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国際人事マネジメント総論
ベトナムに限らず海外に拠点を設置して、海外事業を成功させるた めには人事マネジメントを効果的に行う必要があります。人事マネジ メントの重要性を認識せずに海外拠点の運営は不可能といってもよい かもしれません。人事マネジメントは、国により文化・ビジネス環境の違いにより、アプローチの違いこそあれ、本質的な部分では日本の それと大きく異なることはないと考えられます。本章では国際人事マ ネジメントのさまざまな要素を検証していきます。
- 人事マネジメントの4つのテーマ
マネジメントの父と呼ばれるP・F・ドラッカーは、「マネジメントとは、事業に命を与えるダイナミックな存在である。彼らのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない」 といっています(上田惇生編訳『チェンジ・リーダーの条件』ダイヤモンド社、2000 年)。
国際人事マネジメントの成功要因として、いかに現地における気候 やインフラ状況などの環境、国民性、文化などに適応したマネジメン トを構築できるかが挙げられます。
しかし、人事マネジメントを行う上で、変えてはいけない本質があります。それが、「組織とベクトルの合った人材を育成していくこと」 です。この本質を逸脱すると、会社として統一された人事マネジメントができず、国際経営もまた破綻します。
そこで、本質的な人事労務マネジメントを考えるに当たっては、人事を4 つのテーマ(採用、賃金、評価、教育)に分けて考える必要があります。ベトナムにおける人事マネジメントも、この4 つのテーマから見ていくことが有効です。
「企業は人なり」という言葉があるように、人材いかんによって、企業の成長が決まるといっても過言ではありません。優秀な人材の確保 は、外部から優秀な人材を連れてくる方法と、自社内の人材を教育する方法があります。
採用は、外部からの人材調達であり、賃金、評価、教育は、内部の人材育成方法にかかわるものです。人事マネジメントのポイントは、 教育に繫げるための賃金設計、評価制度設計をひとつの人事マネジメント機能として構築することにあります。
【国際人事マネジメント】
まず、会社として統一的な方針を持ち、それに合った行動ができているかどうかという評価基準を持つことが必要不可欠となります。全社統一的な人事マネジメント方針を明確に持っていないと、労働問題の解決やそれに必要なベトナム人との交渉を有利に進めることが困難になる恐れがあります。
全社として統一的な方針を定めた上で評価を行い、出した評価結果は必ず社員にフィードバックすることが重要です。「当社は○○を評価する会社です。しかしあなたは○○が××の分だけ足りません。だからあなたの評価は△△です」といった評価結果のフィードバックは、会社の方向性および優秀な人材の定義を会社として示すことを意味します。
フィードバックに際しては、数値化して具体的に明示できるようにしておくことが必要です。「何が、どれだけ足りないのか」を会社として社員に明示できることが望ましいといえます。このフィードバック機能が十分でないとベトナム人からの賃金アップの要求に対応ができません。
評価制度の構築は、「会社としてどのような人材を評価するのか」という優秀な人材の定義づけを明確にすることから始まります。「どのような人材を理想とするのか」を決めることが、組織における評価や採用、そして教育までのすべての方向性を決めることになります。そして、この方向性は、実際の人事に反映されることにより、社員に浸透が図られるのです。
また、一貫性と透明性のある評価制度が導入されることにより、社員の納得の度合いが高まり、会社が優秀であるとみなす社員の定着率の向上にも繫がります。社員に甘い評価制度を構築することで、社員の定着率を高めることは可能ですが、必ずしも会社が欲する社員の定着が図られるわけではありません。会社が優秀とみなさない社員の定着率の高さは、かえって優秀な社員の採用を阻害する要因にもなります。
■ベトナムにおける人事マネジメントの指針
ベトナムでは、職務に必要な知識・技術の習得は個人責任であるという考え方があります。社員は、職務を全うすることを求められ、そしてそれが自己の成長や評価に繫がる知識・技術であると認識すれば、意欲を持って仕事に取組みます。
