税務
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フィリピンにおける税務
フィリピンに居住している個人、フィリピン企業と取引を開始する場合、またはフィリピン国内においてビジネスを行う場合は、そのビジネスに付随して必ずと言っていいほど税金の問題が発生します。その認識がない状態で取引を行えば、後で思わぬ税負担が発生することも珍しくありません。
この章においては、フィリピンにおける税制の全体像、個別の税目の解説から、進出にかかわる国際間での税務問題まで含め解説します。
■ フィリピン租税法
フィリピンの国税は内国歳入法(The National Internal Revenue Code)に規定されており、国税のうち関税だけは関税法(Tariff and Custom Code)を基準法規としています。フィリピンの租税法の特徴として、以下の2つがあげられます。
まず、税務執行官の裁量が法規制の解釈及び施行に与える影響が大きいということです。フィリピンの所得税法は全62条と条文数が少ないため、その解釈に当たって個人の解釈が介入する余地が大いにあるといえます。次に、大統領命令(EO:Executive Order)により、本法とは異なる対応が規定される場合があるため、注意が必要となります。
■ 税目の種類
フィリピンにおける税金の種類は、大きく国税、地方税、市・自治区税に区分され、更に負担方法により直接税と間接税の2つに区分されます。
租税の種類 | 直接税 | 間接税 |
国税 | ・所得税 ・相続、贈与税 ・キャピタルゲイン税 | ・源泉徴収税 ・付加価値税 ・パーセンテージ税 ・印紙税 ・関税 |
地方税 | ・不動産取引税 ・出版事業税 ・フランチャイズ税 ・専門職業税 ・遊興税 | - |
市・自治区税 | ・事業税 ・固定資産税 | - |
[国税]
フィリピンの国税は内国歳入法と関税法を基準法規としています。 税目としては所得税、関税、付加価値税、印紙税などがこれに該当します。
[地方税]
地方税は地方自治体法を基準法規としています。税目としては、収税として不動産取引税、フランチャイズ税などがあります。
[市・自治区税]
地方税と同様に地方自治体法を基準法規としています。税目としては、事業税、固定資産税などがあります。
また、これらの税金は納付・負担の方法により、直接税と間接税との2種類に区分することができます。
[直接税]
直接税とは、税金を納める「納税義務者」と、税金を実際に負担する者が同じである税金をいいます。フィリピンにおいては所得税、相続・贈与税などがこれに該当します。
[間接税]
間接税とは、直接税と異なり、税金を納める人と実際に負担する人が異なる税金をいいます。税金の負担者が直接納付するのではなく、 他の納税義務者を通じて間接的に国に税金を納付するため、間接税と呼ばれます。付加価値税、拡大源泉徴収税などがこれに該当します。
進出形態と税務
進出形態
企業が海外でビジネスを行う場合、その活動に付随してさまざまな 税金の問題が発生します。今後、想定される問題を事前に予測し、対策を練っておくことで、事業をスムーズに運ぶことができます。
フィリピンでビジネスを開始する場合に、いくつかの形態が考えられます。
① 駐在員事務所を設置する形態(ビジネス開始前)
② 事業拠点を設置せずビジネスを行う形態
③ 事業拠点を設置してビジネスを行う形態
ビジネスの規模等に応じて、それぞれについてメリット、デメリットがありますが、いずれにおいてもフィリピン国内の税務問題だけでなく、国際間での税務問題もかかわってきます。
以下、各ケースについて関連する税務問題を検証していきます。
■ 駐在員事務所を設置する形態 … ①
フィリピン進出を検討する際に、現地の市場調査等の目的で、まずは駐在員事務所を設置して活動を開始するケースが想定されます。
駐在員事務所を設置した場合、一切の営業活動が禁止されているため、現地では駐在員事務所での活動費用(駐在員の人件費、事務所家賃など)が発生するのみで、収益については預金による利息収入くらいになります。税務申告上は赤字での申告となるため、フィリピンにおいて法人所得税の納税は発生せず、税務リスクも非常に少ない形態といえます。
ただし、納税が発生しない場合でも、毎決算期ごとに税務申告書を作成し、法定期限までに申告書の提出を行う必要があるので注意が必要です。
また、日本側においては、 駐在員事務所で発生したすべての収益・ 費用については、日本側の損益に取り込まれることになります。よっ て、初期調査段階における経費をすべて日本側で吸収することがで き、赤字リスクを回避することができる形態といえます。
注意しなければいけない点は、仮に駐在員事務所において営業活動を行っている場合に、当該 駐在員事務所がフィリピン税務当局より 「営業拠点」として認定された場合、フィリピンの駐在員事務所は日本法人の支店とみなされ、所得認定が行われフィリピンにおいて納税が必要となることです。税務当局によるこのような課税を「 PE認定 課税(P. 354 参照)」と呼びます。
■ 事業拠点を設置せずビジネスを行う形態 … ②
フィリピン国内に活動拠点を設けず、日本からの輸出販売、サービス提供やフィリピン国内の代理店等を通じてビジネスを行う場合、基本的に現地にPEが存在しないため、現地で所得課税が行われることはありません。そのため、取引に付随して生じる税務問題は多くはありません。しかし、仮にフィリピン国内にPEが存在しない場合であっても、たとえば自社の社員が長期間フィリピンに滞在し、実質的に 拠点を設けて営業活動をしているものとフィリピンの税務当局に認定された場合には、前述のPE認定課税が行われるケースも想定されるため、注意が必要です。
■ 事業拠点を設置してビジネスを行う形態 … ③
進出当初は拠点を設けずにビジネスを行っており、取引拡大等の理由から、現地でのビジネス展開を進めていく場合に、通常は現地での活動拠点が必要となってきます。現地に設立する活動拠点の形態の選択に当たっては、ビジネス内容、期間、投資額などのさまざまな要素を考慮して検討する必要があります。
一般的に、拠点を設置する形態としては、以下のパターンが考えられます。
❶ 支店形態での進出
❷ 現地法人形態での進出
以下、それぞれの進出形態ごとに関連する税務規定を検証していきます。
[支店形態での進出の場合] … ❶
支店の形態でフィリピンに進出する場合、フィリピンでの営業活動から生じた所得に対して、フィリピンにおいて法人所得税を納付する必要があります。
外国企業のフィリピン支店については、課税上「外国法人」として取扱われ、フィリピンでの法人所得税率は最高25%となります。
また、支店で発生した損益については、 駐在員事務所と同様に日本側において日本本店の所得と合算のうえ、日本での法人税の計算が行われます。
この場合において、支店側が赤字で納税が発生していなければ、特に問題はありません。しかし、もし支店側で所得が発生し、その所得に対してフィリピンで納税を行っている場合には、日本においても支店の所得が課税対象となるため、フィリピンと日本の両国において、二重で法人所得税が課税されることになります。
このような場合には、日本において「外国税額控除(P. 356 参照)」 の規定により、フィリピンでの所得を含めた日本側の所得に対する法人所得税額から、既にフィリピンで課税され支払った税額を控除する形で二重課税の調整を行います。
また、この二重課税を排除する規定は、日本とフィリピンの租税条約においても規定されています。
[現地法人形態により進出する場合] … ❷
フィリピンに現地法人形態で進出する場合、いくつか進出パターンが想定されますが、ケースによって課税形態も変わってきます。
以下、それぞれのパターンについて関連する税務規定を検証していきます。
❶ 直接日本から投資する場合
❷ 複数社との合弁により現地法人を設立する場合
❸ M&Aにより既存の会社を買収(出資)する場合
直接日本から投資する場合 … ❶
通常、海外進出の際に最初に検討するのが、自社単独による進出のケースになります。現地法人の設立ということで、フィリピン側では 「内国法人」となるため、内国法人についてはフィリピンの国内源泉所得のみでなく、フィリピン以外のその他すべての国で発生した所得 に対して、フィリピンにおいて税金が課されることとなります(全世界所得課税)。その際の法人所得税率は、❶の支店形態と同じ25%の税率になります。
現地法人を設立した際に、国際間でのグループ会社間取引が発生した場合、それらの取引は「移転価格税制」の対象取引となるため注意が必要です。
複数社との合弁により現地法人を設立する場合 … ❷
現地企業のノウハウ享受などの目的から、他社と共同で事業運営を行う場合、合弁によるフィリピン法人を設立するケースがあります。 設立後は、通常の現地法人形態となるので、上記❶と同様の税務上の扱いとなります。
M&Aにより既存の会社に出資する場合… ❸
近年、海外投資についてスピードが重要視されている中、外資企業によるフィリピン法人への株式買収等のM&Aによる投資も進んでいます。
投資後の扱いについては、上記❶、❷と同様に通常のフィリピン内国法人としての課税となります。詳細については、P.211を参照ください。
第三国を経由した投資
近年のアジア圏の経済成長は目を見張るものがあり、日系企業の進出件数も年々増加しています。広くアジア圏に拠点展開している日系企業の中には、日本からの直接投資ではなく、他の海外拠点からの投資の形態により、フィリピンに進出するケースも出ています。
具体的には、アジア圏に複数国にわたって拠点展開している企業などは、その各国の海外子会社を統括するため、シンガポールや香港に 「地域統括会社(RHQ)」を設置し、これらの国から更にアジア各国に投資をするケースも増えてきています。
シンガポール、香港を中心とするこのような形態を取るメリットは、さまざまな要素が考えられますが、特に大きなメリットとしては、シンガポールや香港は、タックス・ヘイブン(軽課税国)と呼ばれ、所得に対する税負担が他の近隣諸国に比べ低く、これらの国に利益を集約させることにより、グループ全体の租税負担を大きく引下げることができる点です。
日本の法定実効税率は約3割と、諸外国に比べても税負担が重くなるため、多くの日系企業がこのような投資スキームを採用しています。
しかし、そのような利益集約により得をするのは企業側だけであって、国側としては利益の海外流出による税収の減少という、深刻な問題が発生しました。この問題に対処するため、課税逃れを目的にシンガポール、香港といった軽課税国に子会社を設立し、利益を不当に海外に留保した場合に、日本側においてその留保利益を課税するという制度ができました。これが、いわゆる「 タックス・ヘイブン対策税制」と呼ばれる制度です。
タックス・ヘイブン対策税制の概要
日本の法人税法に規定されているタックス・ヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、内国法人等が特定外国子会社等(軽課税国に所在する外国関係会社)を有する場合に、その特定外国子会社等が留保した利益のうち、その内国法人が保有する当該子会社株式の所有割合に対応する部分の金額をその内国法人等の収益とみなして、日本で合算課税する制度です。日本では会計上「収益」が認識されていないにもかかわらず、税務上「益金」を認識することにより、海外の留保所得について日本で課税する税制です。
従前は、租税負担割合が20%以上であった場合には適用対象外になっていましたが、租税負担割合に関わらずその海外子会社がペーパーカンパニー、キャッシュボックス又はブラックリスト国に所在する法人である場合には、一定の場合を除き、全ての所得に対して合算課税が行われることになります。
また、合算課税を行うことにより、企業の正常な海外投資事業活動が阻害されることを回避するため、租税負担割合が20%以上で下記の要件を満たす場合には適用が除外となります。
特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められるなど一定の場合には、租税回避が目的ではないものとして同税制は適用されません。
よって税務当局から指摘をされる前に、地域統括会社において現地での活動実体を整備する必要があります。
国内税法の個別論点
個人所得税
フィリピンに居住する個人や日本からの現地駐在員について、個人所得税を計算する場合、まずその対象となる人が「居住者」であるか「非居住者」であるか、つまりその対象者の居住性が重要となります。この居住性により、課税される所得の範囲が異なってきます。それぞれの定義については、以下の通りとなります。
