労務
※ 本要約はAIが本章の内容のみをもとに自動生成しています。正確な内容は本文をご確認ください。
■労働環境
■ 最近のベトナム労働環境
ベトナムで投資やビジネスを始めるためには、労働市場・環境、現地雇用、雇った後の労働者との関係づくりのための法律や慣行を知っ ておく必要があります。ベトナムの総人口は2024年末時点で1億人を超え、依然として増加傾向にあります。平均年齢も30代前半と若く、「人口ボーナス期」が続いており、豊富、安価な労働力が魅力です。
■ 労働力人口
ベトナムの総人口、労働力人口、就業者数は以下の通り、近年も着実に増加を続けています。かつては地方部の人口が7割を占めていましたが、近年の急速な都市化により、2024年時点では都市部の人口が約4割にまで増加しています。
【人口統計】
出所:General Statistics Office of Vietnam(ベトナム統計局)
労働力人口とは、15歳以上の就業者と失業者の合計をいいます。豊富な人口を背景に労働力人口も安定して増加しており、2024年には約5,290万人に達しました。
その構成を見ると、男性が約51-52%、女性が約48-49%を占めており、引き続き女性の労働参加率が高いことがベトナムの労働市場の大きな特徴です。これは管理職や事務職といったホワイトカラーに限らず、工場のワーカーなどにおいても、女性が生産の重要な担い手となっていることが多いことを示しています。
■労働力人口の地域性と構造変化
ベトナムの労働市場は、急速な都市化と産業構造の変化に伴い、地域的な特徴が大きく変化しています。ベトナムの労働力人口は2025年上半期時点で約5,300万人に達し、そのうち約60%が農村部、約40%が都市部で構成されています。都市部の労働力人口は年約3%の高い成長率で増加しており、地方から都市への労働移動が加速しています。
2025年上半期の労働力参加率は68.2%で、パンデミック前の70%近い水準からは緩やかな低下傾向にあります。これは生活水準の向上や高等教育進学率の上昇、特に都市部での若年層の労働市場参入が遅れる傾向によるものです。一方で、若年層の失業率は国全体で7~8%と全体の失業率(約2.2%)よりかなり高く、スキルミスマッチや雇用機会の不均衡が課題となっています。
労働需要の面では製造業、IT・デジタル産業、サービス業が市場を牽引し、特に半導体やグリーン経済分野での人材不足が深刻化しています。これを受け政府は、半導体分野に特化して2030年までに5万人の技術者を育成するという野心的な国家計画を掲げ、労働者の技能向上に注力しています。
今後は、こうした成長分野を支える労働者の質的向上、労使関係の安定化、そして都市部への労働移動に伴う社会インフラの整備が、持続的な経済発展のための重要な課題です。
■産業別就業人口
ベトナムの産業構造は過去10年で劇的に変化しました。かつて就業人口の半数以上を占めていた農林水産業の割合は大きく減少し、サービス業と工業・建設業が経済の主軸となる構造へと完全に移行しています。
2025年上半期の最新データによると、産業別の就業人口の割合は以下の通りです。
サービス業:約41%
工業・建設業:約33%
農林水産業:約26%
最も多くの就業者を抱えるのはサービス業であり、卸売・小売業、運輸・倉庫業、宿泊・飲食サービスなどが含まれます。次いで、外資企業の進出を背景に成長を続ける製造業を中心とした工業・建設業が続き、これら2分野で全就業者の7割以上を占めています。
このように、ベトナムは伝統的な農業国から、サービスと工業が経済を牽引する近代的な産業国家へと着実に変貌を遂げています。
■失業率
ベトナムの失業率は、堅調な経済成長を背景に低い水準で安定しており、2025年第2四半期時点でも2.24%となっています。ただし、これは国全体の平均値であり、若年層(15~24歳)の失業率は約8.2%に達するなど、構造的な課題も抱えています。
なお、2025年7月現在、この失業保険制度の加入対象はベトナム人のみです。外国人労働者は、社会保険(年金、疾病・出産、労働災害保険など)への加入は義務付けられていますが、失業保険の対象外となっています。 この点は、外国人を雇用する企業が人事労務管理を行う上で、正確に理解しておくべき重要なポイントです。
■ 賃金水準
外国企業は、ベトナムの法定最低賃金を遵守する必要があります。
最低賃金は地域別に定められており、ハノイやホーチミンなどの都市部(地域I)では月額4,960,000ドン(約195米ドル ※1)となっています。
さらに、2025年7月1日から施行されたベトナムの政令128/2025/NĐ-CPにより、最低賃金の適用地域区分が従来の郡(県)レベルから、より細分化された村・街区(コミューン)レベルの行政区分に変更されました。
これにより、企業の所在地によって適用される最低賃金の地域区分が変わる可能性があり、自社の正確な所在地に基づく最新の地域区分の確認が不可欠です。
※1 2025年7月時点の為替レート(1USD=約25,400VND)で換算。
ただし、これはあくまで最低ラインであり、実際の市場における賃金水準はこれを大きく上回ります。職種別の一般的な月額賃金(総支給額)の目安は以下の通りです。
ワーカー(一般工職):法定最低賃金を基本給とし、各種手当(住宅、交通、食事など)を含めると、総支給額は月額800万~1,100万ドン(約320~440米ドル)が一般的な水準です。
事務職(経理、人事など):経験の浅い新卒でも月額1,200万~1,500万ドン(約480~600米ドル)からが目安となります。日本語や英語が堪能な場合や、専門スキルを持つ場合はさらに高くなります。
IT系エンジニア:人材不足が深刻で、賃金は高騰しています。新卒でも月額1,500万~2,000万ドン(約600~800米ドル)以上、数年の経験を持つ中堅エンジニアであれば3,000万ドン(約1,200米ドル)を超えることも珍しくありません。
中間管理職(課長・部長クラス):経験や能力により幅がありますが、外資系企業では月額4,000万~7,000万ドン(約1,600~2,800米ドル)が一般的なレンジです。優秀な人材の引き抜きも活発で、賃金は上昇傾向にあります。
■ 外資企業(日系含む)における 賃金上昇
最新の各種給与調査によると、近年のベトナムにおける外資系企業の昇給率は年間6~7%で推移しており、依然としてアジア地域の中でも高い水準を維持しています。特に、ハノイやホーチミンといった主要都市での上昇が顕著です。
その主な要因としては、以下の3点が挙げられます。
- 継続的なインフレ:依然として高い水準にあるインフレ率が、従業員の生活費を補うための昇給圧力となっています。
- 高度人材の獲得競争:特にIT・デジタル分野や、高度な専門知識を持つ管理職などの人材獲得競争は激化の一途をたどっており、これが人件費全体を押し上げています。
- 高い離職率と採用難:外資系企業では、より良い条件を求める従業員の離職率が高止まりしており、優秀な人材の維持と新規採用の難しさが、結果として賃金上昇に繋がっています。
■ 他国との賃金比較
前述のように、外国企業における賃金上昇率は10%以上ですが、他国と比較すると、依然として賃金が安価であるのが実状です。
ハノイ、ホーチミンの賃金水準を周辺諸国の主要都市と比較して見ると、賃金水準は、近年注目されているミャンマーのヤンゴンよりは高い水準ですが、中国の各都市、バンコク、ジャカルタ、マニラなどよりも低い水準にあります。
■労働者の募集方法
