労務
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労働環境
労働環境の実態
■ 就業人口
フィリピンでは年少人口(0~14歳)の割合は全体の約34%、生産年齢人口(15~64歳)は約62%、高齢者人口(65歳以上)は約4%となっています。15歳以上人口は、2020年時点で約7,526万人となっており、前年度の2019年から1年間で約160万人増加しています。労働力人口も2020年で約4,039万人と増加傾向にあります。
新型コロナウイルスの対策で厳格な行動制限が設けられていた2019年~2021年頃までは失業率が増加しましたが、その後の措置の緩和からは徐々に雇用状況が回復してきました。
2023年の失業率は、過去最低の4.3%を記録しました。これは前年の2022年の5.4%よりも低く、約20年ぶりの低水準となりました。
一方、2023年12月時点での雇用率は96.9%と過去最高に達し、11月の96.4%および2022年12月の95.7%を上回っています。年間を通じて約152万人の雇用が増加しています。また、不完全就業率は、14.2%から過去最低の12.3%に低下し、潜在的な意味での失業率も減少していると考えられます。
2020年から2023年で就業人口が増加しつつも、不完全就業率が低下していることから、純粋な国力が向上していることが伺えます。
| 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
労働力率(%) | 61.3 | 59.5 | 63.3 | 64.7 | 66.6 |
就業率(%) | 94.9 | 89.7 | 92.2 | 94.6 | 96.9 |
不完全雇用率(%) | 13.8 | 16.2 | 15.9 | 14.2 | 11.9 |
失業率(%) | 5.1 | 10.3 | 7.8 | 5.4 | 3.1 |
■ 産業別就業人口
一般就業者の就業構造を産業別に見ると、サービス部門に従事する労働者が全体の半分以上を占め、中でも卸・小売業等は800万人と全体の約20%を占めています。産業別就業者の割合を見ると、 サービス業がもっとも高く約57%、次いで農業が25%、工業は18%となっています。全体の割合の推移としては、農業部門に従事する労働者人口が減少傾向にある中、サービス部門に従事する労働者は増加しており、サービス産業が労働者の受け皿となっていることがわかります。
【産業別就業者の割合】(単位%)
産業別 | 2023年 | 2024年 |
農業 | 24 | 21 |
農家、狩猟、林業 | 21 | 18 |
漁業 | 3 | 3 |
工業 | 17 | 19 |
鉱業、採石集 | 0.3 | 0.5 |
製造業 | 7 | 8 |
インフラサービス業 | 0.2 | 0.2 |
水道業 | 0.1 | 0.2 |
建設業 | 9 | 10 |
サービス業 | 59 | 60 |
卸売、小売、自動車、オートバイ | 21 | 21 |
輸送、倉庫 | 7 | 8 |
ホテル、レストラン業 | 4 | 5 |
情報通信 | 0.8 | 0.9 |
金融業 | 1 | 1 |
不動産、賃貸、商業 | 0.6 | 0.4 |
専門業 | 0.8 | 0.6 |
管理、支援業務 | 4 | 5 |
行政、防衛、社会保障 | 6 | 6 |
教育 | 3 | 4 |
保険、社会福祉 | 2 | 1 |
芸術、エンターテインメント | 1 | 1 |
その他 | 6 | 6 |
家政婦、家事代行 | 0 | 0 |
総計 | 100 | 100 |
■ 失業率
失業者数は新型コロナウイルスの影響で一時は大幅に上昇しました。2022年で約267万人でしたが、2023年には約219万人で低い記録となりました。毎年一定の割合で増減を繰り返していますが、新型コロナウイルス以降から長期的視点では減少傾向にあることが窺えます。
【失業者数推移】(単位 万人)
| 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 (5月時点) |
失業者数 | 460 | 316 | 267 | 219 | 210 |
男性 | 270 | 190 | 152 | 117 | 119 |
女性 | 160 | 120 | 110 | 99 | 90 |
傾向としては、15~34歳の若年労働者の失業率が最も高く、全体のおよそ半数を占めています。また、男性の方が女性より失業率が高くなっています。
■ 産業別賃金
2022年の全産業平均の賃金水準は、1カ月当たり14,588ペソとなっており、2020年の1カ月当たりの13,646ペソに比べ上昇傾向にあります。主要産業別で比較すると、電気・ガス・水道が29,928ペソ、情報通信産業が25,988ペソ、専門職が22,463ペソ、金融業が17,155ペソ、保健・社会福祉が15,885ペソと平均を大きく上回っています。全体的に上昇傾向にありますが、2020年から2023年にかけて水道業が低下傾向にあります。
■ 他国との賃金比較
平均の月額賃金を、他のアジア諸国と比較した表です。
[周辺国との比較]
親日的で人口が豊富であるなどの理由により、日本企業にとっての投資先有望国として、「VIP(ベトナム、インドネシア、フィリピン)」と言われることがあります。製造業のワーカーレベルでは、セブ(223USドル)が最も優位ですが、マニラ(234USドル)やホーチミン(242USドル)も同程度の優位性を持っています。フィリピンは中間管理職やエンジニアレベルにおいても、ホーチミンやジャカルタにも負けない優位性を持っています。日系企業の進出が多い、インドや中国、タイ、マレーシアなどと比較した場合、VIP3ヵ国は労働コストとして安価な3ヵ国であり、いずれの国も他の地域よりも労働コストについてメリットが多いことを示しています。
上記のように、労働コストだけでいえば、最良の地とは言えませんが、フィリピンのTOEIC平均スコアは750程度だといわれていますし、ホスピタリティ。親日な気質、長時間労働への意識、会社への帰属意識などもフィリピンのいい面として多くあげられています。
[マニラとセブの比較]
フィリピン国内での比較になると、ワーカーレベルではマニラがセブよりも5%程度高くなります。しかしながら、マニラの賃金は年々下がってきています。これにより、賃金のコストを削減でき、よりフィリピンでの事業を行いやすくなっている傾向がございます。インフラや労働人口の充実度から考えると、セブよりもマニラが好ましい環境であることは当然ですが、最近では、安い労働力を狙ってセブに拠点を置く会社もあります。セブには大学や短大もおおくあり、高等教育を受けた若年労働者を雇用することができ、日系製造業も工業団地内に多く進出しています。
最近では、コールセンター業や英語学校の進出も目立ちます。コールセンター業は特別に高い能力を必要としないので安い賃金で雇用でき、かつ英語能力を利用できる点が大きな魅力です。米国企業の中には、アウトソーシング大国と呼ばれるインドから拠点を移すケースもあり、日本企業も進出しています。