■ 居住者の定義
フィリピンにおける居住性の区分は、以下の要件のいずれかを満たす場合に居住者として区分されます。
・ フィリピン国籍を有する個人(居住性は問わない)
・ フィリピンに定常的な住居を有する者
・ 12カ月以内に180日以上フィリピンに滞在している者
上記の区分により、それぞれ「居住者・非居住者」が決定されますが、 その区分により、課税される所得の範囲は以下のように異なります。
■ 課税される所得の範囲
フィリピンでは、「フィリピン国籍の居住者(Resident Citizens)」 の場合は、フィリピン国内の所得だけでなく、どこで受取ったかにかかわらず、その他の国において発生した所得のすべてがフィリピンにおいて課税されることになります(いわゆる、全世界所得の申告が必要になります)。
日本からの駐在員の場合、通常、「外国籍の居住者(Resident Aliens)」に該当すると考えられます。外国籍の居住者については、 国内源泉所得のみがフィリピン国内で課税されます。従って、日本において不動産などを有していて、そこから賃貸収入などが発生している場合には、フィリピンでの課税は行われないことになります。
前述のように、フィリピンの税法では、居住者を180日以上フィリピン国内に滞在またはフィリピン国内に住居を有するものと定義しています。
一方、日本の所得税法では「国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」を居住者と定義していることから、一定の場合は、日本とフィリピンの双方で居住者の認定を受け、所得税が両国で二重に課税されることになります。
設立間もない製造子会社の立ち上げ支援などで、フィリピンの子会社等に派遣される場合、あるいは業務のために頻繁に出張する必要があり、結果としてその滞在日数の累計が180日に達する場合、この二重課税に該当するケースもあります。仮に、両国で居住者に該当する場合には、両国間で締結されている租税条約に基づき、いずれかの国でのみ居住者となります。
また、日本からの短期の出張や現地視察の場合などで、租税条約に定められる短期滞在者免税(日比租税条約15条)の要件を満たす場合には、フィリピン側において所得税を申告納付する義務が免除されます。
短期滞在者に対する人的役務所得(日比租税条約15条) 租税条約においては、給与収入について、実際の勤務が行われている国でのみ課税されると記載されています。つまり、給与の発生源泉である勤務が行われていない場合には、給与収入に対してその国で課税が行われることはなく、実際の勤務地において課税されることになります。
日本からフィリピンに出張する場合、以下の3要件を満たす場合には、支払われる報酬または給与に対してフィリピン側で課税がされません。
① 滞在日数基準
課税年度における滞在日数が183日を超えないこと
② 給与支払地基準
報酬または給与が日本側で支払われていること
③ 給与負担基準
報酬または給与がフィリピン国内におけるPE等において負担されていないこと
ただし、この短期滞在者免税の規定については、通常の雇用契約に基づく従業員にのみ適用される規定で、法人の取締役など委任契約に基づく者に対しては適用されないため、注意が必要です。
役員報酬に係る課税(日比租税条約16条)
給料等に関しては、原則としてその国において勤務が行われていない場合には、税金は課税されないこととされています。つまり、日本からフィリピンへ従業員が出向した場合、日本で勤務が行われない限り、日本側で課税問題が生じることはありません。
しかし、日本側の法人の役員がフィリピンに居住者として駐在する場合、もし日本の会社から役員としての報酬を得ている場合には、仮に日本側で非居住者であり、かつ、国内勤務がない場合であっても、日本側において課税がされるため注意が必要です。
個人事業主(Sole proprietorship)としての所得がある場合、つまり個人事業を経営している、または、従業員としての給与だけでなく個人事業での所得もある納税者についてはBIR Form No. 1701(年次申告書)を使用します。その際、BIRのオンラインシステムであるeFPS(Electronic Filing and Payment System)にて当該フォームが有効となっています。
■ 課税期間
フィリピンにおける個人所得税の課税期間は、暦年(その年の1月 1日~12月31日まで)とされています。
■ フィリピンにおける所得税額の計算
フィリピンにおける所得税計算については、次の図の手順により計算します。
まず、その年におけるすべての収入から、課税される収入(所得)と非課税とされる収入(所得)とを区分する必要があります。
以下において、課税される収入及び非課税収入、経費控除、分離課税の収入について記載していきます。
■ 課税対象となる所得の範囲
所得税額の計算上、課税対象となる所得は以下の区分に分類され ます。このうち、 配当や利息、資産の売却益(キャピタル・ゲイン) は、源泉分離課税が行われます。
・ 給与所得
・ 資産の売却益(キャピタル・ゲイン)
・ 利息
・ 家賃収入
・ 使用料
・ 配当金
・ その他の収入
また、収入であっても、所得税法上課税されないと規定されている主な「非課税所得」「非課税手当」については、以下の通りです。
■ 経費として控除できる費用
所得税が課税される所得金額については、収入金額から、その収入を得るために支出した金額を控除して算出します。ただし、給与所得のみの納税者に対しては、2018年TRAIN法より必要経費が不要とみなされたことにより、この経費控除は廃止されています。
事業所得を得ている人(自営業者や専門職など)には、以下の経費控除が引き続き認められています:
・ 利息
・ 税金
・ 天災等の損害による損失
・ 慈善寄付金
・ 年金信託
自営業者や専門職の人が給与所得と事業所得の両方を持っている場合、250,000ペソの控除は1回だけしか適用できません。
また年間総収入が300万ペソ以下の自営業者や専門職の人は、
は総売上高または総収入の40%を超えない額を経費とみなして控除する、選択制定額控除制度(OSD:Optional Standard Deduction)、または8%の総収入課税(gross income tax)を選ぶことで、通常の所得税+3%パーセンテージ税を免除することができます。当該制度を選択する場合は、最初の四半期確定申告の際に当該制度を選択する旨を申告書に記載する必要があります。
■ 税率
税務上の個人の居住者及びフィリピン国籍の非居住者は、上記から算出された総収入金額から各種控除額を差引いた課税所得の額に応じて、累進税率が適用されます。
以下、2023年1月から適用開始の新レートです。
個人所得税率(居住者及びフィリピン国籍の非居住者の場合) | |
年間課税所得(ペソ) | 税率 |
250,000ペソ以下 | 0% |
250,001ペソ以上800,000ペソ以下 | 250,000ペソを超過している所得に対して15% |
400,001ペソ以上800,000ペソ以下 | 22,500+400,000ペソを超過している所得に対して20% |
800,001ペソ以上2,000,000ペソ以下 | 102,500+800,000ペソを超過している所得に対して25% |
2,000,001ペソ以上8,000,000ペソ以下 | 402,500+2,000,000ペソを超過している所得に対して30% |
8,000,000以上 | 2,202,000+8,000,000ペソを超過している所得に対して35% |
外国籍の非居住事業主に対する給与以外の所得には、一律25%の 税率が適用されます。
一方、多国籍企業の 地域統括会社(RHQ)や地域経営統括会社 (ROHQ)、オフショア銀行(OBU)、石油開発関連企業等の外国人従業員については、一律15%の優遇税率(フラットレート)が適用されていましたが、新税法により2018年からは、これらの従業員についても、通常の個人所得税率が適用されることになりました。
■ 申告・納付手続
[確定申告]
個人所得税額の算定を行った後、個人所得税の申告、納付手続を行います。
個人の課税対象期間は暦年(1月1日~12月31日)とされており、申告・納付期限は、翌年の4月15日までとなります。非上場会社の株式売却益、不動産の売却益による所得がある者は、所定の様式の申告書を別途提出する必要があるため注意が必要です。
納付手続については、申告書提出の際に算定された個人所得税額と源泉徴収税額との差額を納付します。
また、上位5,000名の個人納税者は電子申告及び電子納税制度(eFPS:Electronic Filing and Payment System)による申告納税を行うことが義務付けられています。
eFPS制度の適用が義務付けられている納税者が納税をしていない場合は、税務署から徴収通知書が発行され、罰則を科されます。徴収通知に記載された期限内に納税をしなければ、略式法的措置または債権差押えが適用されます。
更に、継続的に電子申告を行っていないeFPS納税者は、期限後納税に対して50%の超過税率が適用されるため注意が必要です。
[源泉徴収]
雇用主は、毎月の給与の支払時に個人所得税額を源泉徴収して、翌月10日までにフォーム1601Cを用いて申告納付を行います。ただし、電子申告を行っている会社はこの期限が5日間延長されます。また、年度末である12月分については、翌月の15日が納付期限となります。
また、雇用主は、課税年度終了後の1月31日までに、源泉徴収票を従業員に対して交付するとともに、源泉徴収の総括表(フォーム1604C)を税務署に提出しなければなりません。
付加給付税
会社が、管理的な立場にある従業員(Managerial or Supervisory Position)に対して物品や役務を提供した場合には、上記の個人所得税とは別に、付加給付税(FBT:Fringe Benefit Tax)が課されます。管理的な立場にある者とは、経営方針の策定にかかわる者、従業員の採用・解雇の権限を有する者、事業活動に対して経営者に助言する立場にある者と定義されています。これに該当しない一般の従業員 (rank and file employee)は、この付加給付税の対象外とされています。
付加給付とは、雇用主から一般社員以外の従業員に対して提供される物品やサービスなどをいい、金銭であるかどうかを問わず、経済的利益を供与するものです。
なお、付加給付税は事業主によって源泉徴収されて、課税関係が終了するFinal Tax課税であるため、個人所得税の対象となる課税所得には含まれません。
■ 付加給付税の源泉徴収額の決定までの流れ
付加給付税の源泉徴収税額を決めるには、まず、評価額を算定します。次に、評価額を一定の割合で除し、課税標準を求めます。そして課税標準に税率をかけたものが付加給付税の金額となります。
■ 付加給付税の対象となる評価額の算定
付加給付税の対象となるものには、車の提供や、私的な経費、メイドや運転手等の提供、生命保険及び損害保険等に対する現金支給額や現物支給があげられます。
現金で支給された場合には、その支給額が評価額となります。一方、現物で支給された場合の評価額は次ページの表のように規定されています。
なお、私用の経費を事業主が負担している場合にはその総額が付加給付税の対象となりますが、毎月の給与に含まれる渡切の交際費や交通費は対象とはなりません。その場合は、給与所得として個人所得税の課税対象として取扱います。
■ 課税標準
原則として、上記の方法で求めた評価額を65%で除した額を課税標準とします。ただし、非居住者であり、かつフィリピン国内で業務に従事していない者に対する現物給与の場合および外国の石油サービス業者や下請会社、オフショア銀行、地域統括会社の従業員に対する現物給与の場合は75%で除した額を課税標準とします。
■ 税率
税率は原則35%ですが、特別経済区(Special Economic Zones, including Subic Special Economic Zone)内で事業が行われている 場合は、15~25%の軽減税率が適用されます。また、非居住者であり、かつフィリピン国内で業務に従事していない者の場合は25%、外国の石油サービス業者や下請会社、オフショア銀行、地域統括会社の従業員に対する現物給与の場合は15%が適用されます。
※2017年12月の税制改正に伴い、2018年1月より税率が35%に変更(変更前:32%)されました。
また、今後はFBTを給与所得の一部とみなして、個人所得税の税目とする動きもあります。仮に個人所得税目となった場合、個人所得税がBIRの税務調査対象となる可能性が高まります。
