労務
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労務環境
インドネシアでは、宗教・慣習(礼拝時間、断食月(ラマダン)、断食明け大祭(レバラン)等)が就業時間や休暇取得、職場運営に影響しやすく、労務管理においてはこうした文化的背景を踏まえた制度設計・運用が重要となります。
総人口ならびに労働人口は年々増加する傾向にあります。雇用状況に関しては、生活の安定を目的とする人々が、アジア地域によく見られるジョブホッピングを行っています。その背景には学力・失業率などの問題があり、改善に向け国を挙げて取り組んでいます。
本節では、人口や労務に関する統計から、日本とインドネシアの労働法の相違、社会保険などを取り上げていきます。
■労働力人口
労働力人口とは、15歳以上の就業者と失業者の合計をいいます。BPS(インドネシア中央統計局)の全国労働力調査(Sakernas)によれば、労働力人口は2015年8月時点で約1億2,240万人、2025年8月時点では約1億5,400万人となっており、中長期的に増加傾向にあります。
この増加は、労働市場への新規参入が継続していることを意味し、企業側では採用市場の裾野が広い一方で、人材のスキルミスマッチ(教育・技能と職務要件の乖離)への対応も重要となります。
■失業率
インドネシアの失業者数は1997年の通貨・金融危機後の社会的混乱から年々増加し、1997年の420万人から2005年には1,190万人となりました。この間に失業率は、4.7%から11.2%まで上昇しています。しかし、2005年を境に2006年は10.3%、2007年は9.1%と低下し始めました。これは人口・労働力が増加するなか、汚職の撲滅、テロ対策、貧困の撲滅などを掲げて2004年にユドヨノ政権が誕生したことがきっかけとなっています。ユドヨノ大統領は若年労働力の供給過剰と失業および不完全雇用の克服、若年労働者の質と生産性の向上、使用者と労働者(若年者)のバランスのとれた雇用関係の構築を目的として、さまざまな取組みを行っています。その成果もあり、近年の失業率(TPT)は低下傾向で推移しており、BPSによれば2025年8月時点の失業率は4.85%となっています。ただし、若年層の失業率の高さは依然として問題となっています。
■教育水準
若年層の高失業率の問題の背景には、低い教育水準があるといわれています。インドネシアは日本と同様に小学校、中学校、高校の他に、イスラム系学校が各教育段階に設けられています。
小学校への入学年齢を6~8歳と幅を持たせているのは、貧困家庭でも義務教育を受けられるようにするためです。義務教育は小学校6年と中学校3年の合計9年です。学歴別にみると失業率には差があり、BPSの学歴別失業率(2025年)では、初等(SD相当)以下2.30%、中学3.80%、普通高校6.88%、職業高校8.63%、短大等(Diploma)4.31%、大学5.39%とされています。そのため「働きたくても、学歴がないために働けない」という若者が多いようです。こうした状況を鑑み、現地採用をする場合には、低い学歴の労働者を積極的に採用し、人材育成をすることも選択肢の1つといえます。
インドネシアでは日本でいう高校課程において、日本語が第二外国語に採用されていることもあり、日本語学習者の割合がASEAN諸国の中では際立って高いことも将来性という点で注目すべきです。
■雇用環境の改善
インドネシアの雇用環境の改善に関する政策としては、次のようなものがあります。
[インドネシア若年雇用ネットワーク]
若年雇用のプログラムを調整・緩和するために、各政府、使用者団体、労働者団体、若年組織などがネットワークを確立しています(YEN:YouthEmploymentNetwork)。国としての若年雇用行動計画の策定や、計画実現のための各種施策の実施により、若年者の雇用を促進することが目的です。
[職業訓練センター]
職業訓練センターは日本でいうハローワークのような機関ですが、日本よりも多様な機能を持っています。職業訓練センターでは、社会人として活躍できるように技術を習得させるプログラムが用意されており、その分野は機械、自動車、溶接、電気、商業と多岐にわたります。同センターでは、主に若年者を対象に、労働市場で即戦力として能力を発揮できるようにするための訓練を実施していますおり、技術面だけでなく、融資や助成金の活用のように、ビジネス上の手法を指導して起業の促進を図る取組みも行っています。そのほか、学校で職業ガイダンスの強化を行うなど、さまざまな活動をしています。
[職業ガイダンス]
労働移住省と国民教育省が協力し、学生の就業を支援することを目的として、中学校を中心に各学校に職業ガイダンスの専任講師とカウンセラーを配置しました。主に若年者を対象として職業ガイダンスを行うことにより、労働市場で即戦力となれるような人材を育成しています。
■賃金水準
BPSによれば、2025年8月時点の雇用者の平均月収(平均賃金)は3.33百万ルピアであり、前年(2024年8月:3.27百万ルピア)から上昇しています。
製造業を含む各業種・各地域の賃金は、最低賃金(州・県市の最低賃金)や景況、労働需給等の影響を受けて変動するため、最新版の統計(BPSのSakernas等)に基づいて定期的に更新することが望まれます。
■周辺諸国との平均賃金比較
インドネシアでは、最低賃金改定や物価動向、景況等を背景に賃金水準は上昇傾向で推移しており、BPSの平均賃金でも前年同月比で上昇が確認できます。以前は、低賃金で労働力が豊富な国としての魅力がありましたが、近年では製造業を中心に人件費の高騰が問題となっています。
労働組合と労働争議
■労働組合
インドネシアでは、以前は労働組合の設立が規制されていましたが、政府が1998年6月ILO第87号条約(結社の自由及び団結権の保護条約)を批准し、労働組合の設立を自由化したため、現在では全インドネシア労働組合総連合をはじめとする、多数の労働組合が設立・登録されています。
これに加え、労働組合の設立および運営に関する基本法として、労働組合法(法律2000年第21号)が制定されており、同法に基づき労働組合は設立・登録されます。
[三大労働組合]
在、主要な労働組合連合としては、全インドネシア労働組合総連合(KSPSI:Konfederasi Serikat Pekerja Seluruh Indonesia)、インドネシア労働組合総連合(KSPI:Konfederasi Serikat Pekerja Indonesia)、インドネシア福祉労働組合総連合(KSBSI:Konfederasi SerikatBurch Sejahtera Indonesia)などが挙げられます。
2024年から2025年初頭にかけて公表された労働組合連合および関連資料によれば、主要組合連合ベースで合計300万人前後の労働者が労働組合に参加していると推定されています。
ただし、組合員数や勢力図は年次により変動が大きく、重複加盟の可能性もあるため、最新の政府統計や各労働組合連合の公表値を参照する必要があります。
労働組合の実力行使に企業が頭を悩ます例として、会社に不利益になるような宣誓書に署名を求められることが挙げられます。内容が不明確なものに署名をすることは避け、内容の確認がとれないものは弁護士等に個別に相談するなどの対策が必要です。