英語学校はそれぞれが英語教育以外にプログラミングやタイピング、医療関係の用語学習を行うなどそれぞれ特色をだして、個性的な学校運営を行っています。また、セブにはIT Parkと呼ばれるビジネス街に多くの日系企業がIT事業を始めようと進出しています。市内にも多くの日系企業が進出しており、今後セブの市場はますます拡大されていく事でしょう。
労働組合と労働争議
■ 労働組合の概要
フィリピン労働法(Labor Code of the Philippines)では、労働者の権利として団結権と、団体交渉権を認めています。また、企業ごとに労働条件を規定することを目的として、 労働協約(CBA: Collective Bargaining Agreement)の締結をすることがあります。
労働協約は、雇用者と組合間での契約を指し、組合は所属する企業内 での労働者グループ代表として正当に認められています。雇用者と組合間で合意された 労働協約は、加入する労働組合員全体に適用されます。
しかし、2015年における労働者の総数が約4,166万人であるのに対し、労働組合の構成員が約360万人に過ぎず、労働協約の対象者が少ないことを表しています。依然として、組合の組織化と団体交渉が労使関係の重要な問題となっているといえます。 そのため、フィリピン憲法と労働法は、組合の組織化と団体交渉を民主的な制度として奨励しています。
2007年の労働組合法の改正によって労働組合が容易に設立できる ようになったことにより、労働組合数と労働組合員数が増加の傾向にある一方で、ストライキ・ロックアウトの件数が2009年に大幅に減少しました。
原因としては、2009年9月より中央労使関係委員会(NLRC: National Labor Relations Commission)や中央斡旋調停委員会 (NCMB:National Conciliation and Mediation Board)等の、 労働雇用省(DOLE:Department of Labor and Employment)の関係 機関が円満解決を図る責任を持つようになったことがあげられます。 また、解決手続の迅速化を図るべく、DOLEがSpeED(Speedy and Efficient Delivery of Labor Justice)計画を推進していることもその 一因であるといえます。
これは、労働者、経営者、政府の協力の下で、労働問題を迅速かつ効果的に解決していくためのものであり、今後も安定した状況が続くという見方が大方を占めます。
■ 労働組合等
労働組合はDOLEに登録された時点で合法な労働組合となります。 また、外国人労働者も、労働組合に参加することや、自ら労働組合を設立することが可能です。ただし、事前にDOLEによる就労許可を得ていることや、フィリピン人労働者と同様の権利のある国籍の労働 者として外務省(Department of Foreign Affairs)に認められることが必要となります。
なお、管理職に就いている者は、一般従業員の労働組合に所属することはできませんが、別途管理職による労働組合を設立することが可能です。一方で、経営者やそれに準ずる者は、団体交渉を目的とする労働組合の設立や所属が認められていません。
■ 労働争議の発生状況
前述の通り、2009年以降NLRCやNCMB等による労働問題の円満解決の責任の明確化により、ストライキ・ロックアウトの通告数はそれ以前に比べて低い水準にあり、2015年は194件となっています。 なお、通告された新規ストライキ・ロックアウトの多くは実施されることなく解決しており、2015年の実施数は5件となっています。
■ 労働争議解決の調整手続
労働争議等の労働問題の解決のための一般的な調整の手続は、労働関係法に以下のように規定されています。
・ 団体交渉の際に双方の意見に相違が生じた場合は、双方の当事者 は、要求日から10日以内に、相手方に対して話し合いの場を持つことを要求することができる
・ 話し合いによって解決しない場合には、当事者双方または一方の 要求、またはNCMBの職権により、NCMBによる双方に対する調停会議への招集が直ちに行われる。当事者双方は、NCMBの招聘状に基づき、調停会議に出席しなければならない
・ 当事者双方は、調停手続の間、紛争の早期解決を中断または妨害する可能性のある一切の行為を行うことができない
・ 労使が合意し、任意仲裁が行われることになった場合は、30日以内に任意労働仲裁人による聴聞が行われ、決定が下される。当該決定は、10日以内にNCMBに申立がなされなければ、最終的な決定となる
NCMBに申立がなされた場合には、申立を行った者は相手側に申立書のコピーを送付し、相手側は受領した日から10日以内に回答書を提出しなければなりません。NCMBは、申立がなされた相手側の回答書を受取ってから20日以内に決定を下します。
NCMBによるその決定を、双方が受取ってから10日を経過した場合には、当該決定は最終的なものとなり、更に不服がある場合には、最高裁判所に訴えることになります。
雇用慣行と労務管理
■ フィリピンにおける雇用情勢
フィリピン人の雇用情勢を見る際には、「海外フィリピン労働者 (OFW)」について考慮しなければなりません。
海外フィリピン労働者の人数、海外からの送金額ともに増加傾向にあり、海外からの送金によりフィリピン国内の経済が支えられている といえます。また、多くの労働者が海外に出稼ぎに行くことを希望していることが、失業率の上昇に歯止めをかけているという側面もあります。
一方で、海外フィリピン労働者の多くが高等教育を受け、高い技術を有する専門職であり、国内の貧困による非就学児童が全体の4割に達していることを鑑みると、相対的にフィリピン国内における労働者の技術力は低く、高い能力、技術力を持つ優秀な労働者が国外に流出している傾向にあります。
■ 手当等の支払状況
フィリピンでの現地スタッフの採用の際には、賃金相場の把握の他に、一般的な手当について把握し、採用条件を決定する必要があります。フィリピンにおける、日系企業の現地スタッフに対する一般的な 手当の導入率及び詳細は、以下のようになっています。
[時間外手当]
原則として時間外労働や休日労働に関しては、日本と同様に時間外手当の支給が義務付けられています。
[出張手当]
フィリピン人は家族の絆が強い国民ですので、出張で家庭を離れる必要がある場合のケアを手厚くする傾向があります。
[通勤手当]
通勤手当として、従業員一律に一定金額を支給するという場合が最 も多く、次に会社のバスによる送迎サービスの提供があげられます。 実費支給とするケースはあまり多くなく、一律の金額を支給することによって管理費削減を優先する傾向にあるといえます。
[職務上の経費の支払]
日本における経費の支払とほとんど同様の内容です。特徴としてあげられるのが、語学レッスン、資格取得やセミナー参加で、日本語を学ばせることでコミュニケーションをより円滑にしたいという日系企業の意識が反映されています。
[昼食手当/補助]
一定金額の手当として支払う場合が6割、社員食堂の提供の場合が4割程度という内訳になっています。
[皆勤/精勤手当]