■ 申告納付
付加給付税は、 四半期に一度、会社が源泉徴収して申告納付を行います。原則として、四半期末の翌月末までに申告納付を行い、電子申告(E-filing)も同様となります。
法人所得税
■ 課税年度
フィリピンにおける 法人所得税の課税年度については、原則として 「暦年基準」となりますが、12カ月からなる事業年度を任意で選択することができます。課税年度を変更する場合には、 確定申告書の提出日より60日以前に申請書を所轄税務署に提出する必要があります。
■ 納税義務者
フィリピンにおける法人所得税については、所得税法に規定されています。法人所得税の対象となる納税義務者は、内国法人と外国法人に分けられ、それぞれの区分に応じて課税される所得の範囲が異なります。
内国法人(Resident Corporation)はフィリピンの法律に基づき設立または登録された法人をいい、外国法人はフィリピン国内で事業を営んでいるか否かにより、外国居住法人(Resident Foreign Corporation)と 外国非居住法人(Non-Resident Foreign Corporation)に区分されます。
国内・国外の判定基準には「法人設立の場所(the place of incorporation)」が採用されています。
■ 課税所得の範囲
フィリピンにおける内国法人は、課税年度中に獲得した国内及び、 国外源泉のすべての所得が課税対象となります。
一方、外国居住法人は課税年度中に獲得した国内源泉所得のみが課税対象となり、国外源泉所得は課税対象とはなりません。
また、外国非居住法人は課税年度中に獲得した国内源泉所得のうち、利息、 配当、賃借料、使用料、技術料等のみが課税対象となります。
■ 課税所得の計算
内国法人及び外国居住法人は課税所得(net taxable income)に対して課税されますが、外国非居住法人は総所得(gross income)に対して課税されます。課税所得は総所得から経費等を控除して算出されます。
源泉分離課税の対象となる所得及び株式売却益等の別途申告が必要な所得は、ここでいう課税所得から除外されているため注意が必要です。
■ 損金に算入できる経費
課税年度中に生じた費用で、事業を行うために必要とされる費用は損金の額に算入することが認められています。
必要とされる費用とは、事業遂行の過程で発生、あるいは事業遂行に直接起因し、課税年度内に発生するあるいは支払う、通常の費用または必要とされる費用のことをいいます。
以前までは源泉徴収が義務付けられている一定の支出については、源泉徴収を適切に行い、納付済でなければ、損金の額に算入することができないというルールがありましたが、2024年のEOPTA(Ease of Paying Taxes Act)の法改正で所得税の損金対策としての源泉はEOPTにより無効になりました。特定の源泉が必要な項目については引き続きその義務が発生します。
■ 損金計算
課税所得の計算に当たっては、会計上で計上した個々の費用につき、税務上も所得から控除できる(損金算入)か、できない(損金不算入)かの判断が非常に重要な点となります。
一般的に法律を遵守し、正当な企業活動を行った場合に生じた費用・損失は、課税所得の計算にあたり、損金として認められます。
ただし、所得税法上、別途損金算入に関して個別に規定されている項目については、それぞれの規定に従って、損金算入額を計算する必要があります。
[租税公課]
法人が支払う税金のうち、以下に該当する税金以外については、損金の額に算入されます。また、延滞利息については、損金に算入することが認められます。
・ 所得を標準課税とする税
・ 相続税または贈与税
・ 外国で課された所得に対する税
※ 外国税額控除を選択しない場合に限る
[減価償却費の計算]
法人は固定資産の減価償却方法を、自己の裁量により選択することができますが、法人の事業形態にあわせ、合理性があり妥当であることが求められます。一般的には、定額法、定率法、級数逓減法等が利用されています。
経済的減価が著しいと認められる固定資産については、耐用年数が経過する前に評価損を計上することも認められています。 また、油田、鉱山等については、減耗償却が認められています。
1997年租税改正法上においては、法定耐用年数表は存在せず、納税者が合理的と認められる耐用年数を自ら設定する必要があります。 一般的にフィリピン国内で使われている耐用年数であれば問題はありませんが、事前に国税当局と協議をして設定した耐用年数が有効かどうかを確認することも可能です。
[利息]
支払利息は以下の要件を満たすものに限り、損金算入が認められています。
・ 対応する債務が存在すること
・ 当該債務が事業に関連したものであること
・ 課税年度中に発生または支払われていること
事業用資産の取得する際に発生した利息は、当該資産の取得原価として処理することも認められています。
[貸倒損失]
貸倒損失を損金の額に算入するためには以下の要件を満たす必要があります。
また、回収不能と認められた課税年度において償却した金額に限り損金の額に算入することができます。
・ 法的に有効な債権であること
・ 回収不能であることが確実であること
・ 事業に伴って発生した債権であること
・ 関連当事者に対する債権ではないこと
[損失]
課税年度に発生した事業用資産に対する損失で、保険や損害賠償により補償されない火災、風水害、盗難、横領などによる損害等は損金算入が認められています。
なお、損金として認められるためには、損失の発生日より30日以上90日未満の指定される日までに税務署長へ届出書を提出しなければなりません。
[寄付金]
以下の団体への寄付金は、課税所得の5%を上限として損金算入が認められています。
・ 政府関係機関
・ 科学技術団体
・ 研究機関
・ 教育団体
・ 青少年スポーツ振興
・ 社会福祉団体
・ 文化団体
また、次に該当する団体への寄付金は、支出した額の全額が損金に算入されます。
・ 政府関係機関(国家経済開発庁による国家優先計画に従って行われるもの)
・ 特定の外国機関及び国際組織
・ 特定の非政府機関
[研究開発費]
研究開発費は発生または支出時に損金の額に算入されます。ただし、以下の費用は含まれません。
・ 研究開発に使用される減価償却性資産の取得費用
・ 土地の取得費用
・ 研究開発用資産の改良費
特定の研究開発費は繰延資産として60カ月以上の期間で償却する ことも認められています。
[年金信託]
年金信託への掛金は損金算入することが認められています。また、年間10%を上限として、当該年金への資金移動額も損金算入が認められています。
[繰越欠損金]
欠損金(NOLCO:Net Operating Loss Carry-Over)については、 翌事業年度以降、最長で3年間の繰越が認められています。また、石油及び天然資源事業(ガスを除く)に関しては、事業開始から10年間に生じた欠損金に限り、5年間の繰越が認められています。
ただし、上記の規定は75%の発行済株式または、75%の払込み株式を保有する株主に変更が無い場合に限られます。つまり、株主に25%を超えた変更がある場合には適用されない点に注意が必要です。
■ 税額計算
課税所得に対し、最高25%の税率を乗じて税額が算出されます。
[為替レート]
フィリピンにおいて税務申告・納付に使われる通貨は、ペソのみとされています。外国通貨を使用して取引を行った場合、税務計算に使用する為替レートに留意する必要があります。
税務署が正式に承認する為替レートは、BAP(Bankers of Association of the Philippines)が発表するレートになりますが、2024年7月時点でUSDレートのみしか反映はされていないため、日本円等のその他外貨取引が発生している場合にはフィリピン中央銀行(BSP)等の他のレートを使用できます。
しかし、その際には課税年度の30日前にBIRへその旨を報告する必要があります。
売上および経費については、デイリー(スポット)レートを使用します。もし月中平均レートを使っており、外国為替レートの変動が著しい場合、税務署の指摘を受ける可能性があります。一方、資産および負債の取引には、月末レートを使用します。
財務諸表の機能通貨を外貨に変更している場合にも同様の対応が求められるため、正しいレートでペソに変換して、税務計算を行うことが必要です。
■ 最低法人所得税
事業年度における法人所得税額が売上総利益(Gross Income) の2%よりも少ない場合、 最低法人所得税(MCIT:Minimum Corporate Income Tax)が課税されることになります。従って、課税所得が発生していない会社でも、 法人所得税の納付が必要となるケースもあります。
ここでいう売上総利益とは、総売上高から、売上値引や売上原価 (Cost of Sales)を控除した金額であるとされ、売上原価の定義は、 以下のように規定されています。
利息費用については、売上原価から除くとされていますので、売上原価に算入している場合には控除する必要があります(ただし、銀行などの金融機関は除く)。
最低法人所得税が適用されるのは事業開始年度より4課税年度以降 であり、内国法人及び外国居住法人が対象となりますが、 投資委員会 (BOI)や PEZAなどの優遇措置を受けている会社は対象外となります。
最低法人所得税は、翌期より3年間に限り、通常の法人税額から控除することが認められています。つまり、最低法人所得税を納付した場合で、翌期以降に納付税額が発生した場合には、納めるべき法人税から、過去に納めた最低法人税を控除することができます。
[最低法人所得税の会計処理]
最低法人所得税は、将来の法人所得税から控除することができるため、将来の支払債務を減少させる効果を有する会社にとっての資産と考えられます。会計上はこの経済的実態に着目をして、発生時に費用処理はせず、貸借対照表の資産に計上することが要求されています。
[四半期申告書]
法人は、課税年度における四半期ごとに四半期申告書を作成し、提出しなければなりません。四半期報告書は課税年度の開始日から各四半期末までの課税所得を累積方式で計算し、累積課税所得に対する税額を算出します。
その算出した税額から前四半期申告書に記載され、納付済の税額との差額を各四半期末日から60日以内に納付しなければなりません。なお、第4四半期には四半期報告書の提出は必要ありません。
[確定申告]
確定申告書は、事業年度末より105日以内に税務署に提出しなければなりません。
その際に、四半期の予納額と確定年税額の差額を精算することになります。予納額よりも確定年税額の方が多い場合、つまり、納付に不足があった場合、その不足額を追加して納付することになります。
なお、確定申告の際に、納付額の方が確定年税額よりも多い場合、つまり納付超過の場合、還付または翌期の税額と相殺とのいずれかを選択することができます。
付加価値税
付加価値税(VAT)とは、フィリピン国内における付加価値を課税対象とする税金であり、以下のような特徴を有しています。
・ 物品、サービスの消費に対して課される間接税である
・ 税金の負担者は最終消費者である
・ 中間業者は税負担しないが、納税義務を負う
・ 毎四半期申告、納付する義務がある(毎月の申告義務は2023年4月より撤廃されました)
日本における消費税のように、フィリピンにおいても物品の販売、役務の提供に当たって、原則として12%の付加価値税が課税されます。
また、各種インセンティブ等でVAT免除の許可を得ている場合を除いて、国外取引におけるフィリピン国内での技術的なサービスの提供やフィリピン国外からの物品の購入の場合には、Final VAT(最終付加価値税)12%が課税されることとなります。
■ 納税義務者
VATの負担者は最終消費者ですが、納付義務を負うのは、年間売上高が3,000,000ペソを超えるVAT課税対象物品の販売あるいはサービスの提供を行う事業者(VAT登録事業者)、ならびに物品の輸入者であり、個人・法人を問わず納税義務が発生します。VAT納税者はVAT登録業者として内国歳入庁に登録が義務付けられています。
また、上記のほか、フィリピン非居住者による国内でのサービス提供は、一度のみのサービスであっても、VATの納税義務者となります。
■ VATの非課税取引
法律上、別段の定めがない限り、すべての物品とサービスが課税物品と課税サービスとなりますが、1997年租税改正法109条において、以下に分類される物品とサービスについて、「非課税」として明記されています。
[非課税物品の例]
・ 未加工の状態で輸入される食用の農産物、海産物