主な使用者団体としては、1952年に設立されたインドネシア経営者協会(APINDO:AsosiasiPengusahaIndonesia)があり、各企業の労使関係の円滑化、加入企業その他使用者の保護などを目的としています。
■労働争議の発生状況
インドネシアの労使関係は安定しているとはいえず、労働協約の締結交渉が決裂するケースが多くあります。
民主化以降、最低賃金改定や雇用制度改革を背景として労働争議は断続的に発生しており、近年においても完全に沈静化しているとはいえません。
近年の労働争議は、個別企業単位の紛争にとどまらず、最低賃金決定方式や雇用創出法(オムニバス法)等の政策課題を巡り、労働組合連合が主導する広域的・全国的な抗議行動やストライキとして実施される傾向が強まっています。
これらの労働行動については、全国一律の公式統計として正確な発生件数が継続的に公表されているわけではありませんが、都市部および工業集積地域を中心に継続的に発生しており、動員規模や社会的影響の大きさという点で、企業活動や労務管理に与える影響は依然として大きいといえます。
■ストライキ規定
ストライキとは、労働争議に起因する、労働者によって計画された労働時間の喪失を伴う集団行動を指します。業務停止、座り込み、残業停止など、労働者はストライキに関する基本的な権利を持っています。ストライキ期間中の賃金の取扱いについては、当該ストライキの適法性、労使間の合意内容、就業規則または労働協約の定め等により判断され、実務上は紛争となるケースも少なくありません。違法ストライキは、以下のように規定されています(2003年違法労働ストライキの法的結果に関する労働大臣決定書第232号)。
・交渉決裂によらない場合
・経営者と地域の労働機関への通知がされずに行われた場合
・ストライキ実施日より7日前までに通知が行われなかった場合
(ストライキ実施日の6日以内に通知された場合)
・2003年第13号労働法140条(2)項a、b、c、dを遵守しなかった場合
・公共サービス会社、人命の安全を脅かす種類の事業を営む会社における、勤務時間内の労働者による場合
違法ストライキに参加した労働者は無断欠勤として扱うことができます。経営者は労働者に対し猶予期間14日以内に2回まで、書面により業務に復帰する交渉を行うことができますが、これに応じない労働者は自己都合による退職者とみなすことができます。ただし、労働者が重大な違法行為または重大な過失行為に基づいていない限り、雇用者がストライキに参加した労働者を罰するべきではないともいえます。
インドネシアは労働法の規定や罰則が厳しいため、労務管理上、ストライキや労働組合の活動に関する管理については十分に留意する必要があります。
■労働争議の解決方法
後を絶たない労働争議を未然に防止するために労働争議の解決手続は、産業関係紛争解決法(法律2004年第2号)に基づき運用されています。
労働争議の解決方法には、「調停・仲裁・斡旋」または「労働裁判所」を通じた裁定があります。労働争議が発生した場合には、まず雇用者と労働者の二者間で、30日程度の協議・交渉をします。交渉で合意がとれた場合は、相互協定を結び両者が署名することになります。しかし、両者が合意に至らない場合には、その争議は地方労働事務所に持ち込まれ、斡旋または調停により解決が図られます。両者が調停または仲裁を選択しない場合は、仲裁人に問題の解決を依頼し、仲裁人が両者に合意の提案を行います。提案にもかかわらず合意がなされず、両者もしくは一方がその提案を拒否した場合には、一方の当事者はその職場の管轄地方裁判所下にある産業関係裁判所(労働裁判所)に提訴することができます。
以上のような過程で、最長で140日の稼働日+手続+準備期間で審議されます。新法以前と比べるとかなり審議期間が短くなり、損失労働時間の弊害も少なくなりました。
産業関係裁判所は現在、バンダアチェ、北スマトラ、西スマトラ、ペカンバル・リュウ、タンジュン・ピナン・リュウ諸島、ジャンビ、ランプン、ベンクルー、南スマトラ、ジャカルタ、バンテン、西ジャワ、ジョクジャカルタ、東ジャワ、中央スラウェシ、スラウェシ、北スラウェシ、南東スラウェシ、西スラウェシ、ゴロンタロ、バリ、北マルク、マルク、西パプアに置かれています。労働者の多くは低学歴なため、労働争議やその解決に関する知識がない場合も多くあります。
■労働争議の事例
以下の事例に見られるように、スハルト政権崩壊後の民主化の流れに伴い、インドネシアでは2000年以降、労働争議や労働問題が発生しやすい環境が形成されてきました。
スハルト政権下では政府公認の労働組合はインドネシア労働組合(SPSI)のみが認められていましたが、政権崩壊後に労働組合の設立が自由化され、各種労働組合や労働組合連合が急速に組織を拡大しました。これにより、企業内労組の活動が活発化し、賃金、雇用条件、解雇、社会保障制度などを巡る労働争議が顕在化するようになっています。
もっとも、ストライキや労働争議を経験した企業の多くは、適切な対応を行うことで事業継続が可能であり、直ちに撤退を判断するケースは限定的です。一般に、労働組合の活動を主導しているのは一部の労働者であり、大多数の労働者は比較的従順で真面目に業務に従事しているといわれています。そのため、労働組合の代表者と冷静に交渉を行い、労働法令や社会保障制度を正しく理解したうえで対応することが、労働争議の回避や安定的な労使関係の構築において重要となります。
事例①日系製造業(電機関連企業)のケース
2020年代初頭、西ジャワ州の工業団地に立地する日系電機関連メーカーのインドネシア現地法人において、最低賃金改定および雇用条件の見直しを巡り、労働組合との対立が発生しました。
労働組合側は、州知事令に基づく最低賃金引上げの全面適用と、手当体系の見直しを要求し、工場周辺での抗議活動やデモを実施しました。これにより、一時的に操業に支障が生じ、会社側は警備体制の強化や操業計画の見直しを余儀なくされました。
最終的には、会社側が労働組合代表と協議を重ね、賃金改定の適用方法や支給時期について一定の合意に至り、長期的な操業停止には至りませんでした。本件は、最低賃金改定期における労使間の認識のずれが、日系企業においても労働争議に発展し得ることを示す事例といえます。
事例②日系製造業(部品・加工業)のケース
2024年から2025年にかけて、ジャワ島中部に進出する日系部品製造企業の現地法人において、契約更新および雇用形態の変更を巡る労働争議が発生しました。
同社では、有期雇用契約社員の契約更新に際し、業績低迷を理由に一部条件の見直しを行おうとしましたが、労働組合側はこれを「実質的な不利益変更」として反発しました。
労働組合はストライキの実施を示唆し、工場門前での集会や抗議活動を行いましたが、会社側は労働局を交えた協議を通じて、補償金の支給方法や契約終了時の取り扱いを明確化しました。その結果、全面的なストライキには至らず、労使間で一定の合意が形成されました。
本事例は、オムニバス法施行後においても、有期雇用契約や補償金の取り扱いを巡る認識の違いが、労働争議の要因となり得ることを示しています。
事例③日系企業を取り巻く広域的労働争議の影響
近年では、特定企業を対象とした争議にとどまらず、最低賃金決定方式や労働関連法令の改正を巡り、労働組合連合が主導する広域的・全国的な抗議活動が発生しています。