モチベーション向上のために、約半数の日系企業が導入しています。
[役職手当]
一定の役職以上に支給をする手当で、リーダー/主任以上に支給する場合が約40%、ジュニアマネージャー以上の場合が約30%と、一般的になっています。
[資格/語学手当]
支給割合の高い方から順に、専門技術、会計/経理、日本語能力、 英語能力となっています。
[住宅手当/補助/社宅]
住宅手当として一定額や一定割合の金額を支給する場合と、社宅や寮に社員を住まわせる場合がそれぞれ50%程度になっています。
労働法
労働基準関係法令
フィリピンにおける労働法は、フィリピン労働法とフィリピン労働法施行規則によって定められており、その他の労働関連法として、反セクシャルハラスメント法、父親育児休暇法、祝祭日等に関連する法規等があります。
■ フィリピン労働法
フィリピン労働法は、3条で国家が労働者の保護、完全雇用の促進、性別や民族、信条にとらわれない平等な機会の確保及び労働者と使用者の関係調整に尽力することを約すとともに、正当で人道的な労働条件を保障しています。また、4条では、本法律内の解釈が分かれるような場合には労働者の利益を優先することを謳っており、労働者に手厚い法律であるといえます。
一方、12条では国の内外で労働を希望するすべての国民を保護すること、外国人の雇用を規制すること、海外でのフィリピンの名声を守るために海外フィリピン労働者を入念に選抜することとされています。
属地主義である日本をはじめとする各国の労働法と異なり、国内フィリピン経済において重要な役割を担っている海外フィリピン労働者に関する規定も含まれている点が特徴的です。たとえば22条では、フィリピン人海外労働者が海外で得た収入の一部を自国の家族等に送金する義務について規定しています。
[雇用契約・就業規則]
フィリピン憲法は、国家政策によるだけでなく、社会的正義と人権に関する規約によって、労働者の権利を保護しています。それにより、労働契約は高い次元に置かれ、手厚い保護措置が取られていま す。フィリピン労働法は、雇用契約を神聖なものとして保護しており、 雇用契約には労働者の就業日、報酬と手当、役割と責任等を記載することとされています。
フィリピン労働法上では、6カ月間までの試用期間が認められており、その場合6カ月間の試用期間を経て、正社員としての雇用契約が再度結ばれます。試用期間は、正当な理由がある場合や、雇用契約時に雇用者側が示した合理的基準に照らし、正社員として適任でないと 評価された場合には試用期間を打ち切ることが可能です。なお、この試用期間を打ち切る際には、30日以上前に書面での通知が必要となります。それゆえ、試用期間における従業員の最終評価は雇用から5カ月以内に行う必要があるといえます。
余談ですが、フィリピンでは労働法上解雇手続は認められているものの、労働問題が起きた際には、調停や裁判において会社が不利な判断を受けることが多いため、解雇手続によることなく解決されることが望ましいといえます。そのため、試用期間の意味は非常に大きく、 勤務態度やパフォーマンスの面で正社員化を悩むようであれば、正社員化するべきでないといった考え方もできます。
雇用契約は口頭、書面のどちらでも締結することができます。しかし、後に紛争が生じる場合のことを考慮して、書面で締結することが一般的です。通常雇用契約書は英語で記されています。
就業規則については法律上の規定はありませんが、会社のルール整備という観点から、ほぼすべての会社で就業規則が作成されています。就業規則の内容は、日本と同様に会社の裁量で決定できますが、法律や道徳に反しないものにする必要があります。
[労働時間・休暇]
労働時間に関する条項は、営利目的の有無にかかわらず原則としてすべての組織及び企業の労働者に適用されます。ただし、管理職、屋外労働者、家庭内使用人、相当する規則に基づいて労働雇用大臣が定める出来高払労働者、公務員、使用者の扶養家族、個人的なサービス提供者については適用されません。
労働時間等の規定においては日本とフィリピンで大きく異なることはありません。ただし、深夜・休日労働等の割増率や年次有給休暇の日数などの労働基準は異なります。
日本では、継続勤務年数1年ごとに有給休暇日数が加算されていきますが、フィリピンでは勤務年数に比例して有給休暇日数が増えるということはありません。また、日本の労働基準法では有給消化を奨励しているため、法定付与日数分の買上げは原則として禁止されています。一方で、フィリピンでは5日のうち未消化分については雇用者が買上げる義務が生じます。これらは、従業員の福利厚生として会社規則や労働組合との労働協約で定める必要があります。また、労働雇用大臣の決定に委ねられる項目が多いことから、経済情勢次第で改正される可能性があります。
【日本とフィリピンの労働基準比較】
| 日本 | フィリピン |
労働時間 | 1日8時間 1週間40時間 | 1日8時間 1週間5日 *週48時間を超えてはならない |
休憩時間 | 連続して6時間を超えて労働する場合には45分以上、8時間を超える場合には60分以上の休憩 | 60分以上の食事休憩(労働雇用大臣が定める規定に従う) ※5~20分の小休憩も労働時間とみなす |
休日 | 週1日以上の休日 | 週1日以上の休日 |
割増賃金 | 時間外労働:1.25倍 ※月60時間を超える時間は1.5倍の例外あり 深夜労働:1.25倍 休日労働:1.35倍 | 時間外労働:1.25倍 夜間労働:1.10倍 週休労働:1.30倍 特別祝祭日労働:1.30倍 特別祝祭日が週休と重なる場合の労働:1.50倍 一般祝祭日:2.00倍 |
年次有給休暇 | 6カ月以上:10日以上 1年6カ月以上:11日以上 2年6カ月以上:12日以上 3年6カ月以上:14日以上 4年6カ月以上:16日以上 5年6カ月以上:18日以上 6年6カ月以上:20日以上 | 1年以上:5日以上 |
管理職 | 管理職に対しては時間外及び休日の割増賃金の支払い義務なし | 管理職に対しては労働時間に関する規定が適用されない |
[割増賃金]
労働時間に関する法律は、すべての企業と労働者に適用されます。ただし、政府公務員、管理職、外勤職員、雇用者の扶養家族、家事手伝い、個人的サービスを行う者、労働雇用大臣が定める出来高払の労働者は適用除外となっています。
ここでいう管理職とは企業の部門やその一部を経営・監督する組織の幹部のことを指し、外勤職員とは日本の労働基準法でいうところの事業場外裁量労働制(営業職のように、会社の外で勤務する労働者に適用される制度)が適用される労働者のことを指します。
割増率は、先述の労働基準比較表を参照ください。
[解雇]
フィリピンでは、297条(旧282条)から299条(旧284条)に規定された正当な理由以外で、民間企業の労働者を解雇することは禁止されています。そのため、労働者を雇用する際には慎重な選考が必要になります。
正当な解雇理由として規定されているのは、労働者が命令に著しく違反している場合、使用者が必要な人員の削減を行う場合、労働者が法で指定されている疾病を継続して患っている場合等です。