・ 飼育用の家畜、食用飼鳥類
・ 肥料、種、苗木、小魚
・ 食品製造のための、魚、エビ、家畜
・ 食用視聴類用飼料
・ 指定医薬品
・ 15,000ペソ以下の住居用コンドミニアム
[非課税サービス]
・ 年間売上総額が3,000,000ペソ未満の者が提供するサービス
・ 旅客の国内輸送サービス
・ 国際海運、航空サービス
・ テレビ、ラジオ放送サービス
・ 電気、ガス、水道の公共サービス
・ フィリピンを発信国とする国際通信サービス
・ 金融サービス
・ 保険サービス
・ 契約農業栽培者の提供するサービス
・ 米、とうもろこし、砂糖の精製等のサービス
・ 医療サービス
・ 認定校と指定された私立の教育機関及び政府系教育機関の教育 サービス
・ 雇用関係により個人が提供する役務
■ VATの免除
上記、非課税取引とは別に、以下のような物品及びサービスについてはVATが免税(0%対象取引)となります。
[VAT免除取引]
・ 輸出取引
・ 年間生産高の70%以上が輸出売上である輸出業者に対する売上
・ 中央銀行への金の販売
・ 国際運輸サービス
■ 課税標準額
VATは、関連する課税標準額にVATの税率を乗じて計算されることになります。
一般的に、課税標準額は当事者間で合意された取引価額となります。つまり、製品の販売やサービスの提供について、受領する価格を意味します。
■ 納付税額の計算
納付すべきVATについては、アウトプットVAT・インプットVATの差額で算出されます。売り手は、課税商品や課税サービスを販売した際、買い手にVATを請求します。このVATは、売り手の立場からはアウトプットVAT(仮受VAT、売上VAT)となります。毎月受取ったアウトプットVATから、支払ったインプットVATのうち、控除可能なVATを控除した差額を納付することになります。これを「控除方式」と呼びます。
買い手は、課税商品や課税サービスを購入した際、売り手にVATを支払わなければなりません。これは買い手の立場からは、インプットVAT(仮払VAT、仕入VAT)となります。
購入した課税商品や課税サービスが、買い手の事業に関連している範囲の場合、このインプットVATは買い手のアウトプットVATと相殺できます。同様に、売り手もアウトプットVATと課税商品や課税サービを購入したときに支払った、インプットVATとを相殺することができます。
以前の規定では、インプットVATはアウトプットVATの70%を超えて控除することは認められていませんでしたが、現在は、インプッ トVATの全額を控除することができます。
■ 申告・納税
すべての納税者は各月末から20日以内に1か月間のアウトプットVATの累計額と同じ期間のインプットVATの累計額の差額、すなわち超過分を申告・納付します。一方、インプットVATの累計額が、アウトプットVATの累計額を上回った場合、 納付は発生しませんが、申告する義務があります。 更に、四半期ごとに、VATの四半期申告書を提出しなければなりません。各四半期末の翌月25日が申告の期限となります。
また、四半期売上高(VATを除く)が2,500,000ペソを超える事業者は売上サマリーリストを、四半期の仕入高が1,000,000ペソを超える場合には、仕入サマリーリストを、申告書とは別に作成して、各四半期末の翌月25日までに提出しなければなりません。これらの義務を怠る場合には、ペナルティが科されることになるため、注意が必要です。
■ VATの還付申請
インプットVATの累計額が、アウトプットVATの累計額を上回った場合、超過したインプットVATは、翌期以降に発生したアウトプットVATと相殺可能な資産として計上されます。なお、この資産の繰り越し可能な期間の上限は定められておらず、無期限と解釈されます。
一方、BIRに対する還付申請は2年以内と定められています。還付申請をした場合、BIRによる税務調査を受け、適切な手続を行う必要があります。 ただし適切な手続を行ったにも関わらず、BIRが還付に応じないケースが往々にしてあります。
還付申請後、最終的にBIRがVATの還付を拒否した場合においてのみ、インプットVATが売上に対する損金対象となります。
つまり、2年以内に還付申請を行わない場合、損金処理をすることができません。そのため、2年を経過したインプットVATについて、将来それを相殺するためのアウトプットVATの発生が見込まれない場合、損金不算入の損失として処理をする場合があります。
パーセンテージ税
VATの対象にならない旅客業者や娯楽業については、VATの代わりに総収入額に対して業種ごとに定められた税率を乗じて計算したパーセンテージ税が課されます。
■ 納税義務者
パーセンテージ税の納税義務者は、VATの対象とならない法人、個人で、保険会社、旅客業者、運輸業者、金融機関などが対象となります。
■ 税率
業種ごとに規定された税率により税額が計算されます。
■ 申告・納付
四半期申告が求められ、税額が発生した四半期末から翌月25日までに申告納付をしなければなりません。
物品税
■ 物品税の概要
フィリピン国内で生産または製造される物品、または一定の輸入物品については 物品税(Excise Tax)が課税されます。課税のタイミングは、課税対象物品の輸入、販売、消費等の際になります。
この物品税については、前述のVATとは別の税金であるため、両方の課税物品である場合には、それぞれを同時に負担することになります。
■ 納税義務者
物品税の納税義務者は、課税対象物品の輸入業者または製造業者となります。
■ 課税方法
物品税は、従量税(重量、容量などが基準)と従価税(販売価格などを基準)の2通りの課税方法があります。
・ 従量税…各種燃料、ガス、アルコール、石炭、コークスなど
・ 従価税…各種酒類、タバコ、自動車、宝石、香水など
税率については、対象となる物品の種類に応じて、それぞれ異なる税率が定められています。
2018年1月から施行された税制改革第1弾にて、物品税の増税がありました。
・ 石油
各種石油の税率は2020年まで増税が決定しています。
・ 車両
従前は累進課税だったのに対し、税制改革後は60万ペソ以下の価格帯の自動車については4%、60万超100万ペソ以下の価格帯には10%、100万ペソ超400万ペソ以下の価格帯には20%、400万ペソ超の価格帯には50%となります。また、電気自動車、二輪車及びピックアップトラックについては物品税の対象外と認められています。
・ タバコ
政府が国民の健康改善を目的にしてタバコ税の増税が行われるようになりました。登録されたタバコは1パック20本とされており、これまでの推移としては2022年1月から12月31日まで1箱55ペソ、2023年1月1日から12月31日までは1箱60ペソと増加していき、2024年以降は財務長官の発する規則により、毎年5%ずつ上昇していくとされています。
固定資産税
土地や建物、その他の機械や設備といった固定資産に対して、州や自治区などの地方自治体から固定資産税(Real Property Tax)が課税されます。
■ 納税義務書
固定資産税の納税義務者は、日本と同様に、1月1日時点における固定資産の所有者です。一括納付が原則ですが、例外として年4回の均等納付も認められています。
■ 課税標準
固定資産税の課税標準は、固定資産の評価額となります。評価額は市場価格に法定倍率を乗じて算出されますが、固定資産の用途により法定倍率が異なります。たとえば土地の場合は、居住用は20%、農地用は40%、商業、工業用は50%とそれぞれ定められています。
■ 税率
税率は、不動産評価額に対して、州の場合は1%を超えない金額、メトロマニラ内の自治区であれば2%を超えない金額で課税されます。更に、不動産評価額の1%が特別教育財源として徴収されます。
■ 罰則規定
固定資産税についての法律では、罰則規定が定められており、申告を怠った場合や故意に資産隠しを行った場合には、罰金の他、禁固刑が科される恐れがあります。
印紙税
■ フィリピンにおける印紙税
日本と同様に、貸付契約書や証券、保険証書など、一定の文書については、印紙税(Stamp Tax)が課されます。フィリピンの印紙税は、法律文書、貸付契約書、受諾証書、譲渡証書、売上または譲渡に関する債務証書といったものに課税されます。
以下が代表的な印紙税の税率です。
株式発行 | 200ペソあたり2ペソ |
株式移転 | 200ペソあたり1.5ペソ |
賃貸契約書 | 200ペソあたり1.5ペソ |
リース | 2,000ペソまで6ペソ 2,000ペソを超えた分について1,000ペソ毎に2ペソ |
■ 申告手続
印紙税が発生した場合には申告を行う必要があります。BIRフォー ム2000を3部(2部は税務当局用、1部は納税者用)、銀行もしくは税務当局へ提出します。
印紙税の申告書及び添付書類は、以下のいずれかに該当する月の翌月5日までに提出します。
・ 課税文書が公証、認証された月
・ 課税文書が発行、受理、受渡しが行われた月
・ 印紙器のリロード(補充)が必要となった月
また、申告の際は、申告書のほかに、以下の必要書類を添付しなければなりません。
・ 印紙が添付された書類のコピー
・ 計量機器(metering machine)の使用者は、印紙の使用状況がわかる一覧表
・ 特別法に基づく免除が認められる場合には、免除を証明するもの
その他の税目
■ 自治体納税
全ての納税者は居住する市またはバランガイの区役所において、有効なIDを提示し、自治体税/住民税(Community Tax)の納付を行い、自治体納税証明書(CTC/Cedula:Community Tax Certificate)を取得する必要があります。
自治体納税証明書は年末に行う所得税の申告に必要となるほか、有効なIDとして使用できます。会社設立の際にも法人に対して発行され、年次更新する必要があります。 また法人においては、自治体が所定のレートにより査定した Business Taxを支払い、年次更新をする必要があります。
■ キャピタルゲイン税
非上場株式の譲渡益(=売却価格-評価額)に対してキャピタルゲイン税が課せられます。
フィリピン非居住の外国法人については改正が行われておらず、従来通り100,000PHP以下の譲渡益に対して5%、100,000PHPを超えるものに対しては10%となります。
これは一種の所得税になるのですが、日本にいる株主がキャピタルゲインを得た場合、日本でも所得税の対象となり、二重課税となってしまいます。これに対しては、租税条約の対象となりますので、事前に適用申請(TTRA)を行うことを推奨いたします。
また、投資用不動産の売却益に対してキャピタルゲインが課せられます。売却価格又は市場取引価格のいずれか高いほうの価格に6%の税率で課税されます。
なお、キャピタルゲイン税の申告・納税期限は取引日から30日以内となります。
■ 寄付金課税
フィリピンにおいては、寄付者又は贈与者に対して寄付金課税の申告納税義務を負います。
株式譲渡の際に、売却価格が評価額よりも低い場合、当該差額は寄付金とみなされ課税対象となります。旧税法では、親族への寄付・贈与の場合は、寄付金相当額に応じて2%~15%の累進課税で決められていましたが、新法では、250,000ペソを超える寄付金相当額に対して一律6%の税率となりました。
また、親族以外の第三者への寄付・贈与の場合は、一律30%の寄付金課税(贈与税)が行われていましたが、こちらも一律6%とされています。
なお、寄付金課税の申告・納付期限は寄付・贈与の日から30日以内となります。
税務手続の関連事項
フィリピンの税務局に対してコンプライアンスを遵守するためには税務申告を行うだけでなく、下記に一例としてあげる規則を理解して対応する必要があります。
■ 電子申告・納付システム
フィリピンにおいて対象納税者は、電子申告・電子納付システム(eFPS:Electronic Filing and Payment System)による申告納付を行うことが可能です。eFPS登録を行うことにより、税務署(BIR)において申告書類を提出することなく電子申告ができ、銀行で小切手による支払いをすることなく電子納付ができるメリットがあります。
eFPS制度の適用が義務付けられている納税者で納税をしていない 場合は、税務署から徴収通知書が発行され、罰則を科されます。徴収通知に記載された期限内に納税をしなければ、略式法的措置または債権差押えが適用されます。更に、継続的に電子申告を行っていないeFPS納税者は、期限後納税に対して50%の超過税率が適用されるため注意が必要です。
[eFPS対象者の代表例]
以下の納税者はeFPSによる納税が義務付けられています。
・ 高額納税者(Large Taxpayers)