ベトナムで労働者を募集する方法として、かつてから新聞、ラジオ、インターネット、人材紹介会社が活用されてきました。しかし、2023年9月18日に施行された政令70/2023/ND-CPにより、外国人労働者採用の第一ステップである『外国人労働者需要の承認』を得るための前提条件として、該当ポジションを最低15日間、労働傷病兵社会問題省の就業ポータルや地方雇用サービスセンターの電子情報など公的電子媒体で告知することが義務付けられました。これは、そのポジションに対して適切なベトナム人候補者が見つからなかったことを、当局に対して客観的に証明するための手続きです。工業団地や工場前での掲示は依然行われていますが、法的には補完的な手段となります。
(※2025年8月12日施行の政令219/2025/ND-CPにより現在は求人告知期間は5営業日へ短縮しています)
この規制の厳格化もあり、製造業を中心に大量採用の難易度が上がっており、工業団地に加え近隣地域やSNS、オンライン求人サイトなど広範囲での募集が定着しています。専門職・事務職、特に日本語を話す人材や日本企業勤務経験者の採用は困難が続き、新卒採用後の社内育成も重要視されています。
採用後は地域労働局等の関係機関への報告が必要であり、外国人労働者の場合は追加で労働許可証やビザ関連の手続きが求められるため、十分な法令遵守と計画的な採用活動が求められます。
■労務管理
製造業の採用においては、工場労働未経験者が多いことから、仕事に対する考え方や労働に対する意識の教育が不可欠です。特に、2025年7月施行の改正労働組合法(法律 No. 50/2024/QH15)によって、外国人労働者も組合に参加可能となり、労使関係への理解促進教育も重要性を増しています。
また、給与改定のルールやタイミングを巡る認識不足は労働争議の大きな原因の一つであり、工業団地内の他企業との給与改定時期の違いや手当条件の変更についても従業員に十分な説明を行い、透明性を確保することが必要です。
このほか、安全衛生教育や労働法遵守のための研修も義務付けられているため、包括的な労務管理教育計画が求められます。
■ ベトナム人労働者の特徴
ベトナム人労働者は基本的に勤勉で真面目、上司の指示に忠実に従う特徴があります。高度なIQや手先の器用さも強みとされ、丁寧で責任感のある作業が可能です。一方で、自発的に仕事を見つけたり改善を行う点では、従来は課題が多く、細やかな指示・確認が不可欠でしたが、若年層の増加により創意工夫を重視する傾向も見られ始めています。
コミュニケーション面では言語だけでなく意図の正確な伝達確認が重要です。プライドが高いため、公開の場での評価はモチベーションを高めますが、率直な問題指摘やフィードバックを苦手とする場合もあり、組織の成熟度に応じた対応が求められます。
仲間意識や年長者への敬意が根強く、同世代からのリーダー選出は依然難しい傾向にありますが、都市部を中心に変化の兆しもあります。工場現場では衛生面の意識も世代・地域差が大きく、5S指導は引き続き重要課題です。
■ 現地人の雇用義務
ベトナムにおける外国人雇用枠(全従業員に対する外国人従業員の割合制限)は、2008年3月に廃止されており、現在法令上は外国人従業員比率の上限規制はありません。
そのため、法人・駐在員事務所においてベトナム人を必ず雇用しなければならない法的義務はなく、外国人従業員だけでの事業運営も理論上可能です。
ただし、2023年9月18日に施行された政令70/2023/ND-CP等により、外国人労働者を雇用する際は、該当職位に対してベトナム人労働者を少なくとも15日間公的な電子媒体上で募集告知することが義務付けられています。これは、そのポジションに適切なベトナム人候補者が見つからなかったことを当局に証明するための手続きであり、外国人雇用の手続きにおける実質的な制約となっています。
さらに、外国人労働者の就労には労働許可証取得等の手続きが必要であり、実務負担が大きいことから、外国人のみの雇用による運営は必ずしも一般的ではありません。
将来的にはベトナム人雇用の促進が一層強化される可能性があるため、外国人雇用の計画には最新法令の動向と実務対応を注視する必要があります。
■労働法
■ 労働法体系の概要
ベトナムの労働法体系は1994年に従来バラバラであった労働関係法規が一元化され、全体として整備が進められました。
その後、2019年に全面改正された労働法(45/2019/QH14)が2021年1月1日に施行され、現行の法的基盤となっています。施行以降も、労働組合法や社会保険法など関連法が見直されており、特に2025年7月に改正労働組合法(法律 No. 60/2024/QH15)や改正社会保険法(法律 No. 41/2024/QH15)が施行されることで、労務管理の法的基盤はより複雑かつ包括的になっています。
■労働法における定義
[ 雇用者]
雇用者とは、労働者を雇用、使用して賃金を支払う事業体、機関、 組織または個人をいいます。個人としての雇用者は満18 歳以上でな ければなりません。
[ 労働者]
労働者とは、満15歳以上で労働能力を有し(健康診断の合格を含む)、雇用契約を締結した者を意味し、未成年者については特別な労働保護規定が適用されます。
実務上は、契約が必ずしも書面でなくても暗黙の労働関係が認定される場合があり、権利義務の観点から注意が必要です。
【日本とベトナムの労働基準の比較】
| 日本 | ベトナム |
労働時間 | 1日8 時間 週 40 時間 | 1日8 時間 週 48 時間(週40時間推奨) |
休憩時間 | 連続して 6 時間を超えて労働する場合には 45 分以上、8 時間を超える場合には 60 分以上の休憩 | 6 時間以上勤務した場合には少 なくとも連続30分以上 深夜労働の場合は少なくとも 連続60分以上 |
休日 | 週 1 日以上 | 週1日以上+年間11日祝日 |
割増賃金 | 時間外労働:125% (月 60 時間を超える時間は 150% の例外あり) 深夜労働:125% 休日労働:135% | 時間外労働
深夜労働:130% 深夜労働かつ時間外労働
|
年次有給休暇 | 6 カ月以上:10 日以上
上記期間の出勤日数要件あり 通常有給の持ち越しは 2 年間 | 12 日 勤続年数 5 年ごとに 1 日付与日数が増加 |
■労働時間
ベトナムの労働時間については、1日8時間以内、週48時間以内とされています。業務内容が、労働傷病兵社会問題省および保健省が定めた有害・危険作業リストに該当する場合には、1日の労働時間が6時間を超えてはなりません(104条)。会社はこの範囲内で勤務時間を設定し、1 日または週ごとのスケジュールを事前に労働者に通知する必要があります。通常は就業規則や雇用契約書で所定労働時間について明記します。 休憩時間については、8時間勤務の場合、最低30分の休憩時間を与える必要があります。深夜労働(午後10時~翌日の午前6時)については最低45分の休憩時間を与える必要があります(108条)。一般的には、外国企業では 1 時間の昼休みを設けています。一方、ローカル企業や国営企業では、ベトナムでは昼寝の習慣があるため、昼休みを1時間半とっている例も見られます。
■休日
ベトナムでは、週に最低1日の休日を与える義務があり、多くの企業は日曜日を休みとしています(労働法第111条)。しかし、業種によっては飲食店やサービス業のように、労働者の合意のもと就業規則に休日を他の曜日として定めることも可能です。
週休日が取得できない場合は、月間で平均4日以上の休日確保を実務で調整する企業も多く、外国企業のホワイトカラーでは土曜日を休みにする例が増えています。