必要な人員の削減を行う際は、雇用終了予定日の少なくとも1カ月前までに、労働者及び労働雇用大臣に書面で通知しなければなりません。機械類の設置による人員余剰を理由とする解雇の場合は、労働者に最低1カ月分の給与相当額を支払う義務が発生し、業績の悪化等に伴う損失予防のための人員削減の場合、深刻な損失や財務破綻によらない事業の閉鎖及び停止の場合にも、1カ月分の給与または継続勤務年数に0.5カ月分の給与を掛けて計算した額のいずれか多い方を支払って解雇手続きを行います。
労働者が法で指定されている疾病を継続して患っている場合、または自身の健康を含め、他の労働者の健康に害を与えるとみなされる場合に解雇する際は、使用者は最低1カ月分の給与相当額を退職金として支払う義務が発生します。
[女性の雇用]
フィリピンにおいても日本と同様に女性に対する差別が禁止されています。134条(旧136条)では、雇用条件面における性別を理由とした男性労働者に対する優遇行為を禁止しており、135条(旧137条)では、妊産婦に対する雇用上の禁止事項を具体的に規定しています。
次に出産休暇手当について紹介します。また、出産休暇手当についても規定されており、これは、使用者が妊産婦労働者に対し、産前産後休暇を与えるとともに、週の平均賃金に基づく給与の全額を一括立替払するものです。これは、後述の社会保障制度でカバーされており、雇用主の申請により、後日社会保障制度より支払を受けることとなっています。
この規定が適用されるのは、過去12カ月以内に通算6カ月以上勤務した妊産婦の労働者です。2019年に法改正があり、出産回数が4回まで適用されていましたが、法改正後は出産回数の規制がなくなりました。出産休暇手当については、出産する直前の12カ月以内に、3カ月間以上保険料を納付した場合に適用となります。自然分娩の場合、以前は60日でしたが法改正後は105日の手当を受給できるようになりました。
*流産(Miscarriage)又は中絶(Emergency termination of pregnancy)の場合は、60日となります。
出産休暇手当 | |
旧法 | 新法 |
出産回数4回まで 60日 | 出産回数制限なし 105日 |
シングルマザーに関しましては、追加で15日分の手当付与となります。更に、母親と父親の職場が同じであってもなくとも、母親休暇日数の7日分を父親休暇に充てることが可能です。なお、父親が死亡・不在・就労不能の場合は、上記7日間を4親等の親族又は現在のパートナーなど性別に問わず、世話人に対して与えることも認められています。この申請は、少なくとも30日前までにCivil Service Form No.6の記載と併せてMedical certificateをSSSや雇用主に提示する必要があります。
*上記規定の期間より早く職場復帰する選択肢も認められています。
手当は、基本給ではなく、「標準報酬月額」によって決まります。また、手当は従業員が申請してから 30日以内に支払わなければならないという点にも注意が必要です。
[その他の法定休暇]
フィリピンには、上記の出産休暇手当の他に、以下のような育児や女性保護に係る休暇の規定があります。
なお、下記の各休暇については、雇用主は未消化分を買上げる義務はありません。
父親育児休暇
父親育児休暇(Paternity Leave)とは、既婚男性に対して、配偶 者が出産した場合に、出産から60日以内に7日与えられる有給休暇 です。こちらも、出産休暇(Maternity Leave)と同じく人数制限の規定はございません。また、出産時の有給休暇に加え、母親休暇のうち7日分を父親休暇として付与することができます(最大14日間)。
シングルペアレント休暇
1年以上勤務した片親である従業員に対して、シングルペア㆑ント 休暇(Parental Leave for solo parent)という年7日の有給育児休暇が与えられます。
女性及び子どもへの暴力の被害者に対する休暇
女性及び子どもへの暴力の被害者に対する休暇(Leave for victims of violence against women and their children)は、共和国法9262号で定められた暴力の被害にあった女性従業員に対して付与される10日間の有給休暇です。
女性に対する特別休暇
12カ月の期間内に6カ月以上勤務した女性従業員は、2カ月間以上の婦人科疾患手術を受けるときに、女性に対する特別休暇(Special leave benefits for women)という有給休暇が与えられます。
婦人科疾患手術とは、子宮内膜掻爬術、膣や頸部、子宮、卵管、卵 巣、胸部、子宮附属器、骨盤にかかわる手術、子宮摘出、乳房切除などを指し、実際に発生するケースは限られていますが、発生した場合の企業の負担は大きいため、留意が必要となります。
上記の休暇に係る制度を概観してもわかるように、女性や子どもへの配慮が深くなされている仕組みが存在します。フィリピンの出生率は2017年世界銀行の報告によると、2.9と非常に高い数字を示しています。これは一概に制度に起因するとはいえません。文化的な意味で、敬虔なキリスト教徒が多いことも起因していると考えられます。アジア諸国は、今後10年、20年という中期的な視点で見ると、少子高齢化をたどることが危惧されています。しかし、フィリピンでは慢性的に子どもや若年層が多い構造で今後もこの傾向は続くと考えられています。このような女性に対する保護や出生率の高さは、成長の原動力となる一方で、課題でもあります。
賃金に関する法制度
使用者は原則として、労働者に賃金を最低2週間に1回、または1カ月に2回、16日以内の間隔で直接支払わなければなりません。給与の支払が月に2回ある背景には、いまだ貧しい人が多いフィリピンでは、1カ月に1回の支払にしてしまうと、賃金の前借を求める労働者が後を絶たない、といった事情があるといわれています。
ただし、不可抗力などによって支払ができない場合には、その後速やかに支払うことになります。1カ月に2回の給与支給が必要なため、 使用者側の負担は他国と比較して大きいといえます。この場合に、給与の締めを月に2回設けて、給与計算を2回行っている企業と、給与の締めと給与計算は1回にして、給与の支払回数のみ2回にしているケースとに分かれています。
また、賃金は通貨で支払わなければならず、従業員が求めた場合で も、商品券や約束手形等で支払うことは認められていません。一方で、労働協約に明記されている場合、または以下のすべての条件を満たしている場合には、銀行小切手、郵便小切手、郵便為替による支払が認められています。
・ 預金引き落としの可能な銀行等の施設が職場から半径1km圏内 にあること
・ 使用者や代理人等が金銭的利益を得ないこと
・ 従業員に銀行の営業時間中に預金引き落としに必要な時間を与え、それが労働時間内の場合は有給とすること
・ 労働協約がない場合は労働者との書面による合意があること
使用者の事業が倒産/清算される場合は、従業員は、政府や他の債権者より優先して賃金等を受けることができます。
■ 13カ月給与法
周辺のアジア諸国の主たる宗教が仏教やイスラム教、ヒンドゥー教であるのに対し、フィリピンはアジアの中で唯一のキリスト教国で す。この背景として、スペインが植民地支配を進めるための政策としてキリスト教を用いたといわれています。