・ 上位2万社の民間企業(Top Twenty Thousand(20,000) Private Corporations)
・ フィリピンの銀行より借入のある会社(Bank Borrowers)
・ 1,000万ペソ以上の資本金を有する会社(Corporations with Paid-Up Capital Stock of P10 Million Pesos)
・ 自動会計システム(CAS)を使用する納税者(Taxpayers with Computerized Accounting System)
・ 優遇を享受する会社(PEZA、BOI等)(Enterprises Enjoying Fiscal Incentive)
・ 上位5,000名の個人納税者(Top Five Thousand(5,000) Individuals)
■ 登録証書(COR)
登録証書(COR:Certificate of Registration)は、BIRにおける事業登録手続において発行される証明書です。申告する税目が変更された場合には、更新手続を行う必要があります。
例えば、パーセンテージ税事業者の年間売上が3,000,000ペソを超えたために、VAT申告が必要になった場合や、従業員を雇用して給与源泉所得を初めて申告する場合、登録の変更が必要となります。 駐在員事務所は、売上が発生しないため、CORから法人税の記載を外し、ゼロ申告を不要にすることも可能です。
[必要書類]
登録証書(COR)をBIRにおいて変更するためには、以下の書類が必要とされます。
・ COR原本
・ 事業許可証(Mayorʼs Business Permit)コピー
・ 支払い印紙税の申告書(Paid Documentary Stamp Tax Form)コピー
・ 同年度の登録更新に使用した申告書(BIR Form 0605)コピー
・ リース契約書(Contract of Lease)コピー
※BIRの登録区(RDO)により必要書類が予告なしに変更になる可能性があります
■ 各種請求書および領収書
フィリピンにおいては、使用する請求書および領収書のBIR登録が義務付けられています。それぞれ用途にあった請求書および領収書を最低1つずつ登録する必要があります。
・ サービス業(飲食業を含む)
請求書 … Billing statement(補助)
領収書 … Official Receipt(補助)
・ 販売業(商品・不動産売買を含む)
請求書 … Sales Invoice
領収書 … Collection Receipt(補助)
2024年の税制改正で上記より法的に認められる書類はInvoiceのみに変更されています。そのため、サービス業および販売業の隔たりなく企業はInvoiceの発行が義務付けられています。
補助請求書及び領収書(Supplementary Invoices and Receipts)としては、Acknowledgement Receipt、Delivery Receipt等があり、用途に応じて使い分けます。ただしこれらは、あくまで補助を目的としており、BIRからインプットVATおよび控除対象源泉税を受けるための有効な証憑として認められていません。
源泉徴収制度
■ 拡大源泉徴収制度の概要
拡大源泉徴収税(Expanded Withholding Tax)は、享受者が提供 者に対して支払う対価から、あらかじめ税務署に納付する税金分を差引いて徴収されます。源泉徴収の対象は幅広く設定されているため、買主は源泉徴収の漏れがないように注意しなければなりません。
また、2024年の税制改正で源泉税の発生タイミングが変更されました。源泉税は請求書(invoice)が発行された時、つまり代金の支払い義務(Payable)が発生した際、または支払い義務が(Accrual)が発生した際に認識されます。つまり、実現主義ではなく発生主義で今後は源泉することになり、万が一、実際の支払い(Cash)が先に発生していてもINVOICEの発行がなければ当該取引はまだ源泉税の計上をする必要はありません。
■ 居住者に係る源泉徴収の対象となる所得と税率
法人が利息や配当金などを受取った場合、その受取額から源泉所得税が差引かれることになります。この場合に、受取額が所得とされてしまうと、 確定申告時に再度課税されることになり、結果として、二重課税となってしまいます。
そこで、利益、利息や配当金などを受取った際に徴収された税を法人税の前払であると考え、確定申告時に納付すべき法人税額から控除することができます。このように、法人税額から控除できる源泉税を控除対象源泉税(CWT:Creditable Withholding Tax)といいます。
CWTは、取引ごとの所得額に一定率を乗じて計算します。商品やサービスを購入した側が支払対価から控除し、税務署へ納付します。
■ 居住者に係る源泉徴収の納税義務者
納税義務者はBIRに源泉所得税に関する申告フォームNo.1601(月 次支払報告書)と No.1604(年次報告書)を提出する必要があります。 源泉徴収の 納税義務者は以下の通りです。
・ 個人事業者
・ 法人(企業、組織、パー トナーシップ)
・ 公共機関(政府機関、国営企業、地方自治体など)
■ 非居住者に係る源泉徴収税
源泉徴収の対象となる所得は、利子、 配当、使用料、ロイヤルティなどであり、通達や租税条約により税率が異なります。非居住者である外国法人に係る源泉所得税は以下の表の通りです。
※1 日比租税条約10条の規定により、日系企業のフィリピン子会社が日本親会社に
配当する場合の税率は、以下のいずれかの場合に10%となる
① 配当を受ける日本企業が配当日の6カ月前までに、配当を支払うフィリピン法
人の議決権株式または発行済株式総数の10%以上を直接保有している場合
②フィリピン国内法人が投資奨励法令により 投資委員会(BOI)に登録され、投資優先産業のパイオニア部門に従事している場合
※2 日本とフィリピンの間でのみなし外国税額控除については、平成31年1月1日以後に開始する各課税年度において、日本の居住者が取得する所得については、適用されません
出所:源泉税申告書BIR Form No.1601E
■ 源泉徴収税の申告・納付手続
フィリピンにおいては、eBIRシステムにより申告を行うことができます。システムにより適切に申告書が提出される(eSubmission)と、BIRからの確認メールが届きます。このメールを印刷し、サイン済み申告書、小切手を、下記に示す銀行に持ち込み、納付を行います。
その他の方法として電子納税制度(eFPS:electronic Filing and Payment System)も認められており、BIRが指定する条件に合致をすれば、eFPSを利用するための申請ができます。申請においてeFPSに対応した納付用の銀行口座を開設し、登録が完了すれば、申告から支払いまでインターネットを介して行うことができます。
一方で、どの銀行からでも納付が可能というわけではなく、公認外為銀行(AAB:Authorized Agent Bank)という内国歳入庁(BIR) から承認を受けた銀行からの送金しか受け付けられないため注意が必要です。
通常、外資の銀行はこれに該当しないため、設立時点から現地銀行の口座を作ることになりますが、税金の支払を目的とすることが多く、資本金を受ける目的、毎日の経費の支払い目的にも使用します。
入金を終えたら、領収書(Slip)ならびに、申告書類へAABから 「Received」(受領)印が押されるので、そのどちらも確実に保管し なければなりません。通常、これらの書類の保管期間は10年です。
また、フィリピン国内に支店を有する会社は、内国歳入庁から指定されない限り、一括ですべての支店の源泉徴収税を支払うこともでき、また支店と本店でそれぞれに分けて支払うことも認められています。
■ 源泉徴収税の申告・納付期限
毎月末日から10日以内に、源泉徴収税の申告書提出及び納税を行います。ただし、12月分については翌年1月15日までとなっています。通常、eFPSを利用する場合、2~4日ほど手書きで申請するよりも期日が延長されます。この延長される期日は、業種によって異なるめ、事前確認が必要です(グループA~Eという細かな区分があります)。
■ 源泉徴収に係る罰則規定
源泉徴収の手続等に関して、金額の誤りや遅延が生じた場合は以下の3種類のペナルティが科されます。
1. 追徴税(Surcharge)
未申告税額の25%が追徴税として課されます。
支払期日以前に納入した金額や情報に誤りがあった場合、支払主体に権限が与えられていなかった場合に適用されます。
ただし、故意に期日を過ぎた場合や誤った金額を記載した場合、50%の追徴課税が課されます。
2. 利息(Interest)
未申告税額に対して年利20%で、遅延した日数分の日割りレートが適用されます。
3. 和解費用(Compromise)
未申告税額により、所定の金額が設定されています。
上記1~3の罰則のほか、10,000ペソの罰金及び1~10年未満の禁固刑に処せられる可能性があります。
■ 給与源泉徴収税
給与源泉徴収税(Withholding Tax on Compensation)は、雇用主が、毎月の給与の支払時に個人所得税額を源泉徴収して、翌月10 日までにフォーム1601Cを用いて申告納付を行います。ただし、電子申告(E-filing)を行っている会社はこの期限が5日間延長されます。また、年度末である12月分については、翌月の15日が納付期限となります。
また、雇用主は、課税年度終了後の1月31日までに、源泉徴収票を従業員に対して交付するとともに、源泉徴収の総括表(フォーム 1604CFおよびAlphalist)を税務署に提出しなければなりません。 さらにその後、雇用主は従業員に対して給与による個人所得税の申告書(フォーム2316)を発行し、1月31日までに、税務署に提出しなければなりません。
従業員に対する給与の源泉徴収は、個人所得税(P.326参照)の累進課税と非課税枠を元に算出されますが、基本給が労働局(DOLE) の定める最低賃金以下である場合、毎月の源泉徴収の義務は発生しません。
国際税務の個別規定
租税条約
租税条約とは、二重課税の排除と脱税の防止の大きく2点を目的として、国家間で締結される成文による国家間の合意(条約)です。この条約については、国家間での約束事であるため、その適用に当たっては、それぞれの国が定めている国内法に優先して適用されることと なります。つまり、国内法において「課税」とされていても、租税条約において「非課税」とされている場合には、「非課税」として取扱うことができます。
しかし、 租税条約を適用することにより、国内法より不利になってしまう場合には、国内法の規定を優先適用することが可能であり、これを、「プリザベーション・クローズ(Preservation Clause)」といいます。
また、 租税条約以外の各種の条約にも、相手国の居住者などの日本 における特定の税目上の扱いを別に定める場合があります。
フィリピンは、日本を含め約30カ国以上と租税条約を締結しています。それぞれの国との間で締結されている租税条約は、日本も含め「OECDモデル条約」をベースにして締結されています。
注意すべき点としては、日本とフィリピンとの取引であれば、日本とフィリピン間の租税条約を確認すれば足りますが、今後、日本企業のグローバル化に伴い、日本の親会社との直接取引だけでなく、日本以外の海外子会社とフィリピンの子会社との間で取引が行われることも想定されます。
日本以外の国との取引であれば、まずフィリピンと取引当事国との間で租 税条約が締結されているかを確認し、その上で締結されている租税条約の内容を検討する必要があります。
■ 日比租税条約の適用税率
フィリピンの子会社から日本法人への利子、配当、ロイヤルティにおいてはそれぞれ、日比租税条約が規定する税率が異なります。租税条約適用前後の源泉徴収税率は以下の通りです。
※1 配当の受益者が、当該配当の支払の日に先立つ6カ月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式または発行済株式の少なくとも10%を直接に所有する法人である場合には、当該配当の額の10%。その他のすべての場合には、当該配当の額の 15%(日比租税条約10条2項a.b.)
※2 使用料が、映画フィルムの使用または使用の権利およびラジオ放送用またはテレビジョン放送用のフィルムまたはテープの使用または使用の権利に対して支払われるものである場合には、当該使用料の額の15%。その他のすべての場合には、当該使用料の額の10%(同条約12条2項a.b.)