一方で、ローカル企業や国営企業では週休1.5日制が普及しており、土曜日午前出勤や隔週土曜出勤を行うケースも多く存在します。製造業では工場稼働を優先し、土日も稼働日とする企業も見られます。
また、年間11日の法定祝日があり、祝日が週休日に重なる場合は翌営業日に振替休日を付与することが労働法で定められているため、多くの企業がこれを順守しています。なお、週休日は企業の就業規則で決められるため、土日が必ず休日とならない場合もある点に留意が必要です。
■割増賃金
時間外労働は、最長でも1日の勤務時間の50%を超えることはできず、8時間労働の場合、1日4時間までとなります。また、月30時間以下、年200時間以下でなければなりません。政府が規定する特別な業務のみ、年300時間まで認められます(106条)。時間外労働をさせた場合には、会社は労働者に対して通常の賃金に加え割増賃金を支払わなければなりません。時間外労働の対価として、支払う割増賃金は下記のとおりとなります(97条)。
また、深夜労働時間に労働を行った場合、深夜労働手当として通常の賃金の30%相当を通常の賃金に上乗せして支払わなければなりません(97条)。
深夜労働時間に時間外労働をした場合の割増賃金は次のように計算します。
深夜時間外労働の割増率の計算は下記のようになります。
(例)平日4時間(20~24時)の時間外労働を行った場合20~22時の2時間×通常の賃金×150%
22~24時の2時間×通常の賃金×150%×130%=195%さらに次のような労働者は、労働法上残業または深夜の就業が禁じられています。
・妊娠7カ月以上の女性労働者・満12歳未満の子の養育をしている女性労働者
・生後12ヶ月未満の子を養育している女性労働者
・労働能力の51%以上を失った身体障害者
・未成年労働者
(ただし、労働傷病兵社会問題省の定める職業・職務を除く)
■年次有給休暇
通常の労働者は、同一使用者のもとで12ヶ月継続勤務した場合、最低12日の年次有給休暇を取得でき、以降勤続5年ごとに1日ずつ付与日数が増加します(労働法第113条、第114条)。
勤務期間が12ヶ月未満の場合は、勤務月数に応じ比例付与されます(第113条第2項)。
過重・危険・有害業務に従事する労働者や18歳未満の年少労働者は14日、著しく過重・危険・有害かつ著しく過酷な労働条件下で働く者は16日の年次有給休暇が付与されます(第113条)。
有給休暇の取得中は100%の賃金が支払われなければなりません。
未消化の年次有給休暇については、労使の合意のもと翌年度へ繰り越すことが可能ですが、これは労働者の一方的な権利ではなくあくまで合意によるものです。
退職または解雇時には、企業は未消化の全ての有給休暇を現金で清算(買い取り)する法的義務があります(労働法第113条第3項、政令145/2020/NĐ-CP第67条)。
使用者は労働者との合意により、年次有給休暇を複数回に分割して取得させたり、最大3年分を一括して取得させることも可能です(実務慣行)。
労働者に対して割増賃金を支払わなかった場合、労働者数に応じて企業(組織)に対し以下の罰金が科されます。罰金額は政令12/2022/ND-CP第17条2項および第6条1項に基づき、個人に対する額の2倍が適用されています。
(注)
・罰金は法人・組織に対する額です。
・罰金額は違反の内容・会社規模により当局の裁量で上下します。
■賃金の支払
賃金体系は原則として「基本給+諸手当」で構成されます。基本給については、賃金管理の容易さ、従業員への透明性の確保、また親会社への報告義務等の観点から、多くの企業で給与テーブル(賃金表)を設けて管理することが一般的です。労働監督の際に、賃金支払いの公正性を証明するため、事実上その整備が求められることもあります。
昇給は原則として年に1回行われますが、急激な物価上昇が見られる場合などには、年の途中で臨時昇給が実施されることもあります。昇給額は、消費者物価指数(CPI)やインフレ率、地域別最低賃金の改定動向、労働市場の需給、個人の人事考課、そして企業業績などを総合的に勘案して決定されます。
法的義務である地域別最低賃金の遵守は極めて重要です。直近では2024年7月1日に平均6%の引き上げが実施されました。さらに、国家賃金評議会は2026年1月1日から平均7.2%の再引き上げを行う案を政府に提出しており、今後の正式決定が注目されます。
高い経済成長と物価上昇を背景に、従業員の昇給への期待は高く、これが長期間満たされない場合、優秀な人材の流出やストライキといった労使紛争に発展するリスクが高まります。そのため、各企業は法定最低賃金の遵守はもちろんのこと、それを踏まえた定期昇給や各種手当の充実を図り、従業員の勤務意欲の維持と人材定着に努めています。
■各種手当
割増賃金や通勤手当に加え、従業員インセンティブ向上のため以下の各種手当を設ける場合があります。
技能手当
日本語能力や専門技術・知識を有するエンジニア等に支給します。特に、高度な専門性を持つ人材を獲得・維持するための重要なインセンティブとなります。社会保険料算定基礎に含まれるため、契約や就業規則で明確に規定することが求められます。
資格手当
会計資格(例:チーフアカウンタント)や日本語検定、TOEIC等の語学資格に支給します。こちらも固定的収入として扱われ、法令に基づく社会保険料負担の対象となり得ます。
危険手当
重労働・有害・危険な業務に従事する労働者に対しては、ベトナム労働法および労働安全衛生法に基づき、企業には危険手当の支給義務があります。支給形態は現金手当や現物支給が認められています。
この手当の支給基準・金額は労働契約や就業規則などで明確に定め、労働者に周知しなければなりません。これにより、労働者の健康保護と適正な労働条件の維持が図られます。
その他手当
食事手当、ガソリン代、業務で使用する携帯電話代等があります。これらは業務経費補填的な位置付けである場合、独立項目として規定し支給すれば社会保険料の対象外となることが多いですが、曖昧な扱いは算定基礎となるリスクがあるので注意が必要です。
■賞与
以前は、ベトナムの労働法において賞与は給与の1カ月分以上を支払う義務が規定されていましたが、現行の労働法典(No.45/2019/QH14)第104条により、この義務は撤廃され、賞与の支払の有無および金額は労働者または労働組合との協議に基づき決定されます。
ただし、かつて給与の1カ月分以上の賞与支払が義務付けられていた慣行は根強く残っており、多くの企業では月給1カ月分以上、JETROの2018年度アジア・オセアニア投資関連コスト調査(2019年3月)によれば、日系企業の賞与支給額は賃金の1.2~1.5カ月分程度となっています。したがって、採用時の人件費試算にあたっては、「年収=月額給与×13カ月以上」を基準として見込むことが現実的です。賞与の支払回数は通常年1回であり、時期は多くの場合テト(旧正月)前後、または初回雇用契約から1年後以降の毎年1回支給など、企業によって異なります。
なお、労働法第104条第2項により、従業員代表組織が設置されている事業場では、賞与制度について労働者代表と協議し合意した上で制度内容を定め公表することが求められています。
■雇用契約の終了
ベトナムは社会主義国であり労働者保護の傾向が強いものの、雇用契約の終了は労働法典第34条などで詳細に規定されています。
【主な契約終了事由(第34条)】
契約期間満了(有期契約の場合)
契約業務の完了(特定業務契約の場合)
用者・労働者双方の合意による契約終了(書面合意が望ましい)
労働者の定年退職(2025年時点:男性61歳3ヶ月、女性56歳8ヶ月。段階的に引き上げ中で、2028年男性62歳、2035年女性60歳に到達予定)
