(税務局側が納税者に対し独立企業間価格算定の参考となる企業や取引の開示を求めたにもかかわらず、納税者からその開示がなかった場合等に、税務局側が一方的に独立企業間価格を算定すること)により算出した6~8%が妥当であると考えました。
一方F社は、一般的な製造業が用いる原価基準法を主張し、中国の上場企業から選定した比較対象企業のマークアップ率(利益率)を用いた分析レポートを提出しました。
検証
輸出販売の営業利益率がマイナスとなっている点については、費用対収益の関係が成立するように、製造プロセスや配賦基準を見直す必要があります。
関連者と非関連者とで取引形態が異なる場合、独立企業間価格の判断において売上総利益のみの検討では不十分なため、製造間接費の按分方法や販売費および一般管理費の按分方法によって変動する営業利益水準をも考慮する必要があります。その配賦方法が実態を反映していない場合は企業内の利益配分に歪みが生じるため、税務当局が移転価格決定の合理性に疑念を持つことになります。
■事例8特殊な要因が生じた場合
製造子会社I社は日本親会社J社の100%子会社です。I社は業務用機器メーカーで、主に日本親会社J社との間で進料加工(委託加工品のうち材料を委託先が有償で輸入し、加工物を輸出販売する加工取引)を行っています。また、当該加工業以外にも製品の一部は中国国内の市場で直接販売しています。I社は原材料の約90%をC社から仕入れ、製品の約70%をK社に販売していました。J社に販売した製品は、最終的に日本および第三国のエンドユーザーに販売されます。
税務当局は、関連者間取引(輸出)と非関連者間取引(国内)との利益率の差が著しいことから、移転価格の可能性があるとして国内販売を内部比準取引とする独立価格比準法を適用しました。
論点1:国内販売価格と輸出価格の差
I社は「国内販売は製造のみではなく、販売・マーケティング機能および債権回収リスクも負っているが、輸出販売に関しては、製造のみ」として、国内販売と輸出販売とでは機能とリスクが異なる旨を主張しました。またI社は「日本製品として市場から信頼が得られ、比較的高値で取引されている」ことから、J社にブランド料を支払っていることも考慮すべきであると主張しました。
論点2:設立時点からの乖離
税務当局は、輸出販売の実際価格とこの企業が設立時に当局に提出した事業計画における価格設定に大きな差があることに着目しました。
一方でI社は、この事業計画は、設立の認可を得るために採算性のある事業であることならびに、中国の将来の発展に寄与する事業かどうかを説明するために作成したものに過ぎず、販売価格の設定の論拠にはならないと反論しました。
論点3:特殊要因の取扱
上記の2つの論点に鑑み、税務当局は当初の主張であった独立価格比準法の適用可能性は低いものと判断し、原価基準法を採用することを通知しました。しかしI社は論点2で記したように、特殊要因を控除した原価をもって正常原価とすべきだと主張しました。結果として、当局はI者の主張を一部認めたうえで更正案を提示し、合意に至っています。
検証
この議論では、原価基準法の基準となる原価から非正常的な特殊要因による原価への影響を控除することができると考えられます。移転価格調査に際しては取引価格または利益率の合理性が判定されますが、マーケットの状況や生産体制の変更等、経営環境に何らかの変化を生じさせるような特殊要因がある場合、税務当局にその状況を説明できれば、相応の配慮を要請する余地があります。納税者は自らの主張を裏付ける補足資料を用意し、遅滞なく税務局へ提出することが重要です。
移転価格調査の結果、更正指示を受けた企業は、移転価格管理規定47条に基づき、調査対象年度の翌年度から5年間、税務当局による管理監督を受けますが、その際も同様の取り扱いが可能であるといえます。
■事例9業態変化
L社は2005年に深圳市に設立され、設立2年目の売上高は100億元超、営業利益は2億元超でした。3年免税期間経過直後から、L社は原材料仕入加工業(OEM加工業)から委託加工業へと事業内容をシフトした結果、2008年度の売上高は2007年の100億元超から3億元、営業利益も2,000万元まで減少しました。