職務が明確に区分され自己の役割も明らかな場合は、日本におけるマネジメントのように背中を見せるだけでは、求める方向に向かって社員が行動を起こすことはありません。
特にチームワークや忠誠心のように成果の見えづらい活動を求める場合はなおさらです。日本人がベトナム人を動かす上で最も苦労するのが、チームプレーです。チームプレーにおいては行動することで得られる利益を明確にして説き続けることが要求されます。
ベトナムは他国と比較し人件費が安く、日本企業、とりわけ輸出型加工企業にとって魅力的であり、かつ市場としても将来的に大きな可能性を秘めた国であり、進出することの意義は非常に強く感じることができます。単に自社が進出して収益を上げるだけではなく、日本企業が進出することにより、ベトナムにどんなことをもたらしたいのか等の社会的意義を、現地のスタッフに伝える必要があります。
会社が本国の利益のためだけに活動をしているとすれば、現地の社員にとっての働く目的はお金を稼ぐため、家族のためだけになってしまいます。特にベトナム人は家族を大切にするため、状況により家族より仕事を優先する日本人とは大きく異なります。家族を大切にすることは良いことですが、家族が病気になったとの理由で、重要な仕事を放置して安易に休みを取ることが起こり得ます。
ベトナム人の考え方を正しく理解することが円滑なマネジメントのポイントとなります。
ベトナムにおいて企業の社会的意義、経営理念を浸透させることは、日本で行う以上に大変なことですが、より良い企業を作るためには、不可欠なことです。
採用実務
■人事マネジメントの4つのテーマ
マネジメントの父と呼ばれるP・F・ドラッカーは、「マネジメントとは、事業に命を与えるダイナミックな存在である。彼らのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない」述べています(上田惇生編訳『チェンジ・リーダーの条件』ダイヤモンド社、2000年)。
国際人事マネジメントの成功要因として、いかに現地における気候やインフラ状況などの環境、国民性、文化などに適応したマネジメントを構築できるかが挙げられます。
しかし、人事マネジメントを行う上で、変えてはいけない本質があります。それが、「組織とベクトルの合った人材を育成していくこと」です。
この本質を逸脱すると、会社として統一された人事マネジメントができず、国際経営もまた破綻します。
そこで、本質的な人事労務マネジメントを考えるに当たっては、人事を4つのテーマ(採用、賃金、評価、教育)に分けて考える必要があります。ベトナムにおける人事マネジメントも、この4つのテーマから見ていくことが有効です。
「企業は人なり」という言葉があるように、人材いかんによって、企業の成長が決まるといっても過言ではありません。優秀な人材の確保は、外部から優秀な人材を連れてくる方法と、自社内の人材を教育する方法があります。
■ベトナムにおける採用フロー
日本企業がベトナムに会社を設立した後、活動規模に応じて現地労 働者を採用する必要が出てきます。その場合には、日本と同様に募集 要項を掲示し、書類選考や面接を経て採用を行います。ベトナムにも いくつかの求人用のウェブサイトがあり、多くのベトナム人はこれを 利用して応募をしたり、知り合いの人脈もしくは縁故をたどるケース もあります。また、人材紹介会社を通じて企業への応募を行うケース も、徐々に多くなっています。新聞での募集活動も盛んです。
[ 募集と選考における実務上の注意点]
ベトナムで公募を行う際、応募条件を満たさない求職者からの応募が非常に多いという実務上の課題があります。そのため、書類選考の段階で多くの労力を要することを念頭に置く必要があります。求める人材を効率的に確保したい場合や、ウェブサイトでは見つけにくい管理職クラスを探す場合は、人材紹介会社の活用が有効です。
[ 内定通知(オファーレター)と雇用契約]
選考を経て採用を決定した候補者には、まず「内定通知書(Offer Letter)」を提示するのが一般的です。この段階で、給与や役職などの労働条件を提示し、入社の意思を確認します。内定通知書は法的に必須の書類ではありませんが、後のトラブルを避けるためにも書面で交付するのが賢明です。