労働者が有罪判決により職務復帰不能、または裁判所による失踪宣告を受けた場合
労働者の死亡
【補足】
外国人労働者の場合、労働許可証の失効や法的強制退去も契約終了事由となります(第34条12項等)。また、試用期間中の不適格判定も契約終了理由とされます。
■ 雇用者による一方的契約解除(第36条)と通知義務
雇用者は以下の場合に正当な理由として契約を一方的に解除できますが、解除には書面による通知義務が課されています。
労働者が契約上の義務を長期間にわたり重大に履行しない場合
長期病気や怪我により、無期限契約なら12ヶ月、有期契約なら6ヶ月を超えても職場復帰が不可能な場合(医師の診断による)
自然災害など不可抗力により、雇用継続が困難になった場合
無断欠勤等、正当な理由なく契約違反を累積的に犯した場合(累積5日/月または20日/年無断欠勤が目安)
【通知期間】
無期限契約:45日前
有期契約(12ヶ月以上36ヶ月以下):30日前
有期契約(12ヶ月未満):3営業日前
【補足】
解除が違法と判断された場合、労働者に補償金支払い等の義務が発生します。
■ 懲戒解雇(第125条)
重大な規律違反への措置であり、解雇に伴う退職金や失業手当の支払い義務はありません。
窃盗、横領、企業秘密の漏洩など、企業資産・利益に重大な損害を与えた場合
懲戒処分後も同様の違反行為または常習的違反を繰り返した場合
正当な理由なく月5日、または年間20日以上無断欠勤した場合
■ 余剰人員の取扱い
組織再編や技術革新などによる余剰人員発生時は、まず再訓練や社内再配置の努力が法的義務(第42条、第43条)。これが困難な場合、解雇が可能となります。解雇時には法定の失業手当(Job Loss Allowance)などの支払い義務が生じます。
■ 労働者による雇用契約一方的終了(辞職)(第35条)
労働者は理由を問わず契約を終了可能ですが、所定の通知期間が必要です。
無期限契約:最低45日前
有期契約(12~36ヶ月):最低30日前
有期契約(12ヶ月未満):最低3営業日前
【実務上の課題】
多くの労働者は事後報告で退職し、引継ぎトラブルを招いています。これを回避するため、雇用契約書に引継ぎ義務や業務継続の責任を明記することが推奨されます。
■退職金
有期雇用契約の期間満了や双方の合意により労働契約が終了し、かつ労働者が継続して12ヶ月以上勤務した場合、雇用者は勤務1年につき0.5ヶ月分の退職手当を支払う義務があります。退職手当の額は、労働契約が終了する直前6ヶ月間の平均賃金(基本給及び各種手当を含む)を基準に計算されます(2019年労働法典第46条)。ただし、退職手当の計算においては、労働者が失業保険給付金の支払い対象となっていた期間は勤務期間から控除されます。
また、組織再編や技術変更等により雇用者都合で解雇を行う場合は、勤務1年につき1カ月分の解雇補償金の支払い義務が生じます。解雇補償金の計算も直前6ヶ月間の平均賃金を基準とし、勤務期間に応じて比例計算されますが、勤務期間にかかわらず最低でも2カ月分の賃金を支払わなければなりません(2019年労働法典第47条)。
なお、窃盗、横領(汚職)、会社の利益に重大な損害を与える行為等による懲戒解雇の場合は、雇用者は退職手当及び解雇補償金を支払う義務を負いません。
■定年
ベトナムの労働法に基づき、定年退職年齢は2019年改正労働法典第169条により段階的に引き上げられています。2021年から1年ごとに男性は3ヶ月、女性は4ヶ月ずつ引き上げられ、2028年に男性62歳、2035年に女性60歳に到達する計画です。
2025年時点での通常労働条件下における定年退職年齢は、男性61歳3ヶ月、女性56歳8ヶ月となっています。重労働や危険業務の場合は、定年より最大5歳早く退職が認められています。今後も人口高齢化と労働力問題への対応として、段階的な引き上げが継続されます。
■女性労働者の保護
会社は、結婚、妊娠、産休、12か月未満の子を育児することを理由に女性従業員を解雇または雇用契約を一方的に終了させることはできません(労働法典第137条ほか。ただし、企業の解散など不可抗力的事情を除く)。
妊娠7か月以上(ただし、高地・遠隔地・国境地域および島嶼地域では6か月以上)または12か月未満の子を育児中の女性労働者に対して、雇用者は本人の同意なしに時間外労働、深夜労働(22時〜6時)、長距離出張を命じることはできません(労働法典第137条第1項)。違反した場合は行政罰が科されることがあります。
12か月未満の子を育児する女性労働者は、減給なしで1日に60分間の休憩時間を取得できます(労働法典第137条)。また、月経期間中は1日30分の有給休憩が認められています。加えて、妊娠や育児の状況に応じて、軽易な労働への転換や勤務時間の短縮申請も可能です。
出産休暇は、出産の前後を合わせて基本的に6か月間取得可能であり、多胎妊娠の場合はさらに延長されます(労働法典第139条、社会保険法第34条)。出産前の休暇は原則として2か月を超えて取得できません。産休期間中は、社会保険基金から産休直前6か月間の平均給与を基に算定した出産手当が支給されます。なお、早期職場復帰した場合でも、残余の出産手当は復職後に受け取る権利があります(社会保険法第40条)。
産後6か月の産休終了後、体調が完全に回復していない場合には、労働者は5日から10日間の健康回復休暇を取得でき、この期間は基本給与の30%が支給されます(社会保険法第41条)。その後は雇用者と労働者の合意に基づき、無給休暇の取得が可能です。
■慶弔休暇
ベトナム労働法典第115条に基づき、労働者は以下の場合に慶弔休暇を取得できます。これらは法律で有給か無給かが明確に区分されています。
1. 有給休暇(同条第1項)
・本人の結婚:3日間
・子供(実子または養子)の結婚:1日間
・実父母、養父母、配偶者の父母(義父母含む)、配偶者、実子または養子の死亡:3日間
2. 無給休暇(同条第2項)
・祖父母または兄弟姉妹の死亡:1日間
・実父母または兄弟姉妹の結婚:1日間
これらは法律による最低基準であり、各企業は就業規則や労働協約において、法定の日数や有給・無給区分よりも労働者に有利な条件(例:無給休暇を有給にする、休暇日数を増やす)を定めることは可能です。逆に法定基準を下回ることは認められていません。
■最低賃金
ベトナムの最低賃金は、社会経済的発展状況により4つの地域(リージョン)に区分されており、ハノイ市やホーチミン市などの主要都市は、最も高い第1地域に属します。
最低賃金の改定は、国家賃金評議会の答申を経て政府が政令で決定します。近年は改定時期が流動的で、直近では2024年7月1日に全地域で約6%の引き上げが実施されました。この水準が2025年7月時点での最新の最低賃金です。
2024年7月1日施行の最低賃金(月額)は以下の通りです。
第1地域:4,960,000 VND
第2地域:4,410,000 VND
第3地域:3,860,000 VND
第4地域:3,450,000 VND
2025年7月1日から施行された政令128/2025/NĐ-CPにより、ベトナム全土の行政区画整理・統合を最低賃金適用地域リストに反映させ、一部地域の適用リージョンが変更されました。企業は常に最新の政令を確認し、自社所在地が属する地域区分を正確に把握する必要があります。
なお、かつて法的義務とされていた「職業訓練を受けた労働者に最低賃金の7%を上乗せして支払う」は、2022年の制度改定により廃止されています。
人件費が総コストに占める割合が大きい製造業などでは、今後の最低賃金改定を見据えた事業計画の策定が不可欠です。