国民の90%以上がキリスト教徒であるフィリピンでは、クリスマスと新年を正しく祝うために、 13カ月給与法(The 13th-Month Pay Law)が定められています。雇用者は12月24日以前に、労働者がその年に受取った基本給の1カ月分を13カ月手当として支払わなければなりませんが、2回に分けて支払をすることも可能です。
フィリピンでは13カ月手当以外の賞与の支払は義務付けられておらず、フィリピンの現地企業では賞与の支払は一般的ではありません。一方、日系企業では、多くの企業で賞与が支払われています。また、13カ月手当法が施行される以前は、クリスマスボーナスという形で賞与を支払っていた企業もありました。
13カ月手当を所定の日までに支給しない場合は法律による罰則があります。
13 カ月手当については、最高90,000 ペソまで給与所得者の所得税が免除されます(REPUBLIC ACT No. 10963)。所得税免除額の上限を超える部分については、雇用者が源泉徴収することになります。
1 3カ月手当に対して所得税が一部免除されるという点からも、また、その免除金額を2018年には90,000ペソまで増額しているという点からも、国家としてこの手当を重要視していることがうかがえます。日系企業には、現地の風習を考慮した対応が求められます。
■ 定年退職金
フィリピンでは、60歳に達し、かつ5年以上勤務した従業員への定年退職金の支払が義務付けられています。法定支払金額は以下の計算式で算出されます。
法定支払金額=退職時の基本給0.5カ月分 × 勤続年数
※この点、厳密に言うと「退職時の基本給 0.5カ月分」とは、労働法287条で以下のように規定されています。
退職の基本給 0.5カ月分=15日+2.5日(13カ月手当の12分の1)+5日(年次 有給休暇)=22.5日分
■ 最低賃金
フィリピンにおける法定最低賃金は17の地方で異なる額が規定されています。また、額だけでなく改定の頻度も地域によって異なります。首都圏であるメトロマニラでは、およそ1年ごとに新しい賃金法令が発布されます。
2022年については、マニラ首都圏を含む14の地域で同時に最低賃金引き上げが行われ、2018年11月以来、約4年ぶりに最低賃金が引き上げとなり6月上旬頃に発表がされていました。生計費調整(COLA:Cost-Of-Living Adjustments)は、雇用主に対して義務付けられた、 最低賃金労働者に追加で支給する生活手当のことをいいます。
最低賃金引き上げに伴い、13カ月給与、有給休暇、SSS等の社会保障機関に関連する賃金の計算についても7%それぞれ増加します。この最低賃金は雇用者が労働者に対して支払う最低額であり、それ以下の賃金を支払った場合、罰金対象になると法律で定められています。そのため、雇用者は最低賃金の改定にも常に注意を払う必要があります。
ただし、財政難に陥っている企業や自然災害による甚大な被害を受けた企業、一定規模未満の特定の企業に関してはこの支払が免除されます。また、 最低賃金の特例として、見習い労働者や障害を持った労働者には、本来の最低賃金額の75%が最低賃金として適用されます
【マニラ首都圏の最低賃金推移】
| 2022年 | 2023年 | 2024年 | |||
改定後 | 上昇額 | 改定後 | 上昇額 | 改定後 | 上昇額 | |
非農業 労働者 | 570ペソ | 33ペソ | 610ペソ | 40ペソ | 645ペソ | 35ペソ |
農業 労働者* | 533ペソ | 33ペソ | 573ペソ | 40ペソ | 608ペソ | 35ペソ |
*その他、農業労働者および従業員数が15名以下のサービス/小売業、従業員数が10名以下の製造業
2024年7月より農業以外の業種におけるマニラ首都圏(National Capital Region。以下NCR)の最低賃金は、日額645ペソ(非農業労働者)に変更されています。
なお、NCRが意味する市の詳細は以下の通りです。
マカティ(Makati)、マニラ(Manila)、マリキナ(Marikina)、マラボン(Malabon)、モンテンルパ(Muntinlupa)、ナボタス(Navotas)、パラニャーケ(Parañaque)、パサイ(Pasay)、パシッグ(Pasig)、ケソン(Quezon)、サンフアン(San Juan)、タギッグ(Taguig)、ヴァレンズエラ(Valenzuela)、カローカン(Caloocan)、ラスピニャス(Las Piñas)、マンダルヨン(Mandaluyong)
また、セブシティを含む地域では2024年7月時点で非農業労働者の最低賃金は468ペソ、農業労働者およびその他従業員数が15名以下の企業で458ペソの最低賃金となっており、前回の引き上げからは33ペソの上昇額となっています。
上記詳細や他の地域の最低賃金はDOLE(フィリピン労働局)のサイトで確認可能です。
社会保障制度
社会保険法
フィリピンの社会保障制度は、 社会保障制度(SSS)、健康保険公社(PhilHealth)、持家促進相互基金(HDMF:Home Development Mutual Fund / 通称 Pag-IBIG)の3つから成り立っています。
SSSは一般国民向けであり、公務員に対しては、公務員社会保険基金(GSIS:Government Service Insurance System)があります。
日本における介護保険及び雇用(失業)保険は、フィリピンにはありません。
■ 適用範囲
原則として60歳以下のすべての労働者に対し、SSSの 保険料負担が義務付けられています。それと同時にHDMFとPhilHealthの保険料を負担する必要があります。これは外国人労働者にも適用され、原則として適用除外を受けることはできません。従って、60歳以下の労働者を一名以上雇用している企業では、社会保険に加入する必要があります。
一方、上述のように、公務員にはGSISの保険料負担が義務付けられています。
■ 保険料
日本における介護保険及び雇用(失業)保険に相当する保険は、フィリピンにはありません。しかし、雇用(失業)保険に関してはSSSによってカバーされているものもあり、こちらについては全額雇用者が納める義務があります。SSSにおいて加入者は、労働者、雇用者、自営業者、任意加入者(労働していない者で加入を希望する者や出稼ぎフィリピン人労働者等)に分かれており、労働者の社会保険は雇用 者が毎月の給与から源泉徴収します。 保険料の算定については、日本と同様に標準報酬月額に基づいて計算されます。雇用者の保険料は、労働者の月額給与額によって若干の上下はあるものの、労働者の負 担額の約210~230%となっており、月額の上限が設けられています。 保険料の標準報酬月額表は給与額に応じてそれぞれ上図の通りです。
また、SSSに加入する企業の雇用者は、HDMFに月額最高約100 ペソ、PhilHealthに月額最高約400ペソの保険料を支払う義務を負います。
■ 社会保険給付の資格と給付内容