これらの抗議行動は、必ずしも日系企業個別の経営判断に起因するものではありませんが、工業団地周辺でのデモやストライキにより、日系企業の操業や通勤、物流に影響を及ぼすケースがあります。
このような状況下では、企業単独での対応には限界があるため、工業団地管理会社、使用者団体、警察・行政機関との連携を含めた包括的なリスク管理が重要となります。
労働法
インドネシアの労働関係法令の基本法は、労働に関するインドネシア共和国法律2003年第13号(新労働法)です。労働法は、その後、雇用創出に関する一連の法改正(通称「オムニバス法」)により改正され、現在は主として雇用創出に関する法律2023年第6号および関連実施規則により、労働法(2003年法13号)の複数条項が改正・運用されています。この法律はインドネシア人労働者、外国人労働者ともに適用されています。
インドネシアでは、1990年代後半から労働関連法の整備が進められてきました。1997年10月に制定された改正労働法は、労使双方からの反対により施行が凍結され、2002年9月には改正案が廃止されました。それに代わる法律案として2003年3月に労働法(新労働法)が公布されました。さらに、2003年には労働者保護法、労使紛争解決法(2006年1月施行)が制定されています。
新労働法は「労働民主化」と評され、雇用、賃金、ストライキ、解雇、退職金などを規定し、労働関係法令の基本法と位置付けられています。その一方で、労働者保護に重点を置いた内容であるために、企業にとっては大変な負担増となりました。
そこで、外国投資の促進を目指す政府は、投資家からの強い要望を受け労働法改正を検討しました。労働法改正に向けて開催された政労使三者協議では、労働者保護に関する規定の多くが削除されました。しかし、労働団体側がこれに反発し、労働法改正に反対する労働団体のデモが各地で頻発したことにより、労働法改正案の国会提出は延期され、その後10年以上改正には至らず、2003年版の労働法が運用されていました。
こうした背景から、オムニバス法では労働者の保護についても規定をしつつ、労働生産性の改善や雇用機会の拡大を目指し2020年11月に施行されました。
■労働法の労働基準
インドネシアの労働法の特徴は、日本と比べて残業や休日出勤、女性労働者の保護等が細かく規定され、各水準が比較的高く保たれていることです。
現地労働者の労務管理を円滑に行っていくために忘れてはならないのが宗教関係の規定です。インドネシア人の約9割がイスラム教徒のため、たとえば1日5回の礼拝の休憩時間や、レバラン休暇をきちんと与えない場合には、ストライキを起こし、突然退職をしてしまうこともあります。そのため、事前にイスラム文化を理解した上で、就業規則や雇用契約書を作成することが大切です。
賃金に関しては、インドネシアも日本と同様に最低賃金に関する規定があります。インドネシアでは、固定的な手当を含めた基本給の金額が、その地域の最低賃金を下回ってはなりません。就業時間に関しては、週に40 時間(週 5 日制の場合、1日8 時間。週 6 制の場合は1日7 時間)を超えて労働させる場合は、原則として労働者の同意を得たえで残業を命ずることができ、残業時間は原則として1日4時間以内、週18時間以内とされます(週休・祝日の労働は別途扱い)。法定労働時間を超えた労働および休日や祝祭日の労働に対する割増賃金については、月の賃金の173分の1を1時間当たりの基礎賃金として算出します。
インドネシアの割増賃金は、平常の労働日に行われた時間外労働の場合は、時間外労働開始から1時間は同基礎賃金の1.5倍、2時間以降は1時間当たり2倍の時間外労働賃金を支給します。休日や祝祭日の労働には、労働時間を3段階に分け、それぞれ1時間当たり基礎賃金の2~4倍を支給するよう規定されています。加えて、1日あたりの残業時間が3時間以上となる場合には、最低1,400キロカロリー以上の食事と飲料を提供する必要があります。これは、賃金などで代用できず必ず食事および飲料として提供しなければなりません。
有給休暇は、勤続1年以上は12日間の有給休暇が付与されるとの規定があるほか、忌引、結婚休暇、病休等の規定があります。
インドネシアの祝祭日は宗教にかかるものが多く、土日に祝祭日が重なった際も振替休日などの制度はありません。また、祝祭日の他に有給奨励日が設けられており、政府機関や金融機関、一般企業では一斉に休みを取得することが通例となっています。2025年の祝祭日は以下のとおりです。
■長期有給休暇制度
従来、勤続6年以上の労働者に対する最低2か月間の長期休暇付与の長期有給休暇制度が労働法に明記されていました。しかし、オムニバス法では当該規定は削除されています。そのため、長期休暇は企業ごとに雇用契約や会社規定等で定めるものとなります。
■賃金関連法
基本的に賃金は毎月一定日に支払われますが、使用者と労働者の合意があれば、1週間ごとに支払うことも可能です。支払方法は月払、日払、一括払の3種類があります。賃金の構成は大きくは月払固定給(基本給)、変動給(非固定的手当)、残業手当の3つに分類されています。
固定給
雇用規定に従って1カ月ごとに支払われ、出勤・欠勤状況に左右されない賃金。基本給、職能手当、職務手当などがある。
変動給(非固定的手当)
労働者の状況に応じて支払われる、定額ではない賃金。交通費、家族手当、食事手当、医療費補助、生活扶助などがある。
残業手当
労働者の同意を得た上で、所定労働時間を超えて労働させる場合に支払う賃金。
これらはあくまでも一般的な体系であり、必ずしもこれらの手当を設ける必要はありません。
このほか、一時支給的なものとしての賞与、利益配分、THR(Tunjangan Hari Raya:宗教手当/レバラン手当)があります。
変動給や各種手当を設ける場合の留意点は、固定給や変動給が全体の給与総額に占める割合について上限が定められていることです。全体の給与総額に対して、固定給が75%以上、変動給は25%以下でなければなりません。
固定給の場合、基本給は75%以上、その他の固定手当は25%以下でなければなりません。残業代は固定給をもって算定基礎とすることが決められています。このようにして設計した給与のうち、固定給については、最低賃金を上回る金額にしなければなりません。つまり固定給が割増賃金や退職手当の計算をする際の算出基礎となります。インドネシアの企業においては、賃金設計上、固定給の大枠の中で、何をもって基本手当、固定手当とするかという規定はないため、固定給、変動給を就業規則等で規定する必要があります。
■最低賃金
前述のとおり、最低賃金とは基本給と一定額の手当を足した賃金のことをいいます。
最低賃金を下回る賃金の支給は禁止されていますが、下記に該当する者にのみ最低賃金と同額を支給することが認められています。
・雇用期間が1年未満の労働者
・未婚の労働者
・最も低いレベルの職務に従事している労働者
・労務状況を問わない労働者
・学歴が最も低い労働者
また、中小零細企業には最低賃金の適用は行わないとされていますが、外資企業(PMA)は大企業の分類となるため、すべての日系企業がこの最低賃金の適用を受けることとなります。
最低賃金の決定方法