■雇用契約書と就業規則
ベトナムで人を雇用する際には、労働者との個別の条件を雇用契約書により定め、会社全体の就業ルールは就業規則で統一して規定することが基本です。
労働法典第118条に基づき、常時10名以上の労働者を雇用する企業は、就業規則を書面で作成し、所轄の労働・傷病兵・社会問題局(DOLISA)に提出して登録する法的義務があります。10名未満の企業には作成および登録の義務はありませんが、労務管理のために任意で作成することが望ましいとされています。
就業規則の登録手続き上、ベトナム語版の作成は必須であり、英語版など多言語を併記することも一般的です。ただし、法的効力を持つのはベトナム語版であるため、言語の主従関係を明確にしておくことが重要です。
雇用契約書については、当事者間の合意によりますが、ベトナム人労働者と締結する場合はベトナム語版を必ず作成し、これを正本とすることが最も安全な運用です。多言語契約書の場合は、解釈の相違が発生した場合にベトナム語版を優先する旨を明記し、紛争リスクを低減することが一般的かつ推奨されています。
■雇用契約書
雇用契約書とは、「労働者と雇用者との間における、賃金の支払いを受ける雇用、労働条件および双方の権利と義務に関する合意書」を指します。2019年労働法典では、名称にかかわらず、賃金が支払われ、かつ一方の当事者の管理・監督下で業務が行われる合意は、すべて労働契約と見なされることが明確化されました(労働法典第13条)。
雇用契約書には個別の労働条件を記載し、原則として書面で2通作成し、雇用者と労働者がそれぞれ1部を保管します。2019年労働法典より、電子データ形式での契約締結(電子契約)も法的に認められています。
なお、契約期間が1ヶ月未満の一時的な業務に限り、口頭による契約も可能です(労働法典第14条)。
雇用契約書には、当事者の名称・所在地、仕事内容・勤務地、契約期間、労働時間・休憩、賃金(支払形式、支払期日、手当等を含む)、社会保険・健康保険、労働安全衛生に関する規定などを記載する必要があります(労働法典第21条)。
■雇用契約の種類
ベトナムの労働契約は、2019年労働法典第20条により、「無期限労働契約」と「有期限労働契約」の2種類に大別されます。
有期限労働契約は、契約期間の上限が36ヶ月(3年)であり、かつて存在した12ヶ月以上という下限規定は撤廃されています。短期契約については、期間が1ヶ月未満の一時的業務に限り、口頭契約が認められています。
有期限労働契約は、同一労働者に対し更新できるのは1回限りであり、最初の契約を含めて最大2回まで有期限契約を締結できます。3回目の契約は無期限労働契約としなければなりません。
有期限契約の期間満了後も労働者が勤務を継続している場合、使用者は満了日から30日以内に新たな労働契約を締結しなければなりません。30日を超えても新契約が締結されないまま労働者が勤務を続ける場合、その契約は自動的に無期限契約に転換されたものと見なされます。
無期限労働契約は、契約期間が定められておらず、労働者が定年退職するまで雇用が継続される契約形態です。これにより、ベトナムでは有期契約の更新回数に制限があり、より早期に無期限契約へ転換される点が特徴となっています。
■雇用契約書の記載内容
雇用契約書に記載する項目のサンプルとしては、下記のものが挙げられます。
①雇用者情報
②労働者情報
③契約形態
④契約期間
⑤勤務地
⑥役職名および職務内容
⑦職務条件
⑧労働者の義務および権利
⑨雇用者の義務および権利
⑩実施規定
以下に具体的な記載内容を挙げます。
[雇用者情報]…①
会社の法的代表者、会社所在地などを記載します。
[労働者情報]…②
労働者の氏名、住所、ID番号等を記載します。
[ 契約形態、契約期間 ]… ③④
労働契約の種類(無期限、有期限)、有期限契約の期間上限(最長36ヶ月)や更新制限など概要を簡潔に補足
[ 勤務地 ]… ⑤
労働者の実際の勤務地を記載する必要があります。ベトナム人の労 働者は、通勤にかかる時間を重要視するため、勤務地に関しても事前 に同意を得ておくことが重要となります。
[ 役職名および職務内容 ]… ⑥
ベトナム人と雇用契約を結ぶ場合は、職務内容および職務範囲の雇 用者および被雇用者の合意が非常に重要となります。雇用契約にて同 意が得られていない、もしくは事前の説明がない業務を指示する場合 にトラブルとなるケースも多く見られます。
[ 職務条件 ]… ⑦
1日の労働時間、週の労働日数、始業・終業時刻、休憩時間などを定めます。ベトナムの法律上の通常労働時間の上限は、1日8時間かつ1週48時間です(労働法典第105条)。多くの企業(特にオフィスワーク)では週40時間制が慣行として採用されていますが、これは法律で定められた上限ではありません。法定の通常労働時間を超える勤務は、時間外労働として割増賃金の支払いが必要です。勤務日数やシフト制の有無なども、ここで明確に規定します。
[ 労働者の義務および権利 ]… ⑧
本項目では、特に給与や社会保険に関する重要な権利・義務を定めます。
給与: 基本給、手当、その他の補足給付を含む総額(グロス)と、その内訳、支払方法、支払期日を明記します。社会保険料は、この雇用契約書記載の給与を基に算出されるため、手取り額(ネット)のみでの契約は認められません。給与の通貨は、ベトナム人労働者にはベトナムドン(VND)が原則ですが、外国人労働者には例外的に外貨での支払いが認められています。
社会保険等: 法律に基づく社会保険・健康保険・失業保険への加入について記載します。
【重要:契約書の提出・精査について】
個別の雇用契約書を、社会保険加入手続きのために労働局へ都度登録する義務はありません。社会保険の手続きは、社会保険機関に対して別途行います。
ただし、外国人労働者の労働許可証(ワークパーミット)を申請する際や、10名以上の企業が就業規則を登録する際など、特定の行政手続きにおいて雇用契約書が労働局に提出され、その内容の適法性が精査されます。そのため、契約書は常に法令に準拠した内容で作成することが極めて重要です。
■試用期間
ベトナムでは、正式な雇用契約に先立ち、労使の合意に基づいて試用期間を設けることができます。試用期間は、同一の業務に対して1回限り設定可能です(労働法典第24条、第25条)。
試用期間の上限は業務の専門性に応じて以下のように定められています。
企業の管理職(代表者、支店長等):最長180日
高度な専門技術を要する職位(短期大学卒以上):最長60日
専門技術を要する職位(専門学校卒等):最長30日
その他の業務(単純作業等):最長6営業日
試用期間中の賃金は、正式採用時の賃金の85%以上でなければなりません(労働法典第26条)。
試用期間中は、使用者・労働者いずれも、理由の提示や事前通知、損害賠償の義務なく、いつでも試用契約を終了することができます(労働法典第27条1項)。
試用期間終了時の処理は明確に規定されています。
試用合格(労働者が要件を満たした)場合、使用者は労働者と正式な労働契約を締結する義務を負います(労働法典第27条2項)。これは自動継続ではなく、使用者の契約締結という法的行為を必要とします。
試用不合格の場合は、試用契約が終了し労働関係も終了します。この場合、別途解除手続きは不要です。
■就業規則
ベトナムでは、日本と同様に、常時10名以上の労働者を雇用する企業は、労働条件や服務規律などを定めた就業規則を文書で作成し、所轄の労働・傷病兵・社会問題局(DOLISA)に登録する法的義務があります(労働法典第118条、第119条)。