SSSが被保険者等に支給する社会保険給付は、傷病手当、出産手当、 退職手当、障害手当、死亡手当(遺族年金)の5つです。原則として、それぞれの手当における支給要件と保険料納付済要件の両方を満たすことにより、受給資格を得ることができます。退職手当、障害手当、死亡手当(遺族年金)については、保険料納付済期間の長短により、 年金か一時金のどちらが支給されるかが決まります。給付額は、傷病手当金が平均賃金の90%、出産手当が100%と、日本と比較すると対平均賃金における支給割合が非常に高いといえます。
加えて、生活資金や教育資金、住宅資金、株式投資の貸付も行っています。SSSでの資金貸付プログラムは家計のファイナンスの一つの選択肢となっています。
PhilHealthは、入院治療、外来治療等の適切な医療サービスを、 健康保険の給付として被保険者等に行います。
HDMFは、民間の労働者、公務員及び基金に加入する自営業者に対して、住宅取得資金の貸付を行います。
GSISは、公務員を対象としてSSSと同様の給付を行います。
また、上記の保険給付の他に、生活資金貸付(Salary Loan)があります。直近1年以内に6カ月以上、なおかつ過去に36カ月以上保険料を納付している加入者は、直近12カ月分の平均標準報酬月額の貸付を受けることができます。更に72カ月以上保険料を支払っている場合は 、上限を24,000ペソとして上記平均標準報酬月額 × 2の貸付を受けることができます。
ただし貸付に係る利子は年率10%、貸付の手数料として借入額 × 1%を負担する必要があり、借りた翌月から24カ月の分割返済が条件です。
労災保険法
■ 適用範囲
労災保険法は社会保険法が適用される雇用者とすべての労働者に適 用されます。フィリピンにおける労働災害とは、就業場所における事故、公式の業務・行事に従事・参加していた際の事故、雇用者の指示する業務に従事していた際の事故による、傷病、障害または死亡を指します。
ただし、泥酔や、故意の事故、度を越えた不注意による場合 は、労働災害には該当しません。
■ 保険料
フィリピンの労災保険は、日本と同様に雇用者のみに保険料の納付義務が課されます。保険料は、労働者の月給の約1%とされています。なお、労働者が、雇用期間中に障害によって労務に服することができなくなり、賃金を受取っていない期間は、その労働者に係る保険料納付義務は免除されます。
■ 労災保険給付の資格と給付内容
労災保険のいずれの給付も以下の3つの条件を満たした場合にのみ 支給されます。
・ 労働者について正式にSSSに報告がなされていること
・ 労働者の傷病や死亡の原因が業務と相当因果関係があること
・ 上記の傷病や死亡についてSSSに通知していること
[療養給付]
傷病を負った日から治るまでの医療サービスや医療器具等が療養給付として提供されます。また、入院の場合も同様のサービスが得られます。
ただし、SSSに認められた病院や医者による治療に限られます。
[医療給付金]
一時的な障害や傷病に対して医療給付金が支給されます。平均賃金日額の90%が支給されます。医療給付金には下限額と上限額が設けられており、10~200ペソとなっています。医療給付金は通常の賃金支払日に雇用者から支払われ、雇用者がSSSから同額を受取ることになります。
原則として支給日数が連続120日を超えることはありませんが、療養の継続が必要と認められた場合には、240日まで延長される場合があります。更なる延長が必要とされる場合は、障害として扱われ、障害給付金の対象となる場合があります。
[障害給付金(全部障害)]
二肢を失った場合や身体が完全に麻痺した場合などに障害給付金が 支給されます。
障害給付金(全部障害)は、月給と同じ額が支給されます。給付金 は障害を負った労働者に対して生涯年金として毎月支払われます。毎月の給付の下限額は2,000ペソとなっており、更に追加給付金として575ペソが上乗せされます。また、扶養している子がいる場合には、5名を上限として1名あたり10%が加算されます。
ただし、雇用されて収入を得ている場合、当該障害から回復した場合、またはSSSが通知する1年に1度以上の健康診断を受けない場合もしくは四半期の報告をしなかった場合は支払われません。
[障害給付金(部分障害)]
指を一本失った場合や足を一本失った場合には、月給と同額が障害給付金(部分障害)として支給されます。給付の下限額は全部障害の場合と同様に2,000ペソとなっています。
毎月支払われる金額は、全部障害に対する障害給付金と同額ですが、受給期間は障害ごとに定められています。また、受給期間が1年未満の場合は、一時金として支払われます。
[死亡給付金]
労働者が死亡した場合に、月給と同じ額が第一次相続人に支給され ます。毎月の給付の下限額は2,000ペソです。また、上限を5名として扶養している子1名あたり10%が加算されます。
第一次相続人がいない場合は第二相続人に受給権が与えられますが、その場合の受給期間は60カ月までとなっています。
[葬祭料]
労働者が死亡した場合に、当該労働者の葬祭費を負担した人に一時 金として12,000ペソが支払われます。
■ 相続人
労働者が死亡した場合は、給付が相続人に支給されます。相続人は以下の第一次相続人と第二次相続人に分類され、どちらに該当する者もいない場合は、支給されません。
[第一次相続人]
・ 労働者の死亡時における法定配偶者(ただし再婚した場合は失権する)
・ 養子を含む、法で子と定められた者のうち、未婚であり、就業による賃金を得ておらず、21歳以下である、または22歳以上で所定の障害のある者(未成年の頃から障害があった場合に限られる)。これに該当する者がおらず、実子がいる場合には実子が有権者となる
[第二次相続人]
・ 労働者に全面的に扶養されている法律上の親
・ 法定で定められた子孫及び法定で定められていない子のうち、未婚であり、就業による賃金を得ておらず、21歳以下である、または22歳以上で所定の障害のある者(ただし、未成年の頃から障害があった場合に限られる)
健康保険公社
健康保険公社(PhilHeath)とは公的医療保険のことで、保険省 (Department of Health)の参加組織である、フィリピン健康保険組合が運営しています。1998年にSSSから分離し設立されています。
■ 保険料
保険料は、標準報酬月額の2.5%で、労使折半での負担です。標準報酬月額は28段階です。
■ 給付内容
直近6カ月以内で、3カ月以上の保険料を納付している場合は入院した際の医療費の給付を受けることができます。医療費給付の対象となる入院期間は加入者本人の場合は1年に45日間、扶養家族の場合は全員の合計日数で45日間と制限があります。
持家促進相互基金
持家促進相互基金(HDMF)はPag-IBIGという通称で知られています。1978年設立当初はSSSによって運営されていましたが、1980年に分離しました。
■ 掛金
持家促進相互基金(HDMF)の掛金は従業員1名につき通常は100ペソとなります 。
■ 給付内容
住宅資金の貸付、短期の多目的の貸付、貯蓄プログラムというサービスを提供しており、家計のファイナンスの選択肢の一つとしてSSSと同様、重要な融資機関となっています。
駐在員の社会保険
■ 社会保険