しかし、売上高が大幅減少したにもかかわらずL社は生産規模を拡大し、大幅な増員も行っていました。その他経営上の変化としては、統括本部が仕入を行うことで、直接、原材料を仕入れなくなった点のみです。L社と国外関連会社の委託加工契約においては、具体的な価格決定方法についての取り決めがなく、価格の合理性を確認できるものもありませんでした。
論点:類似業種の材料費割合
この事例では、委託加工契約において関連者との取引価格に対する合理的な取り決めがなかったため、税務当局は原価基準法の適用を主張しました。具体的には、類似企業を参考として適正な製造コストを割り出し、適正な委託加工報酬を算出するように指示しています。
検証
この事例では、原価基準法により利益を算出した結果、1億8,000万元を追加徴税されています。売上の急激な減少が税務調査のきっかけになったと考えられます。生産規模を拡大して大幅な増員を行っていますが、2007年の営業利益率(約2%)よりも2008年の営業利益率(約6.7%)が上回っていたことを鑑みると、製造加工費を一般管理費に配賦して調整している可能性もあります(売上原価比率80~90%)。
企業の対策としては、業態が変化するときの税務リスクやそれに伴う会計処理の変更等を想定し、事前に専門家に相談することが挙げられます。
■事例10循環取引
X電子は、2000年に中国に設立された生産型外商投資企業です。主要事業としてノートパソコンの組み立てならびに販売を行っています。出資者は、イギリス領バージン諸島にあるX国際持株有限会社で、最終出資者は台湾のX工業です。
X電子は設立後、4年間ほぼ無利益状態で、4年間の利益率は0.5%前後と、親会社の利益率と比較しても極端に低水準でした。
X電子は、台湾X工業の中国にある関連企業を通じて受注・販売を行っていましたが、最終的にはX工業が消費者に販売していました。さらに移転価格調査の際にX電子が非関連者取引の対象として挙げた販売先7社(いずれもバージン諸島にある企業)すべてについて、引き渡した製品がX工業に渡っていることが判明しました。
論点1:利益水準
4年間の利益率が0.5%という数値が、国外親会社の財務諸表と比較しても極端に低い水準であることから、X電子は販売価格を低く設定し、X工業へ所得を移転していると考えられます。
論点2:イギリス領バージン諸島の7社の実態
この事例では類似企業との比較により1,000万元以上が追加徴税されました。取引の流れを見ると、X工業にすべての商品が渡っているため、グループ内での取引であると考えることができます。また、価格の決定についてはX工業が行っていることから、X電子は製品を製造するのみで、X工業の加工部門に過ぎないと考えられます。
検証
X電子では、独立価格比準法が採用されていると考えられます。一般的には、流通量が多い商品に対しては同法を採用しますが、中国では、販売価格のみを検討するのではなく利益の水準についても類似企業との比較が必要とされています。
参考文献
・『中国の投資・M&A・会社法・会計税務・労務』
(久野康成・TCG国際弁護士法人監修 TCG出版)
・「関連申告と同時資料の管理の完備に関する事項について公告」(国家税務総局公告2016年第42号)
关于完善关联申报和同期资料管理有关事项的公告 (chinatax.gov.cn)
・中国の移転価格税制 | 押方移転価格会計事務所 (oshikata-tp.com)
・中国の移転価格税制の概要や整備・執行状況、トピックス (consult-transferpricing.com)
・PwC中国日本企業部ニュースレター 中国移転価格税制への対策ナビゲーション
・【PwC中国 日本企業部ニュース】中国移転価格税制への対策ナビゲーション-TP知道_税関と税務局による移転価格共同管理制度が深センで先行試行
・国税庁 移転価格に関する国税庁の取組方針
移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~|国税庁 (nta.go.jp)
・財務省 移転価格税制の概要
移転価格税制の概要 : 財務省 (mof.go.jp)
・企業所得税法実施条例
中华人民共和国企业所得税法实施条例 (chinatax.gov.cn)