※3 日本の居住者が、自己の活動を行うため通常使用することができる固定的施設をフィリピン国内に有せず、かつ、その者が当該年を通じ合計120日を超える期間フィリピン国内に滞在しない場合に限る(同条約14条1項)
■ 日比租税条約の適用申請(TTRA)
日比租税条約により、軽減税率の適用を受けるには適用申請(TTRA:Tax Treaty Relief Application)を行う必要があります。TTRAの申請方法と申請フォーマットは課税所得の種類によって異なっています。
特に配当、利子、ロイヤルティの3項目については、2017年3月28日にBIRが発表した通達(RMO 8-2017)により、申請が簡略化されました。
[配当、利子、ロイヤルティのTTRA申請]
配当、利子、ロイヤルティに係る源泉税についてTTRAを利用する場合、CORTT(Certificate of Residence for Tax Treaty Relief)フォームを記入して、原本をBIRのITAD(International Tax Affairs Division:国際税務部)およびRDO39(非居住者の管轄税務署)に提出する必要があります。
[上記以外のTTRA申請手続]
ガイドラインによる上記以外のTTRA申請の主な必要書類は以下の通りです。
1. 居住証明書(Proof of Residency)
日本法人の居住性について、管轄税務署で発行後、日本側で公証を 取得、外務省および在日フィリピン大使館において認証を受ける。
2. 会社定款(Articles of Incorporation)
日本法人の定款コピー、その英語訳について日本側で公証を取得、外務省および在日フィリピン大使館において認証を受ける。
3. 特別委任状(Special Power of Attorney)
日本側で公証を取得、外務省および在日フィリピン大使館において認証を受ける。
4. 比国事業証明書(Certificate of Business Presence in the Philippines)
フィリピンにおいて取得する。
5. 係争中の訴訟がない証明(Certificate of No Pending Case)
フィリピンにおいてフォーマットを入手、作成する。
6. 契約書原本(Original Copy of Agreement)
対象となる英文で記載された契約書
※BIRにより必要書類が予告なしに変更になる可能性があります
上記の必要提出書類に加え、課税所得の種目毎に提出書類が定められています。(RMO No. 72-2010)
TTRA手続に関するガイドライン(RMO 72-2010 Sec.14)によると、申請は課税取引の支払い前に行うものとされています。また、 配当、利子、ロイヤリティに対するTTRA同様に、契約内容に変更があった場合、再度適用申請が必要になるため留意する必要があります。
全ての必要書類を準備し、BIRのITADに提出しスタンプ付きの受領証明書を受領した後、実務上は租税条約の軽減税率が適用されるようになります。TTRA申請の公式な承認証明書は、全ての書類の提出後、60営業日後に発行すると法律で規定されています(RMO 72-2010 Sec.15 i)。しかし、実務上は60営業日後に承認書が発行されない場合が往々にしてあります。
上述の通り、日比租税条約の適用を受けるためには取引前にTTRA申請を行うことが必須であり、申請が遅れてしまった場合、BIR は低減税率を不当とみなす可能性があります。しかし、ドイツ銀行のTTRA申請に関する税務裁判の最高裁判決(Deutsche Bank AG Manila Branch v. Commissioner of Internal Revenue, GR 188550, August 19, 2013)において、TTRA申請が遅れた場合の取扱いについて、最高裁は2014年にBIRに対して「申請の手続が遅れたことにより、二国間の租税条約が無効となることは無い」とし、ドイツ銀行に対して還付をする判決を下しました。ただし最高裁は、所定の手続を踏まないことに対する罰則の適用については可能性を示唆しているため、依然TTRAの適切な申請が必要であることに変わりはありません。
PE認定課税
通常、海外に恒久的施設(PE)を設けて事業活動を行う場合には、現地国において納税義務が発生することとなります。言い換えれば、現地国にPEが存在しなければ、現地国における納税義務が発生しないというのが原則です。このPEの範囲については、各国の国内法及び租税条約等でおおまかな例示がされています。
しかし、法的にPEを有していない場合であっても、実態として現地国において所得が発生しているとみなされる場合には、現地国側で非居住者に対しても課税権が発生することになります。
PE認定課税のリスクは、そもそも駐在員事務所においては所得認識がない状況下で税務申告を行っているため、課税された場合には必ず二重課税の問題が生じるという点です。
このPEの範囲については具体的、かつ明確に定められてはおらず、各国税務当局の判断に基づきます。そのため、現地国側でPEとして認定され課税がされたにもかかわらず、日本側においてはPEとして認定されず、二重課税の調整ができないという最悪のケースも想定されるため注意が必要です。
■ PE認定課税の例
[ケース1]
日本とフィリピンとの間の業務契約で、日本からフィリピンへ人員を派遣し業務を行う場合に、その期間が一定期間を超える場合、税務当局よりPEが存在するという形で認定され課税が行われる場合
[ケース2]
駐在員事務所を設けている場合で、本来は禁止されている営業活動を行っているものとみなされ、これをPE(親会社の支店)として認定され、発生したとみなされた利益に対して課税が行われる場合
[ケース3]
日本企業がフィリピンに子会社等の関係会社を有していて、その関係会社の業務が、実質的に日本企業が行うべき行為(親会社名での契約代理行為など)である場合に、子会社を独立した事業体ではなく日本親会社の一部(つまり支店を有しているもの)として現地において課税が行われる場合
PEの詳細な定義については、それぞれの国内法のみならず、日本とフィリピンの間で締結されている租税条約の5条において定められており、事業管理用の事務所、支店、事務所などのほか、以下のようなものもPEとして規定されています。
・ 工場、作業場
・ 農場または栽培場、鉱山、石油または天然ガスの坑井、採石場など
・ 建築工事現場または建築もしくは据付工事で、6カ月を超える場合
ただし、これらの拠点等が経済協力または技術協力に関する両締結国の政府間の合意に基づいて提供される場合には、PEには該当しません。
外国税額控除
国際間での取引については、取引当事国のそれぞれの国が独自の考えに基づいて租税法を制定しており、その租税法に基づいて税金の賦課・徴収が行われることになります。
それぞれの国において、課税所得の範囲などが異なるため、場合によっては1つの取引につき、2つの国で二重に税金が課税されるようなケースが生じます。 このような二重課税を排除するため、各国の租税法において「外国税額控除」の規定が定められています。
外国税額控除の対象になる税金は、「所得に対する税金」となるの で、たとえば、国内法人の支店等が納付した外国法人税や、取引先との間のロイヤルティや受取利息、 配当等の支払時に源泉徴収される外国源泉所得税などがこれに該当し、付加価値税などの所得を課税対象としない税金については対象外となります。
■ みなし外国税額控除
外国税額控除については、外国において所得に対して課された税金について控除対象となりますが、国によっては優遇税制などで所得に対する課税が減免または免除されるケースがあります。
通常であれば、外国で税額が発生しない場合には 外国税額控除の適 用はなく、日本側において法人税が課税されるため、現地国において減免または免除された税額分についての減免効果がまったくないことになってしまいます。
このような場合に、フィリピンにおいて減免または免除された税額について、日本側において当該税額をフィリピンにおいて支払ったものとみなして、 外国税額控除を適用することができます。これを、「みなし外国税額控除」と呼びます。
日比租税条約の23条において、みなし外国税額控除の規定が定められています。内容としては、配当については20%、利子、使用料については15%の税率で、それぞれ所得税が徴収され、税額を納付されたものとみなして、居住地国において外国税額控除を適用することができる、というものです。
みなし外国税額控除の適用を受ける場合には、その事業年度の確定申告書に、計算明細と適用を受ける旨の書面を併せて提出する必要があります。
移転価格税制
■ 移転価格税制とは
移転価格税制とは、関連会社間での取引における取引価格を通じて、その利益を国外に移転することを防止するために定められている税制です。
■ 利益の移転とは
法人が、関連会社から受け取る取引対価が独立企業間価格未満である場合、またはその法人が関連会社へ支払う対価が独立起業間価格を超える場合に、『所得が移転した』とみなされます。
移転価格税制は、このような利益の移転を防止するために、その取引の移転価格を通常の取引価格(独立企業間価格)に計算し直すことで、適正な国際課税を図ることを目的とするものです。
なお、実務上は納税者に租税回避の意図があったかどうかは問われず、国税当局の判断に基づき更正処分等が行われることになるため、移転価格の指摘に対する事前準備や、リスク防止策をあらかじめ検討、実施しておくことが非常に重要になってきます。
特に、以下のような事項に該当する企業については、他に比べて移転価格調査を受ける可能性が高く、更正リスクも高いため注意が必要です。
・ 毎期損失を計上しており、または同業他社に比べて粗利が低い水準の企業
―損失計上の要因は、関係会社間取引での利益水準が低い、との指摘を受けるリスク
・ 取引内容自体に大きな内容の変化がないにもかかわらず、売上総利益率の変動が著しい
―関係会社間での取引価格調整により、利益操作をしているのではないか、という指摘を受けるリスク
・ 無形資産の提供に対する対価(ロイヤルティ料率)の根拠が明確ではない
―無形資産取引については、その取引の性質上から、売買取引と異なり税務当局より指摘を受けやすいリスク
・ 法人所得税率の低い国にある関係会社との取引を行なっている
―利益確保の観点から、企業側が軽課税国へ利益移転を行っていると推測され、税務調査を受けやすくなるリスク
・ 移転価格方針(ポリシー)を構築していない
―世界各国に展開しているような企業の場合に、グループ間でのベースとなるルール設定をしていない場合、税務当局側の判断で更正を受けるリスク
フィリピンでは、 内国歳入法50条において、内国歳入庁長官 (CIR:Commissioner of internal Revenue)に、関連者間取引における所得をそれぞれの関連者が有する機能に応じて適切に反映させる権限と、関連者間取引における収益・費用をそれぞれの関連者に配分する権限が与えられています。
その他、フィリピンにおいては、日本との租税条約において移転価格に係る規定が設けられているため、国際間取引の際には第三者間取引価格による必要があります。
■ 租税条約における移転価格課税
移転価格税制に関する規定は、財務省令において詳細が定められていますが、日比租税条約の9条において、特殊関連企業に対する課税として途規定がされています。
内容としては、一方の締約国の企業または同一の者が、他の締約国の企業経営、支配または資本に直接もしくは間接に参加している場合に、その取引条件が独立企業との間での取引条件と異なるときは、その条件がないものとした場合に一方の締約国の企業等が本来得られたであろう利益について、一方の締約国で課税をする、というもので、要約すると「関連会社間で取引を行う場合には、第三者取引条件によらなければならない」ということが記載されています。
■ 移転価格税制の取り締まり強化
2020年7月8日付で、国内歳入庁(BIR)による歳入規則2020年第19号が発令されました。
これは、移転価格税制の取り締まり強化を目的として、全企業・関係者間取引の情報をン時確定申告時に提出しなければいけないという内容となっており、本規則を通じ、移転価格の指摘リスクが高まることとなりました。
これまでのフィリピンでは、移転価格税制に関する企業側の対応については、具体的な手続きが発表されていませんでした。
従前のガイドラインでは、『移転価格は、税務調査の対象となるため、いざ税務調査が入った時のため、移転価格文書が用意されているべき』という曖昧さの残る内容でした。
しかし今回、具体的な対応方法として、【Form1709】という新たな申告フォームの年次提出及び移転価格文書の添付が求められることとなります。
これにより、BIRとしては移転価格に関する税務調査がしやすくなるということになる一方で、企業にとっては関連当事者間における価格の妥当性の確認または見直しを行うことになる可能性があります。
■ 新たな義務としてしなければいけないこと
新たなガイドラインを踏まえ、企業が対応しなければいけない点としては以下の通りとなります。
1.国内外関連者間取引の情報開示申告書『Form1709』を年次確定申告書への添付書類として提出すること。