採用決定者が入社の意思を示した後、法的に拘束力を持つ「労働契約書」を締結します。ベトナムでは労働者を保護する法規制が強いため、安易な解雇はできません。そのため、労働者を雇用する際は、後述の試用期間を十分に活用し、雇用のミスマッチを防ぐことが極めて重要です。
また、採用時に提示する職務記述書(Job Description)は極めて重要です。日本のように「総合職」という曖昧な概念はなく、採用時に合意した職務内容以外の業務を指示した場合、労働者に拒否される可能性があります。一方で、職務内容を細かく規定しすぎると、規定外の業務への柔軟な対応が難しくなる弊害も生じます。対策として、評価制度の中に「規定外業務への貢献」や「他スタッフとの協調性」といった項目を設け、柔軟な働き方に対してインセンティブを与えるなどの工夫が求められます。
[試用期間]
試用期間は、同法にて以下のとおりに規定されています。1つの業務に対して同一の被雇用者には、1回限り試用期間を設けることができます。
業務内容 | 試用期間 |
企業経営者や企業管理者の業務 | 180日以下 |
短期大学以上の専門技術程度を要する職位の業務 | 60日以下 |
職業訓練学校、専門学校、技術を持つワーカー、経験を持つ事務補助職の専門技術程度を要する職位の業務 | 30日以下 |
その他の業務 | 6営業日以下 |
試用期間中は、使用者・労働者のいずれからも、事前通知や補償の義務なく労働契約を終了させることが可能です。この制度を有効に活用し、候補者の能力や適性を慎重に見極めることが求められます。
[ 採用に適した時期 ]
ベトナムでの採用活動は、旧正月(テト)の時期を避けるのが賢明です。テト前には賞与が支給されるため、多くの労働者は賞与を受け取ってから転職活動を始めます。また、テト休暇で帰省したまま連絡なく退職してしまうケース、特に工場のワーカーなどで散見されます。そのため、大規模な採用はテトが明けてから本格化させるのが一般的です。
賃金制度および評価制度
ベトナムの人事評価制度は、伝統的な「学歴・年功序列」を重んじる文化と、外資系企業などを中心に急速に普及する「成果・職能主義」が併存する、過渡期にあるのが特徴です。特に若手・中間層の間では、年齢や勤続年数よりも、個人の能力や貢献度が正当に評価され、報酬に反映されることを期待する傾向が年々強まっています。
この状況下で、日本企業が効果的な人事制度を構築するには、以下の3つのポイントが重要となります。
1. 職務内容(Job Description)の明確化
ベトナムでは、採用時に合意した職務範囲外の業務を指示することに抵抗感が強い傾向があります。業務の責任の所在を明確にし、「言った・言わない」のトラブルを避けるためにも、雇用契約書や職務記述書で各ポジションの役割と責任を具体的に定めることが有効です。
ただし、あまりに厳格に規定すると、規定外の業務に柔軟に対応できなくなる弊害も生じます。そのため、評価制度の中に「他者との協業」や「積極性」といった項目を設け、柔軟な働き方をインセンティブで評価する仕組みづくりも重要です。
2. 評価制度の客観性と透明性
年功序列の文化が根強い側面もあるため、成果主義や職能評価を導入する際は、客観性と透明性の確保が不可欠です。「なぜこの評価なのか」を従業員が納得できるよう、明確な評価基準を設定し、評価者(管理職)への十分な教育を行うことが、制度浸透の鍵となります。
3. 年功序列と成果主義を組み合わせた賃金制度
ベトナムでは、一度合意した給与を一方的に引き下げることは法律上極めて困難です。そのため、賃金制度の設計は慎重に行う必要があります。
多くの企業では、毎年一定の昇給を保証する年功序列的な要素(基本給の昇給率など)と、個人の評価結果が賞与(ボーナス)や特別手当に反映される成果主義的な要素を組み合わせたハイブリッド型の制度が、従業員の納得感とモチベーションを両立させる上で効果的とされています。
■評価制度のポイント
評価制度を構築するためには、評価対象、測定方法、分配の3 項目を決めることが重要です。
評価対象の決定
評価対象の決定とは、何を評価するのかを決めることです。3項目のうち、評価の対象を決定することが最も重要なポイントとなります。
何を評価するかの定義付けは、社員が成長すべき方向性を示し、目標達成のために会社が求めている人物像を明確にすることになるからです。