インドネシアでは地域別の最低賃金が規定されています。各地域の最低賃金の決定権は各州知事にあります。2001年1月に地方分権法が発行されたことに伴い、各都市・州が最低賃金(月額)を決定するようになりました。また、オムニバス法により最低賃金の計算方法により、以下の様に決定されました。
新最低賃金=現最低賃金×(インフレ率* または 成長率**)
*インフレ率:該当年9月の前年同期のインフレ率
**成長率:該当年第2四半期の前年同期比のGDP(国内総生産)成長率
■就業時間の現状
官庁、民間企業、銀行の就業時間は通常、日本と同様に月~金曜日(週5日制)の午前8~12時、昼休憩1時間、午後1~5時です。
製造業で三交代制の場合は、午前の部が午前6時~午後2時、午後の部が午後2~10時、夜間の部は午後10時~翌朝6時までとするのが一般的です。二交代制の場合は、午前7時~午後3時、午後3~11時となります。
週当たりの労働時間は最大40時間とされていますが、実際は35時間以上となる傾向にあります。週当たりの総労働時間が35時間以上の労働者はフルタイム労働者と呼ばれており、2018年2月時点では労働者の約70.7%(8,597万人)でした。週14時間以下の労働者は、労働者の約7.5%(910万人)で、減少傾向にあります。
また、ラマダン中は宗教上に関わらず、全スタッフに対して始業時間を1時間ほど早める、昼休みを30分縮める等の就業時間が変更される会社が多いです。理由として、ラマダン中の日没前までは飲食ができず、日没後の食事を家族や友人で行う慣習があり、この点を考慮して慣習として終業時間を早くするためにこのような対応を実施します。
■賃金の控除
インドネシアでも、他の国と同様にノーワーク・ノーペイの原則が存在するため、遅刻や早退等があれば当然賃金の控除を行うことができますが、その場合に注意すべき点が2つあります。
1つは、法定上一定の要件では控除ができない場合があるということ。もう1つは、法定上は控除が可能であっても、渋滞など交通事情を考慮する必要があるということです。
通常、傷病により遅刻や欠勤をする際は診断書を提出します。ただし、インドネシアでは礼拝や労働組合活動等を考慮する必要があり、これらの理由による遅刻等は控除の対象外とされています。そこで、例外を明記した上で賃金控除の規定を設けることをお勧めします。
傷病休暇と控除額については、期間に応じて以下のように規定されています。
・最初の4カ月間については賃金の100%
・その後の4カ月間については賃金の75%
・さらに、その後の4カ月間については賃金の50%
・これ以降の月については、経営者が雇用関係を終了させるまでの間、賃金の25%
インドネシアでは、医師からの診断書があれば傷病休暇を繰り返し取得することが可能です。会社としてはこの制度の乱用、悪用に注意する必要があります。
この制度を利用すると、労働者は4カ月休み、1週間働いて再び休む、といったことを繰り返すことも可能です。また、病気を理由に解雇等をすることもできません。悪用を防ぐためには、あらかじめ会社側が医師を指定するとよいでしょう。
交通事情などを考慮し、1カ月に1回の遅刻に対して控除を行うことは慣習上、労働者側からの反発を招くことが予想されます。そのため、1カ月に3回まで(さらに時間も決めるケースもあります)については控除をせずに、口頭注意、警告等とし、4回目以降について賃金控除を行っているケースが多く見受けられます。日本企業としての統制とバランスを保つのに気を遣う必要があります。
インドネシアは労働法が複雑で、解釈と習慣上の留意点が異なることもあり、運用面での課題解決に苦労します。また宗教上の問題など、日本人が直接介入しづらい問題をすべて現地スタッフに任せてしまうと、気付かぬ所で労働者側にばかり有利で、会社にとっては運用しづらい(統制のとりづらい)制度になってしまう可能性もあります。
■賞与
インドネシアでは、賞与の支給義務はありません。ただし、宗教大祭(レバラン)の時期に、年1回の賞与として、1カ月以上勤務している労働者を対象として支給するのが法令で規定されています。
支払い金額は、1年以上勤続の社員については1か月分の給与、1年以内の社員については1か月分の給与×勤続月数/12にて計算します。
レバランとは断食期間明けの大祭を指し、レバランの30日前までに退職する労働者には手当を支給する必要はありません。また、法令ではレバランの1週間前までに支給することが義務付けられていますが、実務上、ほぼすべての労働者にレバランの2週間前までに支給するのが通例です。
インドネシアの祝日は宗教的行事が多いため、祝日を家族と過ごすことを習慣としているインドネシア人は、祝日に出勤することに強い抵抗があります。このように現地の習慣に見合う手当の内容と金額を設定することで、現地の労働者がより働きやすい環境作りをすることが重要です。インドネシアの日本企業が賃金体系を構築する上でも、思考・風土・社会制度の仕組みの違いを考慮しなければなりません。2013年にはレバラン手当にかかるデモも発生し、カラワンの労働者から5割増しの要求が出た事例もあります。
■退職に関する規定
インドネシアの労働法上の特徴的な規定として、労働者の退職に関する規定があります。雇用者が労働者を解雇しようとする場合、労働者の同意が取れない場合は、地方委員会の許可、大量解雇の場合は中央委員会と行政機関の許可を得なければなりません。
一般的な退職手当(Uang Pesangon)、勤続功労金(Uang Penghargaan Masa Kerja)、権利補償金(Uang Penggantian Hak)の計算方法は、次の表のとおりです。
また、オムニバス法により、有期雇用の契約終了時に補償金の支払いが必要となりました(オムニバス法 細則第15条)。対象は、勤続月数が1か月以上の労働者となります。当該労働者の契約を延長する場合は、延長前の契約終了時に補助金を支払う必要があるとされています。そのため、有期雇用社員の契約更新の際にはその都度補償金の支払いが必須となります。ただし、外国人労働者には当該規定は適用されません。以下、有期雇用契約に関する補償金の計算方法となります。
■女性労働者保護
インドネシアでも女性が職場で活躍するケースが年々増えています。この状況を鑑みて、インドネシア労働法には女性労働者保護の規定があります。
インドネシアでは生理休暇・流産休暇があるのが特徴で、生理休暇は生理1日目と2日目は出勤しなくてもよいとされています。流産休暇については、1.5カ月または医師の診断書に基づく期間の休暇が可能となっています。オムニバス法では、生理休暇が賃金の支払い義務の項目から削除されました。よって、有給無給の判断は就業規則等に従って会社の任意となります。
また女性労働者に、23時から翌朝7時まで就労させる場合、経営者は栄養のある食事・飲料の提供と就労の場の道徳と安全の確保が義務付けられます。栄養のある食事・飲料とは、1,400kcal以上で、衛生的かつ種類豊富なものとなります。これらは休憩時間に提供され、換金することは認められていません。そして就労の場の道徳と安全の確保という点では、警備員の配備、十分な照明や男女別の洗面所/トイレの設置が義務付けられます。この規定は雇用契約、就業規則、労働協約で詳細を定めることができます。