[社会保険の被保険者資格の継続・喪失]
日本から海外に出向する際には、日本国内の企業との雇用関係が継続する(在籍出向)のか、継続しない(転籍出向)のかによってその取扱いが異なります。
在籍出向であり、出向元から給与の一部または全部が支払われている場合には、海外に赴任している間でも、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は継続します。
一方、日本の出向元との雇用関係を終了させ、海外現地法人等との雇用関係を結ぶ転籍出向の場合には、出向元との雇用関係が継続しないため、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は喪失します。
[国民年金の任意加入]
転籍出向する場合には、厚生年金保険の被保険者資格を継続することができません。1年以内の赴任予定であれば、日本国内の居住者となりますので、国民年金への加入をすることになります。
しかし、1年以上の赴任予定の場合には、日本の非居住者となりますので、原則として国民年金に加入する必要はありません。日本の年金制度に加入を希望する方は、国民年金の任意加入手続をすることができます(国民年金法附則5条任意加入被保険者3項)。なお、国民 年金の任意加入要件は、以下の点です。
・ 日本国籍を有する20歳以上65歳未満であること
・ 日本国内で保険料の納付が可能なこと
※親族等による代行納付でも可
[海外で日本の健康保険制度を利用する際]
海外赴任中に海外で医療行為を受けた場合でも、日本の健康保険の被保険者資格が継続していれば、加入する健康保険組合等に「療養費」の申請をすることが可能です。
ただし、申請に当たっては、以下の2点に注意をする必要があります。
・ 「療養費」での申請となるため、海外での医療費を一度全額本人が立替え、日本の健康保険組合等に申請をする
・ 海外で受けた医療行為について、日本国内で保険診療を受けた場 合の保険診療点数に換算して算出した金額から自己負担額を差引いた額が支給される
健康保険の海外療養費申請に必要な書類は、以下の通りです。
・ 療養費支給申請書
・ 療養内容証明書
・ 領収明細書
・ 領収書(原本)
・ 渡航期間がわかるパスポートの写し(海外渡航中の加入者が期間中に診療等を受けた場合)
・ 海外での診療を担当した医療機関に照会することの同意書
ただし、提出書類が日本語以外の言語で記載されている場合には、 翻訳者の氏名及び住所を明記の上、日本語翻訳文の添付が必要となり ます。
[日本国内の健康保険制度の継続]
日本国内の企業との雇用関係が継続しない場合には、健康保険の被 保険者資格は喪失となります。しかし、健康保険の任意継続被保険者制度(最長で2年間)を利用するか、国民健康保険に加入することで、日本国内の健康保険制度に加入することができます(健康保険法 37条 任意継続被保険者)。
なお、国民健康保険の加入には住民票が必要です。 なお、健康保険の任意継続被保険者制度は資格喪失後20日以内、 国民健康保険の加入は資格喪失後14日以内に行う必要がありますので、早急な対応が求められます。
健康保険任意継続被保険者の保険料
下記いずれか低い金額に保険料を乗じた金額となります。
・ 退職時の標準報酬月額
・ 加入していた保険者ごとに定められる標準報酬月額の平均額
※在職中と異なり、事業所が負担していた保険料についても自己負担となる
国民健康保険の保険料
被保険者の所得等に応じ、市区町村の規定により算出される金額となります。
[労災保険の特別加入制度]
労災保険は、日本国内にある事業所で働く労働者が保険給付の対象 となるため、海外の事業に出向する労働者は対象外になります。
そこで、海外に出向する労働者についても、海外派遣者特別加入制度を利用することで、労災保険の保険給付を受けることが可能となります(労働者災害補償保険法 33条 特別加入)。
特別加入者の保険料は、保険料算定基礎額に保険 料率を乗じた金額 で、年間で最低3,831円、最高2万7,375 円です。
特別加入対象者は、以下の通りです。
・ 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣され、海外で行われる事業に従事する労働者
・ 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣され、海外にある一定数以下の労働者を常時使用する中小企業に従事する事業主及びその他労働者以外の者
※中小企業の規模
金融業・保険業・不動産業・小売業 … 50名以下
卸売・サービス業 … 100名以下
上記以外の業種 … 300名以下
・ 国際協力機構等、開発途上地域に対する技術協力(有期事業を除く)を行う団体から派遣され、開発途上国地域で行われている事業に従事する者
■ 海外旅行傷害保険
[駐在員赴任時の取扱い]
海外赴任をする際には、公的な保険の加入の他に海外旅行傷害保険への加入の検討が望ましいです。 海外旅行傷害保険に加入することで、保険会社が契約を結んでいる病院で治療をする場合には、現金不要で治療を受けることができます。
また、公的な保険とは異なり、契約した保険金額を限度として、実際にかかった医療費の実費が支払われます。 海外旅行傷害保険の新規加入は、出国後に手続をすることができませんので、必ず出国までに加入手続を済ませる必要があります。
[駐在員帰任時の取扱い]
駐在員が帰任することになった場合には、労働局における外国人労働許可書(AEP)のキャンセル手続や移民局における外国人登録証(ACRカード)のキャンセル手続、就労ビザから観光ビザへのダウングレード手続、フィリピン出国許可証(ECC:EmigrationClearance Certificate)の取得手続がそれぞれ必要になります。この手続を行わなくても帰任する駐在員がフィリピンから出国することは可能ですが、就労ビザの有効期間が過ぎても延長手続やダウングレード手続等が行われないで放置していると、将来的に就労ビザを申請した企業や駐在員本人が移民局のブラックリストに載る可能性や労働局及び移民局からペナルティが課されるという可能性は生まれます。それゆえ、上記キャンセル手続やダウグレード手続を行うことをお勧めします。
なお、労働局における外国人労働許可書のキャンセル手続や移民局 における外国人登録証(ACRカード)のキャンセル手続、就労ビザ から観光ビザへのダウングレード手続、フィリピン出国許可証(ECC: Emigration Clearance Certificate)の取得手続には意外と時間がかかり、すべて完了するまでにスムーズにいっても3~4週間かかるのが現状です。また、この期間中は手続の性質上、帰任する駐在員はフィリピン国外に出国することができません。それゆえ、駐在員の帰任が決まったら、上記手続をスケジュールに入れつつ、取引先へのあいさつ、銀行のサイナー変更、取締役や役員変更の手続等を並行して進めることになります。
また、フィリピンで就労した期間に、フィリピンでの労働の対価をフィリピン国外で受け取っている場合には、その収入分の確定申告が翌年4月15日までに必要になります。その他、帰任した駐在員は日本側においてその年の年末調整の対象となります。対象となる給与は、居住者となった(帰任した)日以後に支払われた給与です。