また、評価には客観性が求められるため、客観的に測定しやすい評価対象、つまり、定量化できるものが評価対象として選択され、定性目標がおざなりになってしまうケースが往々にしてあります。定量的な指標と定性的な指標の両方の視点から評価をしていくことが大切です。
測定方法の決定
測定方法の決定とは、評価対象を誰がどのように評価するかを決めることです。通常、評価を行うのは上司です。上司からの評価のみでは、評価が主観的になされる傾向があるため、360度評価など上司以外の視点を取り入れる企業も増えています。自分自身の認識と上司の認識との違いを明らかにし、成長を促すために、自己評価を導入することも有効です。特に、評価制度を人材育成に活用する際は、自己評価を導入するケースが多いといえます。
分配の決定
分配の決定とは、評価結果をどの程度社員へ分配するのかを決定することです。具体的には、会社レベルでは、全体賃金管理として労働分配率の目標値を決めることであり、個人レベルでは、評価を給与等へどれくらい反映させるかを決めることです。また、前述のように給与の各手当や賞与などの分配に、意味合いを持たせることも大切です。
以上の3点を決定することが、評価制度を構築する上での基本となります。その中でも評価対象は、会社の求める人物像を社員に伝えることにもなるため、特に重要です。
■評価制度の目的
評価制度には主に2つの目的があります。
第一の目的は分配、つまり賃金を決定することです。評価結果に基づき給与を決定することは、組織全体で見れば利益の分配となります。これは社員の毎年の処遇として明確になるので、短期的に見て必要不可欠な目的です。第二の目的は、会社として優秀な人材の定義を行い、それを社員に知らしめることです。これは、評価の目的として見落としがちですが、長期的観点からは、非常に重要なものであり、昇進を決定する基礎になる概念です。会社にとって必要な人材に対して役職を与え昇進させることは、結果的に会社の求める人物像を社員に知らしめることになります。
ベトナム人は、日本人以上に役職にこだわります。高い役職につけば、次の転職にも有利になるためです。社員の離職率を抑えるために役職を与えることは重要ですが、安易な昇進の決定は、組織の混乱を招きます。
会社が定義する優秀な人材との違いを評価結果として社員にフィードバックすることで、社員の改善を促し、それと同時に社員の育成を行うことにもなるため、長期的な視点では、この第二の目的の方がより重要となり、教育制度とリンクさせて考えるべきものといえます。
第一の目的である分配の決定は、第二の目的である優秀な人材の定義があって初めて公正に行うことができるとも考えられます。つまり、評価制度構築の本質とは、組織の理想とする人物像を制度に反映させ、実現することです。
優秀な人材の定義付けが正しくできれば、海外法人が人を採用する際の基準にもなります。また、人事評価制度や教育にも会社の定義する優秀な人材の人物像を反映させることにより、透明性の高い組織の構築が可能となります。これにより、現地スタッフの昇給や社員の定着率の低下によるトラブルを防ぐことができるのです。
なお、ベトナム人はロジカルな思考をするため、評価制度を導入する際には論理的に説明をし、納得させることが重要です。
■成果主義による評価
上述のとおり、ベトナムにおける人事評価は年功序列が優位ですが、近年は成果主義による評価基準を導入している企業も見られます。成果主義を導入するときには、その評価に至った過程、根拠を明確にする必要があります。特に短期的で明確な目標に基づいた個人の成果や行動を評価していくことが有効です。このときの評価は、定量化できる指標により行うことが大切です。
たとえば当社では、国際事業におけるサービスにおいて、「スピード&クオリティ」を掲げています。これに基づき、当社が提供する会計サービスは、月次決算資料を5日で提出することを目標としています。
これが達成できたかどうかが評価対象のひとつとなります。
ベトナム人は時間感覚が緩慢で、約束を守れないときは言い訳をすれば済むと考える傾向があります。そのため、定量的評価を行わないと、「納期に間に合わなくても、完了すれば問題ないだろう」という意識になりがちです。