また、23時から翌朝7時までに出社/退社する女性労働者のために、送迎車の準備が義務付けられています。安全な送迎地点を決め、その地点と職場の間を往復するもので、車両は会社に登録されているもの限ります。
これらの保護規定は、インドネシアで働く女性にとっては非常に手厚い待遇ですが、労務管理をする立場としては、女性に対して仕事の割振りを考える際の悩みの種にもなっています。また、女性の労働機会を奪うことや、評価における差が出る可能性もあります。
■児童保護
インドネシアでは、18歳未満の者の労働者雇用を原則禁止しております。
ただし身体的、精神的かつ社会的な発育と健康を妨げないことと併せ、下記の条件を満たす軽度な労働を行う場合には雇用が可能です。
a. 両親あるいは後見人からの書面による許可
b. 経営者と両親あるいは後見人の間の雇用契約
c. 労働時間は最長で3時間とすること
d. 労働時間は昼とし、学校の時間にかからないこと
e. 労働の安全・衛生
f. 明確な労使関係があること
g. 現行の規定に基づき賃金を受け取ること
身体的、精神的かつ社会的な発育と健康を脅かす職種
・身体的、健康を脅かす職種
研磨機・旋盤、ミシンや織機などの機械、クレーン・フォークリフト、タービン・発電機などの装置、トラクター等の重機にかかわる仕事、地下や水中、2メートルを超える高い場所、電圧50ボルトを超える電力を用いる場所など身体への危険を伴う環境での業務、危険な化学物質を扱う業務、皮のなめし、と殺、動物の飼育等など生物にかかわる危険を伴う業務、建設業務女子は10kg・男子は12kgを超える人力による運搬、遠隔地や船中での業務、廃品の廃棄や加工、特定の危険な状態と性質を伴う業務。
・精神的かつ社会的な発育を脅かす職種
バー、ディスコ、カラオケ、ビリヤード、映画館、マッサージ、あるいは売春が行われる場所での業務、アルコール、性的刺激剤、たばこの宣伝モデル。
■職業訓練の実施
外国人労働者はインドネシア人労働者に対して技術移転・専門能力移転のため、外国人の役職に応じた職業訓練を実施する必要があります。職業訓練プログラムが作成されていない、または職業訓練が実行されていないと認定された場合は罰金・罰則に課せられます。そのため外国人労働者にマネージャーもしくはアドバイザーの肩書にて、ビザを取得している場合、具体的な研修や教育プログラムを常に準備しておく必要があります。
■解雇
原則として経営者と労働者との間の合意に基づき解雇が可能です。ただし、可能な限り解雇回避の努力を尽くしたうえで、解雇が不可避の場合、使用者は労働者(または労組)に対し解雇の目的・理由を記載した通知書を交付し、原則として解雇日の14営業日前までに適法に通知しなければなりません。労働者が通知を受けて異議を述べる場合、原則として7営業日以内に拒否の意思表示を行い、紛争となる場合はまず**二者協議(bipartite)**を行い、それでも解決しないときは法定の労使紛争解決手続に移行します。(オムニバス法第151条)。オムニバス法では、以下が解雇事由として挙げられます。
①企業が企業の合併、統合、買収、または分割を実行する場合
②会社の効率性のため
③会社が2年間継続的な損失のための閉鎖
④不可抗力による会社の閉鎖
⑤会社が債務返済義務を延期している状態
⑥会社が商事裁判所の決定に基づいて破産を宣言された場合
⑦会社のステータスが変更された場合
⑧従業員への不利益を被った場合
⑨従業員が長期疾患のため、12か月以上復職できない場合
⑩従業員が辞任する場合
⑪従業員が死亡した場合
⑫従業員が失踪した場合
⑬従業員が退職年齢の場合
⑯従業員が雇用契約違反を行った場合
⑰従業員が犯罪行為を行った場合
また、以下の場合においては労使間の合意は必要ないと規定されています(第151A条)。
a. 労働者が試用期間中である場合
b. 労働者に対し、計3回の警告が与えられている場合
c. 自己都合による退職
d. 労働協約に従った労働関係の終了
e. 従業員が退職年齢の場合
f. 労働者が死亡した場合
g. 不可抗力による会社の閉鎖
h. 会社が商事裁判所の決定に基づいて破産を宣言された場合
雇用契約(PKWT)
インドネシアから想起される南国気質なイメージからは想像がつきづらいですが、インドネシアは典型的な契約社会といえます。原則として雇用契約は文書で交わさなくてはなりません。また、雇用契約という局面のみならず、あらゆる局面で同意書の作成が求められます。人事労務担当者に限らず法務担当者、特に業務提携、商取引などにおいても、覚書(MOU:Memorandum of Understanding)が求められることを認識しておく必要があります。
就業規則や契約書はインドネシア語で作成しなければなりません。もし、英語で作成する場合も必ずインドネシア語と英語の併記にしておく必要があります。万が一、インドネシア語と外国語の記載で解釈の相違が生じた場合には、インドネシア語で作成された就業規則、雇用契約書が有効な文書とみなされます。
企業によって雇用契約書に記載する内容は様々ですが、記載しなければならない項目は主に、以下のとおりです。
・社名、所在地、業種
・労働者の氏名、性別、生年月日、住所
・労働者の役職名または職務
・就業場所
・賃金額ならびに支給方法
・就業条件
・契約開始時期ならびに契約期間
・契約作成場所および期日
・両者の署名
雇用契約には有期と無期があり、それぞれ条件が異なります。
雇用契約を締結することのできる年齢はいずれも原則として18歳以上で、通常企業側の条件が記載されている応募書類に記入し、企業側が行う試験を経て採用となります。入社時には企業側が指定する医師の健康診断書が必要です。前述のように、15歳以上18歳未満の児童も一定の要件を満たせば就労することが可能です。
■有期雇用契約
有期雇用契約の場合は、インドネシア語か英語で契約書を明確に作成する必要があります。万が一、インドネシア語と外国語の記載で解釈の相違が生じた場合には、インドネシア語で作成された雇用契約書が有効な文書とみなされます。
雇用契約書は作成のしかたによってはトラブルを招く可能性もあるため、その会社の特有の事情も考慮して、できる限り明確に記載する必要があります。また、雇用契約書のレビューを弁護士に依頼することもリスク回避のために必要です。なお、有期雇用契約では試用期間を設けることはできません。
オムニバス法以前は、①1回限りの業務②一時的な作業、季節や天候に左右される作業③新製品、新規事業活動、試行・検討段階の追加商品にかかわる作業④注文や特定のターゲットを満たすために行われる業務⑤新製品、新サービスまたはまだ試験的段階にある補助的製品に関連する業務である。といった有期雇用の業務内容に関する規定がありましたが、これらは削除されました。
有期雇用契約は当該作業の終了日までを期限として締結されます。また、オムニバス法により、有期雇用契約の期間は労使間双方の合意に基づき定めることが可能になったため以前のような、期間の定めはなくなりました。
ただし、有期雇用契約が無制限に自由化されたわけではなく、政府規則PP35/2021により業務塁型と期間制限が定められております。契約期間は延長・更新を含め通算で最長5年までとされています。
なお、有期雇用契約を解除できる場合は以下の通りとなります。
a. 労働者が死亡した場合
b. 雇用契約期間が終了した場合