登録が義務付けられている就業規則は、労働局に受理された日から効力が発生します(2019年労働法典第121条)。就業規則の作成や登録を怠った場合、現行の罰則規定(政令12/2022/ND-CP)に基づき、1,000万~2,000万VNDの罰金が科される可能性があります。
就業規則には、労働法により下記の項目について必ず記載しなけれ ばなりません。
・勤務時間と休憩時間
・職場における秩序
・職場における労働安全
・労働衛生・ 雇用者の資産、経営・技術上の秘密および知的所有権の保護
・ 労働者の労働規律違反行為、労働規律処分の形式、物的賠償責任 上記の絶対的記載事項の他には、下記のようなものが挙げられます。
・従業員の分類・雇用、採用、異動および退職・勤務日・休日および休日に関する規定・休暇に関する内容
・ 時間外勤務および休祝日に関する規定と給与の支払
・福利厚生および表彰等・業務遂行規則と規則違反の処罰
・苦情申立て・業務における安全性と自己防止・社員資格の喪失
・出張規定・社宅規定
また、失業保険への加入義務は、企業の従業員数には依存しません。2025年7月1日施行の改正社会保険法(36/2024/QH15)により、労働契約期間が1ヶ月以上の有期労働契約者も失業保険の対象となりました。したがって、契約を締結している労働者は原則として失業保険に加入する必要があります。
一方、就業規則の作成および人民委員会労働局への登録は、常時10名以上の労働者を雇用する企業に義務付けられており、失業保険加入とは別個の法的義務です。両者を混同しないことが重要です。
就業規則はベトナム語で作成しなければならず、日本語や英語での併記も一般的ですが、ベトナム語版が唯一法的効力を持ちます。そのため、翻訳の正確性には細心の注意が必要です。
また、労働慣行としては、ベトナムの法定労働時間の上限は週48時間であり、製造業では土曜日も勤務日になることが多いです。有給休暇の取得率は日本より高い傾向にあり、ベトナム人労働者は家族の行事を優先することが多いため、これらの文化的違いを理解した柔軟な労務管理が必要となります。
社会保障制度
■社会保険法
■ 社会保険の適用範囲
【強制保険】
企業の従業員は、原則として強制保険への加入が法律で義務付けられています。
・社会保険(SI)
ベトナム人労働者は、2025年7月1日に施行された改正社会保険法に基づき、契約期間が1ヶ月以上の労働契約を締結している者が加入対象となります。
外国人労働者については、2018年12月1日施行の政令143/2018/ND-CPにより、労働許可証を保有し、かつ1年以上の労働契約を結んでいる者が既に加入義務を負っています。2025年の改正法施行により、加入対象の契約期間の緩和などで範囲が拡大されました。
・健康保険(HI)
3ヶ月以上の労働契約を締結する全ての労働者(ベトナム人・外国人問わず)が加入対象です。
・失業保険(UI)
契約期間が1ヶ月以上の労働契約を締結しているベトナム人労働者が加入対象であり、外国人労働者の加入義務はありません。
【給付内容】(強制保険)
①疾病・療養 ②妊娠・出産 ③労働災害・職業病 ④退職(年金) ⑤死亡給付
【任意保険】
任意保険は、強制保険対象外のベトナム国民(自営業者や非正規・非公式労働者など)が自主的に加入する制度であり、短期や季節的契約労働者の自動加入制度ではありません。保険料はすべて加入者の自己負担です。【給付内容】(任意保険)
①退職年金 ②死亡一時金
■社会保険料
2021 年現在の保険料は、雇用契約書に起案された給与および辞令で定められた給与を基準として、下表の両立により算出します。
ベトナムの社会保険料を計算する際、基準となる給与(賃金)には上限額(キャップ)が設けられています。ここで最も重要なのは、「社会保険・健康保険」と「失業保険」で、上限額の基準が異なるという点です。
まず、社会保険料と健康保険料の算定基礎となる給与の上限額は、基礎賃金の20倍です。2025年7月現在の基礎賃金は月額1,800,000ドンであるため、上限額は月額36,000,000ドンとなります。従業員の月給がこの額を超える場合でも、社会保険料・健康保険料は36,000,000ドンを基に計算されます。
一方、失業保険料の算定基礎となる給与の上限額は、企業が所在する地域の地域別最低賃金の20倍です。これは4つの地域に分かれており、例えばハノイやホーチミンなどの第1地域(2025年7月時点の最低賃金は月額4,960,000ドン)では、上限額は月額99,200,000ドンとなります。
これらの上限額の範囲内で、実際の給与に各保険料率を乗じて、企業と労働者の負担額を算出します。2025年7月時点での保険料率は、雇用者負担が社会保険17.5%、健康保険3%、失業保険1%で、合計21.5%です。労働者負担は、社会保険8%、健康保険1.5%、失業保険1%で、合計10.5%となります(労使合計の負担率は32.0%)。
■ 社会保険給付
各社会保険制度の保険給付の概要は、以下の表のとおりです。
※外国人労働者の年金に関する注記: 外国人労働者は、年金受給資格を満たす前にベトナムでの勤務を終了し帰国する場合、それまでに納付した保険料を一時金(Lump-sum allowance)として受け取ることが可能です。
■ 罰則
1. 社会保険料の支払いを意図的に回避した場合
- 5,000万~7,500万VNDの罰金が科されます(政令12/2022/ND-CP)。
- さらに刑事責任が問われる可能性もあります。
2. 加入義務のある全従業員を加入させなかったり、期日通りに保険料を全額納付しなかった場合
- 未納付総額の12%~15%に相当する罰金が科されます(上限7,500万VND)。
- 加えて、未納期間に応じた延滞利息(日率0.03%)の支払い義務があります。
3. 社会保険手帳の申請書類作成等、手続き違反
- 100万~200万VNDの罰金が科されることがあります。
4. その他
- これらの行政罰とは別に、悪質な場合は業務停止や刑事処分の対象となることもあります。
- 適切な社会保険の加入と納付、正確な手続きが企業の法令遵守上必須です。
■Latest News & Updates
【社会保険料の変更について】
2017年4月14日に発行されたDecree no 44/2017/NĐ-CPにより、2017年6月1日から社会保険料の保険料率が18%から17.5%に変わり、保険料率は下記のようになりました。
(旧)
(新)
今のところ計算方法は下記から変更はありません。
(基本給+下記手当)×保険料率
・基本給:雇用契約書にて記載した金額
・手当:経験者手当、危険手当、役職手当、資格手当等
※手当詳細はNo.47/2015/TT-BLDTBXHのArticle 2.aにございます。
日本人を赴任させる際の留意点
■日本人を赴任させる際の留意点
■労働許可証の概要
ベトナム国内で就業する外国人は次の条件を満たさなければなりま せん。その条件の中に労働許可証の取得があります。
18歳以上で、完全な民事行為能力を有すること
担当する業務の要件を満たす専門性、技術、健康状態を有すること
ベトナムおよび国外において、法律上の処分を受けていない、または犯罪歴がないこと
法令で定められた労働許可証(ワークパーミット)を保有していること(免除対象者を除く)
[ 労働許可証の取得要件]
現行制度では、労働許可証の取得は以下の2段階プロセスが基本となります。
ステップ1:外国人労働者雇用の需要に関する承認申請