明確な目標による評価の注意点としては、必ず結果に基づき評価することで、決して期待値を評価に反映させてはいけない、ということです。日本のマネージャーが犯してしまいがちなミスとして、評価に期待を上乗せして給料を上げてしまうことがよくあります。ベトナム人からすると、昇給することは、自分の成果が認められたも同然です。つまり、ベトナム人は、一度自分のパフォーマンスが認められたと感じると、その後の行動を改めようとはしません。悪い部分があれば、明確にフィードバックする必要があります。以心伝心は通用しません。
成果の項目については結果で評価すると同時に、従業員の要求が会社側の評価よりも高い場合には、次回の評価に際して、明確な目標を条件とすることが有効です。
たとえば、現在の月給が500USドルであるベトナム人スタッフに対して、会社としては上限550USドルまでの昇給を考えている一方で、スタッフ自身が月給600USドルを要求してきた場合、「月給600USドルにするためには、○○をしてください。○○ができたら、月給を600USドルにします」と具体的な目標を提示し、会社側が求める成果、行動と結びつけることで、評価について納得させることができます。このような短期的な成果による分配は、賞与や業績手当などで支給するのがより望ましいといえます。
成果主義だけで評価を行うと、ジョブホッピングを招いたり、お金だけの繫がりになる傾向があります。日本企業として他の外国企業もしくはローカル企業との差別化を図るためには、日本企業としての経営理念の追求が必要です。そのためには、経営理念を促進するための制度づくりが必要です。
日本の企業は職務範囲があいまいであることが特徴として挙げられます。日本ではチームビルディングにおいては、あいまいさが重要な要因となります。自分の職務範囲と、責任範囲を広げられる人が評価されてマネージャーになる傾向にあります。
マネージャーに昇進する人は、昇進する前から管理者として行動できる人です。マネージャーに昇進すれば、当然管理者としての役割が求められるため、管理者意識は、管理者になる前に植え付ける必要があります。
ベトナム人に広い職務範囲での仕事をしてもらうためには、なぜそのようなあいまいさや広い職務範囲が大切なのかを十分に説明することが大切です。
日本人は相手の良くないところを指摘するのが苦手です。日本人マネージャーが、ベトナム人の不足するところを評価の際に明確に伝えなかったがために齟齬が生じ、その結果ベトナム人が不満を持つケースもあります。評価のフィードバックには、客観的な指標が重要になるため、360度評価制度を導入し、マネージャーから見えない情報を入手することも必要です。
360度評価制度では、評価に通常の評価者である上司の他に、同僚からの評価と自己評価を加えます。ベトナム人は日本人と異なり、自分に対する評価は非常に甘く、他人に対しては厳しい目を持っています。360度評価制度は、日本人が気付かないポイントを知ることができる優れた手法といえます。自己評価と上司や同僚からの評価の違いを明確に示し、客観的な指標で評価することで、評価の透明性と納得性を保つことができます。
ベトナム人スタッフのマネジメント
■ベトナム人の国民性
ベトナム人スタッフの特徴として、勤勉、手先が器用、日本人と国民性が似ているなどが挙げられます。しかし、実際には日本人とベトナム人の価値観には大きな違いも存しており、マネジメント上の判断に当たっては慎重な姿勢で取り組むことが必要となります。
日本人とベトナム人の価値観の違いには、文化の違いが大きく作用します。日本人とベトナム人の家族に対する考え方は非常に異なり、ベトナム人の家族の結びつきの強さは日本人の想像をはるかに超えています。ベトナムの家族は、儒教の文化が根強いこともあり、家長を中心に結束しています。その反面、家族または血縁ではないもの同士の関係性は希薄であるといえます。
■家族関係の重要性
ベトナム人の家族に対する考え方の理解なしにベトナム人スタッフのマネジメントを行うことは困難です。つまり、ベトナム人スタッフは家族を非常に大切に考えているということを前提にスタッフの家族に対しても気遣いが必要です。日本人マネージャーにこうした認識がないと、ベトナム人スタッフの会社に対する帰属意識も希薄になってしまいます。