c. 特定の業務の完了
d. 恒久的法的効力を持つ裁判所の判決あるいは産業関係紛争調停機関からの決定が下された場合あるいは
e. 雇用契約、会社規則、あるいは労働協約の中に記載される、労使関係の終了の理由となりうる特定の事態あるいは状態が発生した場合
また、THR(宗教大祭手当)と退職金の支給に関しましては、有期雇用、無期雇用契約関係なく、1か月以上就労している従業員に支給する義務があります。
■無期雇用契約
通常、期間の定めのない雇用契約の場合には、労働者は3カ月の試用期間を設定することが可能です。正式な雇用をするには十分ではないと判断される場合には、試用期間中であっても企業は労働者を解雇することができます。使用期間後に解雇をする際には、企業は事前に書面による警告を3回行うのが一般的です。各警告後、次の期間を経過すると警告書の発行は無効となり次回以降の警告書の発行は1回目の発行として取り扱われます。
・1回目の警告後6カ月
・2回目の警告後9カ月
・3回目の警告後12カ月
なお、解雇する場合にも退職手当等の支払いが必要となりますので注意が必要です。
■雇用契約の終了
雇用契約は以下の場合に終了します。
・労働者が死亡した場合
・雇用契約期間満了の場合
・特定の業務が完了した場合
・裁判所の判決や法的執行力のある労使関係紛争調整機関の決定または規定の適用となった場合
・雇用契約や就業規則、労働協約、雇用契約書にあらかじめ記載している雇用関係を終了させる理由(懲戒事由等)に該当する場合
労働者が死亡した場合、遺産相続人は雇用契約終了と同時に、死亡した労働者が遵守する法令、就業規則、労働協約、雇用契約で規定する権利に基づいて未払分の給与等を取得するものとされます。
ただし、下記に該当する場合は雇用契約の終了とはならない点に留意する必要があります。下記の理由により雇用契約を終了させる場合は、別の理由を雇用契約終了の理由として挙げてから、通知、退職金等の支払いをしなければなりません。
・雇用者が死亡した場合雇用者が個人の場合には、遺産相続人が労働者と協議し、雇用契約を終了することが可能
・買収、相続または贈与により会社に関する権利が移転する場合権利譲渡の場合には、譲渡契約上で労働者の権利義務について別段の定めをする場合はその定めに準じ、別段の定めがない場合は譲渡された新たな雇用者が労働者の権利義務についての責任を持つ
■就業規則の作成義務
1名でも労働者を雇用する企業は就業規則の作成を行う必要があり、10人以上の労働者を雇用する企業は就業規則を労働局へ提出し承認を得る必要があります。就業規則は、大臣あるいは大臣に指名された政府職員による承認後に発効となります。ただし、就業規則の作成義務は、労働協約のある企業には適用されません。就業規則を作成する際は、労働者代表の意見と提案を考慮しなければなりません。すでに労働組合が社内にある場合は、労働者代表は労働組合の役員が務めます。労働組合が社内にない場合、社内で民主的に選ばれた労働者の利益を代弁する労働者等が就きます。
就業規則には、次の項目を定めなければなりません。
・企業の権利と義務
・労働者の権利と義務
・労働条件
・企業の規律と行動基準
・就業規則の有効期間
就業規則の目次例を以下に挙げます。
就業規則は、労働関係法令に抵触しない範囲で作成しなければなりません。就業規則の有効期間は最長2年で、更新の手続きが必要となります。就業規則の有効期間内に労働組合が労働協約作成の交渉を求めた場合は、企業はそれに応じなければなりません。労働協約の交渉が合意に至らなかった場合は、就業規則の有効期間までは、現行の就業規則が有効となります。
■労働協約
インドネシアでは、労働組合と雇用者が自主的かつ自由に交渉を行い、賃金や雇用条件に関して労働協約を結ぶことができます。
労働協約は、労働組合との話合いにより作成します。合意に達しない場合には、労使紛争調停手続をとります。労働協約は、インドネシア語で作成し、労働監督機関に登録しなければなりません。有効期間は2年で、経営者と労働組合の間で文書による合意がある場合には1年の延長が可能です。
労働組合は、労働者の過半数の加入あるいは支持を得なければなりません。会社に労働組合が1つしかなく、その組合員総数が全労働者数の過半数に満たない場合は、労働担当官と使用者の立会の下で投票を実施し、当該労働組合が労働者の過半数の支持を得ることができれば、労働協約の締結が可能となります。社内に複数の労働組合はあるが労働者の過半数が加入する労働組合がない場合には、会社の総労働者数の10%以上の組合員が加入する労働組合のうち、上位三組合と協議します。複数の労働組合が連立することにより過半数の労働者代表として認められます。
協議についてはまず協議機関を設け、協議規律などを定めます。期限内に協議がまとまらない場合は、労働監督機関に報告し、産業紛争解決法に定められている産業関係紛争処理手続に従い処理されます。労働協約では、住宅、生活、職務などの各種手当や、休日、割増賃金、年次有給休暇、利益分配、賞与などについて協議し、締結するケースがあります。企業、地域、業種別に労働協約が定められている場合には、各労働協約に沿った労働条件を就業規則、雇用契約書などで規定し、遵守する必要があります。
社会保障制度
インドネシアでは、「全国社会保障制度(SJSN:Sistem Jaminan Sosial Nasional)」を定める法律(2004年法律第40号)およびその実施機関である社会保障実施機関(BPJS)を定める法律(2011年法律第24号)を基礎として、公的な社会保障制度が運用されています。
従来、民間企業においては、労働者社会保障制度(JAMSOSTEK:健康保険、労災補償、老齢給付、死亡保障)が保障制度全般をカバーする社会保障制度となっていました。また、公的保険制度として退役軍人や警察対象の医療保障制度(ASABRI)、公務員対象の医療保障制度(ASKES)や、地域独自の保障など数種類の制度を設けていました。
その後、2014年1月より新社会保障制度が開始され、新しく社会保障機関(BPJS:BadanPenyelenggaraJaminanSosial)が発足しました。BPJSには健康保障および労務保障を担う体制となり、原則としてインドネシアに居住する者(一定条件を満たす外国人を含む)について加入が義務付けられています。
社会保障機関
■健康保障(BPJS Kesehatan)
健康保障は、ASKES、ASABRIおよびJAMSOSTEKの健康保険部門を統合した機関であるBPJS Kesehatanが管轄し、医療保障制度をすべて請負っています。2014年1月1日より開始し、国民皆保険としてその加入を義務化し、国有企業・大企業・中小企業は遅くとも2015年1月1日までに、零細企業は遅くとも2016年1月1日までに、自営業者は遅くとも2019年1月1日までに健康保険に加入しなければならないと定めています。
[適用範囲]
加入対象者は以下のとおりとなっています。
①給与を受けている従業員とその家族
公務員、軍人、警察官、民間企業の従業員、その他の給与受給者など。
外国人およびその家族は、インドネシアでの就業が6カ月以上であれば対象となります。また、BPJSの登録が就労ビザ更新の際に必要となります。
②給与を受けていない従業員とその家族