企業は、外国人を雇用する前に、まず「なぜそのポジションにベトナム人ではなく外国人が必要なのか」を説明する申請書を作成し、所轄の労働・傷病兵・社会問題局(DOLISA)等から雇用の承認を得る必要があります。この承認がなければ、個別の労働許可証申請に進むことはできません。
ステップ2:労働許可証(ワークパーミット)の発給申請
上記の承認を得た後、採用する個別の外国人について、必要書類を揃えて労働許可証の発給を申請します。申請は、勤務開始予定日の少なくとも15営業日前までに行う必要があります。
■ 労働許可証の有効期間と延長
労働許可証の有効期間は最長2年間です。期間満了後も勤務を継続する場合、1回に限り、最長2年間の延長が可能です。延長後は、再度新規で申請し直す必要があります。
ただし、以下に該当する場合などは、労働許可証の取得は免除されます(多くの場合、別途免除の承認手続きが必要)。
- 有限会社所有者や株式会社取締役会メンバー
- ベトナム人と結婚し、ベトナムに居住する外国人
- 同一企業グループで12ヶ月以上海外勤務後に赴任する専門家、管理者等
- 販売・サービスの提供活動で1回の入国が30日未満かつ年間合計90日以下の者
- その他、法令で定める特殊ケース
■ 主な対象職位と要件
労働許可証は、主に以下の職位で申請されます。それぞれの要件を証明する書類(卒業証明書、職務経歴書など)が必要です。
管理者・経営者: 企業の代表者、支店・駐在員事務所の長など。
専門家: 関連分野で3年以上の実務経験を持つ大学卒業者、または5年以上の実務経験と専門資格証明書を有する者。
技術者: 専門分野で1年以上の訓練を受け、かつ3年以上の実務経験を有する者など。
■ 主な必要書類
申請する地域や担当官により若干の差異はありますが、一般的に以下の書類が求められます。外国で発行された書類の多くは、公証・領事認証およびベトナム語への翻訳が必要です。
労働許可証発給申請書
外国人雇用需要の承認書(ステップ1で取得)
健康診断書(指定医療機関で発行)
無犯罪証明書
パスポートの認証謄本
専門家・管理者等であることを証明する書類(大学卒業証明書、職務経歴書、任命書など)
カラー写真
労働許可証の発行手数料
労働許可証の発行にかかる手数料は、それぞれ下記のとおりです。
労働許可証の新規発行:40 万ドン労働許可証の再発行:30 万ドン 労働許可証の延長:25 万ドン
すべての必要書類を提出してから10 日以内に労働許可証が発行されます。ただし、追加書類を求められたり、手続が遅れたりする可能 性があるため、取得までに3 週間ほど見込むのが万全です。
■居住許可証
居住許可証は、ベトナムで働く外国人が長期的にベトナムに滞在するために必要なカードです。これは、ビザと同様の効力を持つものであり、同カードの期間内であれば、何度でも出入国を繰り返すことができます。居住許可証は労働許可証の有効期間内において取得することができるため、2年間の労働許可証を取得した場合には、最大2年間の有効期限となります。
居住許可証の申請に必要な書類は下記のとおりです。申請を行う省および公安入国管理局の担当者により、申請時に求められる書類が異なる可能性があるため、注意が必要です。
・居住許可証申請書
・雇用代表者の署名および社印の証明書
・労働許可証の原本
・パスポートの原本
・ベトナム現地法人の投資証明書の公証写し
・ベトナム現地法人の印鑑証明書の公証写し
・公安入国管理局発行の滞在証明書
カラー写真2枚(3㎝×4㎝、眼鏡着用不可、背景は白が望ましい)
※ 申請先の省庁および公安入国管理局により、追加書類の提出や書類形式に差異が生じる場合があります。申請前に確認を行うことが推奨されます。
上記のとおり、必要書類の中に労働許可証があるため、同許可証の取得後でないと居住許可証は取得できません。
すべての必要書類の提出から5日以内に発行されます。ただし、何らかの追加書類を求められる可能性があるため、取得までに2週間ほど見込んでおく必要があります。
■労働許可証の返却
ベトナムでの人気を終え自国への帰任が決定した場合、帰国日から15日以内に労働許可証をベトナム労働局へ返却する必要があります。
帰国前に会社の方やコンサル会社などに労働許可証を預け、帰国後下記書類を労働局を返却するのが一般的です。労働許可証の保管義務は会社にあり、出国時に本人に提示を求められることは基本的には無いため、帰国前に会社に預ける形で問題ありません。
・申請書
・委任状
・WP原本
■居住許可証の返却
帰任が決定した場合、労働許可証と同様に居住許可証の返却も必要になります。
こちらは法令上明確な期日は定まっておりませんが、実務上WP返却後に時間が空くと説明を求められることがあるので帰国後なるべく早く返却をすることを推奨いたします。
TRCは出国時にも携帯しておく必要があるため、帰国後原本を会社の方かコンサル会社などに送付いただき、返却手続きを行う流れとなります。
必要書類は下記です。
・申請書
・委任状
・TRC原本
・労働局発行のWP返却証明書
・労働契約終了の辞令
また、出国前にTRCを返却の上短期ビザを取得する方法もありますが、準備書類の多さや手続き工数を加味して上記の方法を推奨します。
■駐在員の社会保険
■ 社会保険
[社会保険の被保険者資格の継続・喪失]
日本から海外に出向する際には、日本国内の企業との雇用関係が継続する(在籍出向)のか、継続しない(転籍出向)のかによってその取り扱いが異なります。
在籍出向であり、出向元から給与の一部または全部が支払われている場合には、海外に赴任している間でも、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は継続します。
一方、日本の出向元との雇用関係を終了させ、海外現地法人等との雇用関係を結ぶ転籍出向の場合には、出向元との雇用関係が継続しないため、健康保険・厚生年金保険・雇用保険等の被保険者資格は喪失します。
[国民年金の任意加入]
転籍出向する場合には、厚生年金保険の被保険者資格を継続することができません。1年以内の赴任予定であれば、日本国内の居住者となりますので、国民年金への加入をすることになります。
しかし、1年以上の赴任予定の場合には、日本の非居住者となりますので、原則として国民年金に加入する必要はありません。日本の年金制度に加入を希望する方は、国民年金の任意加入手続をすることができます。(国民年金法附則5条任意加入被保険者3項)
国民年金の任意加入要件は、以下の2点です。
1. 日本国籍を有する20歳以上65歳未満であること
2. 日本国内で保険料の納付が可能なこと
※ 親族等による代行納付でも可
[海外で日本の健康保険制度を利用する際]
海外赴任中に海外で医療行為を受けた場合でも、日本の健康保険の被保険者資格が継続していれば、加入する健康保険組合等に「療養費」の申請をすることが可能です。
ただし、申請に当たっては、下記の2点に注意をする必要があります。
1. 「療養費」での申請となるため、海外での医療費を一度全額本人が立て替え、日本の健康保険組合等に申請をします。
2. 海外で受けた医療行為について、日本国内で保険診療を受けた場合の保険診療点数に換算して算出した金額から自己負担額を差し引いた額が支給されます。
健康保険の海外療養費申請に必要な書類
1. 療養費支給申請書
2. 療養内容証明書
3. 領収明細書
4. 領収書(原本)
※ ただし、提出書類が日本語以外の言語で記載されている場合には、翻訳者の氏名及び住所を明記の上、日本語翻訳文の添付が必要となります。
[日本国内の健康保険制度の継続]
日本国内の企業との雇用関係が継続しない場合には、健康保険の被保険者資格は喪失となります。しかし、健康保険の任意継続被保険者制度を利用するか、国民健康保険に加入することで、日本国内の健康保険制度に加入することができます。(健康保険法 第37条 任意継続被保険者)