年次確定申告は決算日より105日以内が期限となっています。申告書への添付書類は、期限から15日以内に提出の必要があります。つまり、決算日から120日以内にForm1709をBIRへ提出しなければいけません。
2.移転価格文書(Any Transfer Pricing Document)を含めた、関連者間取引に関する書類をForm1709へ添付して提出すること。(期限はFrom1709と同様)
本規則で定められた規定(申告義務)に違反した場合、内国歳入法税法250条に従い、違反ごとに1,000PHP、暦年中に最大25,000PHPが課されます。
※万が一移転価格について税務調査が入り、そこで指摘された場合の納付額とは別です。
■ Form1709へ記載する内容
関連当事者との以下の取引はすべて、本申告を通じて申告することとなります。
Part1.申告法人の基本情報
Part2.国外関連当事者間取引 / 国内関連当事者間取引のそれぞれにおける、
・ 取引内容
・ 関連当事者の名前(社名)
・ 住所
・ 税務番号
・ 取引額
・ 源泉税額
・ 租税条約適用の有無
Part.3 (関連当事者の)カテゴリーごとの詳細
親会社 / 合弁または共同支配力のある会社 / 子会社 / 関連企業 (グループ間内) / 合弁企業 / 経営幹部又はその親会社 / その他関連企業のそれぞれにおける、
・ 取引内容
・ 取引額
・ 未決済取引残高
・ 契約条件(Terms and conditions)
・ 未決済残高に対する貸倒引当金額
・ 期中に認識した不良債権に関する費用
《Form1709の構成》
関連当事者に関する情報
A) 親会社の事業内容
B) 報告企業の事業内容
C) 報告企業の基本情報に大きな変更はあったか
D) 報告企業の(株式)保有構成に変更はあったか
E) 報告企業は直近5年間に、事業の再構成を経験したか
F) 申請中の租税条約適用申請があれば
G) 関連当事者との事前確認制度(APA)適用実績はあるか
報告企業:Form 1709を申告している企業
From1709の対象(7月30日RMC76-2020):関連当事者間取引のある企業すべて(Q3)。
駐在員事務所も提出義務あり(Q28)
■ 関連当事者(Related Party)とは
関連当事者とは以下の通り定義されています。
・ グループ間企業である(資本関係がある)
または
・ 報告企業に大きな影響を及ぼす人か
※個人・法人を問わない。
※国内・国外を問わない。申告の際、相手国の税率を問わない。
※株式比率の明確な基準はない。
例えば他の株主に比べ株式保有率が高いと、関連当事者としてみなされる可能性は高まります。
また、上記の個人と、以下のような親族である場合も、関連当事者とみられる可能性があります。
・ 個人の子供、配偶者、内縁関係にある者
・ 個人の配偶者または内縁関係にある者の子供
・ 個人の扶養家族又は配偶者、内縁関係にある者の扶養家族
このように、国内・国外にある会社なのかを問わず、上記の定義に当てはまれば関連当事者となります。
また、具体的に、株式の何パーセント以上であれば関連会社であるなどと定義されているわけでもありません。
実体として、報告企業に対し大きな影響力を持っていれば、関連当事者と定義される可能性があります。また、他の株主に比べ株式を所有している割合が高ければ、そう定義される可能性は高まります。
■ 申告すべき内容
Form1709では、上記取引に対し以下の詳細を申告する必要があります。
・ 取引金額
・ 未決済残高及びその契約条件(Terms and conditions)
・ 未決済残高に対する貸倒引当金額
・ 期中に認識した不良債権に関する費用
■ 書類
本規則上、Form1709へ添付しなければならない書類は以下の通りとなっています。
・ 源泉税申告書及び、その源泉税を BIR へ納付した証拠
・ 外国の税金を納付した証拠、または関連当事者が居住する国の、その国の税務局から発行された規則が記載された書類
・ もしあれば、Advance Pricing Agreement※1 ※2 のコピー
・ 移転価格文書(Any Transfer Pricing Document)
※1 これらの書類は Certified true copy である必要があるとされています。通常は、当事者がコピーに対し、正確なコピーである旨を証明する署名を行います。日本での公証(アポスティーユ認証)が求められる可能性は2020年7月時点では明記されていません。
※2 Advance Pricing Agreement(APA ・事前確認制度)とは、取引額が移転価格税制上問題ないか、事前に税務局に確認できる制度のことです。しかし現状、フィリピンでの APA の具体的な申請方法等のガイドラインは発表されていません。
■ 移転価格文書作成の義務化
移転価格税制の対象となる取引を行う場合には、国外関連者間との契約書や、価格表の作成等の文章を作成しておくことが非常に重要です。また、移転価格の実務上においては、税務調査の際に移転価格ドキュメントの提出が要求されます。
企業側で移転価格の調査に対応するため、移転価格の算定方法を開示するだけではなく、過年度を含めた移転価格の分析、第三者からみて合理的な価格・取引であると判断できるだけの文章を作成し、移転価格リスクを可能な限り軽減する努力が必要となります。
日本においては、文書化義務は2010年度の税制改正により明確にされ、フィリピンにおいては、2020年7月8日付で移転価格文書をForm1709へ添付する義務が明記されることとなりました。
本ガイドラインの対象となる企業は、2020年3月決算の企業からとなりますが、通常2~3ヶ月ほどかかるといわれている移転価格文書を、同年7月30日までに提出というのは多くの企業にとっても現実的ではなく、そのような状況から鑑みても、期末を迎えてから準備をするのではなく、期中から準備することを推奨しています。
毎年、それぞれの課税年度分の移転価格文書を作成し、添付する必要があるため、新たな取引や取引額を変更した場合には、その都度取引価格の妥当性を文書化しなければなりません。
特に今回、申告額の大きい企業においては、BIRから税務調査の対象として注目される可能性が高いため、万が一税務調査に入られた場合でもすぐに対応できるよう、移転価格文書の用意しておく必要があります。
■ フィリピンにおける移転価格文書
フィリピンにおけるガイドラインでは、いわゆる『ローカルファイル』等の固有名詞はありません。記載する内容として、「以下のものを含めなさい」とのガイドラインがあるのみです。
1. 組織構成 Organizational structure
2. 事業・業界・市場概要 Nature of the business/industry and market conditions
3. 管理下にある取引 Controlled transactions
4. 推定・戦略・方針 Assumptions, strategies, policies
5. 費用分担契約 Cost Contribution Arrangements (CCA)
6. 比較可能性 Comparability, functional and risk analysis
7. 算定方法の選定 Selection of the transfer pricing method
8. 算定方法の適用 Application of the transfer pricing method
9. 背景文書 Background documents
10. 書類の見出し Index to documents
《どのように文書をつくるのか》
移転価格文書作りのポイント:「取引価格の妥当性」の証明となっているため、妥当性の証明にふさわしいメソッドを理解し、それを利用して書いていく必要があります。(○ 独立企業間価格の算定方法・添付資料等の選定 × テンプレートを埋める)
本来であれば、自社が決めた取引価格の妥当性を証明するもののため、自社内で作成できるのが理想です。しかし、文書内に含めなければいけない内容は・分析の方法等は国際税務のノウハウを持った会計事務所などが情報をもっていることが多いので、専門家と共に文書を作り上げていく必要があります。
特に、本ガイドラインにより移転価格文書の添付の義務化が始まったばかり。といったような場合は、会計士・税理士であっても、移転価格税制対策には不慣れである場合もあり、誤った処理をしてしまうという事態も散見されます。
仮に、取引の中に価格の妥当性が証明できないものがあったとしても、木に発生してしまっている取引のため、無理やり妥当性を繕って移転価格文書を作成してしまう場合もあります。
このような場合、どれだけ分厚い移転価格文書を作成しても、妥当性は証明できないということになってしまうため、リスクが拭いきれないということになってしまいます。
専門家の分析をよく共有し、必要であれば取引価格の見直しの検討を、可能であれば期中で行うことが望ましいです。
■ 事前確認制度
事前確認制度(APA:Advance Pricing Agreement)とは、国外 関連者との取引に係る移転価格やその算定方法の妥当性を、税務当局 から事前に確認を受けるものです。事前確認は、企業にとって高コストになるリスクがある移転価格課税を未然に防ぐ効果があります。日本においては既にAPAは導入されていますが、フィリピンにおいては、APAはまだ導入されていないため、基本的にはOECDガイ ドラインに従って処理を行うことが求められます。なお、内国歳入庁の移転価格税制規則案において、APAは導入される予定とされています。
■ 相互協議
日本とフィリピンの関連会社間とのビジネス取引において、一方の国で 移転価格税制が適用され、独立企業間価格と実際の取引価格との差額分について課税が行われることになった場合、国際的な二重課税が生じることとなります。このような二重課税を排除する目的で、租税条約の相互協議事項に従い、条約締結国の税務当局間で解決を図る ための協議のことを「相互協議」といいます。
「相互協議」の特徴は、取引当事国の権限のある税務当局間の直接協議であることであり、これは非公開協議であるため、納税者は協議に必要な資料を提供するに留まり、直接協議に参加することができません。また、相互協議は税務当局間同士の「合意努力義務」であり、必ずしも合意する義務はないことに留意する必要があります。
フィリピンと日本の間においては、租税条約においてこの相互協議の規定が定められています。また、フィリピンと日本以外の国との取引の場合は、当該その他の国とフィリピンとの間での租税条約の有無、内容を検討する必要があります。
投資還流方法についての検証
フィリピンへ進出し、現地国の活動を通じて利益が発生した場合、 この利益を留保して再投資するのか、親会社に還流するかといった問題が発生してきます。
現地において再投資をする場合には、税務上の問題は特段生じませんが、日本にある本店または親会社へ利益を送金する場合には、それぞれ以下のような取扱いとなります。
■ 支店から本店への還流
日本企業がフィリピンに支店を設置し、そこで発生した利益を送金する場合には、「利益送金税」が送金額に対して15%課税されます。 この場合の課税対象となる支店利益については、源泉課税の対象となる利子、 配当などは除かれ、支店の総所得を構成する部分となります。受取側の本店では、支店からの送金額については単純な資金送金として取扱われるため、課税の対象とはなりません。
送金の際にフィリピンで支払った利益送金税については、日本で所得合算して申告をする際に外国税額控除の対象となります。
■ 子会社から親会社への還流
フィリピン子会社で生じた利益を日本親会社へ還流する場合、その方法としては以下の2通りが考えられます。
① 配当により親会社へ還流する方法
② 親会社との取引を通じて還流する方法
①の配当により還流を行う場合、フィリピン子会社からの配当金支払時に通常は30%の源泉税が課税されますが、日比租税条約により、10%または15%で課税されます。つまり、支払総額から当該源泉税額が控除された残額が親会社へ支払われることになります。
配当に対する課税(日比租税条約10条)
日比租税条約の10条2(a)において、配当支払前の6カ月に、議決権付株式の25%以上を保有している法人または発行済株式の25%以上を保有している法人に配当を支払うのであれば、その税率は10%とし、同条2(b)その他の場合(すなわち10%未満の保有の法人)は15%とすることとなっています。
ただし、同条4において、それらの配当が、 恒久的施設を通じて(すなわち駐在員事務所を保有している企業に対しての配当の場合) 実質的に事業を行ったとされる場合には適用されないとしています。
日本の親会社側においては、この配当金については、法人税額の計算上、「外国子会社等の受取配当金の益金不算入※」の規定により益金不算入となります。つまり、フィリピンにおいて配当に対する5%の源泉税を納め、日本側で配当収入に課税しないことで(益金不算入)、二重課税を排除する形になっています。
※日本の法人が、フィリピンに所在する関係会社の株式を、 配当等の支払義務が確定する日前6カ月以上引き続いて直接に保有している場合に、受取った配当額の95%が益金不算入となる規定