例えば、主要なスタッフ自身、および親類の結婚式には日本人マネージャーも出席することが望ましいといえます。スタッフの慶事に関わることについても、会社の内規において規定を設け、手当を支給するのが一般的です。また、スタッフの家族との食事会も効果的です。スタッフが大切にしている家族とのコミュニケーションの機会を設けることで、スタッフとの信頼関係もより良好になります。スタッフの家族と面識がある場合には、日頃から様子を尋ねるなど、常に気にかける姿勢を見せることも重要です。そうした配慮を積み重ねることにより、スタッフは、会社をただの職場ではなく第二の家族として認識するようになります。その結果、スタッフは日本人マネージャーや代表者に対して、家長同然の存在として接するようになり、働き方や会社に対する帰属意識も大きく改善されます。
■国民性への配慮
日々の業務におけるマネジメントに関しても工夫が必要です。実際に仕事ができるかどうかは別として、ベトナム人は概して非常にプライドが高い国民です。仮に、業務上重大なミスを犯したとしても、人前で叱責することは避けるべきです。ミーティングルームなどに場所を移して、他のベトナム人スタッフに聞かれないように個別に指導を行う必要があります。指導のしかたについても、なぜそれがミスとされるのか、どう改善すればよいのかを論理的に説明する必要があります。感情的な叱責は、その後の勤務態度の悪化、モチベーションの低下、さらには退職というリスクをもたらすことになります。
日本人同士であれば、いちいち言葉に出して褒めないからといって問題が生じることはありませんが、ベトナム人の場合は、自分が評価されていないという心証を持ちます。
ベトナム人に対するマネジメントにおいては、改善に向けた指導は個別に行い、褒める場合は、できるだけ人前で大きく行うことがポイントとなります。
■海外赴任者に求められるもの
ベトナムで成功できるか否かは、つまるところベトナムに駐在する 日本人駐在員の考え方に左右されます。これまでベトナム人の評価方 法、教育方法について解説しましたが、日本企業にとって、海外赴任 者の教育も重要です。ベトナムは、徐々に生活環境等も改善され、日本人にとっても生活 しやすくなりつつあるとはいえ、日本の生活環境と比較すると、厳しい環境であることには違いありません。よって、海外生活の経験があ り、ストレス耐性の高い人が駐在員として適性があると考えられま す。日々のストレスを最小限にとどめることがより成果を上げること にもなります。
赴任者に求められる重要な要素の1つがリーダーシップです。特に、マネージング・ディレクターは起業家であり、リーダーでもなければなりません。
リーダーの条件は3つあると考えられます。
第一に、価値設定の能力です。これは、仕事の目的が何であるかを定める能力です。赴任者が、自分や家族のためだけに働けば、部下もまたそれに影響を受けます。リーダーが早く日本に戻りたいと思っていれば、その気持ちは部下にも伝わり、近い将来、交代するであろう上司についてくるはずもありません。すべてにおいて、海外赴任者の価値観が影響します。
第二に、価値共有の能力です。価値共有のためには、熱く語り続けることが重要です。人間は、感情を持つ動物であり、理論だけでは動きません。パッションなくしてリーダーにはなれません。ただし、価値は、リーダーの普段の言動に現れます。部下は、リーダーが何を話すかということよりも、何を行うかということに着目します。なぜなら価値観は、言葉より行動に反映されるからです。
第三に、価値実現の能力です。これはマネジメントという言葉に置き換えることができます。マネジメントとは何か、その本質を知ることが重要です。海外赴任者は、経営とは何か、リーダーとは何かを問い続けることのできる人物でなければなりません。
リーダーを養成できるか否かは、日本の本社が持つ教育システムにかかっています。今後、少子化により国内マーケットが縮小する中で、日本企業は海外売上比率をますます高めていかなければなりません。そのためには、体系的な海外赴任者教育を行うことが急務といえます。
参考文献
・久野康成『できる若者は3年で辞める!--伸びる会社はできる人よりネクストリーダーを育てる』(発行:出版文化社
・久野康成、井上ゆかり『もし、かけだしカウンセラーが経営コンサルタントになったら--母性の経営』(発行:出版文化社)
・国際ビジネス・海外赴任で成功するための賢者からの三つの教え 今始まる、あなたのヒーローズ・ジャーニー (発行:TCG出版)