雇用契約を結んでいない従業員または自営業者。①に該当しない従業員。
外国人およびその家族は、インドネシアでの就業が6カ月以上であれば対象となります。
③従業員以外およびその家族
投資家、雇用者、年金受給者、退役軍人と独立貢献者とその遺族、その他、加入料を支払う能力がある者。
家族の要件については、正式な婚姻による配偶者・実子、正式な婚姻による継子、正式な養子で人数は5人以内。この実子、継子、養子は、21歳未満で未婚、収入を得ていないことが条件となります。ただし、フォーマルな教育を継続している場合は25歳未満で未婚かつ自らの収入がない者は加入対象となります。
加入者登録は、個人または団体で行うことができます。給与受給者の場合は雇用主がまとめて、BPJSに登録します。加入者が1,000人以上の場合はデータ送信により登録を行い、その他の場合は指定のフォーマットに加入者の情報を記載し、直接BPJSに持参するか、BPJSが指定した第三者機関(銀行や専門団体など)を通じて登録します。また、雇用主が登録しなかった場合は、従業員が個人で登録する権利がありますが、その場合も加入料の納付は規定どおり、雇用主と従業員で行わなければなりません(料率については後述)。
給与を受給していない従業員または従業員以外の加入者は、居住する地域のBPJSにて各人が登録します。
[保険料]
給与受給者の健康保険加入料は、雇用主と従業員自身によって支払うこととなっており、給与の5.0%(雇用主負担4.0%、従業員負担1.0%)となります。対象給与は、最大で1カ月1千200万ルピアまでと定められています。
加入料は毎月10日(休日・祝日の場合はその翌日)までに、BPJSの提携銀行に支払わなければなりません。雇用主は、従業員から加入料を徴収し、毎月10日までに支払う義務を負います。支払遅延については、最高3カ月の遅延につき1月当たりの加入料総額の2%の延滞金が科せられます。3カ月以上延滞した場合は、保障は一時的に停止されます。
従業員負担額について、会社にて支払うか本人負担にするかは、会社の判断次第となります。
[保険給付]
BPJSと提携する一次保健施設を選択し、健康の促進や予防、治療、回復までをカバーする、保健サービスを利用することができます。具体的には以下のとおりです。
・一次保健施設での保健サービス(保健所や診療所、クリニックなど)
・二次保健施設での保健サービス(主要クリニック、総合病院、特別病院など)
・救急治療サービス
・投薬、健康器具、使い捨て医療資材のサービス
・救急車
・保健巡回サービス
・その他大臣が定めたサービス
二次保健施設の利用は、一次保健施設が必要と認めた場合に紹介することになっています。ただし、緊急時や災害時、地理的に一次保健施設に行くのが困難な場合、提供設備の問題がある場合、その他特別な事情がある場合は紹介不要です。
■労務保障(BPJS Ketanagakerjaan)
JAMSOSTEKの労災補償、老齢給付、死亡保障部門を移行した機関であるBPJSKetenagakerjaanが管轄し、労災補償老齢給付、死亡保障を請け負います。2014年1月1日から2015年6月30日まではJAMSOSTEKが行ってきたとおりに労務保障を実行し、2015年7月1日には退職保障を加えています。
[適用範囲]
基本的には、健康保障と同様に全企業およびその従業員、6カ月以上インドネシアに滞在している外国人に加入の義務があります。ただし外国人の加入については、退職保障のみ現状免除されております。
[保険料]
労災補償および死亡保障は雇用主が全額負担します。その負担額は月給に定率を乗じた額であり、保険料率は、労災補償では業種に応じ0.24~1.74%、死亡保障では0.3%、老齢給付は3.7%、退職保障は2%(ただし給与上限Rp 8.512.400/月)となっています。労働者災害補償保険料の業種グループ別保険料は月給の0.24%、0.54%、0.89%、1.27%、1.74%の5段階に分けられます。これは、日本の労働者災害補償保険制度と同様に、業種による労働災害の発生頻度を考慮して設定されたものです。労働者は、老齢給付を月給の2.0%、退職保障を月給の1%(ただし給与上限Rp8.512.400/月)、保険料として負担します。
なお、退職保障の掛金については、経済状況をみて将来8%(会社負担 5%,従業員負担 3% )まで引き上げる予定とされており、3年毎に検討が行われます。
[保険給付]
労災補償(Jaminan Kecelakaan Kerja)Jaminan Jaminan Kematian)Kecelakaan Kerja)、死亡保障(Jaminan Kematian)
労災補償は、障害に応じた補償金が給付されます。補償金には、事故または労働災害を被った労働者の病院への搬送費、治療費、リハビリ費用、生活補助金があります。このほかに、一時的な就労不能に対する給付、障害補償、死亡給付金などがあり、給付金額はそれぞれ次の表のとおりです。
老齢給付(Jaminan Hari Tua)
以下の場合において、それまでの積立金を還付することが可能になります。
・退職年齢に達した場合
・退職した場合(解雇、自己都合含む)
・全身障害を負った場合
・死亡時
・インドネシア国外に永久に移転した場合
また、駐在員の帰任の場合においても還付の対象となります。積立金の還付は個人に対して行われるため、返金希望日から逆算してスケジュールを立てる必要があります。1か月前からBPJS Ketanagakerjaanのアカウントをノンアクティブにし、1か月経過後から申請が可能となります。申請後は、BPJS担当官と簡単な面談をし、返金となります。返金先口座は、インドネシアにある口座を指定される場合もありますが、すでに銀行口座を閉じている場合は、日本にある口座も対応してくれる場合があります。なお、返金口座は該当の個人の口座になり、法人口座は不可能となります。
退職保障 (Jaminan Pensiun)
最低掛け金期間15年(15年未満の場合は、支払い期間に応じて調整)で56歳から受取可能となります。(2019年からは57歳、以後3年毎に1歳上昇、最終的には65歳から受取可能。)受取金額は納付額に応じて月額Rp3,000,000-3,600,000と定められています。
失業保障(Jaminan Kehilangan Pekerja)
失業保障の対象者の条件としては、BPJSの加入時の年齢が54歳未満であり、解雇前の24カ月間に最低12カ月の加入期間があり、最低でも連続して6カ月の保険料を納めていることです。JKPの申請は、就業期間全体を通して最大3回までとなります。
就労時間外保障(Jaminan Sosial Hubungan Kerja di Luar Jam Kerja)
ジャカルタ特別州が定めており、ジャカルタ州内企業の従業員の加入を義務付けています。休日を含む就労時間外に、加入者が事故あるいは死亡した場合、加入者本人または保証人に対して補償金が支給される制度となります。
以下、BPJSについてのまとめ表になります。
■社会福祉施策
[社会福祉施策全般]
ストリートチルドレン、生活困窮者、児童、障害者、高齢者、麻薬中毒者、売春婦等を対象として、国または州政府が所管する公的施設や民間施設が設置されています。しかし、実際には予算や施設の不足、地方分権化政策による州政府ごとの対応の違いなど、多くの課題を抱えており、社会福祉制度および施設が十分に整備・運営されているとはいえない状況です。