配当以外で利益還流を行う場合、使用料、ロイヤルティ等の取引を通じて親会社に利益を還流する方法が考えられます。これらの取引についても、フィリピン側から日本側への支払の際に、源泉徴収の対象となります。
使用料(ロイヤルティ等)に対する課税(日比租税条約12条)
「使用料」の定義は、12条3項に、文学上、美術上もしくは学術上の著作物、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式、もしくは秘密工程の使用などの権利の対価とされており、税率は10%を上限としています。
ただし、同条7項において、それらの使用料が、 恒久的施設を通じて(すなわち駐在員事務所を保有している企業に対しての使用料の場合)、実質的に使用に対する供与が行われたとされる場合には適用されないとされています。
また、これらの取引については国際間での関係会社間取引に該当し、移転価格税制の対象となります。特に、使用料、ロイヤルティについては「無形資産取引」として、料率等の対価設定が通常の売買取引と比較して難しく、税務当局から指摘されやすい取引となっているため注意が必要です。
国際税務の留意点
ここまで個別に記載した以外の税務規定について、進出形態にかかわらず、国際間で人・モノ・カネが動く場合には、以下のような点に注意する必要があります。
■ 駐在者にかかわる給与課税問題
フィリピン国内でビジネスを行う場合、ほとんどのケースがまず日本から駐在者が出向き、その上で現地ビジネスを拡大していくという形になります。このように、人員が国際間を行き来する場合に、日本からフィリピンに駐在する者については、以下のような点に注意する必要があります。
[フィリピンでの年間滞在日数]
フィリピン国内において年間180日以上滞在する場合には、フィリピンにおいて「居住者」として取扱われることになります。
ただし、日本とフィリピンの間の租税条約において、短期間の出張等について、そのつど課税を行うのは経済合理性がないという理由から、特別に「短期滞在者免税」の規定が定められています(詳細は P.326参照)。
また、一方で、日本では1年以上の出国でない限り、その者は日本における居住者として税務上取扱われることになります。その場合には、日本・フィリピンの両国において「居住者」としての課税(全世界所得課税)が行われ、結果として二重課税などの税務問題が発生することになります。
[日本とフィリピン間の給与負担問題]
日本からフィリピンへ出向する場合、給与の支払をどのように行うかも事前に決定すべき事項になります。フィリピンへ出向等の形で駐在する場合、フィリピンと日本での給与格差等の理由から、全額をフィリピンで負担することが難しいケースが多くあります。
通常、出向については出向先が出向者の費用を負担するのが一般的ですが、特に給与格差など、ビジネス上の合理的な理由がある場合に限り、出向元(日本)での給与負担が認められています。
ただし、この金額もあくまで「現地で同水準の人材採用を行った場合の相当額」とされ、過大な給与負担を日本側で行った場合には、日本の税務上、子会社に対する寄附金として取扱われます(海外子会社に対する寄附金は、全額が損金不算入となります)。
また、給与以外の現地での出向期間の滞在費用等については、現地側で負担すべき費用となりますので、仮に日本側で負担した場合には、子会社が負担すべき費用を負担したということで、これも上記と 同様に「寄附金」として取扱われます。
■ 関係会社間取引のケーススタディ
[日本親会社からフィリピン子会社への資金貸付に係る利息収入]
日本にある親会社からフィリピン子会社への貸付を行い、その利子を支払う場合、まず気を付けなければいけないのが、貸付利率が適正に設定されているか、という点です。
これは、前述の「移転価格税制」により、親子会社間取引について、外部の第三者と同じ取引をした場合と同様の対価設定が必要になるため、本ケースにおいては、日本親会社側では「利率が低い」と指摘されるリスクがあり、フィリピン子会社側では「利率が高い」と指摘を受ける可能性があります。
このような場合に、特にアジア各国間においては市場金利が一定しておらず、一体どちらの国の貸出利率を基準にすれば良いのか? という問題が発生しますが、一般的に、貸出側(資金の提供元)の国における適正貸出利率をベースに移転価格を検証していく形になります。
また、直接親会社からの貸付ではなく、フィリピン子会社が外部の金融機関等から借入を行う際に、日本の親会社側が債務保証などを行うケースがあります。
この債務保証についても、役務提供に類似した行為として、 移転価格税制の対象取引となるため、まず親子会社間で債務保証に対しての保証率を設定し、適切に対価の収受を行う必要があります。
その他、フィリピンからの貸付利息の支払の際に20%の源泉徴収を行う必要がありますが、日比租税条約により、10%の限度税率が適用されるため、実際には10%の源泉徴収を行った上で、親会社へ利息を支払うことになります。
そのうえで、前述の「みなし外国税額控除」を日本の親会社の確定申告において適用することにより、実際にフィリピンで源泉徴収された10%ではなく、15%が源泉徴収されたものとみなして、税率の差分の5%部分についても、日本において外国税額控除を適用することができます。
利息に対する課税(日比租税条約11条)
利子所得においても、 配当と同様に税率が定められており、11条2項において10%を上限としています。 ただし、同条3項及び4項において政府系銀行(国際協力銀行など)からの借入金利息については、税金が免除されることとなっています。
[日本-フィリピン間での費用負担]
日本からフィリピン立ち上げのために出張などで現地に滞在する場 合に、その経費負担をどのように決めるかが問題になります。
一般的に、会社設立前の費用については、日本側で負担、会社設立 後の費用についてはフィリピン側で負担というケースが多いですが、 設立当初フィリピン子会社で赤字が続くような場合に、日本側で費用負担をしてしまうケースがあります。
メーカー等が製造子会社を立ち上げた際に、設立当初のサポート業務などを無償で子会社に対して行うようなケースもあります。
本来、日本で負担すべきでない(フィリピン側で負担すべき)費用を日本で負担した場合には、日本側において「寄附金課税」のリスクが発生します。
当該リスクに備えるためには、役務提供についてはしっかりと契約書を作成し、費用負担については一定の合理的な基準を設け、その基準に沿って各法人で負担させるといった規則正しい処理が効果的です。
ただし、当該取引についても関係会社間での取引であれば、前述の 「移転価格税制」の対象取引となり、日本・フィリピンそれぞれにおいて費用負担の妥当性が問われることになります。
EOPTA法(Ease of Paying Taxes Act)
フィリピンの内国歳入庁であるBIR(Bureau of Internal Revenue)は2024年1月EOPTA法(Ease of Paying Taxes Act)を発表しました。
これは、税務行政の近代化と合理化、納税者の権利強化を目的とした納税簡易化法で既存の会計や税務に関する法律の改定がいくつか行われています。
① 帳簿等の保存期間
会計帳簿およびその他会計資料の保存期間が従来は10年であったのが5年に変更されました。
② 「Official Receipt」から「Invoice」への変更
・ 必ず該当する書面見出しには「INVOICE」が印字または記されている必要があります。
・ 500ペソ以上の売上に対してインボイスの発行が求められます。
その際、宛名、TIN(税務番号)、日付、量、単価、該当する商品またはサービスの概要を記す必要があります。
(500ペソという数字は消費者物価指数に基づいて、その時期の最適な価格で3年毎に調整されます。)
・ 1日に同じ顧客に対して発生する複数の取引合計額が500ペソほどである場合、インボイスは1つだけの発行を認められます。
・ VAT登録販売者は取引額に関係なく、必ずインボイスの発行が求められます。
・ 取引の種類に応じて領収書を分ける場合には、「Invoice」の表記をその他の取引名等の情報よりも大きくする必要があります。
下記Example(例)をご参照ください。Cash Invoice、Credit Invoice、Service Invoice、Billing Invoice
③ VATインボイスの誤発行について
非VAT登録販売者がVATインボイスを発行した場合、販売側はパーセンテージ税およびVATの両方の支払いが発生します。また、販売側はインプットVATの控除税額を享受できず、50%の手数料が販売側に発生します。購入側はインボイスからインプットVATの計上をします。
VAT登録販売者がVAT非課税対象の取引で発行したインボイスにVAT免除額の表記がされていなかった場合、取引はVATの支払い対象となります。
VAT登録販売者がVATインボイスにRR7-2024で定められる以下の必要情報の全てを網羅せずに発行した場合、販売側はコンプライアンス違反として取り扱われます。
・ 売上額
・ VAT額
・ 販売側および購入側の登録企業名、TIN
・ 売上の概要
・ 取引日
④ 年次登録料について
500ペソの年次登録料の支払いは廃止されました。
⑤ 未回収の債権に対するアウトプットVATについて
販売側は、合意された支払い期間が経過した後、次の四半期に未回 収の売掛金に係るアウトプットVAT を控除することができます。
ただし、次の条件が適用されます:
[a] EOPT 法の発効日以降に売上が発生している
[b] 販売側が該当取引の VAT を全額支払っていること
[c] 該当するVAT が控除対象として請求されていないこと
[d] クレジット期間は、請求書またはその他文書に記載されていること
[e] VAT は請求書に別途記載されていること
[f] 作成月の SLS に含まれていること (「VariousCustomer」として報告されていないこと)
[g] 販売側が該当の VAT 申告をしていること
[h] 延長の有無にかかわらず、期間がすでに経過していること
売掛金の回収後、回収日にそれに対するアウトプットVAT申告をする必要があります。
⑥ 税金の納付方法
該当する所轄税務署(RDO: Revenue District Office)の管轄のもとに発生したかどうかに関わらず、電子決済(オンライン決済)または銀行での直接支払い(マニュアル)によって、税金の支払いが行えるようになりました。
⑦ eBIR支払時のペナルティの廃止
eFPS(electronic Filing and Payment System) に登録されている納税者が、当該システムに不備等があった際に代わりにeBIR(electronic BIR Forms)での支払いをした場合の25%のペナルティ(Civil Penalty)が廃止されました。
⑧ 確定申告義務
既存の要件に加えて、国外で働くOCW(Overseas Contract Worker)やOFW( Oversease Filipino Worker)のフィリピン人が海外から単独で所得を稼ぐ場合も個人の確定申告の義務がなくなりました。
⑨ 源泉徴収について
所得税の損金対策としての源泉はEOPTにより無効になりましたが、特定の源泉が必要な項目については引き続きその義務が発生します。
⑩ 源泉徴収のタイミング
請求書(invoice)が発行された時、つまり代金の支払い義務(Payable)が発生した際に認識されます。現金主義ではなく発生主義で今後は源泉徴収を行うことになります。
⑪ 納税者の分類とその範囲について
年間総売上高による分類:
a. 超小規模納税者 300万ペソ未満
b. 小規模納税者 300万ペソ以上、2,000万ペソ未満
c. 中規模納税者 2,000万ペソ以上、10億ペソ未満
d. 大規模納税者 10億ペソ以上
その他
[個人税務番号(TIN:Taxpayer Identification Number)]
企業が従業員の新規雇用をした際などには従業員のTIN(税務番号)登録が必要です。従来では各管轄のRDO(Revenue District Office)にてこの手続きを行っていましたが、現在ではBIRのオンラインシステムであるORUS(Online Registartion and Update System)またはIR Chatbot Reiveにて行います。RDOでの手続きが必要なケースは下記の通りです。
①オンラインシステムがなんらかの形で使用不可の場合
②該当従業員の税務情報についてBIRが個別に確認する必要がある場合
③該当従業員が既にTINを持っている場合
④類似または複数のTINを持っている場合
主な税務情報についてはORUSをはじめとする公式のオンラインシステムで閲覧が可能です。
参考文献
・ 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社国際事業本部編『投資ガイドブックフィリピン』三菱東京UFJ銀行国際業務部
・ Herald Digital Law Publishing『Philippine Tax Laws:The Basics(Basic Philippine Laws series)』