駐在員の給与設計と計算事例
■ 日本とフィリピンの給与格差問題
フィリピン駐在員に対して給与を支払う場合、日本とフィリピンで給与計算方法、適用税率に差があることから、その支給に当たっても 一律日本と同様というわけにはいかないため、給与額の設定、支給形態を事前に十分検討する必要があります。 日本とフィリピンには適用税率に差があるため、日本と同様の給与を支払うと手取給与額が低くなる場合や高くなる場合があります。
[日本とフィリピンの税率比較]
日本側では、給与所得控除(65万円)と基礎控除(38万円)がありますので、収入ベースで103万円以内であれば所得税はかかりません。フィリピンでは、基礎控除の金額が5万ペソ(約10万円)と非常に低くなっています。
また、最高税率の32%が適用されるのが、50万ペソ(約100万円)からとなっており、日本人駐在員の場合には、最高税率が適用されるケースがほとんどです。従って、日本と同じ支給額とすると、手取額が減少するケースがあります。
駐在員に係る諸手続(ビザ)
駐在員に係るビザの取得・ビザの種類
日本人の場合、商用または観光の目的であれば、ビザなしでフィリピンに30日間まで滞在することができます。この場合、フィリピン入国の際に、
①有効な往復航空券または、第三国へ出国する航空券を所持していること
②パスポートの有効期限が滞在日数+6カ月以上であること
が求められます。
30日以上フィリピンに滞在するためには、あらかじめ日本で非移民ビザ(9Aビザ)を取得するか、もしくはフィリピン渡航後、移民局で非移民ビザ(9Aビザ)ステータスでの滞在延長手続を行います。なお、この滞在延長は、最長3年間まで行うことができます。
商用または観光目的の滞在の場合、現地で報酬を受ける活動を行うことはできません。現地で報酬を受ける活動を行う場合には、特別就労許可(Special Work Permit)もしくは就労ビザ(9Gビザ、47A2ビザ(通称PEZAビザ)等)を取得する必要があります。 特別就労許可は通常3カ月間の就労許可で、最長6カ月間まで延長が可能です。6カ月以上就労する場合には、前述の就労ビザを取得する必要があります。
ここでは一般的な就労ビザである9Gビザの申請手続を見ていきます。日本における就労ビザ申請手続は、在日フィリピン大使館のホームページにも詳細が記載されています。
■ 9Gビザ申請手続
9Gビザの取得手続は以下のようになります。また、9Gビザ申請書類の作成にあたり、準備すべき必要情報は以下になります。
・ 就労先の最新の法人所得税申告書(Income Tax Return)のコピー(設立直後の場合は不要)
・ 就労先の最新の監査済財務諸表(Audited Financial Statement)のコピー(設立直後の場合は不要)
・ 就労先の最新の地方自治体の事業許可証(Mayorʼs permit)のコピー
・ 就労先の最新の年次報告書(General Information Sheet)のコピー
・ 就労先のSEC登録書のコピー
・ 就労先の定款、附属定款のコピー
・ 9Gビザ申請者と現地就労先会社との雇用契約書
・ 9Gビザ申請者の履歴書
・ 9Gビザ申請者のパスポートコピー
・ 9Gビザ申請者の顔写真(背景は白色)
・ 9Gビザ申請者の戸籍謄本の英訳※
※独身者の場合には不要。戸籍謄本は配偶者や扶養者を証明するための婚姻証明書、出生証明書を在比日本大使館で取得するために必要な書類です
現地法人の取締役の場合、通常定款に任期が1年と定められているため、外国人労働許可書・就労ビザ共に有効期限が1年間と限定されます。しかし、実務上は就労ビザ申請者の雇用契約書に記載する役職を取締役とは記載せずに、統括マネージャー(General Manager)や財務マネージャー(Financial Manager)、または単にマネージャー(Manager)と記載することで、労働局が3年までの期限で外国人労働許可書を発行する場合があります。就労ビザの有効期間は、通常は労働局が発行する外国人労働許可書の有効期間と紐づきます。つまり、外国人労働許可書の有効期間が1年であれば、就労ビザも1年間の有効期間のものが発行されます。
また、就労ビザ申請時によく聞かれるのが現地支給の給与額です。あまり現地支給の給与額が多いと現地のローカル従業員から不平不満が上がり、場合によっては身代金目的の誘拐等、駐在員自身や帯同家族に身の危険が及ぶこともありうるため、できる限り現地支給額を少なくしたいというのが進出企業共通の考えのようです。しかし、あまり現地支給額が少ないと、就労ビザの発行に影響が起きると考えられます。労働局や移民局に明確な基準があるわけではありませんが、実務上は、フィリピンにおける現地採用日本人の最低給与ラインが月5万ペソ程度と言われているので、この金額を最低ラインに考えて調整している企業が多く見受けられます。
PEZA登録企業の駐在員が取得できる47A2ビザ(通称PEZAビザ) の場合には、移民局での手続の代わりにPEZAにおける迅速な手続が行われるので、申請からビザ取得までの期間が短縮されます。通常であれば、移民局における外国人労働許可書の申請から、PEZAビザの取得までにかかる期間は2カ月程度です。PEZAビザの場合には、9Gビザの場合と異なり、外国人登録証(ACRカード)の発行が省略されています。
参考文献
・ Bureau of Labor Relations
・ 厚生労働省 海外情勢報告
・ Japan International Labour Foundation
・ National Statistics Office, Republic of the Philippines
・ National Wages and Productivity Commission
・ JETRO
・ Overseas Vocational Training Association
http://www.ovta.or.jp/info/asia/philippines/05laborlaw.html#51
http://www.ovta.or.jp/info/asia/philippines/06labor.html
・ http://www.chanrobles.com/implementingrulesofthelaborcode3.html
・ http://www.chanrobles.com/implementingrulesofthelaborcode1.htm
・ http://www.lawphil.net/statutes/presdecs/pd1975/pd_851_1975.html
・ http://www.pagibigfund.gov.ph/
・ http://www.gsis.gov.ph/
・ フィリピン日本商工会議所発行 p-BUSINESS no.289 号、no.291 号 株式会社の村総合研究所マニラ支店 高岡真紀子
・ Guidebook for SSS members / Social Security System発行