[高齢者保健福祉施策]
インドネシアでは、都市部においても家族の絆が強く残っており、高齢者ケアのほとんどは家族に任されています。そのため高齢者対策は、身寄りのない高齢者、障害を持つ高齢者などを主な対象として行われています。高齢者用施設の利用料は収入に応じた負担額となっており、無収入者は無料ですが、経済的に余裕はあるが身寄りがない高齢者の場合、収入に応じた負担額が求められます。
外国人の規制
■外国人の役職
外国人はインドネシア内において、指定された役職、一定期間の雇用形態で就労することができます。指定された役職である必要があるため、役職の兼任ができません。就労ビザを取得する際にはITAS(在留許可書)を取得後、IMTA(就労許可証)を取得します。その際取得したKITASとIMTAに表記された役職名と、定款記載中や名刺または会社内組織図で用いられている役職とに整合性が取れていない場合、当局より複数の役職を兼任していると捉えられ罰則・罰金の対象になります。罰金・罰則は1年以上4年以下の禁固刑および(あるいは)1~4億ルピアと規定されております。(労働法第185条、第42条の適用)
■人事関連書類
インドネシアにおいては採用や解雇また昇格・昇進などの人事関連書類へのサインが禁止されております。President Director(代表取締役)やDirector(取締役)であっても違反となり、多額のペナルティーが課せられます。しかし、会社設立後一人目の社員への採用書類においてはサインすることが可能のため、採用する際一人目は必ずHR部門等にて雇用する必要があります。
またビザを取得する外国人1人につきインドネシア人10人の雇用義務もあるため、併せて注意が必要です。就業規則のサインに関しては、日本人ダイレクターでも可能ですが、実務上HRマネージャーのサインでない場合に、指摘されることがあるため注意が必要です。
参考文献
・ACT OF THE REPUBLIC OF INDONESIA NUMBER 13 YEAR 2003 CONCERNING MANPOWER
http://www.ilo.org/dyn/natlex/docs/SERIAL/64764/56412/F861503702/idn64764.PDF
・JAMSOSTEK https://jamsostek.co.id/
・黒田法律事務所編著『インドネシア進出完全ガイド』カナリア書房、2009年
・藤井恵『四訂版海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A』清文社、2013年
・吉田隆『改訂版税務なんてこわくない初級編』エヌ・エヌ・エー、2009年
・吉田隆『税務なんてこわくない中級編』エヌ・エヌ・エー、2010年
・アピ・マガジン
https://api-magazine.com/article/detail/indonesia-holidays.html
Ⅰ.インドネシアの労働法・関連法令
- インドネシア共和国
労働法(Law No.13 of 2003 concerning Manpower) - インドネシア共和国
雇用創出法(Law No.11 of 2020 concerning Job Creation/オムニバス法) - インドネシア共和国
政府規則(PP)- Government Regulation No.35 of 2021
(有期雇用契約、解雇、労働時間等) - Government Regulation No.36 of 2021
(賃金制度) - Government Regulation No.37 of 2021
(失業保障制度)
- Government Regulation No.35 of 2021
- インドネシア共和国
労働移住大臣規則(Peraturan Menteri Ketenagakerjaan) - インドネシア共和国
労働大臣決定書- Keputusan Menteri Tenaga Kerja No.102/MEN/VI/2004
(時間外労働および時間外手当)
- Keputusan Menteri Tenaga Kerja No.102/MEN/VI/2004
Ⅱ.社会保障制度(BPJS関連)
- インドネシア共和国
社会保障制度法(Law No.40 of 2004 concerning National Social Security System) - インドネシア共和国
社会保障機関法(Law No.24 of 2011 concerning BPJS) - BPJS Kesehatan(インドネシア社会保障機関・健康保障)
- 公式公表資料・加入制度説明資料
- BPJS Ketenagakerjaan(インドネシア社会保障機関・労務保障)
- 労災補償、老齢給付、退職保障、失業保障(JKP)制度資料
Ⅲ.労働組合・労働争議関連
- インドネシア共和国
労働組合法(Law No.21 of 2000 concerning Trade Unions) - インドネシア共和国
産業関係紛争解決法(Law No.2 of 2004) - 国際労働機関(ILO)
- ILO第87号条約
(結社の自由及び団結権の保護条約)
- ILO第87号条約
- インドネシア主要労働組合連合 公表資料
- KSPSI(Konfederasi Serikat Pekerja Seluruh Indonesia)
- KSPI(Konfederasi Serikat Pekerja Indonesia)
- KSBSI(Konfederasi Serikat Buruh Sejahtera Indonesia)
Ⅳ.人口・労働力・雇用統計
- Statistics Indonesia(BPS:インドネシア中央統計局)
- 労働力人口統計
- 失業率統計
- 平均賃金統計
- 製造業賃金統計
- 国際労働機関(ILO)
- Labour Force Statistics
- ISCO(国際標準職業分類)
Ⅴ.賃金比較・国際比較データ
- 各国政府統計局公表資料
- インドネシア:Statistics Indonesia(BPS)
- ベトナム:General Statistics Office of Vietnam(GSO)
- フィリピン:Philippine Statistics Authority(PSA)
- タイ:National Statistical Office of Thailand(NSO)
- シンガポール:Ministry of Manpower(MOM)
- 台湾:Directorate-General of Budget, Accounting and Statistics(DGBAS)
- 韓国:Statistics Korea(KOSIS)
- 日本:総務省統計局「毎月勤労統計調査」
Ⅵ.日本語による公的・調査資料
- ジェトロ(日本貿易振興機構)
- 海外調査部
『アジア・オセアニア投資関連コスト比較調査(2018年度)』 - インドネシア労務・投資環境関連レポート
- 海外調査部
- 厚生労働省
- 『海外情勢報告』
- 国際労働関連資料