なお、健康保険の任意継続被保険者制度は資格喪失後2 0日以内、国民健康保険の加入は資格喪失後14日以内に行う必要がありますので、早急な対応が求められます。
1. 健康保険任意継続被保険者の保険料
(a)退職時の標準報酬月額
(b)加入していた保険者ごとに定められる標準報酬月額の平均額上記いずれか低い金額に保険料を乗じた金額
※ 在職中と異なり、事業所が負担していた保険料についても自己負担となる。
2. 国民健康保険の保険料
被保険者の所得等に応じ、市区町村の規定により算出される金額となります。
[労災保険の特別加入制度]
労災保険は、日本国内にある事業所で働く労働者が保険給付の対象となるため、海外の事業に出向する労働者は対象外になります。
そこで、海外に出向する労働者についても、海外派遣者特別加入制度を利用することで、労災保険の保険給付を受けることが可能となります(労働者災害補償保険法 第33条 特別加入)。
特別加入者の保険料は、保険料算定基礎額に保険料率を乗じた金額で、年間で最低3,831円、最高2万7,375円です。特別加入対象者は、下記の通りです。
1. 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣され、海外で行われる事業に従事する労働者
2. 日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣され、海外にある一定数以下の労働者を常時使用する中小企業に従事する事業主及びその他労働者以外の者
※ 中小企業の規模金融業・保険業・不動産業・小売業 50人以下卸売・サービス業100人以下上記以外の業種 300人以下
3. 国際協力機構等開発途上地域に対する技術協力の実施に事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣され、開発途上国地域で行われている事業に従事する者
■ 海外旅行傷害保険
[駐在員赴任時の取り扱い]
海外赴任をする際には、公的な保険の加入状況のほかに海外旅行傷害保険への加入の検討が望ましいです。 海外旅行傷害保険は、保険会社が契約を結んでいる病院で治療をする場合には、現金不要で治療を受けることができます。また、公的な保険とは異なり、契約した保険金額を限度として、実際にかかった医療費の実費が支払われます。
なお、海外旅行傷害保険の新規加入時には、出国後の手続をすることができませんので、必ず出国までに加入手続を済ませる必要があります。
[駐在員帰任時の取り扱い]
駐在員が帰任することになった場合には、その年の年末調整の対象となります。対象となる給与は、居住者となった日(帰任した日)以後に支払われた給与です。また、給与以外の所得が一定の金額以上の場合などには、年末調整のほか、その年の確定申告を行う必要があります。
■駐在員の給与設計と計算事例
■ 日本ーベトナム間の給与格差問題
ベトナムに赴任する駐在員に対して給与を支払う場合、日本とベトナムで給与計算方法、適用税率に差があることから、その支給にあたっても一律日本と同様という訳にはいかず、給与額の設定、支給形態等の検討が必要です。
日本とベトナムには適用税率に差があるため、日本と同様の給与を支払うと手取給与額が低くなる場合があります。
[日本ーベトナム税率比較表]
日本とベトナムの駐在員給与を比較する際、所得税率だけを見て「ベトナムは税金が高いので手取りが減る」と考えるのは誤解を招くことがあります。実際には、日本の給与から天引きされる高額な社会保険料(健康保険・厚生年金など)が、手取り額を大きく左右する最大の要因です。
日本の給与体系では、所得税・住民税に加えて、収入の約15%にもなる社会保険料が本人負担分として差し引かれます。一方で、ベトナムにおける外国人労働者の社会保険料負担は、現状の制度では日本に比べて非常に軽微です。
このため、同じ給与額面で比較した場合、多くの場合、ベトナムでの手取り額は日本よりも高くなります。
では、なぜ企業は煩雑な「グロスアップ計算」を導入するのでしょうか。その理由は、単に手取り額の減少を防ぐためではありません。
手取り額の保証と生活の安定: 駐在員に対し「日本で勤務していたと同等の手取り額」を保証し、海外での生活基盤を安定させるため。
海外赴任のインセンティブ: 上記の手取り保証額に、さらに「海外赴任手当」や「ハードシップ手当」などを上乗せし、海外勤務への意欲を高めるため。
つまり、企業は「(日本の手取り+各種手当)」という保証したい手取り(NET)額をまず決定します。そして、そのNET額を実現するために必要な給与総額(GROSS)と、そこから生じるベトナムの個人所得税を会社負担で逆算します。この一連のプロセスが「グロスアップ計算」なのです。
実際に日本人駐在員がベトナムで給与を受け取った際の課税金額を、日本と比較してみましょう。
■ 日本とベトナムの所得税計算事例
日本とベトナムの所得税計算事例
前提条件
40 歳、男性、日本での年収648 万円扶養なし、赴任予定期間3 年
※為替レート:1円 = 160ドン と仮定
※1 所得控除額: 年間社会保険料(約97.9万円)と基礎控除(48万円)の合計。
※2 所得税額: (課税所得3,285,000円 × 税率10% - 97,500円)× 復興特別所得税102.1% ≒ 236,000円
※3 住民税額: (課税所得3,285,000円 - 430,000円)× 10% + 均等割5,000円 ≒ 291,000円
このように、年収648万円の駐在員がベトナムで給与を受け取った場合には、約80万円ほど手取額が少なくなります。
上記の通り、年収648万円の従業員の場合、日本での実際の手取り額は約497万円です。一方、同額の給与をベトナムで受け取った場合の手取り額は約522万円となり、単純比較ではベトナムの方が手取り額は高くなります。これは主に、日本の給与からは高額な社会保険料(このケースでは年間約98万円)が天引きされるためです。
しかし、海外赴任の負担を考慮し、企業は多くの場合「日本での手取り額を保証」し、さらに「海外赴任手当」などを上乗せして支給します。この「手取り額を保証し、上乗せ分を含めて支給する」ために会社が税金を肩代わりして給与総額を逆算する手法が「グロスアップ計算」です。
ここでは、会社が従業員に対し、「日本での手取り額(約497万円)を保証」し、さらに「海外赴任手当として年間100万円」を上乗せ支給するケースを考えます。この場合、会社が保証すべき手取り目標額は合計で約597万円となります。
表のように、従業員に約597万円の手取り額(日本での手取り+赴任手当)を保証するためには、会社は約2億6,190万ドン(約164万円)の個人所得税を負担し、総額で約12億1,800万ドン(約761万円)の給与を支給する必要があります。
これは、従業員の日本での元の年収648万円に対し、会社が約113万円(761万円 - 648万円)を追加で人件費として負担することを意味します。このように、駐在員の生活を保障し、インセンティブを与えるための給与設計は、多くの場合、企業にとって大きな追加コストとなります。そのため、赴任者の給与を決定する際には、現地での税制を正確に理解し、事前に綿密なシミュレーションを行うことが不可欠です。
参考文献
・ジェトロ・ハノイ事務所「労働許可証/ビザ(査証)の取得手続き」2012年10月
・株式会社国際協力銀行(JBIC)「ベトナムの投資環境」2012年8月